こんにちは。行政書士の稲福です。
今回は、外国人介護人材の中でも、中国人介護人材の可能性について、私見を交えて解説していきたいと思います。
日本の介護分野では、特定技能、技能実習、在留資格「介護」、EPA介護福祉士候補者、介護福祉士養成校の留学生など、複数のルートで外国人材の受入れが進んでいます。
介護分野の人手不足は深刻であり、今後も外国人介護人材の重要性はさらに高まっていくと考えられます。
一方で、外国人介護人材について議論する際、どうしてもベトナム、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、ネパールなど、人数の多い国に注目が集まりがちです。
もちろん、これらの国々は日本の介護現場を支える重要な人材供給国です。
しかし、私は今後、中国人介護人材にも大きな可能性があると考えています。
特に注目すべきなのは、単に中国人を介護人材として受け入れるという話ではなく、中国側で介護専門教育を受けた人材が、特定技能介護として日本で働きながら介護福祉士を目指すモデルです。
このルートでは、介護福祉士国家試験の合格率が90%を超えるケースもあるとされており、一般的な外国人受験者の平均とはまったく異なる結果が出ています。
- 外国人介護福祉士の合格率の現状
- EPAの国別データに中国が出てこない理由
- 中国人介護人材を単純な統計だけで評価できない理由
- 中国の介護専門学校ルートが注目される背景
- 介護福祉士合格率90%超の育成型モデルの可能性
- 日本の介護施設が中国人材を受け入れる際の視点

外国人介護福祉士の合格率は、全体としては決して高くない
まず、外国人介護人材の介護福祉士国家試験について、全体の状況を確認しておきます。
厚生労働省の資料によると、第38回介護福祉士国家試験におけるEPA介護福祉士候補者の合格者は380名、合格率は31.8%でした。一方、全受験者全体の合格率は70.1%とされています。
EPA介護福祉士候補者については、主にインドネシア、フィリピン、ベトナムが対象です。
そのため、「外国人介護福祉士の国別合格率」と言っても、EPAの国別データだけを見ると、中国は出てきません。
ここがまず重要です。
中国人介護人材を考える場合、EPAではなく、特定技能、留学、介護福祉士養成校、国内在留者、そして中国側の介護専門教育ルートなど、別の視点で見る必要があります。
中国人介護人材は、一般統計だけでは見えにくい
外国人介護福祉士国家試験に関する調査では、中国出身者の合格割合が高い傾向も示されています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査では、回答者全体において、中国出身者86人のうち国家試験合格者の割合は75.6%とされており、フィリピン、ネパール、ミャンマー、インドネシア、ベトナムなどと比較して高い結果が示されています。
もちろん、この調査は回答者ベースのデータであり、日本国内のすべての中国人介護人材を網羅した統計ではありません。しかし、少なくとも、中国人材については、漢字理解、日本語読解、学習習慣、試験対応力という面で、介護福祉士国家試験と相性がよい可能性があります。
介護福祉士国家試験では、介護技術だけでなく、制度、医学、認知症、障害、社会保障、倫理、記録など、幅広い知識が問われます。そのため、日本語の文章を正確に読み取る力が非常に重要です。
この点で、漢字圏である中国人材には一定の強みがあると考えられます。
中国では介護専門教育ルートが出てきている
ここで注目すべきなのが、中国側の教育モデルです。
近年、中国では、国営または公的色彩の強い看護施設や医療・介護関連施設の附属学校において、・看護・介護の専門学校を設ける動きが出ています。そこでは、大卒人材が看護・介護専門課程に入り、日本語と介護知識を体系的に学びます。
そのうえで、日本の特定技能介護として入国し、日本の介護現場で働きながら、介護福祉士国家試験の合格を目指すという流れです。
つまり、これは単なる出稼ぎ型の人材ではありません。
このようなキャリア形成型の人材モデルです。
このルートを経由した中国人介護人材については、介護福祉士国家試験の合格率が90%を超えるケースもあるとされています。
これは、一般的な外国人受験者平均とはまったく異なる水準です。
なぜ中国の大卒者が看護・介護学校で学ぶのか
中国人介護人材を考えるうえで、まず理解しておくべきなのは、なぜ中国の大卒者があえて看護・介護系の専門学校に入り、日本の介護を学ぶのかという点です。
背景には、中国国内の就職環境の厳しさがあります。
現在、中国では大卒者の就職が非常に厳しくなっており、大学を卒業したからといって、必ずしも安定した職業に就ける時代ではなくなっています。
一方で、中国社会では、日本以上のスピードで少子高齢化が進んでいます。今後、中国国内では、介護施設、在宅介護、認知症ケア、高齢者向けサービス、介護人材教育などの分野が、巨大なマーケットになっていく可能性があります。
しかし、中国の介護業界は、まだ日本ほど現場ノウハウが蓄積されているとはいえません。介護技術、認知症ケア、利用者への接遇、介護記録、事故防止、チームケア、人材育成、施設運営などの面では、日本の介護現場から学べることが多くあります。
そこで、中国の大卒人材が、看護・介護系の専門学校で基礎を学び、その後、日本へ特定技能の在留資格で入国し、実際の介護現場で働きながら、日本式の介護を学ぶという流れが生まれています。
これは、単に日本で働いて収入を得るためだけのルートではありません。日本の介護現場で経験を積み、将来的には介護福祉士の資格取得を目指す。そして、その経験や資格を活かして、中国へ帰国後、中国国内の介護業界で活躍する。このようなキャリア形成を前提としたルートです。
特に、中国側の国営企業や公的色彩のある介護・医療関連機関が関与する場合、日本で介護を学び、介護福祉士資格を取得した人材は、帰国後に幹部候補や教育担当、施設運営の中核人材として期待される可能性があります。
つまり、中国人介護人材の一部は、単なる出稼ぎ型の人材ではなく、日本で介護を学び、中国の介護業界で将来活躍することを見据えたキャリア形成型人材として見るべきです。
この視点を持つと、中国の大卒者が看護・介護学校で学ぶ理由が見えてきます。彼らにとって、日本で介護を学ぶことは、単なる就職先の確保ではなく、将来の中国国内でのキャリア価値を高めるための投資でもあるのです。
日本への定住だけを前提にしないからこそ、特定技能制度と相性がよい
特定技能1号は、制度上、通算在留期間が原則5年以内とされており、無期限の定住を前提とした在留資格ではありません。
そのため、中国側で介護を学んだ人材が、日本の介護現場で一定期間実務経験を積み、その後、中国へ戻って介護施設の運営、介護教育、現場管理、日系介護事業などに関わるというキャリアは、特定技能1号の制度設計とも親和性があります。
もちろん、すべての人材が5年で帰国するわけではありません。介護分野では、介護福祉士に合格し、在留資格「介護」へ移行して日本で長期的に活躍する道もあります。また、分野によっては特定技能2号へ移行し、より長期的に就労できる可能性もあります。
しかし、実務上は、介護福祉士合格や特定技能2号への移行を前提にできる人材は一定数に限られます。だからこそ、中国人介護人材を「日本に定住する人材」としてだけ見るのではなく、「日本で学び、働き、経験を積み、その経験を中国でも活かす循環型人材」として捉えることが重要です。
大切なのは、中国人介護人材を「定住する人材」か「帰国する人材」かという二択で見るのではなく、日本での就労経験を将来のキャリアに接続できる人材として見ることです。特定技能1号の5年という期間を、単なる期限ではなく、介護人材を育成する実務経験の期間として捉えることで、中国人介護人材の可能性はより大きく見えてきます。
キャリア形成型人材は、給料目的の転職に流れにくい
中国の介護専門学校ルートで来日する人材については、定着面でも大きな可能性があります。
一般的に、特定技能人材の受入れでは、入国後の転職リスクが課題になることがあります。特に、給与条件だけを目的に来日している場合、少しでも高い給与を提示する施設や企業があれば、短期間で転職を希望するケースもあります。
もちろん、より良い労働条件を求めること自体は、労働者として当然の権利です。しかし、受入れ企業の立場からすると、せっかく教育し、現場に慣れてもらった人材が短期間で転職してしまうと、採用計画や人員配置に大きな影響が出ます。
この点、中国の介護専門学校ルートの人材は、単なる給与目的ではなく、キャリア形成を目的として来日している点に特徴があります。彼らにとって重要なのは、日本で一定期間しっかり働き、介護実務を学び、介護福祉士資格の取得を目指し、その実績をもって中国へ帰国後のキャリアにつなげることです。
つまり、日本での勤務先は、単なる一時的な就労先ではなく、将来のキャリア形成のための重要な実務経験の場になります。
また、中国側の学校や送り出し機関、国営企業・関連機関との関係を前提にしている場合、日本での勤務態度や職場での評価は、帰国後の処遇にも影響する可能性があります。将来的に、中国側で幹部候補や教育担当、施設運営の中核人材として迎えられることを目指すのであれば、日本で短期間に転職を繰り返すことは、本人にとってもマイナスになり得ます。
この点は、中国社会における信用や面子の問題とも関係します。
送り出した学校や関係機関の期待を背負って日本に来ている以上、安易な転職や職場トラブルは、本人だけでなく、送り出し側の評価にも影響する可能性があります。そのため、給与だけを理由に短期的な転職へ流れにくいという抑止力が働きやすいのです。
受入れ企業にとっても、この点は大きなメリットです。単に人手不足を埋めるための採用ではなく、数年単位で育成し、介護福祉士取得まで支援し、将来的には現場リーダーや教育係として活躍してもらうキャリアプランを描きやすくなります。
もちろん、適正な給与、労働環境、教育体制、生活支援が整っていることは大前提です。しかし、中国の介護専門学校ルートのように、本人の目的が明確で、帰国後のキャリアとも結びついている人材であれば、受入れ企業としても長期的な育成計画を立てやすいといえます。
このような人材は、単なる労働力ではありません。日本の介護現場で経験を積み、資格を取得し、将来的には日中の介護人材交流を担う可能性のある、キャリア形成型の介護人材です。
なぜ中国ルートでは合格率が高くなるのか
中国の介護専門学校ルートで合格率が高くなる理由は、いくつかあります。
第一に、大卒人材が多いことです。大卒人材は、試験勉強に慣れており、体系的に学ぶ力があります。
介護福祉士国家試験は、現場経験だけで合格できる試験ではありません。制度や医学、福祉、認知症、障害、社会保障など、幅広い知識を整理して理解する必要があります。その意味で、学習経験のある人材は有利です。
第二に、来日前から介護を専門的に学んでいることです。単に日本語だけを学んでから来日するのではなく、介護の基礎知識、介護技術、日本の介護現場で使われる考え方を事前に学んでいる場合、日本での実務経験と試験対策が結びつきやすくなります。
第三に、漢字理解の強みです。介護福祉士国家試験では、「認知症」「身体拘束」「介護過程」「自立支援」「障害福祉」「社会保障」「感染症対策」など、漢字を含む専門用語が多く出てきます。
非漢字圏の外国人にとっては、これらの専門用語を覚えるだけでも大きな負担になります。一方、中国人材の場合、意味を完全に同じように理解できるわけではないとしても、漢字から概念をつかみやすいという強みがあります。
第四に、帰国後のキャリアが明確であることです。日本で介護福祉士に合格することが、本人にとっても、中国側の学校や施設にとっても価値になります。
日本で資格を取り、日本式介護を学び、中国に戻って介護施設、介護教育、介護管理、日系介護事業などに関わることができる。このような将来像があるため、本人の学習意欲も高くなりやすいのです。
中国人介護人材は「大量採用型」ではなく「育成型」で見るべき
中国人介護人材については、ベトナム、インドネシア、ミャンマー、ネパールなどと比べると、人数規模では大きくないかもしれません。しかし、人数だけで評価すると見誤ります。
中国人介護人材は、大量採用型というより、介護福祉士合格型・将来のリーダー育成型として見るべきです。特に、次のような施設では相性がよいと考えられます。
このような施設にとって、中国人介護人材は、単なる人手不足対策ではなく、将来の介護人材育成戦略の一部になり得ます。
特定技能介護から介護福祉士へつなげることが重要
日本側の受入施設にとって重要なのは、特定技能で採用して終わりにしないことです。特定技能介護は、介護現場で働くための重要な在留資格です。
しかし、本人が長く日本で活躍し、より安定したキャリアを築くためには、介護福祉士の取得が大きな意味を持ちます。介護福祉士に合格すれば、在留資格「介護」への移行も視野に入ります。
つまり、施設側は、採用時点から次のような視点を持つ必要があります。単に人手不足を埋める人材として採用するのか。それとも、将来的に介護福祉士を目指す人材として育成するのか。
この違いは非常に大きいです。
中国の介護専門学校ルートのように、来日前から介護福祉士取得を見据えている人材であれば、施設側も教育計画を立てやすくなります。
日本の介護施設に求められる受入れ体制
中国人介護人材の可能性を活かすには、日本側の受入施設にも体制が必要です。
たとえば、次のような点です。
介護福祉士の合格率を高めるには、本人の努力だけでは限界があります。施設側が、働かせるだけでなく、育てる姿勢を持てるかどうか。
ここが大きな分かれ目です。
中国の高齢化と日本式介護の可能性
中国でも高齢化は進んでいます。今後、中国国内でも、介護人材、介護管理者、介護教育者、介護施設運営の専門人材が必要になっていくはずです。
その中で、日本で介護を学び、介護福祉士に合格した中国人材は、中国国内でも価値を持つ可能性があります。日本の介護現場で、利用者への接し方、認知症ケア、身体介護、生活支援、記録、チームケア、事故防止、感染症対策などを学ぶ。
その経験を持って中国に戻る。これは、単なる労働力の移動ではありません。日本の介護技術・介護理念を、中国の介護業界に還元する人材循環モデルとも言えます。
この点で、中国人介護人材は、日本にとっても、中国にとっても、非常に意味のある存在になり得ます。
ただし、受入れには注意点もある
もちろん、中国人介護人材だからといって、すべてが簡単に進むわけではありません。注意すべき点もあります。
まず、本人が本当に介護職を希望しているかどうかです。
大卒人材の場合、介護職に対する期待と現場の実態にギャップが出ることがあります。介護現場は、身体介助、排泄介助、入浴介助、夜勤、記録、利用者や家族との対応など、精神的にも体力的にも負担の大きい仕事です。来日前に、仕事内容を正確に説明しておく必要があります。
次に、将来のキャリア設計です。
日本で長く働きたいのか。介護福祉士を取って在留資格「介護」に移行したいのか。一定期間働いた後、中国へ帰国して介護業界に貢献したいのか。本人の希望を確認したうえで、施設側も受入れ方を考える必要があります。
また、中国側の学校や送り出しルートについても、教育内容、費用負担、本人への説明、契約内容などを確認することが重要です。高い合格率が期待できるルートであっても、本人保護や適正な手続きが前提です。
中国人介護人材は、日本の介護業界にとって重要な選択肢になる
これまで、日本の介護分野では、外国人材というと、東南アジア諸国を中心に考えられることが多かったと思います。しかし、今後は中国人介護人材も、重要な選択肢になる可能性があります。
特に、国営系・公的色彩のある看護施設や介護関連施設の附属学校で介護を学び、大卒人材が特定技能介護として来日し、日本で介護福祉士を取得するモデルは、非常に注目すべきです。
このモデルは、単なる人手不足対策ではありません。
日本で介護を学ぶ。
日本で介護福祉士を取得する。
日本の介護現場で活躍する。
将来的には中国の介護業界にも貢献する。
このような流れは、日本の介護業界にとっても、中国の介護業界にとっても、双方にメリットがあります。
さいごに
外国人介護人材を考えるとき、人数の多い国だけを見るのではなく、どのような教育を受け、どのような目的で来日し、どのようなキャリアを描いているのかを見ることが重要です。
中国人介護人材については、一般的な統計だけでは見えにくい可能性があります。特に、介護専門学校ルートを経由し、特定技能介護として日本で働きながら介護福祉士を目指す人材は、非常に高い合格率を出す可能性があります。
介護福祉士合格率90%超という数字は、単なる偶然ではなく、大卒人材、漢字圏、専門教育、日本語教育、明確なキャリア設計が組み合わさった結果だと考えられます。
日本の介護施設にとって、中国人介護人材は、単なる労働力ではありません。将来の介護福祉士候補であり、現場リーダー候補であり、日中の介護人材交流を担う存在にもなり得ます。
今後の外国人介護人材戦略では、ベトナム、インドネシア、ミャンマー、ネパール、フィリピンといった主要国に加えて、中国の育成型介護人材ルートにも注目していく必要があるかもしれません。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直
















コメント