こんにちは。行政書士の稲福です。
入管手続の現場にいると、今後の在留資格審査は、さらにデジタル化が進み、その先ではAIなどを活用した審査支援へ向かっていくのではないかと感じます。実際、在留申請のオンライン化、電子届出、在留資格認定証明書(COE)の電子化など、入管手続のデジタル化はすでに進んでいます。
一方で、ここで一つ考えておかなければならないことがあります。それは、現在の入管審査を、そのまますぐにAI審査へ置き換えられるわけではないということです。
これまで長年にわたり、入管審査は紙の申請書や添付資料を提出し、それを審査官が一件ずつ確認することを前提として行われてきました。そのため、過去の膨大な申請情報が、最初からAIによる横断的な分析や照合を前提とした形で、すべて統一的にデータ化されてきたわけではありません。
しかし、だからこそ今後は、申請や届出に関する情報をデータとして蓄積し、審査に活用できる仕組みへ段階的に移行していくことが重要だと考えています。
そして、その先にあるのは、AIが審査官に代わって許可・不許可を決める世界というよりも、蓄積された情報から「矛盾」や「不自然な案件」をシステムが抽出し、審査官が重点的に確認するような審査ではないでしょうか。
- 入管手続のデジタル化・AI化が今後の在留審査に与える影響
- 申請内容・届出状況・雇用実態の「矛盾」が見つかりやすくなる理由
- 特定技能における報告義務・届出義務を軽視するリスク
- 「申請時だけ整える」対応が危なくなる理由
- 受入企業・登録支援機関に求められる記録管理
- これからの外国人雇用で重要になるコンプライアンス体制

入管審査のAI化は、実はそれほど簡単ではない
AIを審査に活用するためには、その前提として「使えるデータ」が必要です。氏名、国籍、所属機関、職務内容、給与、雇用期間、転職歴、届出履歴、特定技能であれば支援の実施状況など、それぞれの情報が一定のルールでデータ化され、過去の情報と照合できなければ、AIを導入しても十分な分析はできません。
ところが、これまでの在留申請は長年にわたり、紙の申請書や添付資料を審査官が読み込むことを前提として運用されてきました。紙をスキャンしてPDFにしたからといって、それだけでAIが比較・分析できるデータになるわけではありません。
企業名の表記が異なる、職務内容が文章で記載されている、雇用条件や説明内容が別々の資料に記載されているなど、情報を横断的に照合するためには、データの整理や標準化が必要になります。したがって、入管審査がある日突然、全面的なAI審査へ切り替わるというよりは、オンライン申請や電子届出によって新しいデータを蓄積しながら、段階的にシステムによる照合や審査支援を強化していく流れになるのではないかと考えます。
それでも、入管審査はデータ化・AI活用へ移行すべき
では、移行が容易ではないから、これまでどおり人の目だけで審査を続ければよいのでしょうか。私は、そうではないと考えています。在留申請や外国人雇用に関する情報が増えていく中で、すべての案件について、審査官が過去の申請、届出、雇用状況、支援状況などを一件ずつ遡って確認することには限界があります。
そこで有効になるのが、データによる照合です。申請や届出の情報を継続的に蓄積し、システム上で比較できるようになれば、人間だけでは見落としやすい届出漏れや、過去の申請との不整合、不自然な変更などを抽出しやすくなります。
重要なのは、AIに許可・不許可そのものを判断させることではありません。まずシステムが大量の案件の中から「もう少し詳しく確認すべき案件」を抽出し、最終的には審査官が人の目で確認する。こうした使い方であれば、審査の効率化と適正な在留管理を両立させる一つの方法になり得ると考えます。
データが蓄積された先では、「ごまかし」よりも「矛盾」が見つかる
そして、こうしたデータ化が進んだ先で企業が注意しなければならないのが、「情報の矛盾」です。
例えば、
といった点です。
一つ一つの申請だけを見れば、それほど大きな問題には見えないことでも、過去の申請や届出を時系列で並べると、不自然な点が浮かび上がることがあります。人間の審査官が膨大な過去資料を一件ずつ確認するには限界があります。しかし、情報がデータとして蓄積され、相互に照合できるようになれば、システムはこうした「矛盾」を見つけることを得意とします。
つまり、デジタル化・AI活用が進んだ入管審査で重要になるのは、申請時に書類をうまく整えることではありません。過去から現在まで、適正な雇用管理を行い、必要な届出や報告を行い、その内容を記録として残してきたかどうかです。そして、ここで特に重要になってくるのが、企業や外国人に課されている「報告義務・届出義務」です。
報告義務を軽く見る企業は危ない
特に注意すべきなのが、報告義務・届出義務です。外国人本人については、転職、退職、新たな契約機関への所属などがあった場合、原則として事由発生日から14日以内に所属機関に関する届出が必要です。入管のQ&Aでも、届出をしなかったり、虚偽の届出をした場合には罰則があり、在留諸申請で不利になる場合があると明記されています。
また、特定技能については、受入企業や登録支援機関に各種届出義務があります。2025年4月1日施行の省令改正により、特定技能の定期届出は、従来の四半期ごとから1年に1回へ変更されました。入管は、定期届出の提出頻度が「四半期ごとから1年に1回へ」変更されたことを公表しています。
一見すると、企業の事務負担が軽くなったようにも見えます。しかし、逆にいえば、1年分の受入状況・活動状況・支援実施状況を、まとめて正確に報告しなければならないということです。
・途中で支援が不十分だった。
・面談記録が残っていない。
・転職・退職・契約変更の届出を忘れていた。
・給与や勤務実態が雇用条件書と違っていた。
・登録支援機関に丸投げしていて、企業自身が内容を把握していない。
このような状態で定期届出だけ整えようとしても、後から整合性が取れなくなる可能性があります。
「申請時だけ整える」時代は終わる
これまでの入管実務では、申請時に必要書類を集め、理由書を作り、形式を整えることで何とか対応できた場面もありました。
しかし、今後はその発想では危険です。
なぜなら、オンライン申請、電子届出、過去の申請履歴、所属機関情報、支援実施状況などがデータとして蓄積されていけば、申請時点だけをきれいに整えても、過去の情報との矛盾が見つかりやすくなるからです。
つまり、これから重要なのは、申請書類の作成能力だけではなく、日常の在留管理能力です。特定技能でいえば、
・雇用条件書どおりに働いているか
・支援計画どおりに支援しているか
・定期面談を実施し、記録を残しているか
・退職、転職、受入困難、支援困難などの届出を適切に行っているか
・登録支援機関任せにせず、受入企業自身が内容を把握しているか
こうした日常管理が、そのまま次回更新・変更・新規受入れの信用に直結していくと考えるべきです。
外国人本人だけでなく、受入企業の管理体制も問われる時代へ
ここで重要なのは、入管手続におけるリスクは、外国人本人だけの問題ではないという点です。
もちろん、虚偽申請、不法就労、在留資格該当性の喪失、在留資格取消しなどが問題となれば、外国人本人の在留継続に重大な影響が出る可能性があります。
しかし、今後より重要になるのは、不適切な受入れを行っている企業・登録支援機関・関係者についても、制度上の信用が問われていくという点です。
たとえば、
・届出義務を守っていない企業
・支援を十分に実施していない登録支援機関
・書類だけ整えて実態を確認していない関係者
・本人に過大な費用負担をさせるスキーム
・実態と異なる雇用条件で申請する受入企業
・外国人雇用を単なる人手不足対策として扱い、制度理解が不十分な企業
このようなケースでは、今後の審査・調査・更新申請・新規受入れの場面で、より厳しく確認される可能性があります。
つまり、これからは外国人本人の在留状況だけでなく、受入企業側の管理体制や法令遵守の姿勢も、重要な審査ポイントになっていくと考えられます。
AI化時代の入管対応は「証拠を残すこと」が重要
これからの入管対応で重要なのは、口頭説明ではなく記録です。「ちゃんとやっています」では足りません。必要なのは、
・いつ実施したのか
・誰が対応したのか
・どのような説明をしたのか
・本人が理解しているか
・問題があった場合、どのように対応したのか
・入管への届出をいつ行ったのか
これらを、後から確認できる形で残すことです。
AIやシステムによるチェックが進めば進むほど、曖昧な説明よりも、客観的な記録が重要になります。
まとめ:これからの外国人雇用は「申請」ではなく「運用」が問われる
入管審査が今後どこまでAI化されるかは、現時点では明確ではありません。しかし、手続のオンライン化、届出の電子化、申請情報の蓄積が進んでいることは事実です。その中で、外国人雇用に関わる企業は、これまで以上に「日常の運用」を意識する必要があります。
これからの入管実務で問われるのは、許可を取れるかどうかだけではありません。許可後も、制度に沿って適正に運用できているかです。
報告義務を軽く見る企業。
登録支援機関に丸投げする企業。
届出を後回しにする企業。
実態と異なる内容で申請する企業。
こうした企業は、今後のデジタル化・AI化の流れの中で、制度上の信用を失い、新規受入れや更新の場面で不利に扱われる可能性があります。
外国人雇用は、単なる人手不足対策ではありません。在留資格、労務管理、支援体制、届出義務、本人保護、企業のコンプライアンスが一体となった制度運用です。
これからの時代に必要なのは、「申請に強い企業」ではなく、「運用に強い企業」です。
当事務所では、在留資格申請だけでなく、特定技能外国人の受入れ後の届出・支援体制・登録支援機関との役割分担・コンプライアンス確認まで、実務に即したサポートを行っています。
外国人雇用の運用体制に不安がある企業様は、お早めにご相談ください。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直














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