こんにちは。行政書士の稲福です。
茨城県が導入を進めている「不法就労通報報奨金制度」が、大きな議論を呼んでいます。私自身、最初にこの制度の話を聞いたときは、正直なところ、「外国人個人を地域で監視するような制度なのか」という印象を持ちました。もしそうであれば、外国人労働者や外国籍住民に対する過度な疑念や分断を生むおそれがあり、非常に慎重に考えるべき制度だと思います。
しかし、茨城県の説明を確認すると、制度の焦点は少し違います。県は、この制度について、労働者個人を対象とするものではなく、不法就労を生み出している「事業者」に焦点を当てたものだと説明しています。つまり、外国人個人を通報する仕組みというより、違法に外国人を雇用している事業者を把握し、適正な雇用秩序を確保するための制度として設計されているということです。
この点は、非常に重要です。外国人雇用の問題は、働く側だけの問題ではありません。むしろ、受け入れる企業側が、在留資格、就労可能な業務、雇用契約、労働条件、支援体制を正しく理解しているかどうかに大きく左右されます。
今回は、茨城県の不法就労通報報奨金制度を題材に、企業が今後どのような姿勢で外国人雇用に向き合うべきかを整理していきます。
✅ この記事でわかること
- 茨城県の不法就労通報報奨金制度が議論されている背景
- 制度の対象を外国人本人ではなく事業者として見る視点
- 不法就労を防ぐために企業が確認すべきポイント
- 外国人雇用で求められる適正雇用とコンプライアンス意識
茨城県の不法就労通報報奨金制度とは
茨城県は、不法就労に関する対策として、通報報奨金制度の導入を進めています。
報道や県の説明によれば、この制度は、不法就労している外国人本人というより、不法就労をさせている事業者に関する情報提供を受け、一定の確認を経たうえで、必要に応じて警察等につなげる仕組みです。
茨城県知事は、2026年2月の記者会見で、通報があった場合でも県が不法就労かどうかを確認し、事実として確認できた場合にのみ警察へ通報し、報奨金の対象にするという考えを説明しています。根拠のない通報によって、まじめに働く外国人労働者まで不安にさせる仕組みにはしないという趣旨も述べています。
また、2026年4月の記者会見では、制度の狙いについて、違法に不法就労者を雇っている事業者への抑止であると説明しています。県は、外国人個人ではなく、「雇う人がいるから不法就労がなくならない」という問題意識を示しています。
つまり、この制度は、単に外国人を取り締まるというより、外国人を違法に雇用する受け皿をなくすための制度として位置づけられています。
誤解されやすいポイントは「誰を対象にした制度なのか」
この制度で最も誤解されやすいのは、「誰を対象にした制度なのか」という点です。制度名だけを見ると、どうしても「外国人を通報する制度」という印象を受ける人もいると思います。
実際、この制度に対しては、外国人住民への差別や監視につながるのではないかという懸念も出ています。関東弁護士会連合会は、2026年度からの制度導入について、外国人の不法就労に関する通報報奨金制度は差別や偏見を助長するおそれがあるとして、反対する声明を公表しています。
また、市民団体などからも、制度の運用を誤れば「不審な外国人を見かけたら通報する」という空気が広がり、正規に働く外国人まで監視されていると感じるおそれがある、という懸念が示されています。こうした懸念は、決して軽視すべきではありません。
一方で、茨城県は、制度の対象について、労働者個人ではなく、不法就労を生み出している事業者に焦点を当てたものだと説明しています。県の見解資料でも、不法就労を前提に雇用する行為は明確な法令違反であり、事業者の責任を明確化することは制度設計として当然である、という考え方が示されています。この点を正確に理解する必要があります。
問題にすべきなのは、外国人であることそのものではありません。在留資格で認められていない活動をさせている事業者、就労資格を確認せずに雇用している事業者、不適正な労働条件で外国人を働かせている事業者です。
制度の運用においても、この線引きが非常に重要になります。
不法就労は、外国人本人だけの問題ではない
不法就労という言葉を聞くと、どうしても外国人本人に目が向きがちです。もちろん、在留資格で認められた範囲を超えて働くことは、本人にとっても重大な問題です。
しかし、実務上、不法就労の問題は、本人だけで完結するものではありません。
外国人を雇用する企業側が、在留カードを確認していない。就労可能な在留資格かどうかを理解していない。在留資格で認められていない業務に従事させている。資格外活動許可の時間制限を把握していない。技能実習や特定技能の制度趣旨を理解しないまま働かせている。「本人が働けると言っていたから大丈夫」と確認を怠っている。このようなケースは、決して珍しくありません。
中には、制度を理解していないまま雇用してしまう無自覚なケースもあります。一方で、意図的に制度の抜け道を利用し、安い労働力として外国人を使っている悪質なケースもあります。
いずれにしても、不法就労を防ぐためには、外国人本人だけでなく、受け入れる企業側の責任を正面から問う必要があります。茨城県が制度の対象を「事業者」に置いているという点は、この意味で大きなポイントだと思います。
企業側のコンプライアンス意識が問われる
外国人人材の受入れが広がる中で、企業側に求められるコンプライアンスの水準は確実に上がっています。
以前であれば、「在留カードを見せてもらったから大丈夫」「外国人本人が働けると言っていたから大丈夫」「同業他社もやっているから問題ない」という感覚で済ませていた企業もあったかもしれません。しかし、これからはそのような感覚では非常に危険です。
外国人を雇用する企業は、少なくとも次の点を確認する必要があります。
・在留カードが真正なものか
・在留資格と在留期限に問題がないか
・就労制限の有無を確認しているか
・資格外活動許可の有無と時間制限を確認しているか
・従事させる業務が在留資格の範囲内か
・雇用契約書と実際の労働条件が一致しているか
・社会保険、労働保険、税務処理に問題がないか
・派遣や請負の形態に問題がないか
・特定技能の場合、支援計画や届出が適正に行われているか
不法就労の問題は、単に「不法滞在者を雇ってはいけない」というレベルにとどまりません。在留資格は適法でも、従事させる業務が在留資格に合っていなければ問題になる可能性があります。
たとえば、技人国で採用した外国人に、実態として単純作業や現場作業ばかりをさせる場合。留学生に週28時間を超えて働かせる場合。特定技能で認められていない業務に従事させる場合。資格外活動許可を確認せずにアルバイト雇用する場合。これらは、企業側の管理不足が直接問題になります。
制度には合理性がある一方、運用には慎重さが必要
茨城県の制度には、一定の合理性があると感じます。特に、不法就労をさせている事業者に焦点を当てるという点は、外国人本人だけを問題視するよりも、実態に合った考え方です。
不法就労の背景には、働く場所があること、雇う事業者がいること、そして適正な確認をしないまま外国人を受け入れる現場があります。その意味では、事業者側の不適正雇用を抑止する仕組みを設けること自体は、適正雇用を広げるうえで意味があります。
一方で、このような制度は、運用を誤ると大きな副作用を生みます。外国人を見かけただけで疑う。日本語が苦手だから不法就労ではないかと決めつける。肌の色や国籍、外見だけで通報対象だと考える。根拠のない噂や感情的な通報が増える。正規に働く外国人材が不安を感じる。
このような空気が広がれば、制度の目的とは逆に、地域社会の分断につながります。
だからこそ、制度の運用においては、曖昧な通報や外見に基づく通報を排除し、あくまで「違法な雇用実態」に焦点を当てる必要があります。通報対象を個人ではなく事業者に置くのであれば、その趣旨を社会に分かりやすく伝えることが重要です。
外国人人材への過度な疑念を生まないために
外国人人材は、今後の日本社会にとって欠かせない存在です。茨城県知事も、人口減少や人手不足が深刻化する中で、意欲と能力のある外国人を積極的に受け入れることが不可欠であり、外国人人材は県にとって大切な存在であると述べています。
この前提を忘れてはいけません。不法就労をなくすことと、外国人人材を排除することはまったく違います。むしろ、不法就労を放置すると、適正に働く外国人材や、ルールを守って受け入れている企業が不利益を受けます。
安い賃金で違法に働かせる事業者が残れば、適正な賃金や支援体制を整えている企業が競争上不利になります。また、不法就労の温床が残れば、外国人本人も劣悪な労働環境に置かれやすくなります。その意味で、不法就労の是正は、適正に働く外国人材を守ることにもつながります。
ただし、そのためには制度のメッセージが非常に重要です。「外国人が問題なのではない」「違法に雇用する事業者が問題である」「適正に働く外国人人材は地域にとって大切な存在である」「ルールを守る企業を守るための制度である」
この整理を明確に示す必要があります。
企業が今すぐ確認すべきポイント
今回の制度を、茨城県だけの話として見てはいけません。外国人雇用に対する社会的な目線は、今後さらに厳しくなる可能性があります。そのため、企業は自社の外国人雇用について、今すぐ点検しておくべきです。
まず、在留カードの確認です。在留資格、在留期限、就労制限の有無、資格外活動許可の有無を確認し、記録として残しておく必要があります。
次に、業務内容の確認です。本人の在留資格で、現在の業務に従事できるのか。技人国で単純作業が中心になっていないか。特定技能で認められた分野・業務に合っているか。留学生アルバイトが週28時間を超えていないか。家族滞在の資格外活動許可の範囲を超えていないか。この点を確認する必要があります。
また、雇用契約書と実態の一致も重要です。
契約書上の労働時間、賃金、業務内容、勤務地と、実際の働き方がズレていないか。残業代は適正に支払われているか。控除に不適切なものはないか。社会保険や労働保険に適切に加入しているか。
さらに、特定技能の場合は、支援計画や届出の管理も必要です。支援計画が実際に実施されているか。定期面談の記録があるか。住居、生活オリエンテーション、日本語学習、相談対応が形だけになっていないか。登録支援機関に委託している場合でも、企業側が実態を把握しているか。
これらを確認することが、企業を守ることにつながります。
ルールを守る企業が評価される環境づくりへ
今回の茨城県の制度で本当に重要なのは、摘発そのものではないと思います。もちろん、違法な雇用を是正することは必要です。しかし、それ以上に大切なのは、「ルールを守る企業が正当に評価される環境をつくること」です。
外国人人材を適正に雇用する企業は、決して少ない負担で受け入れているわけではありません。在留資格の確認、雇用条件の整備、住居支援、生活オリエンテーション、日本語学習支援、相談体制、定期面談、届出管理。これらを丁寧に行っている企業ほど、時間も費用もかけています。
一方で、違法・不適正な雇用をする事業者が放置されれば、ルールを守る企業が不利になります。安く、早く、雑に外国人を雇用する事業者が競争上有利になるような環境は、健全ではありません。だからこそ、適正雇用を進める企業がきちんと評価され、不適正な雇用が是正される仕組みは必要です。
茨城県の制度が、単なる通報や摘発の仕組みで終わるのではなく、企業の適正雇用を促す抑止力として機能するかどうか。ここが今後の大きなポイントになると思います。
まとめ:外国人雇用は「採用力」だけでなく「適正雇用力」が問われる
茨城県の「不法就労通報報奨金制度」は、非常に議論の多い制度です。外国人人材への差別や監視につながるのではないかという懸念は、慎重に受け止める必要があります。
一方で、県の説明を見る限り、この制度の焦点は、外国人個人ではなく、不法就労をさせている事業者に置かれています。この点は、外国人雇用の実務において非常に重要です。
不法就労の問題は、本人だけの問題ではありません。受け入れる企業が、在留資格を正しく確認し、認められた範囲内で働かせ、適正な労働条件を守ることが不可欠です。
これからの外国人雇用では、「採用できるか」だけではなく、「適正に雇用し続けられるか」が問われます。
外国人人材の受入れが不可欠な時代だからこそ、ルールを守る企業が正当に評価される環境づくりが必要です。そして、行政、企業、支援機関、専門家がそれぞれの立場で、外国人材を排除するのではなく、適正に受け入れる社会をつくっていくことが大切だと思います。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直
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