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シンガポールは外国人に寛容な国なのかー在留管理制度と手数料から見る「開かれた国」の現実ー

各国事情

こんにちは。行政書士の稲福です。

今回は、シンガポールの外国人在留管理制度について取り上げたいと思います。日本では近年、在留資格の審査厳格化や、在留手続に関する手数料引上げが議論されています。

その中で、

「日本が外国人に厳しくなれば、外国人から選ばれなくなる」
「手数料を上げると、親日イメージが悪くなる」
「海外ではもっと外国人に優しい」

といった意見も見られます。しかし、海外の制度を見てみると、必ずしもそう単純ではありません。特にシンガポールは、外国人材を積極的に活用している国として知られています。

一方で、その在留管理制度はかなり明確で、厳格です。シンガポールは外国人に開かれた国であると同時に、誰でも自由に長く滞在できる国ではありません。むしろ、職種、給与、雇用主、人数枠、企業負担を細かく管理しながら、必要な外国人材を受け入れている国だといえます。

日本の在留制度を考えるうえでも、シンガポールの制度は非常に参考になりますので、できる限りわかりやすく解説していきたいと思います。

✅ この記事でわかること
  • シンガポールの就労系在留資格の主な種類
  • Employment Pass・S Pass・Work Permitの違い
  • 給与水準・職種・雇用主責任が重視される理由
  • 外国人雇用における企業負担・人数枠・保証金制度
  • 「外国人に優しい国」と「在留管理が甘い国」は違うという視点
  • 日本の在留管理制度や手数料議論を考えるうえでの参考点

シンガポールの就労系在留資格は、主に人材省、MOMが管轄しています。

代表的な制度としては、次のようなものがあります。

・Employment Pass
・S Pass
・Work Permit
・EntrePass
・Dependant’s Pass
・Long-Term Visit Pass
・Permanent Resident

日本の在留資格制度では、「技術・人文知識・国際業務」「経営・管理」「特定技能」など、活動内容ごとに在留資格が分かれています。

一方、シンガポールでは、よりはっきりと、

・高所得専門職か
・中技能人材か
・現場労働者か
・起業家か
・家族滞在か
・永住者か

という形で区分されています。

つまり、外国人本人の能力だけではなく、給与水準、職種、雇用主の責任、産業政策との関係が強く反映されています。

Employment Pass、いわゆるEPは、外国人の専門職、管理職、経営幹部、技術者向けの就労資格です。

シンガポール人材省は、Employment Passについて、外国人の専門職、管理職、経営幹部、技術者がシンガポールで就労するためのパスと説明しており、候補者には一定以上の月給が求められます。MOMの説明では、原則として月給5,600シンガポールドル以上が必要とされています。日本の制度でいえば、「技術・人文知識・国際業務」や高度専門職に近い面があります。

ただし、シンガポールの場合、給与水準がかなり明確に制度上の基準として示されている点が特徴です。単に「専門的業務であるか」だけではなく、「その人材に相応の給与が支払われているか」が強く見られます。

Employment Passの手数料は、申請時に105シンガポールドル、発行時に225シンガポールドルとされています。該当する場合にはMultiple Journey Visaの費用30シンガポールドルも必要です。つまり、申請するだけでも費用がかかり、許可後の発行時にも別途費用が発生する仕組みです。

S Passは、中技能人材向けの就労資格です。日本の制度でいえば、特定技能と技人国の中間に近いイメージで捉えるとわかりやすいかもしれません。

S Passも、単に雇用契約があるだけで認められるものではありません。給与要件、職務内容、企業側の外国人雇用枠などが関係します。S Passの申請では、申請時に105シンガポールドル、発行時に100シンガポールドルの費用がかかります。MOMは、S Passの発行手続において、パスごとに100シンガポールドルの発行費用が必要であると案内しています。

ここでも重要なのは、外国人本人だけではなく、雇用主側が制度上の条件を満たしているかが問われる点です。日本の特定技能制度でも、受入企業の適格性、雇用条件、支援体制、法令遵守状況が審査されます。シンガポールも同様に、外国人を雇う企業側に一定の責任を負わせる制度設計になっています。

Work Permitは、建設、製造、サービス、家事労働など、比較的現場系の外国人労働者に使われる制度です。この制度は、シンガポールの外国人労働力を支える重要な制度ですが、決して自由な制度ではありません。

Work Permitでは、産業ごとの人数枠、外国人雇用税、保証金などが重要になります。MOMは、Work Permit保有者を雇用する場合、産業ごとの外国人雇用枠があり、雇用主は各Work Permit保有者について毎月の外国人雇用税を支払う必要があると説明しています。

さらに、外国人雇用税について、MOMはWork Permit保有者に対する毎月の負担であり、外国人労働者の人数を調整するための価格メカニズムであると説明しています。

ここは非常に重要です。

シンガポールは、外国人労働者を受け入れています。しかし、受け入れるだけではなく、企業側に明確なコストを負わせ、そのコストによって外国人雇用の量を調整しています。つまり、「外国人に開かれている国」だからといって、企業が自由に安価な外国人労働力を使えるわけではありません。

Work Permitでは、保証金制度もあります。MOMは、マレーシア人を除くWork Permit保有者を雇用する場合、雇用主は1人につき5,000シンガポールドルのセキュリティボンドを購入する必要があると説明しています。また、その費用を労働者本人に負担させることはできません。

これは、非常に大きなポイントです。日本でも、外国人本人に過大な費用負担をさせることは問題になります。シンガポールでも、企業側に責任を負わせ、本人に転嫁してはならない費用を明確にしています。

外国人労働者を受け入れるのであれば、企業が相応の責任とコストを負う。この考え方は、日本の特定技能制度にも共通する部分があります。

就労資格だけでなく、家族滞在や永住に関する手数料も明確に設定されています。たとえば、ICAが管轄するLong-Term Visit Passでは、申請時に45シンガポールドル、発行時に60シンガポールドルが必要とされています。

また、永住権、Permanent Residentの申請では、申請時に100シンガポールドル、許可後にEntry Permitが20シンガポールドル、5年間のRe-Entry Permitが50シンガポールドル、Singapore Identity Cardが50シンガポールドルとされています。

さらに、短期滞在の延長についても、一定期間を超える場合には延長費用が発生します。ICAは、延長により滞在期間が90日以上となる場合、40シンガポールドルの延長費用がかかると案内しています。

このように、シンガポールでは、申請、発行、延長、再入国許可など、それぞれの手続ごとに費用が明確に設定されています。

シンガポールは、外国人人材を積極的に活用している国です。世界中から高度人材、金融人材、IT人材、起業家、現場労働者を受け入れ、経済成長に結びつけています。その意味では、外国人に開かれた国といえます。

しかし、制度を見る限り、決して在留管理が甘い国ではありません。

むしろ、

・誰を受け入れるのか
・どの業種で受け入れるのか
・どの程度の給与水準を求めるのか
・企業にどの程度の責任を負わせるのか
・人数をどう管理するのか
・コストをどう負担させるのか

がかなり明確です。

つまり、シンガポールは外国人を受け入れながらも、国家としての境界管理をしっかり行っている国だといえます。

日本でも、在留資格の審査厳格化や手数料引上げが議論されています。もちろん、急激な手数料引上げについては、根拠、使途、制度設計を丁寧に説明する必要があります。

なぜその金額なのか。
その費用は何に使われるのか。
外国人本人、企業、行政の負担のバランスは適切なのか。
制度の信頼性向上につながるのか。

これらの説明が不十分なまま負担だけが増えるのであれば、疑問が出るのは当然です。

しかし一方で、「外国人に厳しくすると日本に来なくなる」という単純な議論にも注意が必要です。シンガポールのように、外国人材を積極的に活用している国であっても、在留管理は厳格です。Employment Passでは給与水準が明確に求められ、S PassやWork Permitでは企業側の負担や人数枠があり、Work Permitでは保証金や外国人雇用税もあります。

つまり、外国人に選ばれる国とは、何でも安く、簡単に、自由に滞在できる国という意味ではありません。むしろ、制度が明確で、ルールが安定し、企業側の責任も整理されている国こそ、長期的には信頼されます。

外国人に対して、一定のルールを求めることは、外国人嫌悪ではありません。

在留資格の審査を行うこと。
手続に手数料を設定すること。
企業に雇用責任を求めること。
不適切な受入れを制限すること。
社会保障や医療、教育、労働市場への影響を考えること。

これらは、主権国家として当然の制度運営です。問題は、厳格化そのものではありません。

問題は、その制度設計が合理的かどうか。
説明が尽くされているかどうか。
現場に過度な混乱を与えないかどうか。
本当に制度の適正化につながるかどうか。

です。

この点を分けて考える必要があります。

シンガポールは、外国人材を活用して発展してきた国です。しかし、その在留管理制度は決して緩くありません。

Employment Pass、S Pass、Work Permitなど、職種や給与水準、雇用主責任ごとに制度が細かく分かれています。申請手数料、発行手数料、外国人雇用税、保証金なども明確に設定されています。
つまり、外国人を受け入れる国であっても、制度管理を甘くしているわけではないということです。

日本にとって重要なのは、外国人に対して単に「優しくする」ことでも、「厳しくする」ことでもありません。

必要なのは、制度の透明性と公平性です。

誰を、どの条件で、どの責任分担で受け入れるのか。
そのための手数料や企業負担は、どのような根拠に基づくのか。
行政コストや社会統合コストを、誰がどのように負担するのか。

この議論を避けたまま、「外国人に冷たい」「外国人に選ばれない」とだけ言っても、本質的な議論にはなりません。シンガポールの制度から見えてくるのは、外国j人人材の受入れと厳格な在留管理は、決して矛盾しないという現実です。

むしろ、明確なルールと責任分担があるからこそ、外国人材の受入れは持続可能になるのだと思います。

出入国在留管理局申請取次行政書士
稲福 正直

この記事の監修者
アソシエイツ稲福国際行政書士事務所 行政書士
稲福 正直

アソシエイツ稲福国際行政書士事務所
代表行政書士
沖縄県那覇市出身
明治大学法学部法律学科卒業
東京都行政書士会
会員番号第15128号
専門は、建設特定技能ビザ申請・建設業に係る申請等

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