こんにちは。行政書士の稲福です。
この記事では建設分野における『技能実習』から『特定技能』への移行についてわかりやすく解説していきたいと思います。
まず、『技能実習』と『特定技能』は双方ともビザ(在留資格)の名称のことで、外国人が日本で就労できるビザ(在留資格)となります。
なお、外国人材の雇い入れができる点においては『特定技能』と『技能実習』は似ているような制度にみえますが、この2つの制度は趣旨や目的の他に雇い入れに関するルールが大きく異なります。
そして『技能実習』の目的は、日本の技能・技術などを開発途上地域に移転して国際協力をすることにありますが、『特定技能』は、即戦力となる外国人材の受け入れにより、日本国内の企業の人手不足を解消する目的で創設されています。
『技能実習』と『特定技能』の違いについては別の記事でわかりやすく解説しておりますので、よろしければ参考にして下さい。
かつては技能実習生は、実習期間が終了すると本国へ帰国しなければなりませんでしたが、現在ではビザ(在留資格)を『特定技能』へ移行することで、日本に引き続き在留して就労することが可能になりました。
例えば『建設分野』においては、『技能実習』の職種・作業と『特定技能(1号)』の業務に関連性があれば、技能実習2号を良好に修了した場合は特定技能への移行が可能となります。
また、技能実習修の職種・作業と特定技能における業務に関連性がなくても、移行を希望する特定技能における業務区分の『建設分野特定技能評価試験』と『日本語能力試験』に合格すれば移行することも可能です。
それでは、他にどのような要件を満たせば『特定技能』への移行が可能となるのでしょうか。
その基準と満たすための要件、また移行の方法などについて解説していきます。
技能実習から特定技能への移行の要件について

『技能実習』から『特定技能』へ移行できる要件は以下の2点となります。
もちろん、建設技能評価試験や日本語能力試験も免除されます。
☑技能実習2号を良好に修了していること
☑技能実習の職種・作業内容と、特定技能1号の業務に関連性があること
これらの要件を満たしたうえで技能実習生本人が希望することにより、技能実習修了後にビザ(在留資格)の変更を申請し、『特定技能外国人』として就労してもらうことができます。

技能実習2号を良好に修了していること
まず、技能実習の2号を「良好に修了」したとされる技能実習生は、技能試験と日本語能力試験を免除され、技能実習から特定技能へのビザ(在留資格)変更を行うための要件のひとつを満たせます。
なお、『技能実習2号を良好に修了している』状態とは下記2点のいずれをも満たす必要があります。
☑技能実習を2年10か月以上修了。
☑技能検定随時3級若しくはこれに相当する技能実習評価試験(専門級)の実技試験に合格していること。または受かっていなくとも、受入企業が外国人の実習中の勤務・生活態度を記載した評価に関する書面により、技能実習2号を良好に修了したと認められること。
ここで注意すべき点として、まず『技能実習1号』からは『特定技能』への移行はできないということです(建設技能評価試験および日本語能力試験に合格すれば可)。
特定技能へ移行するためには、技能実習1号を修了後に技能実習2号へ移行し、かつ技能実習1号時から起算して技能実習2号を含めた期間がトータルで2年10か月以上である必要があります。
少し本筋から話が逸れてしまいますが、参考までに技能実習制度について少し触れてみたいと思います。
技能実習おいては、入国から1年目は『技能を修得』するレベルとして1号に分類され、2〜3年目は『技能を習熟』する段階として2号に分類されます(2号へは学科・実技試験に合格しなければ移行することができません)。
そして、入国から4〜5年目は『技能を熟達』するとされるレベルで、3号に分類されます(3号へは、実技試験に合格しなければ進めません。加えて、3号の実習が行えるのは、優良認定を受けた企業のみとなります)。
なお、『技能実習3号』の実習中は特定技能への移行は原則として認められず、技能実習3号から特定技能へ移行するには、技能実習2号を良好に修了した場合でも技能実習3号の実習を修了している必要がありますが、技能実習3号を途中で中止して(外国人技能実習機構に「技能実習実施困難時届出書」と「意思確認書」を提出する)、その後で特定技能1号への変更申請すれば移行が認めらることになります(「申請」ではなく「届出」なので、審査などは無く上記書類を提出した時点で手続きは完了となります)。
次に留意すべき点として、『技能検定随時3級』または『技能実習評価試験(専門級)』の実技試験に合格することが原則ですが、仮に不合格の場合でも『評価調書』があれば特定技能に移行が可能であるという点です。
つまり、『技能検定随時3級』や『技能実習評価試験』の実技試験に不合格であった場合でも、『評価調書』の記載から勤務状況などが良好であった場合には、良好に技能実習を修了したものとされます。
そして、特定技能外国人を受け入れようとする雇用主が、その外国人を『技能実習生』として受け入れていた『実習実施者』である場合においては、過去1年以内に技能実習法の「改善命令」を受けていない場合は、『技能検定随時3級』又はこれに相当する『技能実習評価試験(専門級)』の実技試験の合格証明書の写し及び評価調書の提出を省略できることになっています。
技能実習の職種・作業内容と、特定技能1号の業務に関連性があること
『特定技能』に移行するためには、移行したい特定技能の職種と技能実習2号の職種および作業と関連していなければなりません。
建設分野における、従事しようとする業務と技能実習2号の職種および作業の関連性については以下の対応表通りです。
分野(業務区分) | 技能実習2号における職種(作業名) |
土木 | 【建設関係(22職種33作業)】 さく井(パーカッション式さく井工事/ロータリー式さく井工事)、型枠施工(型枠工事)、鉄筋施工(鉄筋組立)、とび(とび)、コンクリート圧送施工(コンクリート圧送工事)、ウェルポイント施工(ウェルポイント工事)、建設機械施工(押土・整地/積込み/掘削/締固め) 【機械・金属関係(17職種34作業)】 鉄工(構造物鉄工) 【その他(21職種38作業)】 塗装(建築塗装/鋼橋塗装)、溶接(手溶接/半自動溶接) |
建築 | 【建設関係(22職種33作業)】 建築板金(ダクト板金/内外装板金)、建具製作(木製建具手加工)、建築大工(大工工事)、型枠施工(型枠工事)、鉄筋施工(鉄筋組立)、とび(とび)、石材施工(石材加工/石張り)、タイル張り(タイル張り)、かわらぶき(かわらぶき)、左官(左官)、内装仕上げ施行(プラチック系床仕上げ工事/カーペット系床上げ工事/鋼製下地工事/ボード仕上げ工事/カーテン工事)、サッシ施工(ビル用サッシ施工)、防水施工(シーリング防水工事)、コンクリート圧送施工(コンクリート圧送工事)、表装(壁装)、築炉(築炉) 【機械・金属関係(17職種34作業)】 鉄工(構造物鉄工) 【その他(21職種38作業)】 塗装(建築塗装/鋼橋塗装)/溶接(手溶接/半自動溶接) |
ライフライン・設備 | 【建設関係(22職種33作業)】 建築板金(ダクト板金/内外装板金)、冷凍空気調和機器施工(冷凍空気調和機器施工)、配管(建築配管/プラント配管) 【その他(21職種38作業)】 溶接(手溶接/半自動溶接) |
例えば『とび』の実習を終えた実習生は、『土木区分』・『建築区分』の業務に従事することが可能です。
もし、業務区分が異なる作業を行いたい場合(例えば「建築板金」の実習を修了した後に業務区部「土木」の業務に従事したい場合)は、移行を希望する特定技能における業務区分の『建設分野特定技能評価試験』と『日本語能力試験』に合格すれば移行することも可能です。
特定技能外国人を受入れるための基準

『技能実習』を修了した外国人材を『特定技能』外国人として雇い入れるためには、以下の基準をクリアしなければなりません。
☑特定技能における全ての分野共通の基準
☑建設分野特有の基準(国土交通省による『建設特定技能受入計画』の認定)
それでは、それぞれの基準の詳細について解説していきます。
特定技能における全ての分野共通の基準
『特定技能』における全分野共通の基準として以下の大枠4点の基準から審査がされ、これらの要件を全て満たすことが必要になります。
☑特定技能外国人が満たすべき基準
☑雇用契約を結ぶうえで満たすべき基準(雇用契約が適切であること)
☑受入機関自体が満たすべき基準(受入機関自体が適切であること)
☑支援体制を構築する上で満たすべき基準(支援体制が整っている/支援の中立性が保たれている/適切な支援計画が立てられていること)
特定技能外国人が満たすべき基準
『特定技能外国人』とは『特定技能』ビザ(在留資格)を有する外国人労働者のことです。
そして『特定技能外国人』には、日本で適切な活動を行っていくことが求められ、入管法令において細かく基準が定められています。
以下、特定技能外国人自体が満たすべき基準になります。
☑送出し国が適切であること
☑18歳以上であること
☑技能水準を満たす試験に合格していること
☑日本語能力水準を満たす試験に合格していること
☑技能実習2号を修了していること
☑健康状態が良好であること
☑特定技能1号としての通算在留期間が5年以内であること
☑本国において順守すべき手続きを経ていること
『特定技能外国人』が満たすべき基準において特に重要になるのが『技能レベル』と『日本語能力』になります。
まず、必要な技能レベルとは、従事しようとする業務に必要な相当程度の知識又は経験を必要とする技能を有していることが試験その他の評価方法により証明されているということを意味します。
次に、必要な日本語能力とは、日本での生活に必要な日本語能力及び従事しようとする業務に必要な日本語能力を有していることが試験その他の評価方法により証明されていることを意味します。
そして、これらの『技能レベル』と『日本語能力』を証明するための方法として、『建設分野特定技能評価試験』および『日本語能力試験』に合格するか、技能実習2号を良好に修了する(および実習業務と従事する業務に関連性がある)かの2つの方法があります。
もう一点注意が必要なのが、『特定技能』として通算の在留期間が5年以内であるということです。
それでは、どのような期間が通算の在留期間にカウントされるのでしょうか。
最も代表的なのが、特定技能への移行準備のために就労活動を認められる『特定活動』のビザ(在留資格)にて在留していた期間です。
そして、これらの期間を通算して5年に達した時点で、残余の特定技能雇用契約や在留期限にかかわらず以後の在留は認められなくなってしますので注意が必要です。
雇用契約を結ぶうえで満たすべき基準(雇用契約が適切であること)
次に受入機関が、外国人労働者と雇用契約を締結するにあたって満たす必要がある基準についてです。
特定技能外国人を受け入れるためには、日本人従業員を雇用する場合と同じく直接雇用契約を結ぶ必要がありますが、その際には雇用契約を結ぶ上での満たさなければならない基準があります。
まず大前提として、この雇用契約は外国人労働者にとって不利なものになってはいけないため、出入国管理法令等において雇用契約に関する基準が細かく定められています。
雇用契約を締結するうえでが満たすべき基準については以下のとおりになります。
① 分野省令で定める技能を要する業務に従事させるものであること
② 所定労働時間が、同じ受入れ機関に雇用される通常の労働者の所定労働時間と同等であること
③ 報酬額が日本人が従事する場合の額と同等以上であること
④ 外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇に ついて、差別的な取扱いをしていないこと
⑤ 一時帰国を希望した場合、休暇を取得させるものとしていること
⑥ 労働者派遣の対象とする場合は、派遣先や派遣期間が定められていること
⑦ 外国人が帰国旅費を負担できないときは、受入れ機関が負担するとともに契約終了後の出国が円滑に なされるよう必要な措置を講ずることとしていること
⑧ 受入れ機関が外国人の健康の状況その他の生活の状況を把握するために必要な措置を講ずることと していること
⑨ 分野に特有の基準に適合すること ※分野所管省庁の定める告示で規定
とりわけ重要になるのが、特定技能外国人に従事させる業務の内容です。
特定技能外国人に担当してもらう業務は『相当程度の知識または経験を要する業務』である必要があり、どのような業務でも担当させてといというわけではなく、おおむね3級技能士レベルの技能者が担当するような業務を担ってもらうことになります。
また、特定技能外国人は『特定技能』という在留資格で許可された範囲内でしか就労ができませんので、例えば、とび職人で雇い入れた特定技能外国人を他の職種(例えば、事務職や営業職等)で就労させることはできません。
もし雇用条件書に記載されている雇用条件(勤務地や勤務時間)が変更となった場合には、出入国管理庁への届出が必要となります(その他にも、外国人労働者を雇用後は3か月に一度、出入国管理庁へ定期的な届出が必要になります)。
次に、特定技能外国人の勤務時間(所定労働時間)ですが、こちらはフルタイムの他の日本人従業員の所定労働時間と同等である必要があります(パートタイマーやアルバイト従業員は含みません)。
なお、特定技能制度におけるフルタイムとは、原則として労働日数が週5日以上かつ年間217日以上であって、かつ、週労働時間が30時間以上であることをいいます。
よって、比較対象となるフルタイムの従業員に適用される所定労働時間が週40時間であれば、特定技能外国人の所定労働時間も40時間/週となり、他の日本人労働者と比較して不当に長時間労働をさせてはいけないというルールになっています。
ただし(ここが悩ましいところではあるのですが)、実際のところ「なるべく残業して稼ぎたい」が特定技能外国人の本音のようです。
実際に残業の多い仕事に人気が集中する傾向があり、退職理由に残業時間が減少しもらえる残業代が減ったことを挙げる特定技能外国人は多いです。
日本へやってくる特定技能外国人は、それだけお金を稼ぐことに対してストイックということですね。
そして特定技能外国人の給与についてですが、同種の業務(例えばとび職)に従事し、同程度の技能(例えば技能検定3級程度)を有する日本人従業員と同等以上の水準である必要があり、これを『同一労働同一賃金』の原則といいます。
例えば建設分野における特定技能外国人の場合、『1号建設特定技能評価試験』の合格で経験年数3年程度と見なされるため、日本人で同種の業務で3年の経験を積んだ従業員と同等かそれ以上の待遇に設定する必要があります。
もしも特定技能外国人と上記の日本人従業員(比較対象の日本人従業員)の給与額に差を設けるのであれば、その差を設けたことについて合理的な理由の説明が出入国管理庁より求められます。
例えば同じとび職人でも、経験年数や取得した資格の種類や数によって給与や手当の額に差があるケースにおいては、出入国管理庁へその旨を説明することが求められます。
また上記の日本人従業員に通勤手当の支給がある場合には、特定技能外国人にも同様に通勤手当を支給する必要があり、もし手当の支給条件を満たしているのにもかかわらず通勤手当を支給していないとなると、こちらも出入国管理庁からその理由についての説明を求められますので注意が必要です。
さらに、外国人であることを理由として給料の額や教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他待遇面において差別的な取り扱いをしてはならないといったルールや、本人から一時帰国の申し出があった場合には追加的な有給休暇の取得や無給休暇を取得できるよう配慮しなければならないというルールもあります。
その他にも、帰国旅費を本人が負担できない場合は受入機関が負担する義務(本人が自己負担できるのであれば帰国旅費に関して受入機関である一人親方が負担する必要はない)、雇い入れ時および毎年1回以上一般健康診断を受診させる義務(労働安全衛生法66条1項)、生活状況把握のため緊急連絡網を整備したり、定期的な面談において日常生活に困っていないかトラブルに巻き込まれていないかなどを確認する義務等が定められています。
このように、外国人労働者を雇用する場合には、法的な縛りや雇用条件においても細かいルールがあることを理解したうえで雇用計画を立てることが必要となります。
受入機関自体が満たすべき基準(受入機関自体が適切であること)
受入機関(受入企業)自体が、受入適合性を満たしているかどうかも重要なポイントになります。
受入れる側の企業が満たすべき基準については以下のとおりになります。
① 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
② 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
③ 1年以内に受入れ機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
④ 欠格事由(5年以内に出入国・労働法令違反がないこと等)に該当しないこと
⑤ 特定技能外国人の活動内容に係る文書を作成し、雇用契約終了日から1年以上備えて置くこと
⑥ 外国人等が保証金の徴収等をされていることを受入れ機関が認識して雇用契約を締結していないこと
⑦ 受入れ機関が違約金を定める契約等を締結していないこと
⑧ 支援に要する費用を、直接又は間接に外国人に負担させないこと
⑨ 労働者派遣の場合は、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者などで、適当と認められる者であるほか、派遣先が① ~④の基準に適合すること
⑩ 労災保険関係の成立の届出等の措置を講じていること
⑪ 雇用契約を継続して履行する体制が適切に整備されていること
⑫ 報酬を預貯金口座への振込等により支払うこと
⑬ 分野に特有の基準に適合すること ※分野所管省庁の定める告示で規定
まず、受入機関には一定の行為能力と役員等の適格性が求められ、役員が判断能力に欠けている場合や破産者である場合は特定技能外国人の受入れができません。
そして、一定の刑罰を受けていないことはもちろんのこと、出入国または労働関係・社会保険関係法令に関する不正行為を行っていないことも重要で、もしこれらの法令違反により罰金刑が科された場合は欠格事由に該当し5年間は特定技能外国人の受入れができなくなります。
次に、受入機関が国税<所得税および復興特別所得税・法人税・消費税および地方消費税など>および地方税<法人住民税>を適切に納付しているか、労働保険料・社会保険料を適切に納付しているか、労働法を始めとする諸法令違反(無許可のブローカー等からのあっせん)がないか、また後述する雇用者側が行うべき外国人労働者への支援の費用を外国人に負担させないか等、特定技能外国人を雇い入れる会社が、受入機関として適切であるといえるか否かがジャッジされます。
そして、税金および保険料納付状況確認のため、出入国管理局への在留許可許可申請の際に租税に関しては、税務署発行の納税証明書(その3)および市町村発行の納税証明書、また保険料に関しては、社会保険料納付状況回答票や労働保険料等納付証明書の提出が求められます。
なお、保険料や租税に未納があった場合でも、出入国管理庁の助言や指導に基づき納付した場合には、労働関係法令、社会保険関連法令、租税関係法令を順守しているものと評価されますので、社会保険事務所や労働局、税務署等において相談のうえ必要手続きを行うようにして下さい。
さらに、受入機関は特定技能外国人と締結し雇用契約を確実に履行していく必要があるため、直近2年分の決算書類などを提出して一定の財産基盤を有していることを証明する必要があります。
財政的基盤については、欠損金や債務超過の有無等から総合的に判断され、もし直近の決算において債務超過の状態になっている場合は、改善の見通しについて評価を行った書面(中小企業診断士や公認会計士などの公的資格を持つ第三者が作成したものでなければならない)の提出を求められます。
その他にも、外国人労働者と雇用契約を締結する日前の1年以内に外国人労働者(特定技能外国人)が従事する業務と同種の業務に従事していた労働者(定年、自己都合、有期労働契約の期間満了、自己の責めによる重大な理由により解雇された者等を除く)を離職させていないことも必要です。
つまり、人手不足解消のために特定技能外国人を受入れる企業が、その直前に会社都合で従業員を退職させることは認められず、人件費削減のために元からいた従業員を整理解雇して、特定技能外国人に入れ替えるようなやり方は認められないということです。
なお、『非自発的離職』には、普通解雇だけでなく希望退職の募集や退職勧奨なども含まれ、賃金の低下等、労働条件に係る重大な問題により労働者が離職した対象なども非自発的離職にあたります。
そして、受入機関の責めに帰すべき事由により外国人の行方不明者を発生させている場合は、受入体制が不十分とみなさることになりますが、ここでいう『責めに帰すべき事由』となる例として、運用要領にあらかじめ合意していた雇用条件通りに賃金を支払っていない場合や、支援計画を適正に実施していない場合などが挙げられます(受入機関が適正な受入れを行っていたにかかわらず発生した行方不明者については、これに該当しません)。
なお、対象となる『外国人』には、特定技能外国人はもちろん技能実習生も含まれますが、留学生や日本人の配偶者等・永住者等の中長期在留者は含まれません。
最後に特に注意が必要なのが、特定技能外国人への給与は月給制でかつ口座振り込みにて支給する必要があるというルールです。
これは、特定技能外国人の安定的な報酬を確保するため、仕事の繁閑により報酬が変動しないこと(天候や受注状況によって基本給が大きく変動しないこと)、すなわち『月給制』により、あらかじめ特定技能外国人との間で合意を得た額の報酬を毎月安定的に支払うことが必要であるという理由からです。
というのも、建設分野の過去の失踪理由の中に、月給制でないため安定的に給与が支払われず不安を感じたからというものがありました。
建設業の特徴として、季節や工事受注状況による仕事の繁閑により予め想定した報酬予定額が下回ることがあることがありますが、特定技能人材を受け入れる場合は、特定技能外国人の離職や失踪を避けるためにも月給制を採用しなければならないルールになっています。
なお、天候や受入企業の責めに因らない事由による休業の場合には、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払うことは認められています。
そして、日本人従業員が月給制でない場合でも、特定技能人材に関しては月給制でなければならないという点には注意が必要です。
また、建設業ですと、給与を現金で手渡しにしている企業方がまだ多いように見受けられますが、外国人労働者(特定技能外国人)を雇用した際には口座振り込みの手続きが必要となります。
支援体制を構築する上で満たすべき基準
最後に、外国人労働者を雇い入れるにあたって、受入機関として構築しなければならない支援体制に係る基準ついてです。
これらの基準は、支援体制が整っていること、支援の中立性が保たれていること、適切な支援計画が立てられていること等があります。
なお、受入機関が『登録支援機関』に支援の全部を委託する場合には、受入機関は支援義務を負わなくなります。
言い換えますと、受入機関が外国人労働者の支援計画の全部の実施を登録支援機関へ委託した場合は、外国人を支援する体制があるとみなされるため、この基準をクリアできます。
登録支援機関については別の記事でも解説しておりまので、もしよろしければ参考にしてみて下さい。
それでは、受入期間が支援体制を構築する上で満たすべき基準について解説していきます。
☑中長期在留者の雇用経験があること
☑外国人が十分に理解できる言語で支援を行うことができること
☑事前ガイダンスを実施することができること
☑支援の中立性が保たれていること
☑適切な支援計画が立てられていること(支援計画書の作成)
まず、中長期在留者の雇用経験にかんしてですが、下記3つのいずれかを満たす必要があります。
☑過去二年間に中長期在留者(就労資格に限る)の受入れ又は管理を適正に行った実績があり、かつ、役員又は職員の中から、支援責任者及び支援担当者を選任していること。
☑役員又は職員であって過去二年間に中長期在留者(就労資格に限る)の生活相談業務に従事した経験を有するものの中から、支援責任者及び支援担当者を選任していること。
☑上記と同程度に支援業務を適正に実施することができる者として認めたもので、役員又は職員の中から、支援責任者及び支援担当者を選任していること。
ここで注意が必要なのは、『中長期在留者』には、留学、研修、文化活動、研修、家族滞在、永住者(永住者の配偶者含む)定住者、日本人の配偶者等のビザ(在留資格)を持つ外国人は含まれないということです。
つまり、中長期在留者の雇用経験には、留学生のアルバイトや日本人の配偶者等のような身分系のビザ(在留資格)をもつ外国人の雇用経験は含まれません。
次に『支援責任者』および『支援担当者』について説明します。
支援責任者は受入機関の役員等から選任しますが、常勤であることは要件となっていないのですが、支援担当者を監督する立場であることが求められます。
これに対して、支援担当者は実際に支援を担当する者であることから、受入機関の常勤役職員であることが望まれます。
さらに、事業所ごとの選任が求められますので、例えば2つの異なる支店等で特定技能外国人を受入れるのであれば、2名の支援担当者が必要となります。
なお、支援責任者と支援担当者は、それぞれの基準を満たしていれば兼任することも可能です。
もしも受入機関自体には実績がなかったとしても、過去2年以内に中長期在留者の生活相談業務を経験した者を支援責任者および支援担当者とすることによって、受入実績の基準を満たすことができます。
ここでいう生活相談には、法律相談や労働相談も含まれますが、業務として従事した実績が求められることから、ボランティアとしての経験は含まれません。
そして、特定技能外国人を支援するうえ最も重要な概念として『支援の中立性』というものがあります。
この支援の中立性が保たれていると言えるためには、中立的な立場で外国人労働者の支援を実施できるかが重要な基準となります。
そのため、誰が支援責任者になるのかが重要なポイントとなります。
例えば、特定技能外国人と同じ現場で働く人や所属する部署の責任者は、支援の中立性という観点から支援責任者にはなることはできず、異なる部署の職員であるなど、特定技能外国人に対して指揮命令権を持たない人が該当します(人事部や総務部という、特定技能外国人が所属する部署とは異なる、別部署に所属している人が就任するイメージです)。
ただし、異なる部署であっても実質的に指揮命令をし得る立場にある人(組織図を作成した場合、縦のラインにあたる人)は、条件を満たしておらず支援責任者や支援担当者になることはできません(この条件に当てはめると、社長や取締役等は支援責任者になれないことになります)。
そして当然ながら、外国人が十分に理解できる言語での支援が必要になります。
というのも、特定技能外国人はある程度の日常会話(N4レベル)ができるとしても、法律用語や専門用語、または日本語独特の言い回しなどは理解できるはずもなく、母国語等で特定技能外国人が十分に理解できる言語にて支援を行う必要があります。
もちろん、受入機関(あるいは登録支援機関)の支援担当者が特定技能外国人の母国語をネイティブレベルで話さなければいけないということではなく、社外の通訳会社などに委託して同席してもらうといった形でも構いません。
なお、適切な支援計画に係る基準に関しては、別の記事にてわかりやすく解説しておりますので、よろしければ参考にしてみて下さい。
建設分野特有の基準(建設特定技能受入計画)について

特定技能の『建設分野』においては、外国人材の雇い入れるにあたり、建設技能者全体の処遇改善やブラック企業の排除といったこと考慮するべく、建設分野特有の基準が設られております。
☑建設業法の許可を受けていること
☑建設キャリアアップシステムの事業者登録および特定技能外国人を建設キャリアアップシステムに登録すること
☑協議会と呼ばれる外国人の受け入れに関する建設業者団体(JAC)またはJACの正会員となっている全国建設業協会や全国中小建設業協会などに加入すること
☑国内人材確保に努めていること(ハローワークに申請した求人申込書の提出)
☑日本人と同等以上の報酬を安定的に支払い、技能習熟(勤続年数)に応じて昇給を行う契約を締結していること(月給制・昇給制)
☑特定技能外国人の受入れ人数が常勤職員の数を超えないこと。
☑安全衛生教育の実施、技能に関する適切な教育機会を提供すること
☑特定技能外国人の受入後、FITSによる事前巡回指導もしくは受入後講習を受講させること
☑特定技能外国人の受入後、FITSによる巡回指導による確認を受けること
そもそもこの建設分野における特有の基準を設けた背景には、建設業における技能実習生の失踪者数の多さというものがあります。
実は、建設分野における技能実習生の失踪率は他の特定技能における分野と比較しても高く、失踪率が全分野で約2.1%に対し、建設分野においては約8%と4倍近い数字となっており、失踪した技能実習生が別の現場で不法に就労するなど業界としてもかなり問題視されていました。
そして失踪の主な原因と考えられているのが労働法令違反で、実に技能実習実施企業の約8割が違反していると言われており、その内容として賃金台帳の未整備、割増賃金に関して、賃金の未払いなどが挙げられています。
これらの状況を改善するべく作られた建設業独自の仕組みが『建設特定技能受入計画』で、建設分野においては特定技能における他の分野共通の基準に加えて、建設分野の特性を踏まえて国土交通大臣が定めたこの独自の基準も満たさなければなりません。

そして『建設分野』においての特定技能外国を受け入れるためには、受け入れ企業は外国人に対する報酬額や昇給内容等を記載した『建設特定技能受入計画』を作成し、その内容が適切である旨の国土交通大臣の認定を受ける必要があります。
詳しくは別の記事にて解説していますので、もしよろしければ参考にして頂ければと思います。
特例措置について

『技能実習』から『特定技能』への在留資格への変更を希望していたけれども、技能実習の在留期間の満了日までに、申請に必要な書類を揃えることができず、在留資格変更許可申請が適切に行うことができない場合は、一時的に『特定活動(4か月・就労可)』への在留資格変更許可申請を行うことができる特別措置があります。
その間に『特定技能』で就労を予定している受入れ機関で就労しながら移行のための準備を行うことができますが、申請人の在留期間の満了日までに特定技能1号への在留資格変更許可申請を行うことが困難である合理的な理由があること(技能実習2号良好修了者等として試験免除となる場合も含む)や申請人が特定技能外国人として業務に従事するために必要な技能試験及び日本語試験に合格していることなど要件を満たす必要があります。
まとめ
最後までご覧いただきありがとうございました。
建設分野における『技能実習』から『特定技能』する際の基準と満たすための要件について解説しました。
『技能実習』から『特定技能』への移行は、建設業における慢性的な人手不足の中、外国人材に長く日本に在住し就労してもらうため有益な仕組みで、『技能実習2号』を良好に修了し、特定技能において従事しようとする業務が『技能実習2号』における職種・作業と関連していれば移行が可能となり、その際には『建設分野特定技能評価試験』と『日本語能力試験』が免除されます。
ただし、技能実習から特定技能へ移行することで転籍・転職可能となり、同一の業務区分内においては自由に会社を選べるようになることにも留意する必要があります。
そのため、長く就労してもらえるよう、特定技能外国がモチベーションを維持するような取り組みや社内の体制作りを受け入れる段階から構築した方がよいでしょう。
さいごに
アソシエイツ稲福国際行政書士事務所では、建設業者様が特定技能外国人を雇用するために必要な申請業務をサポートしております。
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