こんにちは。行政書士の稲福です。
建設分野の特定技能制度では、深刻な人手不足を背景に、多くの企業が外国人材の採用を進めています。しかし、実際に受入企業から相談を受けていると、しばしば聞かれるのが、「建設分野では人材紹介会社を使えないのですか?」「海外の送り出し機関から直接採用するしかないのでしょうか?」という質問です。
外食業や介護分野では、有料職業紹介会社を利用して外国人材を採用することが一般的ですが、建設分野では事情が異なります。建設業務については、職業安定法上の規制により、通常の有料職業紹介事業による人材紹介を行うことができず、無料職業紹介事業によるマッチングが前提となっています。
もっとも、現場感覚としては、無料職業紹介だけで建設分野の人材需要を十分に支えられているとは言い難い状況があります。今回は、建設分野における無料職業紹介制度の概要と、現場で感じる制度上の課題について解説します。
- 建設分野で有料職業紹介が制限されている理由
- 建設分野における無料職業紹介制度の概要
- JAC(建設技能人材機構)の役割
- 現場で生じている課題
- 受入企業が注意すべきポイント

建設分野では有料職業紹介が認められていない
職業安定法では、建設業務について、有料職業紹介事業による職業紹介が原則として認められていません。ここでいう建設業務とは、土木・建築その他工作物の建設、改造、修理、解体などの作業や、その準備作業に係る業務を指します。厚生労働省の説明でも、有料職業紹介事業で取り扱える職業の範囲から、港湾運送業務と建設業務は除かれています。(都道府県労働局所在地一覧)
そのため、建設分野の特定技能外国人についても、外食業や介護分野などで一般的に見られるような、採用決定時に紹介手数料・成功報酬を受け取る形での人材紹介はできません。たとえ対象者が外国人であり、在留資格が「特定技能」であったとしても、実際に従事する業務が建設業務に該当する場合には、職業安定法上の規制を受けることになります。
一方で、厚生労働大臣の許可を受けた無料職業紹介事業者であれば、求人企業と求職者をマッチングすること自体は可能です。つまり、建設分野で特定技能外国人を求人企業に紹介する場合には、有料職業紹介ではなく、無料職業紹介の枠組みで行う必要があります。
ここで注意すべき点は、「無料職業紹介」とは、単に求職者から手数料を取らなければよいという意味ではないことです。求人企業からも、紹介の対価として手数料や成功報酬を受け取ることはできません。名目を「コンサルティング料」「事務手数料」「業務委託費」などに変えたとしても、実質的に職業紹介の対価と評価される場合には、職業安定法上問題となる可能性があります。
したがって、建設分野の特定技能外国人材の受入れにおいては、次の点を整理しておく必要があります。
・建設業務に該当する求人かどうか
・有料職業紹介として取り扱っていないか
・無料職業紹介事業の許可を取得しているか
・受け取る費用が、職業紹介の対価と評価されない内容か
・登録支援機関としての支援委託費と、職業紹介の対価が明確に区分されているか
特に、登録支援機関が建設分野の特定技能外国人に関与する場合には、「支援委託費」と「紹介料」の区別が重要になります。登録支援機関として、入国後の生活支援、定期面談、相談対応、日本語学習支援、行政機関への届出補助などを行い、その対価として支援委託費を受け取ること自体はあり得ます。
しかし、その費用が実質的に「人材を紹介したことへの成功報酬」と見られる場合には、無料職業紹介の範囲を超えるおそれがあります。
そのため、建設分野で外国人材の採用支援を行う場合には、単に「紹介料を取らない」と説明するだけでは不十分です。求人・求職のマッチング、在留資格申請、登録支援機関としての支援業務、採用後の定着支援など、それぞれの業務内容と費用の位置づけを明確に整理し、職業紹介の対価と誤解されない運用を行うことが重要です。
JACによる無料職業紹介制度
建設分野の特定技能制度では、受入企業は一般社団法人建設技能人材機構(JAC)へ加入する必要があります。JACでは、特定技能外国人と受入企業とのマッチングを目的とした無料職業紹介事業を実施しています。
制度上は、この仕組みによって受入企業と外国人人材を結び付けることが想定されています。しかし、現場では十分に機能しているとは言い難いです。もちろん、JACによる無料職業紹介は一定の役割を果たしています。しかし、実際に企業から相談を受けていると、
・希望する国籍の人材が見つからない
・経験者を採用したいが応募が少ない
・地方企業には応募が集まりにくい
・急ぎで採用したい案件に対応しにくい
といった声を聞くことも少なくありません。
特に地方の建設会社では、「JACに求人を出しても応募がない」という話を耳にすることもあります。
結果として、多くの企業が海外の送り出し機関から直接人材の紹介を受けることになります。
海外の送り出し機関との直接取引は容易ではない
もっとも、海外の送り出し機関と直接契約することは、中小企業にとって決して簡単ではありません。例えば、
このような業務を、海外機関とやり取りしながら進める必要があります。そのため、実務上は、登録支援機関や行政書士が間に入って調整を行うケースも少なくありません。
別名目」で紹介料を受領することには注意が必要
建設分野では、無料職業紹介の許可を取得している事業者が、
・採用支援費
・コンサルティング料
・海外調整費
・現地サポート費
などの名目で費用を受領しているケースも見受けられます。
しかし、名目が何であれ、実態として「求職者と求人企業を結び付け、その対価として報酬を受領している」と評価される場合には、実質的な有料職業紹介と判断される可能性があります。
特に、「1名採用につき○万円」「採用決定時のみ費用が発生する」という成功報酬型の契約については慎重な検討が必要でしょう。
制度と現場との間にギャップがあるのではないか
個人的には、現在の制度は、必ずしも建設現場の実態に十分対応できているとは言い切れない部分があるように感じています。
建設業界では、慢性的な人手不足が続いており、若年層の入職者減少や技能者の高齢化も大きな課題となっています。その中で、特定技能外国人に対する期待は年々高まっており、実際に多くの建設会社が外国人人材の採用を検討しています。
しかし、建設業務については有料職業紹介が認められていないため、一般的な人材紹介会社のように、採用決定時に紹介手数料を受け取る形でのマッチングはできません。制度上は、厚生労働大臣の許可を受けた無料職業紹介事業者によるマッチングが基本となります。
もちろん、建設業務における労働者保護や中間搾取の防止という観点から、一定の規制が必要であることは理解できます。特に、外国人人材は日本の制度や労働慣行に不慣れなことも多く、不適切な手数料徴収や不透明な契約から守る必要があります。
一方で、現場の実態を見ると、無料職業紹介だけで企業側の人材需要を十分に満たせているとは言い切れないのも事実です。建設分野の特定技能外国人を採用する場合、単に求人企業と求職者を引き合わせればよいわけではありません。候補者の募集、海外の送り出し機関との調整、面接時の通訳、雇用条件の説明、在留資格申請、建設分野特有の受入計画、入国後の生活支援、定着支援など、多くの実務が発生します。
そのため、制度上は「無料職業紹介」であっても、実務上は在留資格申請、登録支援機関としての支援、採用コンサルティング、入国後の生活支援など、複数の周辺サービスを組み合わせることで採用支援ビジネスが成立しているケースもあります。
ここで重要なのは、それらの費用が本当に各サービスの対価として合理的に説明できるものなのか、それとも実質的には「紹介料」や「成功報酬」の名目変更にすぎないのか、という点です。名目上はコンサルティング料や支援委託費であっても、採用決定を条件として発生する費用であったり、候補者紹介の対価と評価されるような運用であれば、職業安定法上の問題が生じる可能性があります。
現行制度の趣旨を踏まえれば、外国人人材や建設労働者の保護は当然に重視されるべきです。しかし同時に、受入企業が適切な人材にアクセスできず、結果として人手不足が解消されないのであれば、制度と現場の間にギャップが生じているともいえます。
今後は、単に規制を緩和すべきかどうかという議論ではなく、労働者保護を維持しながら、適正なマッチング機能をどのように確保するのかが重要になると思います。例えば、費用の透明化、契約内容の明確化、支援業務と職業紹介業務の区分、行政による監督体制の強化などを前提に、建設分野における外国人材の採用支援のあり方を改めて検討する余地があるのではないでしょうか。
建設業界の人手不足は、すでに個別企業だけの問題ではなく、社会インフラの維持にも関わる課題です。だからこそ、制度の趣旨を守りながらも、現場で実際に機能する、より透明性の高い制度設計について議論を深めていく必要があると感じています。
まとめ
建設分野の特定技能制度では、有料職業紹介が認められておらず、無料職業紹介が前提となっています。しかし、現場では無料職業紹介だけでは十分なマッチングが行われていないという声もあり、制度と実務との間にギャップが存在していることも事実です。
受入企業としては、制度を正しく理解するとともに、契約内容や費用の実態を十分確認した上で、適法な形で人材確保を進めることが重要といえるでしょう。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直
















コメント