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ミャンマー人材の「タイ経由ルート」は適正なのか—特定技能人材採用で企業が慎重に考えるべき理由

特定技能
ミャンマー人材の「タイ経由ルート」で重要なこと
結論

ミャンマー人材の特定技能採用では、 タイ経由ルートを通常の採用手段として安易に選ぶべきではありません。 正規ルートで進められるのであれば、時間がかかったとしても原則として正規ルートを優先し、 どうしても第三国経由が必要な場合に限って、 費用・適法性・本人負担・責任分担まで確認したうえで 例外的に検討することが重要です。

根拠

タイ経由では、ミャンマーからタイへの移動費、滞在費、生活費、 手続サポート費用など、直接日本へ渡航する場合には生じない追加負担が発生する可能性があります。 また、第三国での在留状態や安全管理、制度変更による長期待機、 手続が止まった場合の費用負担や責任の所在も複雑になります。 本人が多額の費用を負担すれば、来日後の不満や転職リスクにつながる可能性もあるため、 「早く来日できるか」だけでなく、本人保護と受入企業のコンプライアンスまで含めて判断する必要があります。

こんにちは。行政書士の稲福です。

ミャンマー人材の特定技能採用について、最近よく耳にするのが、いわゆる「タイ経由ルート」です。ミャンマー国内の政情不安、出国手続の遅延、海外労働身分証明カード、いわゆるOWICの取得の難しさなどを背景に、ミャンマー国内から直接日本へ呼び寄せるのではなく、一度タイへ出国し、そこから日本入国を目指すという流れが一部で検討されています。

たしかに、ミャンマー国内の状況を考えれば、通常の送出し手続がスムーズに進まないケースがあることは理解できます。実際、ミャンマー人材の送出しについては、政情不安や行政手続の遅延、出国関連手続の長期化が指摘されており、面接・内定後に出国まで長期間かかるケースも報告されています。特に男性については、現地の出国規制や徴兵をめぐる情勢の影響により、出国そのものができません。

そのため、受入企業や送出し機関が、少しでも早く日本へ送り出すための方法を模索する事情自体は理解できます。ミャンマー人材の受入れは、通常の国と同じ感覚で進められるものではなく、現地情勢を踏まえた慎重な判断が必要です。

しかし、受入企業の立場で考えた場合、タイ経由ルートを安易に選ぶことには慎重であるべきだと思います。理由は明確で、本人に多大な費用負担が生じる可能性があること、その費用の内訳や負担者が不透明になりやすいこと、そして、万が一トラブルが発生した場合に責任の所在が曖昧になりやすいことです。

しかも、そのコストは単なる金銭的負担だけではありません。渡航費、滞在費、手続費用、待機期間、スケジュール遅延、本人の心理的負担、トラブル発生時の責任関係の不明確さなど、企業側・本人側の双方にとって見えにくい負担が増える可能性があります。

今回は、ミャンマー人材の特定技能採用におけるタイ経由ルートについて、なぜ慎重に考えるべきなのか、企業がどのような点を確認すべきかを整理していきます。

✅ この記事でわかること
  • ミャンマー人材の「タイ経由ルート」とは何か
  • タイ経由ルートが検討される背景
  • 第三国経由で発生しやすい費用負担と手続上のリスク
  • 本人負担の増加がトラブルにつながり得る理由
  • 受入企業が確認すべき費用・責任関係・適法性のポイント
  • 正規ルートを優先すべき理由と例外対応時の注意点
ミャンマー人材「特定活動」から特定技能・技人国へ

日本に在留するミャンマー人材について、 「特定活動」から特定技能や技術・人文知識・国際業務(技人国)への 在留資格変更の可能性を企業向けに解説しています。 採用を検討する企業向けの「移行可能性相談」サービスについてもご案内しています。

▶ ミャンマー人材の在留資格移行相談サービスを見る
アソシエイツ国際人材サポート合同会社

ミャンマー人材は、特定技能分野において非常に人気の高い人材層の一つです。真面目で勤勉、協調性があり、日本の職場になじみやすいと評価されることも多く、介護、外食、農業など、さまざまな分野で採用が進んでいました。

特定技能 × ミャンマー
ミャンマー国籍の特定技能外国人数の推移

特定技能制度が始まった2019年以降、 ミャンマー国籍の特定技能外国人は急速に増加しています。

2019年末 100
2025年末 44,523
約445倍 制度開始初年度から大幅に増加
時点 ミャンマー国籍の
特定技能外国人数
前年差
2019年12月末 100人
2020年12月末 674人 +574人
2021年12月末 2,294人 +1,620人
2022年12月末 5,956人 +3,662人
2023年12月末 11,873人 +5,917人
2024年12月末 27,348人 +15,475人
2025年12月末 44,523人 +17,175人
POINT

2019年末には100人だったミャンマー国籍の特定技能外国人は、 2022年末に5,956人、2023年末に11,873人、 2024年末には27,348人へ増加しました。 さらに2025年末には44,523人となり、 制度開始初年度と比較すると約445倍の規模となっています。

出典: 出入国在留管理庁 「特定技能在留外国人数の公表等」 「在留外国人統計」
出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数の公表等」
※各年12月末時点。 ※「特定技能」は特定技能1号・2号の合計。

一方、ミャンマー国内では、2021年の軍事クーデター以降、政治・経済の不安定な状況が続いています。さらに2024年には徴兵制が実施され、若者の間では国外へ活路を求める動きが強まりました。実際に、徴兵や国内情勢への不安からタイなど周辺国へ移動する若者も増えており、海外就労への関心は一段と高まっています。

JETRO|外国に向かうミャンマー人若年層

JETROは、ミャンマーの若年層が 海外での就学・就労を目指す動きを強めている背景 について、経済・教育・雇用・徴兵制度など複数の観点から分析しています。

経済停滞・教育機会の減少・徴兵が海外志向を後押し 2020年以降の経済停滞や2021年の政変に加え、 大学教育や雇用機会の縮小が続いています。

さらに、2024年に徴兵制が実施されたことも、 若年層が海外での就学・就労を検討する大きな要因 の一つとして指摘されています。
日本語学習への関心も非常に高い JETROが紹介するデータでは、 2023年7月・12月の日本語能力試験(JLPT)について、 ミャンマー人の応募者数は20万2,737人 とされ、中国に次ぐ規模となっています。

日本はミャンマー人材の主要な海外就労先の一つとして、 今後も重要な位置を占める可能性があります。
採用だけでなく「定着」が重要 レポートでは、外国人材の定着に向けて、 採用時のミスマッチ防止、人材育成、安心して働けるコミュニティーの構築 が重要であるとの指摘も紹介されています。
▶ JETRO「外国に向かうミャンマー人若年層」を読む
出典:日本貿易振興機構(JETRO)|2025年5月21日

ただし、ミャンマーから新たに人材を呼び寄せる場合、近年は手続面の不確実性が大きくなっています。ミャンマー国籍の方が特定技能として海外で就労する場合、ミャンマー側で海外労働身分証明カード、いわゆるOWICの取得が必要とされています。

ミャンマー人材|特定技能で受け入れるまでの手続の流れ

駐日ミャンマー連邦共和国大使館が作成した、 ミャンマー国籍の方を特定技能外国人として受け入れるまでの 手続の流れを示した資料です。 ミャンマーから新たに受け入れる場合の送出し手続や、 日本側での在留資格手続などを確認できます。

▶ 「ミャンマー国籍の方々を特定技能外国人として受け入れるまでの手続の流れ」を読む(PDF)
出典:出入国在留管理庁/駐日ミャンマー連邦共和国大使館

また、ミャンマー政府認定の送出し機関を通じた手続が必要とされるケースもあり、求人票の承認、候補者の手続、COE取得後の査証申請、OWICの発行など、複数のステップを踏む必要があります。こうした手続が通常どおり進めばよいのですが、現在のミャンマー情勢では、行政手続の遅延、出国制限、書類取得の難航などにより、予定どおりに進まないことがあります。

そのため、企業側からすると、「いつ入国できるのか分からない」「内定を出しても出国まで長く待つ必要がある」「採用計画が立てづらい」という問題が生じます。

いわゆるタイ経由ルートとは、ミャンマー人材がミャンマーから直接日本へ渡航するのではなく、一度タイへ移動し、タイ滞在中に日本入国の手続を進める、またはタイから日本へ渡航する流れを指すことが多いです。

具体的な手続の組み方は、関与する送出し機関、本人の状況、ミャンマー・タイ双方の在留状況、日本側の査証申請の扱いによって異なります。そのため、一口に「タイ経由」と言っても、すべて同じスキームではありません。

ただ、共通しているのは、ミャンマー国内の手続や出国の難しさを回避・緩和するために、第三国であるタイを経由するという点です。現実に、タイ経由でミャンマー人の特定技能人材が来日した事例を紹介する事業者もあります。

このような事例を見ると、企業側としては「タイ経由なら早く来日できるのではないか」と期待するかもしれません。しかし、私はこのルートを通常の採用手段として安易に選ぶことには慎重な立場です。

日本出稼ぎに規制、「裏ルート」使う例も|ミャンマー軍政が人材流出を規制

日本への就労を希望するミャンマー人が急増する一方、 ミャンマー軍政は人材流出を抑えるため、 海外就労に必要なOWIC(海外労働者身分証明カード)の発給や 若年男性の海外就労を制限 しています。

日本で働くミャンマー人は前年比61%増 厚生労働省のデータとして、 日本で働くミャンマー人は 2024年に11万4,618人 となり、前年から61%増加したと報じられています。

2020年の3万1,410人と比較すると、 日本で働くミャンマー人材は急速に増加しています。
OWIC発給制限などで、内定・COE取得後も出国できないケース ミャンマーでは、海外就労のため出国する際に OWICの提示が必要とされています。

しかし軍政による発給制限などにより、 日本企業から内定を受け、在留資格認定証明書(COE)を取得していても、 ミャンマーから出国できないケース が生じていると報じられています。
タイなどを経由する「裏ルート」には大きなリスク 正規の出国が難しくなったことで、 国境を越えてタイへ移動し、 そこから日本を目指すケースも報じられています。

ただし、 渡航方法の適法性や、日本側企業が受入れ可能と判断するかという問題 があり、多額の費用を支払っても 日本で就労できる保証はありません。
▶ 共同通信の記事を読む
出典:共同通信(NEWSjp)|2025年11月15日

タイ経由ルートが検討される背景には、主に次のような事情があります。

まず、ミャンマー国内の出国手続の不安定さです。COEが交付されても、ミャンマー側の手続が進まなければ、本人は日本へ渡航できません。

次に、OWICの発行や送出し関連手続の遅れです。特定技能で海外就労するミャンマー国籍者については、ミャンマー側でOWICの取得が必要とされており、この手続が進まないと出国に支障が出る可能性があります。

さらに、本人側の事情もあります。ミャンマー国内で長期間待機することが難しい。早く日本で働きたい。家庭の事情や経済的事情がある。内定先企業からの入社時期が迫っている。こうした事情が重なると、タイ経由という選択肢が浮上します。

確かに、個別事情によっては、タイ経由が現実的な選択肢になる場合もあるかもしれません。しかし、それはあくまで例外的な対応として考えるべきです。

私がタイ経由ルートに慎重な最大の理由は、やはり余計なコストがかかることです。

通常のミャンマーから日本への直接ルートであれば、本来必要となる費用は、日本語学校の授業料、現地の日本語学校等に支払う職業斡旋の手数料、査証申請費用、必要書類の取得費用、そして企業負担がない場合の日本への航空券代などです。

なお、職業斡旋に関する手数料については、ミャンマーの法令上、上限が1,500米ドルとされております。しかし、タイ経由にすると、そこに追加でさまざまな費用が発生する可能性があります。たとえば、ミャンマーからタイへの移動費、タイでの滞在費、タイ国内での交通費、タイでの生活費、第三国滞在中の手続サポート費用、追加の書類取得費用、滞在が延びた場合の延長費用、万が一手続が止まった場合の追加負担などです。

さらに、これは非常に慎重に取り扱うべき情報ですが、2026年1月にヤンゴンを訪問した際、現地の出入国管理実務に関わる関係者と面談し、タイ経由でミャンマー国外へ出国する際の実情について、直接情報提供を受ける機会がありました。

その中で聞いた話では、タイ経由ルートを利用する場合、ミャンマーからタイへ出国するために、ミャンマー側の入管職員への支払いが発生するケースや、空港のイミグレーション職員への支払い、さらにはタイ側のイミグレーション職員への支払いが発生するケースもあるとのことでした。

その職員の話によると、現地の公務員や関係職員の給与は決して十分とはいえず、それだけでは生活が成り立たないため、こうした非公式な支払いが貴重な収入源になっている面もあるとのことでした。つまり、タイ経由ルートの場合、通常の渡航費用や滞在費だけでなく、手続の過程でいわゆる賄賂に近い非公式な支払いが発生している可能性があるということです。

もちろん、すべてのケースで必ずそのような費用が発生するという意味ではありません。しかし、現地関係者の話では、そうした非公式な支払いも含めると、渡航関連費用の総額が40万円程度になることもあるとのことでした。

私は、特定技能制度での外国人人材の受け入れにおいては、外国人本人に過大な費用負担をさせることは避けるべきだと考えております。なぜなら、本人が来日前に多額の費用を負担している場合、その借金返済のために日本で無理な働き方を希望したり、転職リスクが高まったりすることもあるからです。

また、非公式な支払いが含まれる可能性があるルートについては、単に「費用が高い」という問題にとどまりません。送出しの適正性、費用負担の透明性、本人保護、受入企業のコンプライアンスの観点からも、慎重に判断する必要があります。

仮に、タイ経由ルートを使わざるを得ない事情があるとしても、少なくとも、事前に総額費用、費用の内訳、負担者、返金条件、手続が止まった場合の対応、本人負担の有無を明確にしておくべきです。「とりあえずタイに出れば何とかなる」という進め方は、非常に危険です。

特定技能の受入れにおいて大切なのは、早く日本に来てもらうことだけではありません。本人に過大な負担を負わせず、透明性のある費用構造で、適法かつ安定した形で受け入れることです。その意味で、私はミャンマー人材のタイ経由ルートについては、現時点ではかなり慎重に考えるべきだと思っています。

タイ経由ルートの問題は、金銭的なコストだけではありません。時間的コストもあります。

タイに移動した後、日本の査証手続が想定どおり進まなかった場合、本人は第三国で待機することになります。その間、生活費がかかります。精神的な不安も大きくなります。入社時期も読めなくなります。企業側の採用計画もずれます。

また、手続が長引けば、本人のモチベーション低下や、他社への流出リスクもあります。企業側も、「いつ来日できるのか」「どこまで費用負担するのか」「万が一来日できなかった場合、誰が責任を負うのか」を明確にしなければなりません。

さらに、第三国滞在中の安全管理も問題になります。タイでの滞在先は安全か。本人の在留状態は適法か。生活費は足りるのか。病気や事故が起きた場合、誰が対応するのか。連絡体制は整っているのか。

ここまで考えると、タイ経由ルートは単なる「近道」ではありません。むしろ、管理すべきリスクが増えるルートと見るべきです。

外国人人材の採用で最も避けるべきなのは、本人が過大な費用負担を抱えて来日することです。本人が来日前に多額の借金をしていると、来日後の働き方に大きな影響が出ます。

早く返済したい。できるだけ残業したい。もっと給料の高い会社へ移りたい。手取りが思ったより少ないと不満を持つ。転職を検討する。場合によっては失踪や不適切な就労につながる。このようなリスクがあります。

タイ経由ルートによって追加費用が発生し、それを本人が負担するのであれば、受入企業はその費用の内容を必ず確認すべきです。本人がいくら支払っているのか。誰に支払っているのか。何の名目なのか。違約金や拘束的な契約はないか。ここを確認しないまま採用すると、後から「聞いていなかった」という問題になりかねません。

特定技能は、単に人材を確保する制度ではありません。適正な受入れ、適正な費用負担、本人保護が非常に重要です。タイ経由ルートを使うことで、本人の負担が増えるのであれば、その時点でかなり慎重に考えるべきです。

タイ経由ルートのもう一つの問題は、責任関係が分かりにくくなることです。通常のルートであれば、ミャンマー側の送出し機関、日本側の受入企業、登録支援機関など、役割分担を整理しやすいです。

しかし、タイ経由になると、そこに第三国での滞在支援や手続サポートが加わります。誰がタイでの滞在を手配するのか。誰が本人の在留状態を確認するのか。誰が査証申請をサポートするのか。誰が費用を管理するのか。手続が失敗した場合、誰が責任を負うのか。本人がタイでトラブルに巻き込まれた場合、誰が対応するのか。


ここが不明確なまま進むと、企業側も本人側も不安定な立場になります。特に、複数のブローカーや非公式な仲介者が関与するようなルートは避けるべきです。「早く入国できます」「このルートなら大丈夫です」「他社もやっています」このような説明だけで判断するのは危険です。受入企業は、スピードだけでなく、適法性、費用の透明性、責任分担、本人保護を確認する必要があります。

今回の外食分野における特定技能の受入れ停止は、ミャンマー人材のタイ経由ルートを考えるうえでも、非常に重要な問題だと思います。特に大きな影響を受けたのは、すでに外食業分野の特定技能評価試験に合格し、日本で働くことを前提に準備を進めていたミャンマー人材です。

中には、正規ルートでの出国が難しい事情から、ミャンマーを出国してタイに滞在しながら、日本への渡航を待っていた方もいると考えられます。そのような方々にとって、外食分野の受入れ停止は、単なる制度変更ではありません。日本で働くために試験に合格し、時間をかけて準備を進め、場合によってはミャンマーからタイへの移動費、タイでの滞在費、生活費、手続サポート費用などを負担していたにもかかわらず、日本への入国の見通しが大きく変わってしまうことになります。

これは、本人にとって非常に大きなダメージです。もちろん、受入れ上限や制度運用の変更は、本人や企業だけでコントロールできるものではありません。しかし、第三国ルートを利用する場合、このような制度変更や受入れ停止が起きたときに、リスクがより大きく表面化します。すでに母国を離れ、第三国に滞在している状態で手続が止まれば、本人には滞在費や生活費の負担が残ります。企業側にとっても、採用計画の見直し、候補者への説明、費用負担の整理など、難しい対応を迫られます。

ここで問題になるのは、誰がそのリスクを負担するのかという点です。本人なのか。送出し機関なのか。受入企業なのか。登録支援機関なのか。紹介会社なのか。この責任の所在が曖昧なまま第三国ルートを進めてしまうと、制度変更や審査遅延が起きた際に、深刻なトラブルにつながる可能性があります。

今回の外食分野の受入れ停止は、第三国ルートのリスクを非常に分かりやすく示した事例だと思います。「タイに出れば何とかなる」「第三国で待機していれば早く日本に行ける」「直接ルートより早いから有利」このように考えるのは簡単です。しかし、実際には、在留資格の審査、受入れ上限、制度変更、現地情勢、本人の滞在状態、費用負担など、複数のリスクが重なります。

特に外食分野のように、受入れ上限や制度運用の影響を受けやすい分野では、候補者を第三国に滞在させたまま待機させること自体に、相当なリスクがあると考えるべきです。この点からも、私はミャンマー人材のタイ経由ルートについては、単に「早く出国できるかどうか」だけで判断すべきではないと考えています。

重要なのは、本人に過大な負担を負わせず、費用と責任の所在を明確にし、制度変更が起きた場合にも説明できる状態で進めることです。

タイ経由ルートについては、本人の費用負担や生活上のリスクだけでなく、受入企業側のコンプライアンスリスクも無視できません。特定技能制度では、外国人本人の保護、費用負担の透明性、適正な受入れが非常に重要です。本人が来日前に過大な費用を負担していたり、誰に、何の名目で、いくら支払ったのかが不透明であったりする場合、後日、受入れの適正性を問われる可能性があります。

たとえば、本人がタイへの移動費、滞在費、生活費、手続サポート費用、通訳・同行費用、追加の書類取得費用などを負担していた場合、その費用が適正なものなのか、本人が十分に理解して同意していたのか、返金条件や手続中止時の取扱いが明確になっているのかを確認する必要があります。

また、非公式な仲介者やブローカーのような存在が関与している場合には、さらに慎重な確認が必要です。特に、第三国を経由する過程で、正規の手数料とは別に、いわゆる賄賂や非公式な支払いが発生している可能性がある場合には、受入企業としても極めて慎重に判断すべきです。受入企業が直接その支払いに関与していなかったとしても、採用過程において本人に過大な負担が生じていた場合や、その費用の中に不透明な支払いが含まれていた場合、「知らなかった」だけで済むとは限りません。

もちろん、すべてのタイ経由ルートでそのような支払いが発生していると断定するものではありません。しかし、誰に、何の名目で、いくら支払われたのかが確認できないまま進めることは、本人保護の観点からも、受入企業のコンプライアンスの観点からも大きなリスクです。

特定技能の受入れでは、採用までの過程も含めて、適正な外国人雇用として説明できる状態にしておく必要があります。費用の内訳が不透明なまま、本人だけに負担を負わせるような形になっていないかは、必ず確認すべきです。

特に、本人が多額の借金を抱えた状態で来日した場合、入国後の就労にも影響が出る可能性があります。早く借金を返すために過度な残業を希望したり、より高い給与を求めて転職を考えたり、手取り額に不満を持ったりすることがあります。これは、本人保護の問題であると同時に、受入企業にとっても定着リスク・労務管理リスクになります。

さらに、将来の在留期間更新や監査、調査、行政からの確認の場面で、本人が来日前にどのような費用を負担していたのか、その費用の内訳や負担者が適正だったのかを説明できない場合、企業側としても不安が残ります。特定技能の受入れでは、「人材を採用できればよい」という考え方では足りません。採用に至るまでの過程も含めて、適正な外国人雇用として説明できる状態にしておく必要があります。

その意味で、タイ経由ルートを利用する場合には、受入企業としても、本人が負担した費用、支払先、費用の名目、本人の同意、返金条件、手続が止まった場合の責任範囲を確認しておくべきです。費用構造や関係者の役割が不透明なまま進めることは、本人にとっても、受入企業にとっても大きなリスクになります。

少し本筋から話は逸れてしまいますが、ミャンマー人材を受け入れる場合には、「特定活動」による在留にも注意が必要です。

ミャンマー本国の情勢を踏まえ、日本では一定の条件を満たすミャンマー人について、緊急避難措置として「特定活動」による在留が認められる場合があります。もっとも、この「特定活動」は特定技能1号とは別の在留資格であり、当然に特定技能へ移行できるものではありません。

また、技能実習からミャンマー特定活動へ変更するケースについては、2024年10月1日以降、取扱いが見直されており、技能実習を修了していない場合には、変更が認められる範囲が限定されています。

📌 出入国在留管理庁のQ&Aもご確認ください
技能実習を修了していないミャンマー人が、緊急避難措置に基づく 「特定活動」へ変更する場合の取扱いについては、 出入国在留管理庁の公式Q&A 「Q10」 もあわせてご参照ください。
▶ 出入国在留管理庁 Q&A「Q10」を確認する
出典:出入国在留管理庁 「本国情勢を踏まえた在留ミャンマー人への緊急避難措置に関するQ&A」

そのため、企業がミャンマー人材を採用する際には、現在の在留資格、指定書の内容、就労可否、在留期限、技能実習の修了有無、特定技能評価試験の合格状況などを個別に確認する必要があります。

「ミャンマー人だから特定活動で働ける」「特定活動から簡単に特定技能へ移行できる」といった理解で進めると、更新時や変更申請時にトラブルとなるおそれがあります。受入れ前の段階で、在留資格と今後の申請方針を整理しておくことが重要です。

私の考えとしては、ミャンマー人材の特定技能採用については、正規ルートで進められるのであれば、正規ルートを優先すべきだと考えています。もちろん、現在のミャンマー情勢を考えると、正規ルートでも相当な時間がかかるとは承知のうえです。

特に、ミャンマー人男性については、現地の情勢や出国管理の影響により、正規の手続を経ても出国ができない状況にあります。女性に関しても、軍事政権の判断によって、海外就労に関する手続が一律に進まなかったり、恣意的に人材の出国が制限されるような場面もあると聞いています。

また、日本側としても、現在のミャンマー政権を正式に承認しているわけではなく、政府間の手続や制度運用が非常に難しい状況にあることも理解しています。つまり、ミャンマー人材の受入れについては、通常の国と同じように、すべてがスムーズに進むわけではありません。そのため、企業側や送出し機関側が「少しでも早く日本に入国させたい」と考える気持ちは理解できます。

しかし、それでも私は、タイ経由ルートについては慎重であるべきだと考えています。

時間がかかるからといって、追加費用が大きく、責任の所在も不明確になりやすい第三国ルートを安易に選ぶことは、長期的には大きなリスクがあります。企業にとって重要なのは、単に早く入国させることではありません。大切なのは、入国後に安定して働いてもらうことです。本人に不満や過大な負担を残さないことです。費用や手続について透明性を確保することです。将来の更新や転職リスクを下げることです。そして、適正な外国人雇用として、後から説明できる状態にしておくことです。

この観点から見ると、タイ経由ルートは、相当慎重に検討すべきです。第三国ルートでは、本人の在留状態、手続の適法性、費用負担の透明性、万が一手続が止まった場合の責任の所在など、確認すべき点が多くなります。また、タイへの移動費、滞在費、生活費、交通費、手続サポート費用、追加書類の取得費用など、ほぼ全ての費用を本人が負担している点は看過できません。

ミャンマーの現状を踏まえると、正規ルートが簡単ではないことは十分理解しています。特に男性については、出国そのものが難しい事情があることも理解しています。しかし、だからといって、費用構造が不透明で、本人負担が大きくなりやすく、責任の所在も曖昧になりやすいルートを選ぶことには、私は反対の立場です。外食分野の受入れ停止により、すでに試験に合格し、タイで待機していた人材が大きな不利益を受けていることも重く受け止める必要があります。

どうしてもタイ経由ルートを利用せざるを得ない場合でも、それはあくまで例外的な対応として考えるべきです。その場合には、少なくとも、総額費用、費用の内訳、負担者、本人の同意、第三国での在留状態、手続が止まった場合の対応、返金条件、受入企業側の責任範囲をすべて確認したうえで進める必要があります。

特定技能人材の受入れにおいて大切なのは、早く人材を入国させることだけではありません。本人に過大な負担を負わせず、費用と手続の透明性を確保し、入国後も安定して働ける状態を整えることです。その意味で、私はミャンマー人材のタイ経由ルートについては、現時点では安易に採用すべきではなく、原則として正規ルートを優先すべきだと考えています。

ミャンマー人材|COE発行後、約1か月で出国できるケースも

ミャンマー人材の出国にはOWICや労働当局の手続が必要となりますが、 すべての案件が長期化するわけではありません。 送出し機関の現地対応や本人側の準備が整っているケースでは、 COE発行後、OWICなどの必要な手続きを経て、 おおむね1か月程度で出国・来日できる事例もあります。

▶ ミャンマー人材のOWIC・出国実務を詳しく見る
アソシエイツ稲福国際行政書士事務所

ミャンマー人材の特定技能採用において、タイ経由ルートが注目される背景は理解できます。ミャンマー国内の情勢、出国手続の不安定さ、OWIC取得の難しさ、出国までの長期化などにより、企業側も本人側も早く確実に来日できる方法を探したくなるからです。

しかし、タイ経由ルートは、決して便利な近道ではありません。

追加の渡航費、滞在費、手続費用、生活費、サポート費用が発生します。本人負担が増えれば、来日後の不満や転職リスクにもつながります。第三国滞在中の在留管理、安全管理、トラブル対応も必要になります。責任関係が不明確になれば、企業側も本人側もリスクを抱えます。

だからこそ、私は、ミャンマー人材の特定技能採用において、タイ経由ルートを通常の採用手段として安易に選ぶことには反対です。正規ルートで進められるのであれば、時間がかかったとしても、原則として正規ルートを優先すべきです。どうしてもタイ経由を検討する場合でも、それは例外的な対応として、費用、適法性、本人同意、責任分担、トラブル時の対応を明確にしたうえで進めるべきです。

外国人人材採用で大切なのは、早く入国させることだけではありません。本人が過大な負担を負わず、企業も適正に説明できる形で受け入れ、入国後に安心して働き続けられる環境を整えることです。タイ経由ルートを検討する際には、「本当にそのルートが本人と企業のためになるのか」を、慎重に考える必要があると思います。

出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直

MYANMAR × SPECIFIED SKILLED WORKER

ミャンマー人材の特定技能受入れでは、在留資格申請だけでなく、OWIC、現地当局の運用、査証・出国手続、送出し機関の対応力まで一体的に確認する必要があります。

OUR SUPPORT

人材紹介から特定技能の申請、登録支援、送出し機関との調整まで、本人の状況や出国可能性を確認しながら一貫してサポートします。

ミャンマー案件は、すべてが同じ条件や期間で進むわけではありません。最新の運用と個別事情を確認し、企業が無理のない採用計画を立てることが重要です。

この記事の監修者
アソシエイツ稲福国際行政書士事務所 行政書士
稲福 正直

アソシエイツ稲福国際行政書士事務所 代表
東京都行政書士会 会員番号第15128号
登録支援機関 登録番号26登録ー013601
専門は、専門:外国人雇用・在留資格申請、特定技能、技術・人文知識・国際業務、高度専門職、経営・管理、登録支援機関・受入企業の実務支援等

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