こんにちは。行政書士の稲福です。
外国人材の受入れが広がる中で、これから日本社会が避けて通れないテーマの一つが、宗教との向き合い方です。外国人雇用というと、在留資格、雇用契約、社会保険、税金、日本語能力、生活支援などに目が向きがちです。
もちろん、それらは非常に重要です。しかし、外国人人材が日本で安定して働き、地域で生活していくためには、宗教や文化に対する理解も欠かせません。特に、インドネシア、バングラデシュ、パキスタン、ウズベキスタン、トルコなど、イスラム教徒が多い国からの人材を受け入れる場合、食事、礼拝、服装、ラマダン、冠婚葬祭など、宗教に関わる生活上の配慮が現場で課題になることがあります。
最近では、イスラム教徒向けの土葬墓地をめぐる議論も報道されました。宮城県では、外国人労働者、とりわけイスラム教徒への配慮を背景に土葬墓地の整備が検討されていましたが、最終的には市町村側の受入れが難しいとして検討を断念したと報じられています。
この問題は、単に「墓地をどうするか」という話ではありません。外国人人材を受け入れるということは、その人たちの労働力だけを受け入れるのではなく、生活、家族、信仰、死後の尊厳まで含めて、地域社会がどう向き合うのかという問題でもあります。
今回は、外国人雇用と宗教理解について、日本の課題と、韓国の多文化共生施策も踏まえながら考えてみたいと思います。
✅ この記事でわかること
- 外国人材の受入れにおいて「共生社会」の視点が重要となる理由
- 宗教・文化・食習慣・生活習慣の違いが、受入れ現場で課題になり得ること
- 外国人を単なる労働力ではなく、地域で暮らす一人の生活者として考える必要性
- 企業・地域・行政が、外国人とともに安心して暮らせる環境を整えるための考え方
宗教理解は、特別扱いではなく「定着支援」の一部
外国人人材の受入れにおいて、宗教への配慮というと、「そこまで会社が対応しなければならないのか」と感じる企業もあるかもしれません。もちろん、企業がすべての宗教的要望に無制限に応じる必要があるわけではありません。
業務上の安全、衛生、就業規則、職場秩序とのバランスは必要です。しかし、宗教への基本的な理解を持つことは、外国人材に対する特別扱いではありません。むしろ、外国人材が日本の職場で安心して働くための、基本的な定着支援の一つだと思います。
たとえば、イスラム教徒の従業員の場合、来日前から不安に感じやすいこととして、ハラール対応の食事、礼拝場所、上司や同僚との付き合い方などが挙げられています。実際に日本で働く中でも、ハラール対応の食事を見つけにくいこと、礼拝時間や礼拝場所への理解が得られにくいこと、ラマダン期間中の業務負担などが課題として整理されています。
これは、決して大げさな話ではありません。日々の食事。休憩時間。制服や服装。職場の飲み会。寮での食材管理。病院にかかるときの説明。亡くなったときの葬送。
こうした一つ一つが、日本で働く外国人材にとっては、安心して生活できるかどうかに関わる問題です。
「郷に入っては郷に従え」だけでは足りない
日本社会では、外国人に対して「日本に来たのだから、日本のルールに合わせるべきだ」という考え方が根強くあります。この考え方自体は、ある意味では当然です。日本で生活する以上、日本の法律、職場のルール、地域のルールを守る必要があります。
しかし、「郷に入っては郷に従え」だけで済ませてしまうと、共生はうまくいきません。なぜなら、外国人材の側も、日本の社会や制度を学ぶ必要がある一方で、受け入れる日本側も、相手の文化や宗教をある程度理解する必要があるからです。
共生とは、外国人だけが一方的に日本に合わせることではありません。日本側も、外国人材が何に困り、何に不安を感じ、どのような生活背景を持っているのかを知る必要があります。
たとえば、ムスリムの従業員が「豚肉が食べられない」と言ったとき、それをわがままと捉えるのか、信仰上の重要な制約として理解するのかで、職場の雰囲気は大きく変わります。
礼拝についても同じです。勤務中に長時間の離席を認めるという話ではなく、休憩時間の範囲で静かな場所を使えるようにする、事前に本人と相談して業務に支障のない運用を決める、といった現実的な対応は十分に可能です。
大切なのは、何でも受け入れることではありません。まず、相手の背景を知ることです。そのうえで、職場としてどこまで対応できるかを、本人と話し合うことです。
宗教への配慮は、職場だけの問題ではない
宗教への配慮は、職場だけで完結する問題ではありません。むしろ、生活全体に関わります。
たとえば、食事の問題は、会社の食堂だけでなく、寮、近隣スーパー、地域の飲食店にも関係します。礼拝の問題は、職場だけでなく、住居、外出先、地域施設にも関係します。医療の問題では、診察時の説明、性別への配慮、入院時の食事なども関係します。葬送の問題では、火葬を前提とする日本社会と、土葬を重視する宗教的価値観との調整が必要になります。
富山県の多文化共生に関する資料でも、医療において専門用語を伴う意思疎通や宗教上の配慮への対応が難しいこと、また生活・就労の様々な場面で文化や宗教の違いから受け止め方や対応が異なることが課題として示されています。
つまり、宗教理解は、単なる職場マナーの話ではありません。外国人人材が日本で生活者として定着していくための、地域共生の課題です。
土葬墓地をめぐる議論が示したもの
イスラム教徒の土葬墓地をめぐる議論は、日本社会にとって非常に象徴的だと思います。
イスラム教では、火葬ではなく土葬が重視されます。しかし、日本では火葬が一般的であり、土葬を受け入れる墓地は限られています。報道では、国内で土葬を受け入れている霊園はわずかで、特定の地域に集中しているとされています。
ここで難しいのは、どちらか一方が完全に正しいという話ではないことです。イスラム教徒にとって、土葬は信仰上非常に重要な問題です。一方で、地域住民にとっては、水源、衛生、地域感情、土地利用、墓地管理などへの不安があります。
このような問題は、単に「多文化共生だから受け入れるべきだ」と言うだけでは解決しません。逆に、「日本では火葬が普通だから認めない」と切り捨てても、今後増えていく外国人住民との共生は難しくなります。必要なのは、感情的な賛否ではなく、制度、衛生、地域説明、宗教理解、自治体間連携を含めた冷静な議論です。
外国人人材を労働力として受け入れるのであれば、その人たちが地域で生活し、家族を持ち、老い、亡くなる可能性まで見据える必要があります。受入れとは、雇用契約を結ぶことだけではありません。地域社会の一員として迎えるということです。
韓国の多文化共生施策から学べること
ここで参考になるのが、韓国の多文化共生施策です。韓国も、日本と同じように少子高齢化、人手不足、外国人労働者の増加という課題を抱えています。
自治体国際化協会のレポートによると、韓国では2022年に90日以上滞在している外国人が約225万人、総人口比4.4%となり、過去最高を記録したとされています。また、出生率の低下と産業人口の確保が課題となる中、外国人の韓国社会への定着が重要な政策テーマになっています。
特に注目されるのが、安山市の取組みです。安山市は、韓国の中でも外国人住民が多い地域として知られています。名古屋国際センターの視察報告によると、安山市は韓国初の外国人支援専門組織や施設を設置した自治体であり、外国人の権利と利益を保護し、韓国生活に定着できるよう教育等の支援を行っています。また、韓国初の外国人人権条例を制定し、外国人住民支援本部を中心に、相談、医療、生活支援、地域交流などを実施しています。
さらに、安山市には多文化特区村があり、中国料理、ウズベキスタン料理、インドネシア料理など、49か国、140以上の飲食店があると紹介されています。外国人住民が母国の味を求めて訪れるだけでなく、地域経済にも大きく寄与しているとされています。
ここで重要なのは、韓国が外国人住民を単に「労働力」としてだけ見ていない点です。相談窓口。医療支援。多言語対応。人権条例。外国人住民が参加する協議会。地域イベント。多文化特区。こうした仕組みを通じて、外国人を地域社会の構成員として位置付けようとしています。
もちろん、韓国にも課題はあります。外国人労働者をめぐる制度上の問題、差別、雇用の不安定さなどが指摘されることもあります。しかし、少なくとも自治体レベルでは、外国人住民を地域政策の対象として正面から扱い、相談・医療・生活・交流を組み合わせて支援している点は、日本にとっても参考になると思います。
日本に足りないのは「受け入れた後」の設計
日本では、外国人人材の受入れについて、どうしても「採用できるか」「在留資格が取れるか」「入国できるか」に関心が集中しがちです。
しかし、本当に重要なのはその後です。
入国後に働き続けられるか。職場で孤立しないか。地域で生活できるか。困ったときに相談できるか。宗教や文化の違いによる摩擦をどう調整するか。日本人側も、外国人側も、互いに理解する機会があるか。ここまで設計しなければ、共生とは言えません。
特定技能制度でも、登録支援機関や受入企業には生活支援の役割があります。しかし、企業だけで宗教、医療、地域交流、葬送、家族支援まで対応するのは限界があります。だからこそ、自治体、企業、登録支援機関、行政書士、社会保険労務士、地域団体、宗教コミュニティが連携する必要があります。
韓国の安山市のように、外国人住民支援の専門窓口を設け、労働、医療、生活、相談、地域参加を一体的に支援する仕組みは、日本の自治体にとっても参考になります。日本でも、外国人人材が増える地域では、単なる「通訳窓口」ではなく、生活全体を見渡した共生支援が必要になっていくと思います。
企業ができる宗教配慮は、意外と難しくない
宗教への配慮というと、企業側は身構えてしまうかもしれません。しかし、実際には、最初から大きな設備投資をする必要はありません。
まずは、本人に確認することです。何が食べられないのか。どこまで厳格に守っているのか。礼拝は勤務時間中に必要なのか。休憩時間で対応できるのか。ラマダン期間中に注意すべきことはあるのか。飲み会への参加はどう考えているのか。制服や服装で配慮が必要なのか。これらは、国籍や宗教だけで一律に判断してはいけません。
同じイスラム教徒でも、信仰の実践度合いには個人差があります。豚肉を厳格に避ける人もいれば、そこまで厳格ではない人もいます。礼拝を毎日決まった時間に行いたい人もいれば、勤務後にまとめて行う人もいます。ラマダン中の働き方についても、本人の体調や業務内容によって異なります。
大切なのは、「ムスリムだからこうだ」と決めつけることではありません。本人に確認し、会社として対応できる範囲を整理することです。たとえば、食事については、豚肉やアルコールを含む料理を避けられるよう、会食時に選択肢を用意するだけでも大きな配慮になります。
礼拝については、専用の礼拝室を作らなくても、空いている会議室や休憩室を短時間使えるようにするだけで十分な場合もあります。ラマダンについても、業務量や残業の調整、体調確認、危険作業への配慮など、現実的な対応が可能です。
つまり、宗教配慮とは、特別な優遇ではありません。職場で長く働いてもらうための、実務的なコミュニケーションです。
宗教を理由に「受け入れない」と考える前に
外国人人材の採用現場では、時々このような声を聞くことがあります。「ムスリムは対応が大変そう」「礼拝や食事の問題があるなら採用しにくい」「宗教のことはよく分からないから避けたい」。
気持ちは分かります。
ただ、宗教を理由に最初から受け入れを避けてしまうと、今後の外国人人材採用では大きな機会損失になる可能性があります。たとえば、インドネシアは若い人口を抱える大きな国であり、今後も日本の特定技能分野で重要な人材供給国の一つになると考えられます。インドネシアからの人材を受け入れるのであれば、イスラム教への基本的な理解は避けて通れません。
バングラデシュ、パキスタン、ウズベキスタンなどについても同じです。宗教を知らないから避けるのではなく、知ったうえで、できる範囲の対応を考える。この姿勢が、今後の外国人雇用では重要になると思います。
共生とは、相手にすべて合わせることではない
ここで誤解してはいけないのは、共生とは、外国人人材の要望にすべて合わせることではないということです。日本の法律、職場の安全、衛生管理、労働時間、服務規律は守られなければなりません。宗教上の理由があっても、業務に重大な支障が出る場合や、安全上の問題がある場合には、会社として対応できないこともあります。
たとえば、食品工場や医療・介護現場では、衛生管理上、服装や装飾品に制限がある場合があります。建設現場や製造現場では、安全上、服装や作業手順に厳格なルールがあります。そのような場合には、本人の信仰と業務上の必要性を丁寧に説明し、現実的な落としどころを探る必要があります。
つまり、共生とは、どちらか一方が我慢することではありません。外国人人材は日本のルールを理解する。日本側は外国人材の文化や宗教を理解する。そのうえで、実務上可能な範囲を一緒に探る。これが本来の共生だと思います。
登録支援機関や受入企業に求められる視点
特定技能外国人を受け入れる企業や登録支援機関にとって、宗教理解は今後ますます重要になります。事前ガイダンスで、生活ルールや労働条件を説明するだけでは不十分です。本人が日本で何に不安を感じているのか。食事や礼拝の希望はあるのか。寮や住居で宗教上困ることはないか。勤務シフトや休憩時間で配慮が必要か。会社の懇親会や地域イベントへの参加について、本人がどう感じているか。こうした点を、来日前から確認しておくことが重要です。
また、受入企業側にも説明が必要です。宗教配慮は、甘やかしではないこと。できることとできないことを整理すること。本人に確認せず、国籍や宗教名だけで判断しないこと。職場全体で最低限の理解を共有すること。困ったときに誰が調整するのかを決めておくこと。これらを整えておくことで、入国後のトラブルはかなり防ぎやすくなります。
外国人雇用における宗教理解は、単なる人権論ではありません。採用、定着、労務管理、離職防止、地域トラブル防止に直結する実務課題です。
日本は「働きに来る国」から「暮らせる国」になれるか
これからの日本は、外国人人材にとって単に「働きに来る国」であるだけでは足りません。働けること。生活できること。相談できること。地域とつながれること。自分の文化や宗教を完全に捨てなくても、一定の尊重を受けながら暮らせること。こうした条件が整ってはじめて、外国人材に選ばれる国になると思います。
韓国の安山市の取組みを見ると、外国人住民を地域政策の中に明確に位置付け、相談、医療、生活、地域参加、文化交流を組み合わせて支援している点が印象的です。日本でも、外国人人材の受入れを本気で進めるなら、在留資格の許可だけでなく、地域で暮らすための仕組みづくりが必要です。
特定技能や技人国で人材を受け入れる企業も、単に「人手不足を補う」だけではなく、その人が地域で生活者として根付けるかどうかまで考える必要があります。宗教理解は、その入口の一つです。
まとめ:宗教を避けるのではなく、理解して共生する時代へ
外国人人材の受入れが進む中で、宗教との向き合い方は避けて通れないテーマになっています。食事。礼拝。服装。ラマダン。医療。葬送。これらは、外国人材にとって生活の一部です。日本側から見ると「細かいこと」に見えるかもしれません。しかし、本人にとっては、自分らしく生活できるかどうかに関わる大切な問題です。
一方で、共生とは、すべての要望を無条件に受け入れることではありません。日本の法律、職場の安全、地域のルールとの調整は必要です。大切なのは、知らないまま避けることではなく、知ったうえで話し合うことです。
韓国の安山市のように、外国人住民を地域の構成員として位置付け、相談、医療、生活、地域参加を一体的に支える仕組みは、日本にとっても参考になります。日本でも、これから外国人人材の受入れがさらに進む中で、宗教や文化の違いを「面倒な問題」として避けるのではなく、共生社会をつくるための実務課題として向き合う必要があります。
外国人人材は、単なる労働力ではありません。信仰を持ち、家族を持ち、地域で暮らす一人の生活者です。その当たり前の前提に立てるかどうか。これからの日本の外国人雇用と共生社会は、そこから問われていくのだと思います。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直
【PR】当事務所グループでは、外国人人材の採用相談から、各種在留資格許可申請、受入れ後の適正運用まで、必要に応じて一貫してサポートしております。外国人人材紹介に関するご相談は、有料職業紹介事業者であるアソシエイツ国際人材サポート合同会社にて、在留資格申請・入管手続きに関するご相談はアソシエイツ稲福国際行政書士事務所にて承ります。










コメント