こんにちは。行政書士の稲福です。
最近、「デジタルノマド」という言葉を耳にする機会が増えてきました。デジタルノマドとは、ITやインターネットを活用し、場所に縛られずに世界中を移動しながら働く人たちのことです。
かつては、一部のフリーランスやITエンジニアの特殊な働き方という印象もありました。しかし、リモートワークの普及、オンラインサービスの発展、AIの進化、働き方の多様化により、今では世界的な人材移動の一つの形として注目されています。
福岡市のデジタルノマド誘致の取組みも話題になっています。2025年に実施された「Colive Fukuoka 2025」では、57の国と地域から496名が福岡を訪れ、平均23日間滞在し、約1.4億円の地域経済効果を創出したとされています。
単なる観光ではなく、一定期間地域に滞在し、働き、地元の人や企業、スタートアップコミュニティとつながる。このような新しい人の流れは、日本にとっても非常に興味深いテーマだと感じます。
✅ この記事でわかること
- デジタルノマドと特定技能・技人国の違い
- 日本版デジタルノマドビザの主な条件と注意点
- 短期滞在ではなくノマドビザを検討すべきケース
- 地域・自治体がデジタルノマドに選ばれるための受入れ環境
デジタルノマドは、特定技能や技人国とはまったく違う人材層
私自身、日頃は特定技能や技術・人文知識・国際業務、いわゆる技人国の在留資格に関わることが多くあります。特定技能は、人手不足分野において一定の技能を有する外国人材を受け入れる制度です。技人国は、学歴や職歴と関連する専門的・技術的な業務に従事する外国人材を受け入れる在留資格です。いずれも、基本的には日本の企業に雇用され、日本国内の事業に従事することが前提になります。
一方で、デジタルノマドはこれとはまったく異なります。日本企業に雇用されることを前提としているわけではありません。海外の企業、海外の顧客、自分自身の事業を持ち、日本に滞在しながら、インターネットを通じて仕事をする人たちです。つまり、日本の労働市場に直接入ってくるというよりも、日本に滞在しながら、海外向けの仕事を継続する人材層です。
この点が、特定技能や技人国とは大きく異なります。企業に雇用されるのではなく、自ら仕事を持ち、場所を選ばず価値を生み出す。まさに、これからの時代を象徴する存在だと思います。正直、少し羨ましい働き方でもあります。
日本でもデジタルノマド向けの在留資格が始まっている
日本でも、デジタルノマド向けの制度が整備されました。外務省の案内では、デジタルノマド本人について、在留期間は6か月、延長は不可とされています。また、日本で6か月を超えない期間リモートワークを行う者、その配偶者または子が対象とされています。
必要書類としては、在留期間中の活動予定を説明する資料、年収1,000万円以上を証明する資料、死亡・傷病等をカバーする保険加入を証明する資料などが挙げられています。医療費補償については、傷病に係る治療費用が1,000万円以上であることも示されています。
つまり、日本版のデジタルノマド制度は、誰でも気軽に使える制度というよりも、一定以上の収入があり、海外に仕事の基盤を持ち、民間保険にも加入している比較的ハイスキル・高所得の外国人を想定した制度といえます。
この点は、観光目的の短期滞在とはかなり性格が異なります。
3か月の短期滞在で足りるのではないか、という疑問
ここで当然、疑問が出てきます。「日本には、90日以内の短期滞在で来られる国も多い。それなら、わざわざデジタルノマドビザを取る必要があるのか。
これは、非常に自然な疑問です。実際、観光や短期の滞在であれば、短期滞在で十分なケースもあります。日本に数週間滞在し、観光をしながら、海外の仕事を少し続ける程度であれば、デジタルノマドビザまで必要ないと考える人もいるでしょう。
ただ、デジタルノマドビザの本質は、単なる「日本に長く滞在できる制度」ではないと思います。重要なのは、日本に滞在しながら国際的なリモートワークを行うことを、制度上正面から位置付けた点です。
短期滞在は、基本的には観光、商用、親族訪問などを目的とする在留資格です。一方で、デジタルノマド向けの特定活動は、日本に一定期間滞在しながら、海外の企業や顧客に対してリモートワークを行うことを前提としています。
つまり、滞在の性格が違います。
短期滞在は「観光・商用のついでに滞在する」イメージに近いのに対し、デジタルノマドビザは「日本に一定期間生活拠点を置きながら働く」ことを想定しています。この違いは、制度上も、地域の受入れ側の設計上も大きいと思います。
わざわざデジタルノマドビザを取る理由
では、なぜ短期滞在ではなく、デジタルノマドビザを取る意味があるのでしょうか。
一つは、滞在期間です。短期滞在では、通常は90日以内の滞在になります。これに対し、デジタルノマド向けの在留資格では、6か月の滞在が可能です。外務省も、在留期間は6か月であり、延長は認められないと案内しています。
3か月と6か月では、地域との関わり方が大きく変わります。数週間の観光であれば、観光地を巡り、ホテルに泊まり、飲食を楽しんで帰るという形になりやすいです。
しかし、数か月単位で滞在する場合は、コワーキングスペースを利用し、地元の人と交流し、地域イベントに参加し、場合によっては地元企業やスタートアップと接点を持つこともあります。
福岡市の取組みでも、参加者は単に滞在するだけではなく、RAMEN TECHとの連携やピッチイベント、地域イベント、コワーキング、ワークショップなどを通じて、地域とのつながりを深める設計がされています。
これは、単なる観光客では生まれにくい関係性です。
地元企業との交流に意味がある
デジタルノマド誘致で重要なのは、消費額だけではないと思います。もちろん、宿泊、飲食、交通、観光、コワーキング利用などによる地域経済効果は分かりやすいメリットです。しかし、それ以上に重要なのは、地域に新しい知識、感覚、ネットワークが入ってくることです。
たとえば、福岡市の「Colive Fukuoka」は、単なる滞在プログラムではなく、起業家、クリエイター、リモートワーカーが地域とつながるコミュニティとして設計されています。公式サイトでも、創業者、クリエイター、リモートプロフェッショナル向けの通年型コミュニティとして位置付けられています。
具体的な交流としては、スタートアップイベント、ピッチイベント、コワーキングスペースでの交流会、地域企業とのミートアップ、海外展開に関心のある中小企業との意見交換会、観光・飲食・宿泊事業者とのワークショップなどが考えられます。
福岡では、スタートアップやテクノロジー関連イベントである「RAMEN TECH」とも連動し、起業家や投資家、リモートワーカーが福岡に滞在しながら、地域のビジネスコミュニティと接点を持つ設計がされています。2025年のプログラムでも、カンファレンス、RAMEN TECH、地域のアート・文化・自然体験などを組み合わせ、街全体を舞台に学びと出会いを提供する内容が紹介されています。
ここで重要になるのが、地元商工会議所や商工会、自治体、観光協会、スタートアップ支援機関、コワーキング施設などとの連携です。たとえば、商工会議所が関わることで、地元の中小企業とデジタルノマドをつなぐ場を作ることができます。
具体的には、次のような交流が考えられます。
海外向け販路開拓に関心のある企業と、海外マーケティングに強いノマド人材との意見交換。インバウンド対応に悩む飲食店・宿泊施設と、外国人目線で日本のサービスを体験しているノマドとのフィードバック会。
地域産品の海外向けブランディングについて、海外のデザイナー、マーケター、EC運営者と議論するワークショップ。地元企業の若手経営者や後継者と、海外の起業家・フリーランスが交流するビジネスミートアップ。
観光事業者とデジタルノマドが、長期滞在者向けの地域体験プログラムを一緒に考える企画会議。
こうした交流は、単なる名刺交換ではなく、地域企業にとって「海外の視点を得る機会」になります。日本の地域企業は、海外展開、デジタル化、ブランディング、観光、スタートアップ連携などに課題を抱えていることがあります。そこに、海外の起業家、デザイナー、エンジニア、マーケター、投資家、クリエイターが一定期間滞在する。その人たちと地元企業が交流することで、新しい事業アイデアや国際的な視点が生まれる可能性があります。
一方で、このような交流を実効性のあるものにするためには、通訳やファシリテーターの存在も重要です。英語で自由に議論できる企業ばかりではありません。特に地域の中小企業の場合、商品やサービスには魅力があっても、英語で自社の強みを説明することが難しいケースがあります。
そのため、交流イベントを行う場合には、単に外国人と日本企業を同じ場所に集めるだけでは不十分です。英語・日本語の通訳、ビジネス内容を整理できるファシリテーター、事前に企業側の課題をヒアリングしておくコーディネーターが必要になります。
たとえば、商工会議所や自治体が地元企業を集め、事前に「海外販路」「インバウンド対応」「商品改善」「SNS発信」「採用・人材交流」などのテーマを設定する。そのうえで、デジタルノマド側には、自分の専門分野や関心領域を登録してもらう。
そして、当日は通訳を入れながら、テーマ別の小規模な意見交換会やワークショップを行う。このような形にすれば、単なる国際交流イベントではなく、地元企業にとっても具体的な学びのある場になります。短期滞在の観光客では、ここまでの接点はなかなか生まれません。その意味で、デジタルノマドビザには、単に「滞在期間を延ばす」以上の意味があると思います。
デジタルノマドを地域に呼び込むのであれば、ホテルやコワーキングスペースを用意するだけでは足りません。地元企業、商工会議所、自治体、通訳・ファシリテーター、スタートアップ支援機関が連携し、地域とノマド人材が自然につながる仕組みを作ることが重要です。
国内外のノマド同士の交流も価値になる
もう一つ重要なのは、デジタルノマド同士の交流です。デジタルノマドは、一人で移動しながら働いているように見えて、実際にはコミュニティを非常に重視する人たちでもあります。
どの都市に行くかを決める際にも、コワーキング環境、イベント、滞在者コミュニティ、生活のしやすさ、インターネット環境、治安、食事、交通アクセスなどが判断材料になります。
福岡市のColive Fukuokaでも、単に場所を提供するだけではなく、コリビング、コワーキング、イベント、地域訪問、スタートアップとの接点を組み合わせたプログラムが設計されています。これは、デジタルノマドを「一時的な旅行者」ではなく、「地域と関わる滞在者」として迎える発想です。
日本が今後、デジタルノマドに選ばれる国になるためには、ビザ制度だけでなく、こうしたコミュニティ設計が重要になると思います。
住まいの問題は大きな課題
一方で、デジタルノマドを受け入れるうえで、課題もあります。その一つが住まいです。6か月滞在できるといっても、日本で賃貸物件を借りることは簡単ではありません。
在留カードがない場合、住民登録、銀行口座、携帯電話契約、賃貸借契約などで不便が生じる可能性があります。デジタルノマド本人や家族は、在留期間6か月であっても中長期在留者には該当せず、在留カードが交付されない点に注意が必要だと指摘されています。そうなると、実際の滞在先は、ホテル、サービスアパートメント、マンスリーマンション、民泊、コリビング施設などが中心になる可能性があります。
しかし、これらは通常の賃貸よりも費用が高くなることがあります。また、地方ではそもそもデジタルノマド向けの中期滞在施設が十分に整っていない地域もあるでしょう。つまり、制度として6か月滞在できるとしても、実際に快適に滞在できる住環境があるかどうかは別問題です。
デジタルノマド誘致を本気で進めるなら、ビザ制度だけでなく、住まい、コワーキング、地域コミュニティ、医療、交通、英語対応などを含めた受入れ環境が必要です。
また、デジタルノマドの誘致を地域の成果につなげるためには、民間事業者だけで完結させるのではなく、行政による支援や地域施策との連携も重要になります。たとえば、自治体が地域のコワーキングスペース、宿泊施設、商工会議所、観光協会、スタートアップ支援機関、地域金融機関などと連携し、デジタルノマドが滞在しやすい環境を整えることが考えられます。
単に「来てください」と発信するだけではなく、滞在中にどこで働けるのか、どこに住めるのか、どのような地域イベントに参加できるのか、地元企業とどのように交流できるのかを、分かりやすく示す必要があります。
特に地方都市では、デジタルノマドを一時的な観光客として見るのではなく、地域に新しい視点やネットワークをもたらす存在として受け入れることが重要です。そのためには、行政が窓口となり、民間事業者や地域コミュニティとの接点をつくることも有効だと思います。
また、デジタルノマド本人にとっても、滞在先の情報、医療機関、交通、生活ルール、災害時の対応、英語対応可能な相談先などが整理されていれば、日本での滞在に対する安心感が高まります。
デジタルノマド誘致は、在留資格(ビザ)制度だけで完結するものではありません。行政、地域企業、宿泊事業者、コワーキング施設、専門家が連携し、滞在前から滞在中、そして地域との交流までを一体的に設計することが必要です。
その意味で、今後は自治体ごとの取組みの差が、デジタルノマドに「選ばれる地域」になるかどうかを左右していくのではないかと思います。
日本国内で仕事を受けてよいわけではない
デジタルノマドビザについて、もう一つ注意すべき点があります。それは、日本国内で自由に働ける制度ではないということです。デジタルノマド向けの在留資格は、あくまで海外の企業や顧客との契約に基づいて、国際的なリモートワークを行うことを想定しています。
日本に滞在しているからといって、日本企業に雇用されたり、日本国内の顧客に対して継続的にサービス提供したりすることまで自由に認める制度ではありません。この点を誤解すると、在留資格上の問題が生じる可能性があります。
たとえば、海外企業の社員として日本からリモート勤務する場合や、海外のクライアント向けにオンライン業務を行う場合は、制度の趣旨に合いやすいと考えられます。
一方で、日本国内の企業から業務委託を受け、日本国内市場向けに継続的な業務を行う場合は、慎重に確認する必要があります。つまり、デジタルノマドは「日本で自由に働けるビザ」ではありません。日本にいながら、海外にある仕事を続けるための制度だと理解する必要があります。
短期滞在ではなくノマドビザを取るべきケース
短期滞在で足りるケースもあれば、デジタルノマドビザを検討した方がよいケースもあります。
たとえば、3か月を超えて日本に滞在したい場合。地域のプログラムに参加し、コワーキングやコミュニティ活動を通じて、一定期間日本で生活したい場合。家族と一緒に滞在したい場合。海外企業との契約に基づくリモートワークを、日本滞在中も明確に継続したい場合。日本での滞在目的を、観光ではなく、国際的なリモートワークを伴う滞在として整理したい場合。このようなケースでは、短期滞在よりもデジタルノマド向けの在留資格を検討する意味があります。
一方で、数週間の観光や短期の商用目的であれば、わざわざデジタルノマドビザを取得する必要性は低い場合もあるでしょう。つまり、重要なのは「デジタルノマドビザがあるから使う」のではなく、本人の滞在目的、期間、仕事の内容、収入、家族帯同、保険、滞在先などを踏まえて、本当に必要かどうかを判断することです。
日本はデジタルノマドに選ばれる国になれるか
私は、日本はデジタルノマドにとって十分に魅力のある国だと思います。
治安がよい。食事がおいしい。交通が便利。地方ごとの文化が豊か。自然も都市もある。インターネット環境も比較的整っている。そして、世界的に見ても、日本の生活文化に興味を持つ人は多いです。
一方で、課題もあります。
英語対応が十分でない場面があります。中期滞在向けの住まいが少ない地域もあります。在留カードがないことで、生活上の手続に制約が出る可能性があります。短期滞在、デジタルノマドビザ、就労ビザの違いが分かりにくいという問題もあります。
また、地域側も、単に「外国人に来てもらう」だけでは足りません。来てもらった後に、どう地域とつなげるのか。地元企業との接点をどう作るのか。滞在者同士のコミュニティをどう作るのか。地域経済にどう還元するのか。この設計がなければ、デジタルノマドは単なる長期滞在の観光客で終わってしまいます。
福岡市の取組みが注目されているのは、単に人を集めたからではなく、地域、スタートアップ、コワーキング、イベント、周辺自治体との連携まで含めて設計しているからだと思います。
まとめ:デジタルノマドは、日本に新しい風を吹き込む存在になるか
デジタルノマドの制度や実際の取組みを見るたびに、非常に面白いテーマであると感じています。デジタルノマドは、特定技能や技人国とはまったく違う人材層です。日本企業に雇用されるのではなく、自ら仕事を持ち、世界を移動しながら働く人たちです。だからこそ、地域に新しい視点、ネットワーク、ビジネス機会をもたらす可能性があります。
一方で、課題もあります。
3か月の短期滞在で足りるのではないかという疑問。6か月滞在できても住まいをどうするのかという問題。日本国内で自由に働けるわけではないという制度上の制約。在留カードがないことによる生活上の不便。そして、地域側がどこまで受入れ環境を整えられるのかという課題です。
それでも、多様な働き方、多様な人材をどう受け入れるかは、これからの日本にとって大きなテーマになると思います。形は違っても、日本の発展に寄与する外国人材が増えることは、間違いなくプラスです。観光でもなく、雇用でもなく、地域とつながりながら働く人たち。デジタルノマドは、日本に新しい風を吹き込む存在になるかもしれません。
日本が、彼らにとって「一度行ってみたい国」から、「一定期間暮らし、働き、つながりたい国」になれるか。これからの制度運用と地域側の工夫が問われていると思います。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直
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