こんにちは、行政書士の稲福です。
今回は、在留資格「経営・管理」の要件厳格化後、新規申請件数が大幅に減少しているという報道を受け、今後の外国人起業家・外国人経営者の受入れについて考えてみたいと思います。
報道によれば、2025年10月に取得要件が厳格化された在留資格「経営・管理」について、厳格化前の5か月間では新規申請が1か月平均およそ1,700件だったのに対し、厳格化後の5か月間ではおよそ70件となり、約96%減少したとされています。また、厳格化後に新たに申請して許可された事例は、「上場企業の役員クラスの人物が多い」と報じられています。
この数字は、制度改正の影響が極めて大きいことを示しています。一方で、この結果を単純に「不適切な申請が減ったからよかった」と評価してよいのかについては、慎重な検討が必要です。
もちろん、実体のないペーパーカンパニーや、在留資格取得だけを目的とした形式的な法人設立は排除されるべきです。
しかし、その一方で、日本で真剣に事業を行い、雇用を生み、納税し、地域経済に貢献しようとする外国人起業家まで、入口段階で過度に排除してしまっていないか。経営・管理ビザの厳格化は、いままさにそのバランスが問われている制度だと感じています。
- 経営・管理ビザの新規申請が大幅に減少した背景
- 2025年10月16日施行の厳格化で変わった主な要件
- 資本金3,000万円・常勤職員・事業実態で注意すべきポイント
- 申請96%減をどう見るべきか
- 既存の外国人経営者の更新申請で注意すべき点
- これからの経営・管理ビザ申請で重要になる準備

経営・管理ビザはなぜ厳格化されたのか
在留資格「経営・管理」は、日本で会社を経営する外国人や、事業の管理に従事する外国人を対象とした在留資格です。これまで、外国人が日本で会社を設立し、経営・管理ビザを取得する場合、一定の事業所の確保や、500万円以上の投資規模などが重要な要件とされてきました。
しかし、実務の現場では、残念ながら次のような事例も見られました。
● 実体のないペーパーカンパニー型
● 事業活動の実態が乏しい法人設立
● 自宅兼事務所のような曖昧な事業所
● 資本金の一時的な見せ金・名義貸し
● 実質的には経営活動を行っていないケース
● 民泊・不動産・貿易等を名目にした在留目的型の申請
● 税金・社会保険・労働保険の不適切な運用
こうした不適切な事例を排除し、「本当に日本で事業を営む意思と能力のある外国人経営者」を選別する必要があったことは否定できません。その意味で、経営・管理ビザの審査が厳格化されたこと自体には、一定の合理性があります。
2025年10月16日から何が変わったのか
出入国在留管理庁は、在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正を公表し、改正省令は2025年10月16日に施行されました。
主な改正内容は、以下のとおりです。
● 1人以上の常勤職員の雇用が必要
● 資本金等は3,000万円以上が必要
● 申請者または常勤職員のいずれかに相当程度の日本語能力が必要
● 申請者に経営・管理または事業分野に関する学位、または3年以上の経営・管理経験が必要
● 事業計画書について、専門家による確認が必要
● 自宅兼事務所は原則として認められない
● 公租公課、社会保険、労働保険、税務の履行状況も確認される
● 必要な許認可の取得状況も確認される
特に大きいのは、資本金等が従来の500万円規模から3,000万円以上へ引き上げられた点です。また、単に資本金を用意すればよいという話ではなく、常勤職員の雇用、日本語能力、経歴要件、事業計画書の専門家確認、公租公課の履行など、複数の要件を総合的に満たす必要があります。
つまり、経営・管理ビザは、以前のように「会社を作り、資本金を入れ、事務所を借りれば何とかなる」という制度ではなくなりました。これからは、法人の形式ではなく、事業の実体、継続性、経営者としての能力、法令遵守体制が問われる制度になったといえます。
申請96%減は「成果」なのか
今回の報道では、厳格化後の新規申請件数が約96%減少したとされています。この数字は、非常に衝撃的です。
たしかに、制度を悪用しようとする申請や、実体のない法人による申請が減少したのであれば、それは制度適正化の効果と評価できます。特に、在留資格を取得するためだけに法人を設立し、実際には経営活動を行わないようなケースは、制度の趣旨に反します。
そのような申請を排除することは、入管制度の信頼性を守るうえで必要です。しかし、問題はそれだけではありません。96%減という数字は、不適切な申請だけでなく、真面目に日本で起業しようとする外国人経営者の申請まで、大幅に萎縮させている可能性を示しています。
東京商工リサーチの調査でも、経営・管理ビザの厳格化について、外国人経営者の企業の45.2%が何らかの影響を受けると回答し、5.3%は廃業を検討すると回答したとされています。
制度改正によって、ペーパーカンパニーを排除することは必要です。しかし、実体ある中小企業や、日本で長年事業を続けてきた外国人経営者まで、事業継続に不安を抱える状況になっているのであれば、それは別の問題を生みます。
問題は「外国人経営者を減らすこと」ではない
ここで重要なのは、経営・管理ビザの目的です。この在留資格は、外国人を日本から排除するための制度ではありません。本来は、日本で事業を行い、経済活動を担い、雇用や税収を生み出す外国人経営者を受け入れるための制度です。
もちろん、誰でも簡単に経営・管理ビザを取得できる制度であってはなりません。しかし、過度に入口を狭めすぎると、日本にとって必要な起業家、投資家、事業承継者、地域経済の担い手まで失う可能性があります。
特に、日本では人口減少、地方の担い手不足、後継者不足、インバウンド需要、多文化共生、外国人向けサービス市場の拡大といった課題があります。こうした分野では、外国人経営者が重要な役割を果たす可能性があります。
たとえば、
● 外国人観光客向けの宿泊・観光事業
● 在留外国人向けの生活支援サービス
● 海外市場との貿易・輸出入
● 日本企業の海外展開支援
● 地域の空き店舗・空き家を活用した事業
● 介護・外食・宿泊など人手不足分野への関連サービス
● 地方都市における多言語対応ビジネス
こうした事業は、日本人だけでは拾いきれない市場ニーズを外国人経営者が発見し、形にしていく可能性があります。
経営・管理ビザの厳格化は必要です。しかし、制度の目的は「外国人経営者を減らすこと」ではなく、「実体のある事業者を適切に選別すること」であるべきです。
形式的な資本金より、事業実態をどう見るか
今回の改正では、資本金等3,000万円以上という非常に大きな要件が設けられました。この要件は、不適切な小規模法人や実体のない申請を排除するうえで、一定の効果があると考えられます。
一方で、事業の種類によっては、必ずしも初期段階で3,000万円もの資本金を必要としないビジネスもあります。
たとえば、IT、コンサルティング、貿易仲介、インバウンド向けサービス、海外マーケティング、教育、生活支援、専門サービスなどは、初期投資よりも、人的ネットワーク、専門性、営業力、言語能力、市場理解が重要になる場合があります。
もちろん、在留資格制度である以上、一定の資金力を確認することは必要です。しかし、資本金額だけで事業の将来性を測ることには限界があります。本来重視すべきは、次のような実質的要素ではないでしょうか。
● 事業計画に具体性があるか
● 実際の取引先・顧客候補があるか
● 売上見込みに合理性があるか
● 事業所が実体を伴っているか
● 経営者本人が本当に経営活動を行うか
● 許認可や業法上の確認ができているか
● 税務・社会保険・労働保険を適切に履行できるか
● 日本国内で雇用や経済効果を生み出す可能性があるか
● 日本市場に必要とされる事業か
制度は、形式を整えた人を通すためのものではありません。実体ある事業を見極めるためのものです。
「既存の外国人経営者」への影響も大きい
今回の厳格化で特に注意すべきなのは、新規申請者だけではありません。すでに経営・管理ビザで在留している外国人経営者にも影響があります。
出入国在留管理庁は、既に「経営・管理」で在留中の方が、施行日から3年を経過する日、つまり2028年10月16日までの間に更新申請を行う場合には、改正後の基準に適合しない場合であっても、経営状況や改正後基準への適合見込み等を踏まえて許否判断を行うとしています。
これは、直ちに全員が新基準を満たさなければ更新できない、という意味ではありません。
しかし、逆にいえば、今後の更新審査では、
● 経営状況
● 売上・利益の推移
● 税金の納付状況
● 社会保険・労働保険の適用状況
● 事業所の実体
● 許認可の取得状況
● 新基準への適合見込み
● 専門家による評価文書
などが、これまで以上に重要になるということです。つまり、既存の外国人経営者も、「今まで更新できていたから次も大丈夫」とは言い切れない時代に入っています。
今後は、更新申請の直前になって慌てるのではなく、早い段階から事業実態、会計、税務、社会保険、雇用体制を整えていく必要があります。
民泊・不動産・小規模ビジネスは特に慎重な整理が必要
今回の報道では、「経営管理ビザ取得+民泊運営で大もうけ」といった文脈も取り上げられています。民泊や不動産関連事業は、外国人経営者からの相談でも比較的多い分野です。
しかし、今後この分野で経営・管理ビザを検討する場合は、かなり慎重な整理が必要になると考えられます。理由は、民泊や不動産事業の場合、次のような点が審査上問題になりやすいためです。
● 経営者本人の常勤性・活動実態
● 事務所の独立性
● 事業規模の十分性
● 許認可・届出の適法性
● 委託先任せになっていないか
● 実質的に投資・所有だけになっていないか
● 継続的な売上・利益が見込めるか
● 雇用創出や地域経済への貢献があるか
経営・管理ビザで求められるのは、単なる資産保有や投資ではありません。日本で事業を経営し、または管理する活動です。
そのため、民泊や不動産事業を行う場合でも、本人がどのような経営判断を行い、どのように集客し、どのように運営管理し、どのように事業を拡大していくのかを具体的に説明する必要があります。
形式的に法人を作り、物件を持ち、運営を外部に丸投げするだけでは、今後の審査では厳しく見られる可能性があります。
これからの経営・管理ビザ申請で重要になること
今後、経営・管理ビザを検討する外国人経営者や、日本進出を支援する企業にとって重要なのは、「要件を満たしているように見せること」ではありません。重要なのは、実体ある事業として説明できる状態をつくることです。
具体的には、次の点が重要になります。
1. 事業計画書の精度
事業計画書は、単なる作文では足りません。売上計画、利益計画、資金繰り、顧客ターゲット、競合分析、営業方法、許認可、雇用計画、事業の継続可能性を、具体的かつ合理的に説明する必要があります。特に、数字の根拠が曖昧な事業計画は、今後より厳しく見られる可能性があります。
2. 資本金の出所と使途
3,000万円以上の資本金等が求められる以上、その資金の出所や、事業への実際の投下状況も重要です。単に口座に資金があるというだけでなく、その資金がどのように形成され、どのように事業に使われるのかを説明できる必要があります。
3. 常勤職員の雇用体制
改正後は、1人以上の常勤職員の雇用が必要とされています。
ここでいう常勤職員の対象には制限があり、単に外国人従業員を雇えばよいという話ではありません。出入国在留管理庁の説明では、許可基準上の常勤職員は、日本人、特別永住者、または「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」などの身分系在留資格を持つ外国人に限られます。
この点を誤解したまま雇用計画を立てると、要件を満たさない可能性があります。
4. 税務・社会保険・労働保険の適正化
今後の更新審査では、公租公課の履行状況も重要になります。法人税、消費税、源泉所得税、法人住民税、社会保険、労働保険などを適切に処理しているかは、事業実態と法令遵守を示す重要な要素です。外国人経営者にとって、会計・税務・労務は日本で事業を継続するうえで避けて通れません。
5. 経営者本人の活動実態
経営・管理ビザは、会社を持っていることだけで認められる在留資格ではありません。本人が実際に日本で経営判断を行い、事業を運営していることが重要です。
長期間日本を離れていたり、実質的な経営を第三者に任せきりにしていたりする場合には、活動実態が疑われる可能性があります。
経営・管理ビザは「終わった」のではない
今回の申請96%減という数字だけを見ると、「経営・管理ビザはもう無理なのではないか」と感じる方もいるかもしれません。しかし、経営・管理ビザそのものがなくなったわけではありません。むしろ、制度はより明確に、「本当に日本で事業を行う人」を対象とする方向に変わったと考えるべきです。今後は、次のような方にとっては、引き続き可能性があります。
● 十分な資金力がある外国人経営者
● 日本国内で具体的な事業計画を持つ起業家
● 既に海外で実績のある企業の日本進出
● 日本企業との取引・提携が具体化している事業者
● 雇用創出や地域経済への貢献が見込める事業者
● 税務・労務・許認可を適切に整備できる事業者
一方で、次のようなケースは、今後かなり難しくなると考えられます。
● とりあえず会社だけ作る
● 事業所が実体を伴っていない
● 資本金の出所が不明確
● 事業計画が抽象的
● 実際の取引先や売上見込みがない
● 経営者本人がほとんど日本で活動しない
● 許認可や税務・社会保険の整理ができていない
● 民泊や不動産を名目にするが、実質は投資に近い
つまり、今後の経営・管理ビザでは、「申請できるか」ではなく、「事業として説明できるか」が重要になります。
日本に必要なのは、実体ある外国人経営者を育てる視点
私は、経営・管理ビザの厳格化そのものを否定するものではありません。むしろ、ペーパーカンパニーや制度の悪用を排除することは、必要な対応だと考えています。しかし、制度の運用が過度に形式的になりすぎると、日本で本当に事業を行いたい外国人まで遠ざけてしまう危険があります。
日本は今後、人口減少、労働力不足、地方経済の縮小、後継者不足という課題に直面します。その中で、外国人経営者は単なる在留者ではなく、将来の納税者、雇用創出者、地域経済の担い手、海外市場との橋渡し役になり得る存在です。
大切なのは、外国人経営者を一律に警戒することではありません。実体のない申請は排除しつつ、実体ある事業には適切に門戸を開くことです。経営・管理ビザは、「排除のための制度」ではなく、「本当に日本に必要な経営者を選別する制度」であるべきです。
まとめ
在留資格「経営・管理」の要件厳格化により、新規申請件数は大幅に減少しています。資本金3,000万円以上、常勤職員の雇用、日本語能力、経歴要件、専門家確認付きの事業計画書、公租公課の履行など、これまで以上に高い水準の準備が求められるようになりました。
この改正により、実体のない法人や不適切な申請が減少することは望ましいことです。しかし、その一方で、真面目に日本で事業を行おうとする外国人起業家まで過度に排除されてしまえば、日本にとっても大きな損失となります。
今後の経営・管理ビザ申請では、形式的に要件をそろえるだけでは足りません。事業の実体、継続性、資金計画、雇用計画、税務・社会保険、許認可、経営者本人の活動実態を、総合的に説明できることが重要です。
外国人経営者にとっても、支援する専門家にとっても、これまで以上に「本当に事業として成り立っているのか」を問われる時代に入ったといえるでしょう。現場で制度に向き合う立場として、制度の適正化と、実体ある外国人起業家の受入れが両立する運用を期待したいと思います。
出入国在留管理局申請取次行政書士
稲福 正直
















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