こんにちは。行政書士の稲福です。
今回は、韓国で導入されている「地域特化型ビザ」について、私見を交えながら解説していきたいと思います。
日本では、外国人材の受入れについて、特定技能、技能実習、育成就労、技術・人文知識・国際業務など、さまざまな在留資格が議論されています。
一方で、近隣国である韓国も、少子高齢化、人手不足、地方の人口減少という、日本と非常によく似た課題を抱えています。
韓国では、国主導で外国人労働者を受け入れる「雇用許可制」という制度があります。これは、日本の技能実習や特定技能と比較されることも多い制度です。
しかし、韓国でも制度運用には課題があります。
雇用許可制は、国が主導して外国人労働者を受け入れる仕組みですが、受入れ後の職場定着、地域定着、権利保護、転職制限、不法滞在の問題など、さまざまな歪みを抱えてきました。
実際、韓国は不法滞在者数が日本よりかなり多い国です。朝日新聞も、韓国の不法滞在者は約42万人で、日本の約5倍規模に上ると報じています。もちろん、単純に制度だけが原因とはいえませんが、外国人材を受け入れる制度が拡大すれば、同時に定着支援や管理体制も問われるという点は、日本にとっても重要な示唆があります。
そのような中で韓国が進めているのが、地方経済の振興と外国人材の定着を結びつける「地域特化型ビザ」です。
韓国政府は、2022年に地域特化型ビザ制度を導入し、人口減少地域に外国人材を誘致する仕組みを整えました。韓国政府広報によれば、この制度では、外国人が自治体首長の推薦により居住ビザであるF-2を取得し、対象地域で一定期間、就業・居住することが可能になります。
これは、単なる人手不足対策ではありません。外国人を地方の労働力として一時的に受け入れるのではなく、地域社会の構成員として迎え入れ、地域経済を支える担い手として定着してもらう発想に基づく制度です。
✅ この記事でわかること
- 韓国の地域特化型ビザが注目される背景
- 外国人材を「働き手」ではなく地域の担い手として見る視点
- 日本の特定技能制度との違いと課題
- 地方自治体・受入企業が考えるべき地域定着の仕組み
韓国の地域特化型ビザとは何か
韓国の地域特化型ビザは、人口減少が進む地域に外国人材を呼び込み、地域での就労と居住を促す制度です。韓国では、人口減少地域を対象に、地方自治体が地域の産業構造や人材不足の状況を踏まえ、必要な外国人材を推薦する仕組みが取られています。
この制度の代表的な在留資格が、地域特化優秀人材を対象とするF-2-Rビザです。ここで重要なのが、韓国の雇用許可制、いわゆるE-9ビザとの関係です。E-9ビザは、日本でいえば技能実習や特定技能に近い位置づけで、製造業、農畜産業、漁業、建設業、サービス業など、韓国国内で人手不足が生じている分野に外国人労働者を受け入れる制度です。
ただし、E-9ビザは基本的には「労働力の受入れ」を目的とした制度であり、長期的な地域定着や永住を前提とした制度とはいえません。そのため、韓国では、E-9などで一定期間働いた外国人人材を、どのように地域に定着させていくかが大きな課題になっています。
この点で、地域特化型ビザは、E-9ビザによる一時的な労働力受入れから、地域社会への定着へとつなげる制度として注目されます。
実際、韓国では2025年の地域特化型ビザ運用において、E-9、E-10、H-2などで働いてきた外国人を対象にした「地域特化熟練技能人材ビザ」も設けられています。さらに、地域特化熟練技能人材ビザの所持者が、人口減少地域などで3年以上居住した場合、地域特化優秀人材であるF-2-Rへ変更できる仕組みも用意されています。
つまり、韓国は、E-9で受け入れた外国人を単に一定期間働かせて終わりにするのではなく、地域で必要とされる人材については、熟練人材として位置づけ、さらに長期滞在や定住へつなげようとしていると見ることができます。
韓国政府は、2025年にも地域特化型ビザを運営しており、各地方自治体の事業計画や前年度実績を評価したうえで、地域特化優秀人材にビザ枠を割り当てる方針を示しています。韓国政府広報によれば、2025年にはF-2-Rを申請した5,156人のうち、5,072人にビザを割り当てる予定とされています。
日本の制度と比較して興味深いのは、国だけでなく地方自治体が制度運用に深く関与している点です。日本の特定技能制度でも、受入企業や登録支援機関、自治体による生活支援は重要です。しかし、韓国の地域特化型ビザは、より明確に「地域」を制度の中心に置いています。つまり、どの地域で、どの産業に、どのような外国人材を受け入れ、どのように地域に定着してもらうのか。この点を、国と自治体が制度として設計しているところに特徴があります。
日本でいえば、特定技能1号で受け入れた外国人材を、特定技能2号、在留資格「介護」、技人国、高度専門職、永住などへどうつなげるのかという問題に近いものがあります。韓国の地域特化型ビザは、E-9ビザで受け入れた外国人材を、単なる一時的な労働力として終わらせるのではなく、地方経済を支える担い手として定着させようとする制度設計だといえます。
「働かせる」だけでなく「住んでもらう」制度
地域特化型ビザで重要なのは、単に外国人に働いてもらうだけではなく、対象地域に住んでもらうことです。
地域特化型ビザでは、最初の2年間は許可を受けた市・郡・区などの自治体に居住する必要があり、その後は同一の広域自治体内の人口減少地域に移動できる仕組みとされています。また、在留期間は1年から始まり、延長時には2年単位で付与され、1年、3年、5年経過時に条件を満たしているか点検を受けるとされています。
この仕組みは、非常に示唆的です。日本の外国人人材受入れでは、企業単位での採用が中心になりがちです。どの会社で働くか。どの職種で働くか。在留資格に該当するか。支援計画は整っているか。もちろん、これらは重要です。
しかし、外国人本人が実際に生活するのは、会社の中だけではありません。住居、買い物、病院、学校、交通、地域の人間関係、行政手続き、子どもの教育など、生活の基盤は地域にあります。韓国の地域特化型ビザは、この点を制度の中に組み込もうとしているように見えます。
外国人人材を単なる労働力として見るのではなく、地域で暮らし、働き、将来的には地域の一員になってもらう。ここに、通常の就労ビザとは違う発想があります。
永住への道筋を見せることの意味
韓国の地域特化型ビザで注目されるのは、長期定着や永住への道筋が意識されている点です。
地域特化型ビザは、一定期間、対象地域で就労・居住することを前提に、長期的な滞在につなげる制度として位置づけられ、その中でもF-2-Rビザは地域での就労・居住を通じて、将来的な永住資格F-5への変更可能性を持つ長期滞在型の制度とされています。
もちろん、永住権は自動的に付与されるものではありません。言語能力、所得、在留状況、法令遵守、地域での居住実態など、一定の要件を満たす必要があります。
しかし、外国人本人にとって重要なのは、将来の見通しです。「この国で何年働けば、どのような在留資格につながるのか」「家族と暮らせるのか」「地域で生活基盤を作れるのか」「永住の可能性があるのか」こうした将来像が見えるかどうかは、外国人人材に選ばれるうえで非常に重要です。
日本でも、特定技能2号や在留資格「介護」、技術・人文知識・国際業務、高度専門職、永住許可など、長期滞在につながる制度はあります。しかし、特定技能1号で働く外国人にとって、将来のキャリアパスがどこまで分かりやすく示されているかというと、まだ十分とはいえない部分もあります。
韓国の地域特化型ビザは、外国人材に対して、単に「働きに来てください」ではなく、「地域で暮らし、将来につなげてください」というメッセージを出している点で、非常に興味深い制度だと思います。
地方経済の担い手として外国人材を見る発想
地域特化型ビザの本質は、外国人人材を地方経済の担い手として位置づけている点にあります。
韓国政府広報では、地域特化型ビザ制度について、地方消滅の危機を外国人誘致によって克服する政策の一つとして紹介しています。2024年の記事でも、法務部が2022年に地域特化型ビザ制度を導入し、地方自治体の外国人誘致努力に対応していることが説明されています。
これは、日本にとっても非常に重要な視点です。日本でも、地方の人手不足は深刻です。介護、建設、製造、農業、宿泊、外食、ビルクリーニングなど、多くの分野で外国人材への期待が高まっています。
しかし、地方で外国人人材を受け入れる場合、単に求人を出して採用すればよいわけではありません。地方では、都市部に比べて、生活の選択肢が限られることがあります。
同国人コミュニティが少ない。公共交通が少ない。買い物や病院へのアクセスが難しい。宗教や食文化への配慮が不足している。日本語を学ぶ機会が少ない。子どもの教育環境に不安がある。こうした問題があれば、外国人本人はなかなか定着しません。
つまり、地方で外国人人材を受け入れるためには、企業だけでなく、地域全体で受け入れる仕組みが必要になります。韓国の地域特化型ビザは、この課題に対して、自治体を制度の中に組み込んでいる点が特徴的です。
韓国の制度にも課題はある
もっとも、韓国の地域特化型ビザが万能というわけではありません。
韓国は、外国人労働者の受入れを進める一方で、不法滞在者の増加、雇用許可制の歪み、転職制限、労働条件、地域定着の難しさなど、さまざまな課題を抱えています。
地域特化型ビザについても、対象地域に一定期間住み続ける必要があるため、外国人本人から見ると、居住地や職業選択の自由が制限される面があります。
また、地域側が外国人を本当に受け入れる準備を整えているのかも重要です。制度としてビザを作っても、住居、教育、相談窓口、地域住民との関係、差別防止、医療、生活支援が整っていなければ、外国人は定着しません。
地域特化型ビザにおいて、1年、3年、5年経過時に条件を満たしているか点検が行われると整理しています。これは、制度が単にビザを出して終わりではなく、定着状況を継続的に確認する仕組みであることを示しています。逆にいえば、継続的に確認しなければ、制度の趣旨どおりに運用されない可能性があるということです。
地域特化型ビザは、韓国の挑戦であると同時に、外国人人材を地域に定着させる難しさも示している制度だと思います。
日本の特定技能制度との違い
日本の特定技能制度も、人手不足分野において外国人材を受け入れる制度です。特定技能1号では、受入企業に支援義務があり、登録支援機関に委託することもできます。この点では、日本も単に外国人を働かせるだけではなく、生活支援や相談対応を制度に組み込んでいるといえます。
しかし、日本の特定技能制度は、基本的には「分野」と「企業」を中心に組み立てられています。どの分野で働くか。どの企業で雇用されるか。支援計画が整っているか。業務区分に該当するか。
これに対して、韓国の地域特化型ビザは、「地域」をより前面に出しています。つまり、韓国は、人口減少地域そのものを外国人人材受入れの単位として捉え、地方自治体が外国人材の誘致と定着に関与する仕組みを作っています。ここは、日本が今後考えるべき重要な論点だと思います。
日本でも、地方の人手不足は深刻です。しかし、地方自治体が、外国人人材の採用、生活支援、地域定着、家族帯同、教育、医療、地域住民との交流までを一体的に設計できているかというと、まだ地域差が大きいのが現状です。
特定技能制度は、受入企業と登録支援機関に支援を担わせる仕組みですが、地域全体で外国人人材を受け入れる設計は、まだ十分とはいえない部分があります。
韓国の地域特化型ビザは、日本に対して、「外国人人材政策を企業任せにしてよいのか」という問いを投げかけているように感じます。
「いかに働かせるか」から「いかに定着してもらうか」へ
外国人人材政策は、いま大きな転換点に来ていると思います。これまでの議論は、どうしても「いかに人手不足を補うか」に偏りがちでした。
どの国から呼ぶか。
どの職種で受け入れるか。
何人採用できるか。
どれくらいの費用で来日できるか。
もちろん、これらは実務上非常に重要です。しかし、これからはそれだけでは足りません。大事なのは、採用した後です。
どうやって地域に住んでもらうのか。
どうやって職場に定着してもらうのか。
どうやって日本語を学び続けてもらうのか。
どうやって地域住民と関係を作るのか。
家族を呼べるのか。
将来的に長期滞在や永住につながるのか。
韓国の地域特化型ビザは、この「定着」の部分に制度として踏み込んでいる点で注目されます。日本も、特定技能や育成就労制度を通じて外国人材を受け入れる以上、今後は「採用」だけでなく「地域定着」まで含めた制度設計が必要になると思います。
日本の地方自治体・受入企業が考えるべきこと
韓国の地域特化型ビザから、日本の地方自治体や受入企業が学べることは少なくありません。
まず、外国人人材を企業単位だけで考えないことです。外国人は、会社で働くだけではなく、地域で生活します。そのため、企業だけが受入れ責任を負うのではなく、自治体、地域住民、学校、医療機関、支援団体、登録支援機関などが連携する必要があります。
次に、定着を前提にした採用を行うことです。
単に人手不足を埋めるために採用するのではなく、将来的に地域で暮らし続けてもらう可能性まで考える必要があります。そのためには、住居、生活支援、日本語教育、相談体制、キャリアパスを整えることが重要です。
さらに、外国人本人に将来像を示すことです。
何年働けば、どの在留資格につながるのか。家族を呼べる可能性はあるのか。介護福祉士や特定技能2号など、長期的なキャリアパスはあるのか。永住につながる可能性はあるのか。こうした説明がなければ、外国人材は長く定着しにくくなります。
地方で外国人材を受け入れる場合、給与だけで都市部や海外と競争するのは簡単ではありません。だからこそ、地域としての安心感、生活のしやすさ、将来の見通しを示すことが重要になります。
さいごに
韓国の地域特化型ビザは、非常に興味深い制度です。韓国は、雇用許可制を通じて外国人労働者を受け入れてきましたが、その一方で、不法滞在、職場定着、地域定着、社会統合といった課題にも直面してきました。
そのような中で、地域特化型ビザという制度を設け、地方自治体の推薦を通じて外国人人材を人口減少地域に呼び込み、地域での就労と居住を促している点は、日本にとっても大きな示唆があります。
これは、単なる人手不足対策ではありません。外国人人材を、地域社会の構成員として迎え入れ、共に地域を支え、育てていくという発想です。
日本も、少子高齢化、人手不足、地方の人口減少という課題を抱えています。特定技能、育成就労、在留資格「介護」、技術・人文知識・国際業務など、制度は少しずつ整備されています。しかし、今後さらに重要になるのは、外国人材を「いかに働かせるか」ではなく、「いかに定着してもらうか」です。
韓国の地域特化型ビザは、その意味で、日本の外国人材政策に対して重要な問いを投げかけています。外国人人材は、単なる労働力ではありません。地域で暮らし、働き、家族を持ち、地域経済や地域社会を支える存在になり得ます。
今後も韓国をはじめとする周辺国の外国人材政策を見ながら、日本の在留資格制度と受入れ実務について、制度面・実務面の両方から情報発信を続けていきたいと思います。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直
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