建設分野における『特定技能』制度についてわかりやすく解説

建設業

こんにちは。行政書士の稲福です。

この記事では建設分野における『特定技能』についてわかりやすく解説していきたいと思います。

『特定技能』とはビザ(在留資格)の名称のことでで、就労系ですと『技術・人文知識・国際業務』、『高度専門職』、『企業内転勤』、『技能』等があり、身分系ですと『永住者」や『日本人の配偶者等』、『家族滞在』、『定住者』などがありますが、『特定技能』も就労系に分類されるビザ(在留資格)の種類になります。

また、『特定技能』は、人材を確保することが困難な状況にある人材を労働力として受け入れることができるビザ(在留資格)と定義づけられており、現在、建設分野の他に、農業・漁業・介護などがあり、厚生労働省・経済産業省・国土交通省・農林水産省の管轄の元、12分野において『特定技能』のビザ(在留資格)外国人材が受け入れられています。

なお、2019年に特定技能制度が創設される以前は、『技術・人文知識・国際業務』のようないわゆる高度人材のビザ(在留資格)においては上記の12分野おいては単純労働や技能の業務は行うことができませんでしたが、これら分野における深刻な人手不足解消のためには日本人だけでは働き手が足りないことから、専門的な知識と経験を持った外国人に即戦力として働いてもらうことで人手不足を解消するために新設されたのが『特定技能制度』となります。

なお、外国人材を受け入れるという点では、『技能実習』というビザ(在留資格)もありますが、それぞれ明確な違いがあります。

『技能実習』の目的は、日本の技能・技術などを開発途上地域に移転して国際協力をすることにありますが、『特定技能』は、即戦力となる外国人材の受け入れにより、日本国内の企業の人手不足を解消する目的で創設されています。

それでは、ここから建設分野における『特定技能』について『技能実習』との違いを比較しながら解説していきたいと思います。

現在、建設業界は深刻な人手不足に直面しています。その背景には、過酷な労働環境や不安定な雇用といった待遇面の問題から若手の志望者の減少があると考えられています。

その他にも、技術者の高齢化も人手不足の一因としてあげられています。

既存の熟練技術者が退職すれば、いくら案件があったとしても監督役が不在になり工事がスムーズに進めないといった事態に繋がっているというわけです。

なお、総務省の統計局労働力調査によると、建設業界の就業者数は1997年の685万人がピークとされ、2023年時点では483万人にまで減少しています。

そこで、このような建設業界における深刻な人手不足の現状を解消するために、一定の技能を有した即戦力となる外国人労働者の就労を認める制度として、2019年に『建設分野』における特定技能が創設されました。

特定技能が創設された2019年には、特定技能『建設分野』において就労する外国人の人数は267人でしたが、コロナ禍を経て、2024年4月には29,456人とその受入れ人数は年々大幅に増加しています。

また、2023年12月末時点では、特定技能の12分野のうち、建設分野は4番目に特定技能外国人の受け入れ人数が多い分野となっています。

そして、2024年から5年間の特定技能外国人の受入れ見込み人数も、建設分野においては80,000人を予定しており、制度開始時の受入れ見込み人数の40,000人から倍増しております。

建設分野で外国人材の雇い入れができる点においては『特定技能』『技能実習』は似ているような制度にみえますが、この2つの制度は趣旨や目的の他に雇い入れに関するルールが大きく異なります。

以下、『特定技能』と『技能実習』の違いについて大枠で解説していきます。

在留資格特定技能技能実習
制度の目的国内での人材確保が困難な14の産業分野における人手不足解消日本の技術や知識を開発途上地域に移転する国際貢献
在留期間の上限特定技能1号:最大5年
特定技能2号:無期限
技能実習1号:1年
技能実習2号:2年
技能実習3号:2年
⇒技能実習生として
通算最大5年
給  最低賃金を下回らないこと
同一労働・同一賃金
(日本人従業員との比較において)
最低賃金を下回らないこと
同一労働・同一賃金(日本人従業員との比較において)
転職・転籍同一の業務区分内または技能水準の共通性が確認されている業務区分間内において可能原則不可能但し実習実施者の倒産等やむをえない場合や2号から3号への移行時には可能
受入機関の人数枠なし(建設分野・介護分野を除く)常勤職員の総数に応じた人数枠あり
支援を行う団体・機関登録支援機関(支援業務を委託する場合)管理団体
技能水準相当程度の知識または経験が必要未経験でも可
入国時の試験技能水準、日本語能力水準を試験等で確認
(技能実習を良好に修了した者は試験等免除)
なし
(介護職のみN4レベルの日本語能力の要件有り)
マッチング受入機関が直接海外で採用活動を行うまたは国内外
のあっせん機関等を通じて採用活動を行う(建設分野
においては不可)
管理団体と送り出し機関を通して行われる
採用の難易度
限られたターゲットに絞った採用活動を行うため難易度は高く、採用までに手間と時間がかかる
『建設業従事者』でなくてもよいためターゲットを絞る必要性がなく、難易度は低い

制度の目的

技能実習制度』発展途上国の外国人に技能実習を通じて日本の高い技術を習得してもらい、その技術や知識を母国の経済発展に活かしてもらうという国際貢献を目的として創設されました制度です

一方、『特定技能制度』は国内での人材確保が困難な産業分野において、一定の専門性や技能を持ち、即戦力となる外国人を受け入れ、日本の人手不足解消を目的とする制度です。

『特定技能制度』の創設により、これまで外国人労働者の就労が認められていなかった、いわゆる『ホワイトカラー』以外の幅広い業務に携わってもらうことが可能となりました。

在留期間の上限

技能実習』では、あくまで途上国への技術移転が目的であることから、技能実習生は最大5年間の契約期間を満了後帰国をしなければいけないというルールがあります。

そのため、『技能実習1号』から『技能実習2号』を経て、優良な企業と監理団体に認められる『技能実習3号』まで最大5年間しか在留がすることができませんでした。

しかし、『特定技能制度』が2019年に新たに創設されたこと伴い、技能実習修了者は『特定技』』への在留資格の変更により6年目以降も日本に在留することができるようになりました。

一方、『特定技能』の制度では『特定技能1号』の在留期間は通算で5年と制限されていますが、熟練した技能を要する業務に従事する外国人に認められる『特定技能2号』へ移行すると、在留期間更新の上限がなくなり家族の同居も認められたり(家族と何十年も一緒に暮らすことができないとなると日本で長く働く選択肢を取る外国人は少数かと思いますので家族の呼び寄せ可能という要件は非常に重要です)、また永住権の取得も可能になります。

よって、特定技能外国人にとってより働きやすい環境が整うことになりますし、また『特定技能1号』の更新制限である5年のうちに育成をしっかりと行うことで『特定技能2号』へ移行し、建設業における外国人のエキスパートを育てあげることも可能となります。

給与について

特定技能外国人と技能実習生の給与は受入企業で自由に決められるわけではなく、それぞれの制度に則って設定する必要があります。

そして、この給与については双方共通のルールが定められております。

まずは、最低賃金を下回ってはいけないということです。

最低賃金には、都道府県別に定められている地域別最低賃金産業ごとに制定されている特定(産業別)最低賃金があり、特定技能外国人と技能実習生の給与設定をする時には、これらの最低賃金を上回らなければなりません。

仮に、双方同意のもと最低賃金以下で雇用契約をしたとしても、その額しか払わなかった場合は最低賃金法違反となります。

さらに、特定技能の建設分野においては、特定技能外国人の給与は地域別最低賃金に1.1を乗じた金額より上回る必要があるという決まりがある他、同一圏域における建設技能者の賃金水準との比較も必要となり、各都道府県労働局において公表されているハローワークの求人求職賃金を参考にして同じ地域の同業と比較して明らかに低水準の給与設定となっている場合には人手が確保できなくても当然とされ、これを理由に特定技能外国人を雇用することも認められません。

次に『同一労働・同一賃金』というルールで、これは同一企業の中で同一の職務を行う正規雇用者と非正規雇用者の待遇差をなくすために、厚生労働省が策定したものです。

技能実習生の場合は非正規雇用者の中の有期雇用労働者に該当しますので、同一の業務を行う日本人と比較して、同等レベルの給与が必要となります。

また、特定技能外国人の場合は、同種の業務(例えばとび職)に従事し、かつ同程度の技能(経験年数・取得資格)を有する日本人従業員と同水準、またはそれ以上の給与を支給しなければならず、例えば『建設分野特定技能評価試験』の合格で経験年数3年程度と見なされるため、日本人で3年の経験を積んだ人材と同等の待遇に設定する必要があります。

そして、技能習熟(経験年数)に応じた昇給を必ず行わなければならないという決まりがあり、これらを雇用条件書に明記する必要があります。雇用契約において受入企業に特定技能外国人の技能習熟に応じた昇給が義務づけられ、技能の習熟度に応じ昇給額を明確にし、かつ毎年昇給させることが求められています。そして、その昇給の予定額や昇給条件を『雇用条件書』と『重要事項事前説明書』に記載し、内定者である特定技能外国人本人が理解できる言語で説明しなければなりません。習熟度を示す指標には、実務経験年数や資格、また建設キャリアアップシステムにおける能力評価などを活用します。なお、この昇給は、1年あたりに見込まれる1か月当たりの賃金の上昇額が千円未満である場合には、定期昇給とは認められず、国交省へ申請する『建設特定技能受入計画』は認定されませんので注意が必要です。

その他にも、特定技能外国人への給与は月給制でかつ口座振り込みにて支給しなければなりません。これは、特定技能外国人の安定的な報酬を確保するため、仕事の繁閑により報酬が変動しないこと(天候や受注状況によって基本給が大きく変動しないこと)、すなわち『月給制』により、あらかじめ特定技能外国人との間で合意を得た額の報酬を毎月安定的に支払うことが必要であるという理由からです

転職と転籍について

『技能実習』では原則として転職・転籍が認められていないため、技能実習2号を修了までは同一企業において同一の業務に従事しなければなりません。

なお、実習実施者の倒産等やむをえない場合技能実習2号から3号への移行時においては転籍が可能となります

一方、『特定技能』では同一の業務区分内においては日本人と同様に転職や転籍が認められているため、本人さえ希望すれば自由に転職や転籍ができますが、その際には出入国管理庁在留資格の変更許可申請をしなければなりません

ちなみにこれは余談ですが、日本で就労する特定技能を含む外国人労働者は、Facebook等のSNSでより条件・待遇の良い会社の情報を自ら収集し、そのうような会社が見つかると積極的に転職や転籍するケースが多いように見受けられます。

よって、雇い入れ企業側が外国人労働者を低賃金で雇用できる労働力と安易に考え、職場環境の整備や待遇面の改善を怠っていると外国人労働者が定着しなくなってしまいますので、賃金等の待遇面や残業・休日等の勤務形態について頻繁にコミュニケーションを取るよう心がけるなど、特定技能外国人が長く働いてもうらうために企業側の取り組みも重要になってくるでしょう。

支援を行う団体・機関

特定技能』『技能実習』では受入企業や外国人を支援する団体にも違いがあります。

技能実習生の場合、必ず『監理団体』を通じて技能実習生を採用する必要があります。

監理団体は採用から入社後のフォローまでを行い、技能実習生の受入企業を監理する義務を負っています。

一方、特定技能の場合は『登録支援機関が監理団体のような役割を担っています

『登録支援機関』は主に特定技能外国人を雇用する場合、または雇用後の支援業務を代行できる機関です。

特定技能外国人への支援は、書類作成などの専門的な知識も必要になる場合もあり、受入側の企業でそれらをすべて行うことが困難である場合もあります。

そこで『登録支援機関』が雇い入れ企業である受入機関から委託され、外国人の支援を代わりに行いますが、受入機関は、『登録支援機関』にすべての業務を委託することはもちろん、一部の業務のみを委託することも可能です。

なお、外国人を適切に支援できる環境が整っていれば、登録支援機関を利用せずに自社で外国人を支援ることも可能です。

技能および日本語の習熟度

『技能実習』は日本へ呼び寄せるにあたって、技能水準や日本語能力を測る試験が無いのに対し、『特定技能』はより即戦力となりうる人材を採用できる可能性があるといえます。

『建設分野』における特定技能においては、『建設分野特定技能評価試験』および業務上必要な一定の日本語能力試験に合格をしなければ『特定技能』のビザを取得できないというルールになっているためです。

また『特定技能』では、本国へ帰国した『元技能実習生』を採用できる可能性もあります。

『技能実習』は初めて日本へ来る外国人材を対象としているのに対し、『元技能実習生』は日本語能力も高く、日本の文化への理解があるので比較的受け入れやすく、何より技能実習時に特定技能で従事する業務と同様の業務を経験している人材もいるため、即戦力として十分な能力を有している可能性があります。

以前は、技能実習生が従事できる作業は技能実習計画で認定を受けた33作業のみのうちの1作業のみ、また特定技能に関しても業務区分が19区分と細分化されており、業務範囲が限定的でした。

そのため、建設業における作業の中で特定技能ができる業務に含まれないものがあり、特定技能外国人が従事できない業務がありました。

しかし、令和4年8月の閣議決定により、建設業における業務区分が3区分(土木、建築、ライフライン・設備)に統合され、その業務範囲も拡大されました。

そして、技能実習職種を含む建設業に係る全ての作業が新区分に分類されたため、より幅広い業務に従事してもらうことができるようになりました。

現在、『建設分野』における特定技能では土木、建築、ライフライン・設備の3区分のうち、特定技能の資格を取得した区分内のすべての作業が可能となっております。業務区分の内容は以下の通りです

業務区分業務内容
土木分野
【主として土木施設に係る作業】
さく井工事業/舗装工事業/しゅんせつ工事業/造園工事業/大工工事業/とび・土工工事業/鋼構造物工事業/鉄筋工事業/塗装工事業/防水工事業/石工事業/機械器具設置工事業
建築分野
【主として建築物に係る作業】
大工工事業/とび・土工工事業/鋼構造物工事業/鉄筋工事業/塗装工事業/防水工事業/石工事業/機械器具設置工事業/内装仕上工事業/建具工事業/左官工事業/タイル・れんが・ブロック工事業/清掃施設工事業/屋根工事業/ガラス工事業
解体工事業/板金工事業/熱絶縁工事業/管工事業
ライフライン・設備分野
【主としてライフライン・設備に係る作業】
板金工事業/熱絶縁工事業/管工事業/電気工事業/電気通信工事業/水道施設工事業/消防施設工事業

なお、『技能実習2号』から『特定技能』に移行するためには、移行したい特定技能の職種と技能実習2号の職種および作業と関連していなければなりません

建設分野における、従事しようとする業務と技能実習2号の職種および作業の関連性については以下の対応表通りです。

分野(業務区分)技能実習2号における職種(作業名)
土木【建設関係(22職種33作業)】
さく井(パーカッション式さく井工事/ロータリー式さく井工事)、型枠施工(型枠工事)、鉄筋施工(鉄筋組立)、とび(とび)、コンクリート圧送施工(コンクリート圧送工事)、ウェルポイント施工(ウェルポイント工事)、建設機械施工(押土・整地/積込み/掘削/締固め)
【機械・金属関係(17職種34作業)】
鉄工(構造物鉄工)
【その他(21職種38作業)】
塗装(建築塗装/鋼橋塗装)、溶接(手溶接/半自動溶接)
建築【建設関係(22職種33作業)】
建築板金(ダクト板金/内外装板金)、建具製作(木製建具手加工)、建築大工(大工工事)、型枠施工(型枠工事)、鉄筋施工(鉄筋組立)、とび(とび)、石材施工(石材加工/石張り)、タイル張り(タイル張り)、かわらぶき(かわらぶき)、左官(左官)、内装仕上げ施行(プラチック系床仕上げ工事/カーペット系床上げ工事/鋼製下地工事/ボード仕上げ工事/カーテン工事)、サッシ施工(ビル用サッシ施工)、防水施工(シーリング防水工事)、コンクリート圧送施工(コンクリート圧送工事)、表装(壁装)、築炉(築炉)
【機械・金属関係(17職種34作業)】
鉄工(構造物鉄工)
【その他(21職種38作業)】
塗装(建築塗装/鋼橋塗装)/溶接(手溶接/半自動溶接)
ライフライン・設備【建設関係(22職種33作業)】
建築板金(ダクト板金/内外装板金)、冷凍空気調和機器施工(冷凍空気調和機器施工)、配管(建築配管/プラント配管)
【その他(21職種38作業)】
溶接(手溶接/半自動溶接)

例えば『とび』の実習を終えた実習生は、『土木区分』・『建築区分』の業務に従事することが可能です。

もし、業務区分が異なる作業を行いたい場合(例えば「建築板金」の実習を修了した後に業務区部「土木」の業務に従事したい場合)は、移行を希望する特定技能における業務区分の『建設分野特定技能評価試験』『日本語能力試験』に合格すれば移行することも可能です。

技能実習から特定技能への移行については別の記事でも紹介しておりますので、よろしければ参考にして下さい。

特定技能技能外国人の雇用するためには、どのような外国人材が対象になるのでしょうか。

ここでは、建設分野の特定技能外国人として受け入れの対象となる外国人材の6つの採用パターンについて解説します。

技能実習から特定技能への変更

ひとつめが、技能実習から在留資格を変更するパターンです。

技能実習の2号を「良好に修了」したとされる技能実習生は、『建設分野特定技能試験』と『日本語能力試験』を免除され、『技能実習』から『特定技能』への在留資格変更を行うことができます。

なお、『技能実習2号を良好に修了している』状態とは下記2点のいずれをも満たす必要があります。

☑技能実習を2年10か月以上修了。

技能検定3級若しくはこれに相当する技能実習評価試験(専門級)の実技試験に合格していること。または受かっていなくとも、受入企業が外国人の実習中の勤務・生活態度を記載した評価に関する書面により、技能実習2号を良好に修了したと認められること。

自社ですでに技能実習生を受け入れている場合、上記の要件をクリアし、かつ技能実習の業務内容が移行したい特定技能の産業分野に関連性があれば、技能実習生本人が希望することにより技能実習修了後に在留資格の変更を申請し、特定技能として就労してもらうことができます。

なお、技能検定3級または技能実習評価試験(専門級)(外国人技能実習生等を対象として随時に実施するもので、技能実習から特定技能1号への在留資格変更許可申請時には技能検定随時3級の合格証、技能評価試験専門級の合格証いずれかが必要となりますに不合格の場合でも評価調書があれば特定技能に移行が可能です(※「改善命令」「改善指導」を受けていない企業の場合、実技試験の合格証明書の写し、評価調書の提出を省略できます)。

他社にいる技能実習修了予定者

二つ目が、現在他社で就業している技能実習修了予定者を採用するパターンです。

特定技能外国人の受入企業に技能実習生の受入がない場合には、他社で受け入れている技能実習修了予定者を採用することも可能です。

この場合、引き続き同じ実習実施先で就労を希望しない技能実習生または技能実習を行っている企業が、特定技能への移行を希望していない特定技能としての雇用を検討していない)技能実習生を採用することができます。

なお、技能実習生を採用する場合には、特定技能の期間中に一時帰国する可能性があることに留意しなければなりません。

技能実習修了後に日本で納めた年金保険料の一部返金(脱退一時金)の手続きを行うために一時帰国を希望するケースがあることを想定し、特定技能外国人から一時帰国の申し出があった場合には、やむを得ない事情がある場合を除き有給休暇を使って一時帰国してもらえるよう、配慮しなければなりません。

本国へ帰国した『元技能実習生』

三つめが、建設分野の技能実習を修了して本国へ帰国した元技能実習生を特定技能として採用するパターンです。

この場合、自社で技能実習生を受け入れたことがなくても、他社で技能実習を修了した『元技能実習生』を特定技能のビザ(在留資格)で海外から招聘することが可能となります。

前述のとおり『技能実習』は初めて日本へ来る外国人材を対象としているのに対し、『元技能実習生』は日本語能力も高く、日本の文化への理解があるので比較的受け入れやすく、何より技能実習時に特定技能で従事する業務と同様の業務を経験している人材もいるため、即戦力として十分な能力を有している可能性があります。

そして技能実習から特定技能への移行のケースと同様に、自社で技能実習生を受け入れたことがない場合でも、他社で技能実習を修了した元技能実習生を特定技能として海外から呼び寄せることが可能となります。

国外にいる『建設分野特定技能評価試験』等の合格者

四つ目が、国外にいる建設分野特定技能試験と日本語試験の合格者を採用するパターンです。

建設分野特定技能1号評価試験』については、国外でも定期的に実施されており、2024年5月現在、海外での建設技能評価試験の試験実施国はインドネシア、フィリピン、バングラデシュ、カンボジア、インド、モンゴル、スリランカ、タイ、ウズベキスタンミャンマー、ネパール受験することが可能です。

また、令和2年4月1日より受験資格が拡大され、過去に中長期在留者として在留した経験がない外国人であっても受験を目的として『短期滞在』の在留資格により入国し,受験することが可能となりました。

これにより、日本語試験や海外現地での技能評価試験を行っていない国の希望者であっても来日することでの受験ができるようになりました。

転職希望の特定技能外国人

五つ目が、国内にいる転職希望の特定技能外国人を採用するパターンです。

技能実習と異なり、特定技能においては同一業務区分内に限り転職が認められています

例えば、建設分野の土木分野内における転職が可能また、試験等によって技能水準の共通性が確認されている産業に従事する特定技能外国人は一部業務区分を超えて転職を行うこともできます(ただし在留資格の変更許可申請を行う必要があり)。

もしも業務区分外へ転職する場合には、該当する区分における技能評価試験に合格してうえで在留資格の変更許可申請を行う必要があります。

なお、外国人技術者(技術・人文知識・国際業務等の就労ビザ)の紹介に特化した人材紹介会社は国内に数多く存在しますが、『建設分野』における特定技能においては人材紹介会社経由での採用は禁止されており、建設特定技能外国人の人材紹介はすべてJAC(建設技能人材機構)を通じて行わなければなりません。

現在JACでは、特定技能外国人を受け入れたい企業や、すでに受け入れている企業に向けたオンライン個別面談を実施しています。

ここで注意が必要なのは、特定技能外国人が転職をする場合には、出入国管理局へ在留資格の変更許可申請をしなければならないという点です。

そして、特定技能のビザ変更許可が下りるまでの間は『特定活動』ビザで就労することが可能となります。

留学から特定技能への移行

六つ目が、留学生が特定技能へ移行するパターンです。

留学生の場合は技能評価試験と日本語試験の合格が要件となるのですが、実技試験が重要となる建設分野においては、留学生からの特定技能試験合格者は少ないのが現実です。

また、住民税や社会保険料を納めていることを証明する書類の提出が必要となるため、技能実習生からの移行と比較するとハードルはやや高いといえるかもしれません。

受け入れるための要件を満たすこと

特定技能外国人はどの会社でも雇用することができるわけではなく『受入機関』となる企業側が大枠で3つの基準を満たしている必要があります。

なお、特定技能外国人を受入れるための要件については、別の記事でも細部にわたって解説しておりますので、よろしければ参考にして頂ければと思います。

『受入機関』となる企業側が満たすべき3つの基準は下記の通りとなります。

1.受入機関自体が満たすべき基準(受入機関自体が適切であること)
2.雇用契約を結ぶうえで満たすべき基準(雇用契約が適切であること)
3.支援体制を構築する上で満たすべき基準(支援体制が整っている/支援の中立性が保たれている/適切な支援計画が立てられていること)

以下、各々の基準における詳細についてまとめてみます。


受入機関自体が満たすべき基準
① 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
② 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
③ 1年以内に受入れ機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
④ 欠格事由(5年以内に出入国・労働法令違反がないこと等)に該当しないこと
⑤ 特定技能外国人の活動内容に係る文書を作成し、雇用契約終了日から1年以上備えて置くこと
⑥ 外国人等が保証金の徴収等をされていることを受入れ機関が認識して雇用契約を締結していないこと
⑦ 受入れ機関が違約金を定める契約等を締結していないこと
⑧ 支援に要する費用を、直接又は間接に外国人に負担させないこと
⑨ 労働者派遣の場合は、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者などで、適当と認められる者であるほか、派遣先が① ~④の基準に適合すること
⑩ 労災保険関係の成立の届出等の措置を講じていること
⑪ 雇用契約を継続して履行する体制が適切に整備されていること
⑫ 報酬を預貯金口座への振込等により支払うこと
⑬ 分野に特有の基準に適合すること ※分野所管省庁の定める告示で規定
雇用契約を締結するうえで満たすべき基準① 分野省令で定める技能を要する業務に従事させるものであること
② 所定労働時間が、同じ受入れ機関に雇用される通常の労働者の所定労働時間と同等であること
③ 報酬額が日本人が従事する場合の額と同等以上であること
④ 外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇に ついて、差別的な取扱いをしていないこと
⑤ 一時帰国を希望した場合、休暇を取得させるものとしていること
⑥ 労働者派遣の対象とする場合は、派遣先や派遣期間が定められていること
⑦ 外国人が帰国旅費を負担できないときは、受入れ機関が負担するとともに契約終了後の出国が円滑に なされるよう必要な措置を講ずることとしていること
⑧ 受入れ機関が外国人の健康の状況その他の生活の状況を把握するために必要な措置を講ずることと していること
⑨ 分野に特有の基準に適合すること ※分野所管省庁の定める告示で規
支援体制を構築する上で満たすべき基準①中長期在留者の雇用経験があること(次のいずれかに該当すること)。
イ)過去二年間に中長期在留者(就労資格に限る)の受入れ又は管理を適正に行った実績があり、かつ、役員又は職員の中から、支援責任者及び支援担当者を選任していること。
ロ)役員又は職員であって過去二年間に中長期在留者(就労資格に限る)の生活相談業務に従事した経験を有するものの中から、支援責任者及び支援担当者を選任していること。
ハ)イ又はロと同程度に支援業務を適正に実施することができる者として認めたもので、役員又は職員の中から、支援責任者及び支援担当者を選任していること。
②外国人が十分に理解することができる言語によって支援ができる体制を有していること。
③支援の状況に係る文書を作成し、当雇用契約終了の日から1年以上備えて置くこと。
④支援計画の中立な実施を行うことができる者であること。
⑤5年以内に支援計画に基づいた支援を怠ったことがないこと。
⑥支援責任者又は支援担当者が特定技能雇用契約の当事者である外国人及びその監督をする立場にある者と定期的な面談を実施することができる体制を有していること。
⑦分野に特有の事情に鑑みて告示で定める基準に適合すること。

このように、受け入れ要件のなかにも上記のようにさまざまな基準が設けられています。

なお、直近2年間で特定技能外国人を受け入れた実績がない場合、また支援を実施できる人材が社内にいない場合は、支援体制を構築する上で満たすべき基準をクリアできていないので、登録支援機関を利用することになります。

仮に上記基準をクリアできていたとしても、マンパワー不足等により自社内で支援を実施することが難しいようであれば、支援業務を委託できる登録支援機関の利用を検討されるとよいでしょう。

登録支援機関へ支援を委託した場合には、受入企業は特定技能外国人を支援する体制があるものとみなされ(支援体制を構築する上で満たすべき基準をクリア)、支援義務を負わなくなります。 

国土交通省による『建設特定技能受入計画』の認定を受けること

特定技能の『建設分野』においては、外国人材の雇い入れるにあたり、建設技能者全体の処遇改善やブラック企業の排除といったこと考慮するべく、建設分野特有の基準が設られております。

というのも、そもそもこの建設分野特有の基準を設けた背景には、建設業における技能実習生の失踪者数の多さというものがあります。

実は、建設分野における技能実習生の失踪率は他の特定技能における分野と比較しても高く、失踪率が全分野で約2.1%に対し約8%と4倍近い数字となっており、失踪した技能実習生が別の現場で不法に就労するなど業界としてもかなり問題視されています。

そして失踪の主な原因と考えられているのが労働法令違反で、実に技能実習実施企業の約8割が違反していると言われており、その内容として賃金台帳の未整備、割増賃金に関して、賃金の未払いなどが挙げられています。

これらの状況を改善するべく作られた建設業独自の仕組みが『建設特定技能受入計画』で、建設分野においては特定技能における他の分野共通の基準に加えて、建設分野の特性を踏まえて国土交通大臣が定めたこの独自の基準も満たさなければなりません。

【労働条件に係る建設分野における独自の基準について】
建設分野で特定技能外国人を雇用するにあたっては、報酬等の労働条件係る建設分野独自のルールがあります。
①報酬について
建設分野においては、出入国在留管理庁へ特定技能の在留資格の申請を行う前に、国交省へ『建設特定技能受入計画』の認定申請を行いまが、受入計画を作成を作成する際に具体的に日本人従業員の方と給与の比較を行い、この比較した日本人の給料が地域別最低賃金に1.1を乗じた金額より下回っているときは、同等以上の給料であったとしても、要件の一つである『適切な国内人材確保の取組を行っている』ということが認められず計画の認定は得られません(当然ながら特定技能外国人の給与も地域別最低賃金に1.1を乗じた金額より上回っている必要があります)。さらに同一圏域における建設技能者の賃金水準との比較も必要で、各都道府県労働局において公表されているハローワークの求人求職賃金を参考にしますが、同じ地域の同業と比較して明らかに低水準の給与設定となっている場合は、人手が確保できなくても仕方がなく、これを理由に外国人人材を雇用するすることもできません。


②昇給等について
雇用契約において受入企業に特定技能外国人の技能習熟に応じた昇給が義務づけられ、技能の習熟度に応じ昇給額を明確にし、かつ毎年昇給させることが求められています。そして、その昇給の予定額や昇給条件を『雇用条件書』『重要事項事前説明書』に記載し、内定者である特定技能外国人本人が理解できる言語で説明しなければなりません。習熟度を示す指標には、実務経験年数や資格、また建設キャリアアップシステムにおける能力評価などを活用します。
なお、この昇給は、1年あたりに見込まれる1か月当たりの賃金の上昇額が千円未満である場合には、定期昇給とは認められず、国交省へ申請する『建設特定技能受入計画』は認定されませんので注意が必要です。

➂報酬の支払い形態について
特定技能外国人への給与は月給制でかつ口座振り込みにて支給しなければなりません。これは、特定技能外国人の安定的な報酬を確保するため、仕事の繁閑により報酬が変動しないこと(天候や受注状況によって基本給が大きく変動しないこと)、すなわち『月給制』により、あらかじめ特定技能外国人との間で合意を得た額の報酬を毎月安定的に支払うことが必要であるという理由からです(建設分野の過去の失踪理由の中に月給制でないため安定的に給与が支払われず不安を感じたからという声が多かったことに起因しています)。建設業の特徴として、季節や工事受注状況による仕事の繁閑により予め想定した報酬予定額が下回ることがあることがありますが、特定技能人材を受け入れる場合は、特定技能外国人の離職や失踪を避けるためにも月給制を採用しなければならないルールになっています。なお、天候や受入企業の責めに因らない事由による休業の場合には、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払うことは認められています。そして、日本人従業員が月給制でない場合でも、特定技能人材に関しては月給制でなければならないという点には注意が必要です。また、建設業ですと、給与を現金で手渡しにしている企業方がまだ多いように見受けられますが、外国人労働者(特定技能外国人)を雇用した際には口座振り込みの手続きが必要となります。そしてこの場合、同等の技能を有する日本人の技能者に実際に支払われる1か月当たりの平均的な報酬額と同等でなければなりません。

そして『建設分野』においての特定技能外国を受け入れるためには、受入企業は外国人に対する報酬額や昇給内容等を記載した『建設特定技能受入計画』を作成し、その内容が適切である旨の国土交通大臣の認定を受けている必要があります。

詳しくは別の記事にて解説していますので、もしよろしければ参考にして頂ければと思います

『特定技能』の制度がこれまでの技能制度と比較して特筆すべきとして、建設現場においてより即戦力に近い外国人材を雇い入れることができるということが挙げられます。

『特定技能』対象となる外国人技術者は『相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務』を行える人材、つまり即戦力です。

確かに、『建設業従事者』という限られたターゲットから採用を行う必要があるため、特定技能の採用ターゲットは、基本的には本国または日本で建設業界に従事してきた人に絞られてきますが、技能実習の受け入れができる国は15カ国に限定されていたのに対し、特定技能1号はほぼ全ての国からの受け入れが可能となっているため、受け入れ国自体の間口は広くなっているともいえます。

また、『技能実習2号』(3年)から『特定技能1号』(5年)を経て『特定技能2号で2年以上継続して就労した場合は、専任技術者になるための『許可を受けようとする建設業種の実務経験が10年以上ある』という要件をクリアすることができるため、受入機関としても2号特定技能外国人を専任技術者として雇用できるというメリットも生じます。

その他にも、基礎的な日本語能力(N4相当)があることから技能実習生と比べて日本語でのコミュニケーションも取りやすく、また『特定技能2号』に移行すれば在留期間更新の上限がなくなるため、長期での雇用が可能になり、永住申請も視野に入ってきます。

一方、デメリットしては、自由に転職・転籍ができない『技能実習』と異なり、『特定技能』では常に転職・転籍のリスクがあるということが挙げられます。

また前述のとおり、『建設業従事者』かつ『相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務』を行える人材という限られたターゲットから採用を行う必要があるため、技能実習と比べると求職者を探すのに手間と時間がかかることが想定されます。

最後までご覧いただきありがとうございました。本記事では、『建設分野』における『特定技能』について最低限おさえておくべきポイントについて解説しました。

人材不足と高年齢化が年々進行する建設業界において、特定技能外国人の受け入れは、若い労働力の長期的な確保や労働環境の整備につながるなど、メリットが多くあります。

一方、特定技能制度には複雑なルールも多い上に、は建設分野だけに課されている要件も数多くあるため、特定技能外国人材を雇い入れる際にはとくに注意が必要となりますので、ご不明ながございましたらお気軽にご相談下さい。

アソシエイツ稲福国際行政書士事務所では、建設業者様が特定技能外国人を雇用するために必要な申請業務をサポートしております。

また、建設業許可申請もオンライン(JCIP)にて全国対応しております(大阪・兵庫・福岡を除く)。

お問い合わせフォーム、お電話、LINE@にて初回限定の無料相談サービスも行っておりますので、是非一度ご相談下さい。

この記事の監修者
アソシエイツ稲福国際行政書士事務所 行政書士
稲福 正直

アソシエイツ稲福国際行政書士事務所
代表行政書士
沖縄県那覇市出身
明治大学法学部法律学科卒業
東京都行政書士会
会員番号第15128号
専門は、建設特定技能ビザ申請・建設業に係る申請等

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コメント

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