こんにちは。行政書士の稲福です。
特定技能「外食業分野」をめぐり、大きな動きが出ています。
出入国在留管理庁および農林水産省は、外食業分野における特定技能1号の在留者数が受入れ見込数である5万人に近づいているとして、2026年4月13日以降に受理した外食業分野の在留資格認定証明書交付申請について、不交付とする運用を示しました。
いわゆる、特定技能「外食」の新規海外呼寄せの停止です。
外食業界では人手不足が続いており、フードサービス業界からは受入れ枠の拡大を求める声も上がっています。一方で、農林水産省からは、企業側において「制度が前提とする国内人材確保の努力が最大限なされているか」について、議論の余地があるとの見方も示されています。
この問題は、単に「外食業の人数枠が足りない」という話ではありません。むしろ、特定技能制度そのものが、次の段階に入ったことを示しているように感じます。
- 外食分野で特定技能の新規海外呼寄せが停止された背景
- 外食分野が世論の反応を受けやすい理由
- 特定技能制度における国内人材確保努力の重要性
- 受入企業が見直すべき採用努力・労働条件・支援体制
- 外国人材に過度に依存しない現場設計の考え方
- 特定技能制度が「量の拡大」から「質の管理」へ移る流れ

外食だけが先に上限に近づいた
特定技能制度では、分野ごとに5年間の受入れ見込数が設定されています。これは単なる目安ではなく、大きな経済情勢の変化がない限り、事実上の受入れ上限として運用されるものです。外食業分野の受入れ見込数は5万人です。
そして、2026年2月末時点で外食業分野の特定技能1号在留者数は約4万6,000人となり、2026年5月頃には5万人の上限を超える見込みとなりました。これを受けて、2026年4月13日以降の外食業分野のCOE申請について、不交付とする措置が取られています。
ここで重要なのは、特定技能制度全体が上限に達したわけではないという点です。
政府は、令和6年4月から令和11年3月までの5年間について、分野ごとに受入れ見込数を設定しています。特定技能全体では、外食以外にも介護、建設、農業、飲食料品製造業、ビルクリーニング、宿泊、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業など、幅広い分野があります。
つまり、制度全体としてはまだ受入れ余地がある一方で、外食業分野だけが先に上限に近づいたということです。この点だけを見れば、
「外食で足りないなら、上限に余裕のある他分野で補えばよい」
「分野ごとの上限を守りながら、制度全体の枠内で調整すればよい」
という考え方も成り立ちます。制度論としては、これは一つの正しい整理です。しかし、問題はそこまで単純ではありません。
なぜ外食は世論の反応を受けやすいのか
外食分野は、外国人材の増加が国民の目に見えやすい分野です。介護、建設、農業、製造業などでも外国人材の受入れは進んでいます。しかし、これらの分野は、一般消費者が日常的に現場を見る機会は限られています。
一方、外食は違います。ファストフード店、居酒屋、レストラン、カフェ、ラーメン店、チェーン店など、私たちが日常的に利用する場所です。そこで外国人スタッフが増えると、多くの人が「外国人労働者が増えている」と肌で感じます。
そのため、外食業で特定技能外国人が増えると、どうしても次のような声が出やすくなります。
「まず日本人を雇うべきではないか」
「賃金を上げれば人は集まるのではないか」
「外国人を安い労働力として使っていないか」
「企業努力をせず、外国人材に頼っているだけではないか」
最近の飲食チェーンをめぐる炎上を見ても、日本人雇用をめぐる世論の視線は非常に厳しくなっています。これは単なる感情論として片付けるべきではありません。特定技能制度は、本来、日本人を雇わなくてよい制度ではありません。国内人材の確保、生産性向上、労働環境の改善などを行ってもなお人材が不足する分野において、一定の技能を持つ外国人材を受け入れる制度です。
つまり、制度の前提には、国内人材確保の努力があります。
この前提が見えなくなると、特定技能制度は「人手不足だから外国人を入れる制度」ではなく、「日本人が集まらない職場を外国人で埋める制度」と受け止められてしまいます。ここに、今後の大きなリスクがあります。
介護分野に見る「日本人雇用を前提とした制度設計」
この点で参考になるのが、介護分野です。介護分野では、特定技能外国人の受入れについて、事業所単位で日本人等の常勤介護職員の総数を超えない範囲とする考え方があります。
これは非常に重要です。なぜなら、介護分野では、
「外国人だけで現場を回す制度ではない」
「日本人職員を基盤にして、その範囲内で特定技能材を受け入れる」
「外国人人材は日本人雇用の代替ではなく、補完である」
という説明がしやすいからです。
もちろん、外食業と介護業では業務内容も雇用形態も違います。介護分野の仕組みをそのまま外食に持ち込めばよいという単純な話ではありません。しかし、今後の外食分野でも、同じ方向性は必要になると思います。
つまり、外国人人材の受入れを認めるとしても、それは日本人雇用を前提とした制度でなければならないということです。
外食の増枠は否定すべきではないが、条件が必要
私は、外食業分野の増枠そのものを全面的に否定する必要はないと考えています。外食業界の人手不足は現実です。特に地方、観光地、病院給食、高齢者施設給食、学校給食、社員食堂など、社会インフラに近い役割を担う現場では、人手不足が深刻な問題となっています。
単に「飲食店が人手不足だから困っている」という話ではなく、地域の生活、観光、医療、福祉、教育を支える現場にも影響が出ます。そのため、一定の増枠や運用見直しを検討する余地はあります。
ただし、単純に、「外食業界が困っているから5万人を7万人に増やす」「人手不足だから外国人人材をもっと入れる」という説明では、今後の世論を納得させることは難しいと思います。もし外食分野の受入れ枠を見直すのであれば、少なくとも次のような視点が必要です。
まず、企業が国内人材確保の努力を行っているか。
求人を出しているだけでは足りません。賃金水準、休日、シフト、教育体制、正社員登用、離職率、職場環境の改善などを含めて、本当に日本人が働きやすい環境を整えているかが問われるべきです。
次に、外国人人材の比率が過度に高くなっていないか。
店舗単位、法人単位で、外国人材に過度に依存していないかを確認する必要があります。外国人スタッフだけで店舗を回すような状態になれば、制度の趣旨から見ても、社会的な理解の面から見ても問題が生じます。
さらに、低賃金・不安定雇用の穴埋めになっていないか。
日本人が集まらない原因が、単に賃金の低さ、長時間労働、不規則なシフト、教育不足、管理体制の弱さにあるのであれば、それを外国人材で補うことは制度の本来の姿ではありません。外国人人材を受け入れる前に、企業側が職場そのものを改善する必要があります。
これから問われるのは「受入れ人数」ではなく「受入れの質」
これまでの特定技能制度では、どちらかといえば「何人受け入れられるか」「どの分野で採用できるか」という人数面が注目されてきました。しかし、外食分野の受入れ停止措置をきっかけに、今後は明らかに視点が変わっていくと思います。
問われるのは、単なる人数ではありません。
どのような企業が受け入れるのか。
どのような労働条件で雇用するのか。
日本人雇用とどのように両立させるのか。
外国人本人に過度な負担がないか。
登録支援機関に丸投げしていないか。
支援体制、労務管理、書類管理は適正か。
こうした「受入れの質」が、これまで以上に厳しく見られるようになるはずです。
特定技能制度は、外国人人材を入れるための制度であると同時に、日本の労働市場のあり方を映す制度でもあります。企業が日本人に選ばれない職場のまま、外国人人材だけに頼ろうとすれば、制度への信頼は失われます。
一方で、日本人も外国人も働きやすい環境を整え、そのうえで不足する人材を適正に受け入れるのであれば、特定技能制度は地域や産業を支える重要な仕組みになります。
受入企業に求められる姿勢
これからの受入企業に必要なのは、「外国人を採用できるか」だけを考えることではありません。むしろ、次のような問いに答えられることが重要です。
・自社は、日本人を採用する努力を十分にしているか。
・外国人人材に過度に依存した人員配置になっていないか。
・賃金や労働条件は、日本人にも外国人にも説明できる水準か。
・特定技能外国人を、単なる人手不足の穴埋めとして扱っていないか。
・支援計画は実際に機能しているか。
・登録支援機関や行政書士に任せきりではなく、企業自身が制度を理解しているか。
特定技能制度では、受入企業自身にも多くの義務があります。支援を登録支援機関に委託している場合であっても、受入企業の責任がなくなるわけではありません。外国人人材の雇用管理、労働条件、届出、支援体制、費用負担の適正性などについて、企業自身が責任を持つ必要があります。
今回の外食分野の受入れ停止は、企業に対しても一つのメッセージを発しているように思います。それは、「外国人材を受け入れる前に、まず自社の雇用環境を見直していますか」という問いです。
サイゼリヤ型の現場設計に見る、外食企業の次の課題
外食分野の特定技能1号が原則として受入停止となった今、外食企業に求められるのは、単に「特定技能人材をどう確保するか」だけではありません。むしろ重要なのは、特定技能人材に過度に依存しなくても、店舗が安定して回る仕組みを作れているかです。
その意味で、サイゼリヤのような低価格外食チェーンの現場設計は、一つの示唆を与えています。サイゼリヤは、単に人件費を抑えている企業というより、メニュー、注文、調理、配膳、会計、在庫管理、従業員配置に至るまで、現場の作業を徹底して標準化・省人化し、少人数でも店舗が回る仕組みを作ってきた企業といえます。
もちろん、すべての飲食店が大手チェーンと同じ仕組みを導入できるわけではありません。個人店、専門店、観光地の飲食店、地域密着型の店舗には、それぞれの事情があります。
しかし、特定技能人材の受入れが制限される時代において、本当に問われるのは「採用力」だけではなく、「現場設計力」です。人を増やさなければ回らない店舗から、少ない人数でも安定して回る店舗へ。外食企業は、制度に頼る前に、自社のオペレーションそのものを見直す必要があります。
特定技能制度は、人手不足をそのまま外国人人材で埋めるための制度ではありません。企業が国内人材確保の努力、労働条件の改善、生産性向上に取り組んだうえで、それでも不足する部分を適正に補う制度です。だからこそ、これからの外食企業には、「何人採用できるか」だけでなく、「少ない人数でも無理なく回る現場を作れているか」が問われていくはずです。
特定技能制度は“量の拡大”から“質の管理”へ
今後、特定技能制度は大きく変わっていくと思います。育成就労制度の創設により、外国人人材の受入れは、単なる一時的な労働力確保ではなく、中長期的な人材育成・定着・共生を前提とする方向に進んでいます。
その中で、特定技能制度も「人手不足だから受け入れる」という段階から、「どのように適正に受け入れ、地域や産業の中で共生していくか」という段階に移っていくはずです。
外食分野の受入れ停止は、その象徴的な出来事です。これは、特定技能制度の失敗ではありません。むしろ、制度が本格的に運用される中で、初めて明確に現れた調整局面です。そして、この調整局面をどう乗り越えるかによって、今後の外国人材政策の信頼性が決まります。
まとめ
特定技能「外食」の受入れ停止は、単なる人数枠の問題ではありません。問われているのは、外国人人材を「人手不足の穴埋め」として使うのか、それとも日本人雇用を基盤とした持続可能な労働市場の一部として位置づけるのか、という制度設計そのものです。
外食業界の人手不足は現実です。受入れ枠の見直しを求める声にも、一定の合理性はあります。しかし、今後の制度運用においては、受入れ人数の拡大だけでは不十分です。国内人材確保の努力、賃金・労働条件の改善、外国人比率の管理、支援体制の適正化、受入企業自身の責任。これらをセットで示さなければ、社会的な理解を得ることは難しくなっていくでしょう。
特定技能制度は、日本人雇用を壊すための制度ではありません。日本人だけでは支えきれない現場を、適正なルールのもとで外国人人材とともに支える制度です。だからこそ、これからの特定技能制度には、単なる受入れ拡大ではなく、より丁寧な制度設計と、企業側の本気の雇用努力が求められています。
外食分野の受入れ停止は、制度の限界ではありません。日本の外国人人材受入れが、「数を増やす時代」から「質を問う時代」へ移ったことを示す、重要な転換点だと考えます。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直

















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