こんにちは。行政書士の稲福です。
最近、地方で働く外国人材が、東京・大阪・愛知などの都市部へ流出しているという記事を目にする機会がさらに増えました。技能実習を終えた後、特定技能へ移行するタイミングで、より給与水準が高く、生活の利便性も高い都市部へ移る外国人材は少なくありません。
実際、技能実習から特定技能1号へ移行した外国人材のうち、約3人に1人が県境を越えて転出しているというデータも紹介されています。地方企業にとって、外国人材の都市部流出は、今後ますます大きな課題になっていくと思います。
ただ、この問題を考えるとき、私はいつも少し違和感を覚えます。それは、「外国人人材をどうつなぎ留めるか」という言葉です。
もちろん、地方企業の立場からすれば、時間と費用をかけて受け入れ、教育し、生活支援をしてきた人材が短期間で転職してしまうのは非常に痛い話です。
しかし、外国人人材は企業の所有物ではありません。制度で縛れば定着するというものでもありません。
大切なのは、外国人材を無理に引き止めることではなく、本人が、「この地域で働きたい」「この会社で頑張りたい」「ここで暮らしたい」と思える環境をつくることではないでしょうか。
今回は、地方企業における外国人材の定着について、特定技能、育成就労制度、地域コミュニティ、那覇市の助成金、韓国の地域特化型ビザの考え方も踏まえながら、実務的な視点で整理していきます。
✅ この記事でわかること
- 特定技能人材が地方から都市部へ移る主な理由
- 定着支援は「給料」だけでは語れないという視点
- 採用時にスキルだけでなく価値観を確認すべき理由
- 地方企業が今から見直すべき受入れ・定着支援の考え方
外国人人材の都市部流出は、なぜ起きるのか
外国人人材が地方から都市部へ移動する理由として、まず挙げられるのは賃金差です。
東京、大阪、愛知などの都市部は求人が多く、同じ職種であっても地方より給与水準が高いことがあります。特に特定技能の場合、技能実習と異なり、一定の条件を満たせば転職が可能です。そのため、技能実習を地方で終えた人材が、特定技能へ移行したタイミングで都市部の企業へ転職するという流れは、今後も起こり得ます。具体的には、都市部へ向かう理由として、賃金格差、同郷コミュニティの充実、産業・キャリアの多様性などが挙げられています。
これは、外国人人材に限った話ではありません。日本人の若者でも、「一度は東京で暮らしてみたい」「大阪や名古屋のような都市部で働きたい」と考える人は少なくありません。外国人人材であれば、なおさらです。せっかく日本に来るのであれば、東京や大阪で暮らしてみたい。同じ国の友人が多い地域で生活したい。休日に遊びに行ける場所が多いところがいい。将来の転職先が多い地域で働きたい。こう考えること自体は、決して不自然ではありません。
地方企業が外国人材に長く働いてほしいのであれば、単に「人手不足だから来てほしい」と伝えるだけでは不十分です。
その地域で働く理由。その会社で働く理由。その場所で暮らす理由。
これらを、企業側がきちんと用意していく必要があります。
外国人人材は「給料だけ」で動いているわけではない
一方で、外国人材がすべて給料だけで動いているわけでもありません。ここは、非常に重要なポイントです。
もちろん、給与は大切です。母国の家族へ仕送りをしている人も多く、収入は日本で働く大きな目的の一つです。しかし、実際に多くの外国人人材と接していると、給料だけでは説明できない選択をする人も少なくありません。
都市部は便利です。求人も多く、同じ国の人も集まりやすいです。一方で、家賃は高く、生活費もかかります。人間関係が薄くなり、孤独を感じる人もいます。
逆に地方では、家賃が安く、生活費を抑えやすく、職場の人や地域の人との距離が近い場合があります。困ったときに助けてくれる人がいる。社長や上司が家族のように気にかけてくれる。地域のイベントに参加できる。同じ会社の先輩が生活面をサポートしてくれる。こうした環境に安心感を覚える外国人材もいます。
つまり、外国人人材の定着を考えるうえで重要なのは、単に給与を上げることだけではありません。その人にとって、その地域で暮らすことが安心できるか。その会社で働くことに納得感があるか。職場や地域に居場所があるか。このような要素が、定着率に大きく影響します。
外国人人材は、給料だけで動いているわけではありません。「ここで暮らしたい」「この人たちと働きたい」「この会社なら安心できる」 そう思えるかどうかが、非常に大切です。
外国人人材を画一的に見てはいけない
外国人人材の採用に関わっていると、どうしても、「ベトナム人だから」「ミャンマー人だから」「インドネシア人だから」「ネパール人だから」という見方をされることがあります。
もちろん、国ごとの文化的な傾向はあります。しかし、それだけで一人ひとりを判断することはできません。同じ国の出身であっても、性格、価値観、家族構成、将来の希望、日本での生活に求めるものはまったく違いますし、実際に長く接していると、一人ひとりの性格も、表情も、考え方もまったく違います。
明るく人前に出るのが得意な人もいます。静かにコツコツ働くのが得意な人もいます。都会に憧れる人もいます。地方で落ち着いて暮らしたい人もいます。お金を最優先に考える人もいます。人間関係や安心感を重視する人もいます。
外国人人材の定着に必要なのは、制度や給与だけではありません。その国の文化を知ること。そして、その人自身を理解しようとする姿勢です。外国人人材を「労働力」としてだけ見るのではなく、一人の生活者、一人の若者、一人の人生として見ること。ここが、定着支援の出発点だと思います。
採用時に見るべきは、スキルだけでなく価値観である
外国人人材の採用では、日本語能力、技能試験の合格状況、職歴、年齢、性別などに目が行きがちです。もちろん、それらは大切です。
しかし、地方企業が長期的な定着を目指すのであれば、採用時に本人の価値観や人生観を確認することが非常に重要です。
たとえば、面接の段階で次のような質問をすることは有効です。
・日本でどのような生活をしたいですか
・東京や大阪のような都市部と、地方ではどちらで暮らしたいですか
・休日はどのように過ごしたいですか
・母国の家族への仕送りをどの程度考えていますか
・将来、日本に長く住みたいですか
・一定期間働いた後、帰国したいですか
・人が多い場所が好きですか
・落ち着いた環境が好きですか
・同じ国の人が多い地域を希望しますか
・日本人が多い環境でも問題ありませんか
ここを確認しないまま、単に「人手が足りないから」「試験に合格しているから」という理由だけで採用すると、入社後にミスマッチが起こりやすくなります。
たとえば、本人が最初から「絶対に東京の近くで働きたい」と考えているにもかかわらず、地方企業が採用すれば、入国後しばらくして都市部へ転職したいと考える可能性は高くなります。逆に、静かな環境で落ち着いて働きたい人に対して、都市部の忙しい職場を紹介しても、長く続かないかもしれません。
大切なのは、本人の希望を完全に叶えることではありません。採用前の段階で、本人の価値観と職場・地域の環境が大きくズレていないかを確認することです。採用とは、人数を集めることではありません。その人が、どこで幸せに暮らせるかを見極めることでもあります。
地方企業が抱える現実的な負担
地方企業が外国人材を受け入れる場合、単に雇用契約を結べばよいわけではありません。特定技能や技能実習では、入国前後にさまざまな準備が必要です。
住居の確保。生活備品の準備。空港送迎。役所での手続き。銀行口座の開設。携帯電話の契約。ゴミ出しルールの説明。交通手段の確認。病院や買い物先の案内。日本での生活ルールの説明。企業側には、目に見える費用だけでなく、目に見えない手間も多く発生します。
特定技能の場合、登録支援機関へ支援を委託するケースも多いですが、それでも受入企業としての責任がなくなるわけではありません。特に地方企業では、採用人数が少ない中で、外国人材一人ひとりに丁寧に対応しているケースも多くあります。
そのような中で、入国後1年も経たないうちに都市部へ転職されてしまうと、企業側としては「せっかく育てたのに」という気持ちになるのも当然です。お金も時間もかけてきた。日本語も教えた。生活面も支えた。職場にも慣れてきた。そのタイミングで転職されてしまえば、企業としてはやり切れない気持ちになると思います。
ただし、ここで大切なのは、本人を責めることではありません。制度上、転職が認められている以上、本人はより良い条件を求めて動くことができます。だからこそ、企業側は「転職されないように縛る」のではなく、「転職できる状況でも、ここで働きたいと思ってもらう」方向へ発想を変える必要があります。
育成就労制度により、転職を前提とした時代に入る
今後は、技能実習制度に代わり、育成就労制度が始まります。
育成就労制度では、これまでの技能実習制度よりも、本人の意向による転籍が認められやすくなる方向です。つまり、これからは外国人材が、より現実的に職場を選ぶ時代に入っていきます。
その中で、地方企業が「都市部への流出をどう阻止するか」だけを考えるのは、制度的にも、本人の職業選択の自由という観点からも、現実的ではありません。
むしろ重要なのは、外国人人材が転職を考えられる状況にあっても、「もう少しこの会社で働きたい」「この地域でもう少し頑張ってみたい」と思える環境を整えることです。つまり、これからの地方企業に求められるのは、外国人材を無理に引き止める発想ではなく、在籍期間を少しでも長くしていくための定着支援です。
在籍期間が延びれば、企業にとっても大きな意味があります。入国前後の準備や教育にかけたコストを回収しやすくなり、採用投資の費用対効果も高まります。また、仕事に慣れた外国人人材が現場の中核を担うようになれば、単なる人手不足の補充ではなく、戦力としての存在感も増していきます。
さらに重要なのは、先輩外国人材が次に入ってくる外国人材の支えになることです。定着支援がうまく機能している企業では、先輩外国人スタッフが、新しく入社する外国人材に対して、仕事の流れや生活面の不安をフォローする役割を自然に担うようになります。
これは、企業側の受入れ負担を軽くするだけでなく、外国人人材同士の安心感やコミュニティ形成にもつながります。結果として、職場全体の雰囲気も良くなり、「この会社で働いてよかった」という口コミが、本人の出身国や同じ国のコミュニティに広がっていく可能性もあります。
また、外国人材が2〜3年で去ってしまう存在ではなく、5年、10年と在籍してくれる人材になれば、担える役割も大きく変わります。現場リーダー、技能指導員、後輩の教育係、通訳サポート、母国語での生活相談役など、日本人スタッフだけでは補いにくい機能を担えるようになります。そうなれば、外国人材の受入れは単なる人手不足対策ではなく、組織の競争力そのものを高める取組になります。
これからの地方企業に必要なのは、外国人材の移動を前提にしたうえで、「それでも、この会社で働き続けたい」と思ってもらえる環境をどう設計するかだと思います。
沖縄のような地域では、従来型の採用では通用しにくい
地方の中でも、特に沖縄や北海道のような地域では、外国人材の採用に独自の難しさがあります。
沖縄は観光地としての魅力があります。温暖な気候、豊かな自然、独自の文化もあります。一方で、本州の大都市圏と比べると、外国人材にとっては「日本国内での移動のしやすさ」や「将来の転職可能性」という面で不安を感じることもあります。
最近では、海外人材の中にも、「北海道と沖縄以外で働きたい」と希望するケースが見られます。理由はさまざまです。気候が合わない。都市部まで遠い。母国コミュニティが少ない。転職先が限られる。給与水準に不安がある。生活環境がイメージしにくい。こうした理由から、地方の中でもさらに「選ばれにくい地域」が生まれているのが現実です。
だからこそ、沖縄のような地域では、従来型の採用では通用しにくくなっています。単に求人を出す。送り出し機関に紹介してもらう。面接して採用する。これだけでは、長期的な定着は難しくなります。
教育、生活支援、職場内コミュニティ、外国人リーダーの育成、母国語で相談できる体制、地域との交流。こうした採用後の設計が非常に重要になります。人材確保は、もはや採用の問題だけではありません。設計の問題です。
どのように受け入れるか。どのように育てるか。どのように孤立を防ぐか。どのように将来像を見せるか。どのように地域とつなぐか。ここまで含めて考えなければ、地方企業の外国人材採用はますます難しくなると思います。
那覇市の助成金に見る「地域ぐるみの定着支援」
この点で、那覇市の取組は非常に興味深いものです。那覇市は、令和8年度「なはし外国人材受入環境整備支援助成金」の公募を開始しています。
この助成金は、市内事業者や支援機関等が行う、外国人材と日本人従業員・地域住民との相互理解促進の取組に対して、費用の一部を助成する制度です。対象事業としては、社内スポーツ大会、地域清掃活動、異文化理解ワークショップ、沖縄伝統文化の体験会、世界の食文化フェスティバル、日本語教育講座、外国人材の母国語に関する語学講座などが挙げられています。
助成率は総事業費の3分の2以内で、上限額は、単独事業者の場合10万円、複数事業者が共同実施する場合20万円、地域住民等も参加する事業の場合30万円とされています。この助成金の重要な点は、単に「外国人を雇う企業にお金を出す」というものではないことです。目的は、外国人材と日本人との相互理解を促進し、外国人材の定着につなげることにあります。
つまり、外国人材の定着を企業だけの問題にせず、地域全体の課題として捉えている点に意味があります。外国人材が地方に定着するためには、職場だけでは足りません。住む場所。買い物。病院。学校。地域の人間関係。休日の過ごし方。相談できる人の存在。これらすべてが、本人の生活満足度に関わります。
那覇市のような取組は、今後、他の自治体にとっても参考になるはずです。外国人材を「会社の中だけ」で支えるのではなく、「地域の中で支える」という発想が、これからますます重要になると思います。
韓国の地域特化型ビザから見える制度設計のヒント
日本だけでなく、韓国でも地方の人口減少と人手不足は大きな課題になっています。
韓国では、地域特化型ビザ、いわゆるF-2-Rビザという制度が導入されています。この制度は、人口減少地域に一定期間住んで働くことを条件に、外国人材を地方へ誘導する仕組みです。
韓国の地域特化型ビザは、地方の人手不足を補うため、人口減少地域に5年以上住んで働くことを条件に外国人を呼び込む政策として設計されています。また、韓国の地域特化型ビザでは、韓国語能力や所得・学歴など一定の要件が設けられており、どのような職種にどれくらい受け入れるかについて、地方自治体の計画を反映させる点も特徴とされています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の資料でも、地域居住型のビザ取得には、ビザ発給から5年間、該当する人口減少地域に居住し、経済活動を行うことが条件とされ、配偶者や未成年の子どもの帯同も可能とされています。
この制度の発想で興味深いのは、「地方に住むこと」と「将来の安定した在留資格」を結びつけている点です。日本では、特定技能制度において転職の自由が一定程度認められています。もちろん、転職の自由は労働者保護の観点から重要です。
一方で、地方の人手不足を本気で解決するのであれば、地方で働くことに対する制度上のインセンティブも検討する余地があります。たとえば、一定期間、人口減少地域で適正に就労し、地域に定着した外国人材について、在留資格上のメリットや家族帯同、将来の長期在留につながる仕組みを設けるという考え方です。
もちろん、日本で韓国と同じ制度をそのまま導入すればよいという話ではありません。地域に丸投げすれば、教育、医療、住居、子どもの就学、地域住民との関係など、新たな課題も生じます。
しかし、少なくとも「地方で働くことにメリットがある制度設計」は、今後の日本でも重要な論点になると思います。地方で働くことが、単なる我慢ではなく、本人の将来にとって意味のある選択になる。
この視点がなければ、地方の人手不足はなかなか解決しないのではないでしょうか。
地方企業が今から見直すべきポイント
地方企業が外国人材に選ばれ、定着してもらうためには、いくつかの点を見直す必要があります。
まず大切なのは、採用時の見極めです。日本語能力や技能試験の合格状況だけでなく、その人が地方で暮らすことに合っているかを確認する必要があります。
たとえば、本人が都市部での生活を強く希望しているのか、落ち着いた地方での生活にも前向きなのか。休日の過ごし方、家族への仕送り、将来の希望、日本での生活に何を求めているのか。ここを確認しないまま採用すると、入社後に生活環境とのミスマッチが起こりやすくなります。
次に、雇用条件の見直しです。都市部と同じ給与水準にすることが難しくても、住居費、生活費、通勤環境、休日、残業時間などを含めた総合的な条件を整えることは可能です。たとえば、月給だけを見ると都市部より低くても、家賃負担が少なく、生活費も抑えられ、職場のサポートが手厚ければ、本人にとっては十分魅力的な環境になることがあります。
そして、定着支援を単なる「コスト」と考えないことも重要です。定着支援は、費用がかかる取組である一方で、人間関係への投資でもあります。外国人スタッフが1名離職した場合、採用費、教育費、住居準備、生活支援にかけた時間などを考えれば、企業側の損失は決して小さくありません。新たに採用し直すコスト、教育し直すコスト、現場が一時的に人手不足になる負担まで含めると、定着支援への投資は、むしろ合理的な経営判断ともいえます。
特に地方企業の場合、外国人材が安心して生活できる基盤を整えることが、定着の出発点になります。住居の確保、銀行口座の開設、携帯電話の契約、役所での手続き、地域のゴミ出しルール、公共交通機関の使い方、買い物先や病院の案内など、日本人にとっては当たり前のことでも、来日直後の外国人材にとっては大きな不安になります。
地方では、公共交通機関が少なかったり、生活情報へのアクセスが限られていたりするため、外国人材が自力で生活インフラを整えることが難しいケースもあります。そのため、企業が生活面のサポート役を担うことは、単なる親切ではなく、地方で働いてもらうための実質的な受入条件ともいえます。制度や給与だけではなく、「人として向き合う」姿勢が信頼関係の土台になります。
外国人人材は、生活の立ち上げの段階で会社に助けてもらった経験をよく覚えています。困ったときに相談できる人がいる。自分の生活を気にかけてくれる人がいる。そうした安心感が、「もう少しここで頑張ってみよう」という気持ちにつながります。
また、日本語学習の支援も非常に重要です。日本語が上達すれば、職場でのストレスが減ります。仕事の幅も広がります。日本人社員との関係も良くなります。本人の将来のキャリアにもつながります。日本語教育は、単に試験に合格するためのものではありません。業務に必要な日本語を学ぶことで、指示の理解不足やコミュニケーションエラーが減り、外国人材が自信を持って仕事に取り組めるようになります。
また、日本語で会話できる範囲が広がれば、職場での人間関係も深まります。孤立感が和らぎ、「自分はこの職場に必要とされている」という実感も持ちやすくなります。日本語学習の進捗を社内で確認し、必要に応じて学習時間や教材、外部講座の利用を支援することは、企業から外国人材への大切なメッセージになります。「あなたに長く働いてほしい」「あなたの成長に投資している」この姿勢が伝わること自体が、定着支援になるのです。
さらに、職場内の人間関係づくりも欠かせません。外国人材が孤立しないように、相談できる先輩社員を決める。定期的な面談を行う。母国語で相談できる体制を用意する。社内イベントや地域交流の機会を作る。こうした小さな取組の積み重ねが、定着につながります。
特に重要なのは、外国人人材だけを集めるのではなく、日本人社員との自然な交流を意図的に作ることです。ランチ交流、懇親会、社内行事、チームでの清掃活動、地域イベントへの参加など、仕事以外の場で関係性が生まれると、職場内での相談もしやすくなります。
孤立は、離職の大きな予兆です。仕事そのものに大きな不満がなくても、職場に居場所がない、相談できる人がいない、何となく距離を感じるという状態が続くと、本人の中で転職の選択肢が現実的になっていきます。
また、外国人人材に対する無意識の偏見や、何気ない差別的な言動にも注意が必要です。本人に悪気がなくても、「外国人だから」「日本語が下手だから」「どうせ分からないだろう」という態度は、外国人材の長期就労意欲を大きく下げます。外国人材の定着は、担当者だけの問題ではありません。日本人スタッフ全体が、外国人材を一緒に働く仲間として受け入れる意識を持つことが重要です。
そして、メンタル面のフォローも必要です。地方で生活する外国人材は、家族や友人と離れ、言葉も文化も違う環境で働いています。仕事の不安だけでなく、生活上の悩み、将来への不安、母国の家族の問題などを抱えていることもあります。そのストレスが積み重なると、ある日突然、退職や転職の話が出てくることがあります。
そのため、定期的な面談に加えて、「困ったときにいつでも相談できる窓口」を用意しておくことが大切です。面談では、仕事の評価だけでなく、生活面で困っていることはないか、体調はどうか、人間関係で悩んでいないか、母国の家族との関係で心配事はないかなど、幅広く確認する必要があります。早い段階で小さな不安を拾うことができれば、突然の離職を防げる可能性は高くなります。
そして、最後に必要なのが、キャリアの見える化です。この会社で頑張れば、どのように成長できるのか。給与はどのように上がるのか。将来、リーダーになれるのか。後輩の教育係になれるのか。特定技能2号や長期就労の可能性はあるのか。このような将来像が見えない職場では、本人はより条件の良い職場へ移りやすくなります。
外国人人材は、評価の透明性を非常に重視します。日本人同士であれば、「真面目に頑張っていれば、いつか評価される」という暗黙の理解が通じることもあります。しかし、文化背景が異なる外国人材には、そのような曖昧な評価基準は伝わりにくいものです。
何をどれだけできるようになれば昇給するのか。どのような役割を担えばリーダーになれるのか。
どのレベルの日本語力が必要なのか。どの技能を身につければ次のステップに進めるのか。こうした基準をできるだけ言語化し、本人と共有することが大切です。定期的な1on1面談を通じて、本人の希望、不満、生活上の困りごと、将来の目標を確認しながら、「この会社で頑張る理由」を一緒につくっていく必要があります。
外国人材にとっても、人生があります。企業側が「長く働いてほしい」と思うのであれば、本人にも「長く働く理由」を示す必要があります。給与だけで引き止めるのではなく、生活の安心、職場での居場所、日本語力の成長、正当な評価、将来のキャリア。これらを総合的に整えることが、これからの地方企業に求められる定着支援だと思います。
地方は外国人人材にとって“通過点”で終わるのか
外国人人材の定着を考えるとき、どうしても「どうすれば辞めないか」「どうすれば都市部へ行かないか」という発想になりがちです。
もちろん、地方企業にとって、人材の流出は大きな痛手です。採用にも、教育にも、生活支援にも、時間と費用がかかっています。せっかく仕事を覚え、職場に慣れてきた人材が都市部へ移ってしまえば、企業としてはやり切れない気持ちになるのは当然です。
しかし、外国人人材にも一人ひとりの人生があります。日本での生活を続ける中で、より高い給与を求めることもあります。家族の事情で別の地域へ移ることもあります。将来のキャリアを考え、都市部で新しい挑戦をしたいと思うこともあります。だからこそ、地方企業が考えるべきなのは、外国人人材を無理に引き止めることだけではありません。
仮に、最終的にその人が都市部へ移ったとしても、「この会社で働けてよかった」「この地域で暮らした時間は、自分にとって意味があった」と思ってもらえるかどうかです。
これは、きれいごとではありません。次の採用にも直結する、非常に現実的な話です。
外国人人材の世界では、職場の評判は想像以上に早く広がります。同じ国の友人、家族、学校、送り出し機関、SNS、メッセージアプリなどを通じて、実際に働いた人の声が共有されます。
「あの会社はちゃんと面倒を見てくれる」
「あの地域は生活しやすかった」
「日本語を勉強する機会を作ってくれた」
「困ったときに相談できる人がいた」
「あの会社で働いて、自分は成長できた」
こうした声は、次に日本で働こうとする人にとって、大きな安心材料になります。
反対に、労働環境が悪かった、相談しても放置された、生活面で孤立した、約束と実態が違ったという経験も、同じように広がります。
今は、良い評判も悪い評判も、国境を越えてすぐに共有される時代です。一人の悪い体験が、同じ国・同じ地域の候補者から敬遠される原因になることもあります。つまり、外国人材への向き合い方は、今いる一人だけの問題ではありません。その人の後ろには、友人、家族、同じ国のコミュニティ、これから日本で働こうとする未来の候補者がいます。
だからこそ、地方企業は、外国人材に対して「ここで働いた時間が、自分の人生にとってプラスだった」と思ってもらえる関わり方を意識する必要があります。たとえば、日本語学習の支援。資格取得や技能向上の機会。後輩を教える経験。リーダー的な役割。地域の人との交流。困ったときに相談できる体制。こうした経験は、本人の成長につながります。
そして、本人が成長を実感できれば、たとえ将来的に別の地域へ移ったとしても、「この会社にいたから次のステップに進めた」と思ってもらえる可能性があります。そのような関係を築けた企業は、結果として次の採用にも強くなります。
既存スタッフからの紹介、元スタッフからの紹介、母国コミュニティでの口コミは、求人広告だけでは得られない信頼を生みます。特に外国人材の採用では、実際に働いた人からの紹介や評判が、採用後の安心感や定着にもつながりやすいと感じます。地方が外国人材にとって単なる“通過点”で終わるのか。それとも、「自分を成長させてくれた場所」として記憶に残るのか。その違いは、企業の定着支援の質に表れます。
定着支援とは、今いる外国人人材を引き止めるためだけのものではありません。本人の成長を支え、良い関係を築き、その経験を未来の採用につなげていくための長期的な投資です。外国人人材が動く時代だからこそ、地方企業に求められるのは、移動を恐れることではなく、「この会社で働いたことが、人生のプラスになった」と思ってもらえる職場をつくることだと思います。
まとめ:採用とは、人数を集めることではない
外国人人材の都市部流出は、地方企業にとって非常に大きな課題です。しかし、外国人人材を単に「地方に残すべき労働力」として見るだけでは、本質を見誤ります。
外国人人材にも、一人ひとりの人生があります。東京で暮らしたい人もいます。大阪で働きたい人もいます。地方で落ち着いて暮らしたい人もいます。自然が多い地域を好む人もいます。人間関係の近い職場に安心感を覚える人もいます。できるだけ多く稼ぎたい人もいます。将来、日本に長く住みたい人もいます。数年間働いて母国に帰りたい人もいます。
大切なのは、その人がどのような価値観を持ち、どの地域で、どのような働き方をすれば幸せに暮らせるのかを、採用時から丁寧に見極めることです。
外国人人材の定着に必要なのは、制度や給与だけではありません。文化を知ること。相手を理解しようとすること。職場と地域に居場所をつくること。そして、その人の将来を一緒に考えることです。
採用とは、人数を集めることではありません。その人が、どこで幸せに暮らせるかを見極めることでもあります。地方企業がこれから外国人人材に選ばれるためには、「人材を確保する」だけでなく、「人が暮らし続けられる環境を設計する」という視点が、ますます重要になると感じています。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直
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