こんにちは。行政書士の稲福です。
特定技能外国人の受入れについて、受入れ企業や登録支援機関からご相談をいただく中で、特に慎重に確認すべき論点の一つが「非自発的離職」です。
特に多いのが、
「会社都合で退職者が出ているが、特定技能外国人を受け入れられるのか」
「日本人を退職させた後に、特定技能外国人を採用してもよいのか」
「退職勧奨や雇止めは非自発的離職に当たるのか」
「非自発的離職があると、所属機関にどのようなリスクがあるのか」
「登録支援機関にも責任が及ぶのか」
「届出をしなかった場合、ペナルティはあるのか」
というご相談です。
特定技能制度では、単に外国人本人が技能試験や日本語試験に合格していればよいわけではありません。受入れ企業、つまり特定技能所属機関が制度上の基準を満たしているかどうかも重要な審査対象になります。
その中でも、非自発的離職は、受入れ企業の適格性や雇用継続性に直結する重要なポイントです。
この記事では、特定技能における非自発的離職の考え方、自己都合退職との違い、所属機関が受けるリスク、登録支援機関に及ぶリスク、届出義務、ペナルティ、そして実務上注意すべき対応について解説します。
当事務所では、特定技能外国人の受入れに伴う在留資格申請、受入れ機関側の書類整備、登録支援機関との連携、退職・転職・受入れ困難時の実務対応まで、必要に応じてサポートしております。
- 特定技能における非自発的離職とは何か
- 自己都合退職と非自発的離職の違い
- どのような退職が問題になりやすいか
- 所属機関が負うリスク
- 登録支援機関に及ぶリスク
- 非自発的離職がある場合の申請上の影響
- 届出義務と届出漏れのリスク
- 受入れ困難時に必要となる対応
- 実務上トラブルを防ぐためのポイント

特定技能制度では「雇用の安定性」が重視される
特定技能制度は、人手不足が深刻な分野において、一定の技能を有する外国人を受け入れる制度です。
しかし、制度の趣旨は、単に人手不足を補うことだけではありません。外国人本人が安定して働くことができ、適正な雇用条件のもとで継続的に就労できることが前提になっています。そのため、特定技能所属機関には、報酬、労働時間、社会保険、支援体制、法令遵守状況など、多くの基準が求められます。
その中で重要になるのが、過去に労働者を非自発的に離職させていないかという点です。なぜなら、直近で日本人や外国人を会社都合で離職させているにもかかわらず、新たに特定技能外国人を受け入れる場合、入管から見ると、
「本当に雇用を継続できるのか」
「人員整理の代替として外国人を受け入れようとしていないか」
「外国人を安易な労働力として扱っていないか」
「受入れ後に同じように離職させる可能性はないか」
という疑義が生じます。
特定技能制度における非自発的離職の確認は、受入れ企業の信用性や継続雇用の見込みを判断するための重要なチェック項目です。
非自発的離職とは何か
非自発的離職とは、簡単にいうと、労働者本人の自由な意思による退職ではなく、会社側の事情や働きかけによって離職に至ったものをいいます。
典型的には、次のようなケースです。
ここで注意すべきなのは、形式上「自己都合退職」とされていても、実態として会社側の事情による退職であれば、非自発的離職と評価される可能性があるという点です。
たとえば、退職届が出ている場合でも、その前提として会社から強い退職勧奨があった場合や、実質的に退職せざるを得ない状況に追い込まれていた場合には、単純な自己都合退職とはいえません。
特定技能の実務では、書類上の形式だけでなく、退職に至った経緯や実態が重要になります。
自己都合退職との違い
自己都合退職とは、労働者本人の意思により、自ら退職を申し出るケースです。
たとえば、
・転職したい
・家庭の事情で退職したい
・帰国したい
・体調面の理由で退職したい
・本人の希望で別の仕事に移りたい
といった事情で、会社側からの働きかけではなく、本人の自由な意思によって退職する場合は、通常、自己都合退職と整理されます。
一方で、次のような場合は注意が必要です。
・会社から退職を促された
・契約更新しないと言われた
・勤務日数や給与が大きく減らされた
・仕事がなくなったと言われた
・退職届を書くよう求められた
・辞めなければ不利益があると示唆された
このような場合、たとえ退職届の形式が本人都合になっていても、実態としては非自発的離職と判断される可能性があります。
特定技能では、「退職届があるから大丈夫」と安易に考えるのは危険です。重要なのは、本人が本当に自由意思で退職したのか、会社側の事情や誘導がなかったのかという点です。
非自発的離職が問題になる理由
特定技能所属機関には、外国人を安定的かつ継続的に雇用できる体制が求められます。そのため、直近で労働者を非自発的に離職させている場合、入管からは次のような点を確認される可能性があります。
・経営状況に問題はないか
・雇用継続能力があるのか
・人員削減中ではないか
・日本人や既存外国人を退職させて、新たに特定技能外国人を受け入れようとしていないか
・同種業務の労働者を離職させていないか
・特定技能外国人の受入れ後も安定雇用が見込めるか
特定技能は、人手不足分野での受入れ制度ですが、既存労働者を会社都合で離職させながら、新たに外国人を受け入れることを無制限に認める制度ではありません。
特に、同種業務に従事する労働者を非自発的に離職させている場合には、受入れの必要性や適格性について慎重に見られます。
所属機関のリスク
非自発的離職が発生した場合、最も大きなリスクを負うのは特定技能所属機関です。所属機関のリスクは、大きく分けると次のとおりです。
特に問題になるのは、非自発的離職があるにもかかわらず、その事実を正確に説明せずに申請を進めてしまうケースです。入管申請では、所属機関の状況について各種書類で説明します。ここで事実と異なる説明をした場合、後に発覚した際のリスクは非常に大きくなります。
「自己都合退職として処理しているから問題ない」
「退職届があるから説明しなくてもよい」
「申請書に書かなければ分からない」
という考え方は危険です。
特定技能の申請では、雇用保険、社会保険、給与台帳、退職経緯、過去の受入れ状況など、さまざまな資料との整合性が見られます。形式だけ整えても、実態と矛盾があれば問題になります。
新規受入れへの影響
非自発的離職がある場合、新たな特定技能外国人の受入れが難しくなることがあります。特定技能所属機関には、一定期間内に同種業務の労働者を非自発的に離職させていないことが求められます。これは、受入れ企業が安定して雇用を継続できる状態にあるかを確認するためです。
たとえば、飲食店が人件費削減のために日本人スタッフを退職させた直後に、外食業分野の特定技能外国人を新たに受け入れようとする場合、入管からは当然に疑義が生じます。
また、介護施設、宿泊施設、製造業、ビルクリーニング業などでも同様です。同じ業務に従事していた労働者を会社都合で離職させているにもかかわらず、同じ業務で特定技能外国人を受け入れる場合には、なぜその受入れが必要なのか、なぜ雇用継続が可能なのか、慎重な説明が必要になります。
非自発的離職があると、直ちに受入れ停止になるのか
非自発的離職が発生したからといって、直ちに会社全体で特定技能外国人の受入れが全面的に停止されるわけではありません。
もっとも、特定技能制度では、受入れ機関が安定して雇用を継続できるかどうかが重要な審査対象になります。そのため、一定期間内に同種業務の労働者を非自発的に離職させている場合には、新規受入れ、在留資格変更申請、在留資格認定証明書交付申請において、受入れの必要性や雇用継続性について慎重に確認される可能性があります。
つまり、非自発的離職は「発生したら即受入れ不可」という単純な問題ではなく、離職の時期、対象業務、退職に至った経緯、会社の経営状況、既存外国人への影響、届出や支援対応の有無を踏まえて、個別に判断される論点です。
特に危険なのは、非自発的離職の事実を隠したまま申請を進めることです。
非自発的離職があること自体よりも、必要な届出をしていない、本人への支援を行っていない、退職理由を実態と異なる形で説明している、登録支援機関と情報共有していない、といった対応の方が、所属機関の信用性に大きく影響します。
そのため、非自発的離職が発生した場合には、受入れ可否を一律に判断するのではなく、退職理由、本人の意思、同種業務性、届出の要否、今後の雇用継続見込みを整理したうえで、申請前に説明方針を検討することが重要です。
既存の特定技能外国人への影響
非自発的離職が問題になるのは、新規受入れだけではありません。すでに特定技能外国人を雇用している場合にも、会社の経営状況や雇用継続性に疑義が生じる可能性があります。たとえば、事業縮小や店舗閉鎖により、特定技能外国人の雇用継続が困難になった場合、所属機関は必要な届出や支援を行う必要があります。
特定技能外国人が会社都合で退職せざるを得なくなった場合には、単に退職手続きを行えばよいわけではありません。本人が引き続き日本で就労を希望する場合には、転職先を探すための支援、ハローワークの案内、必要な情報提供など、制度上求められる対応を行う必要があります。
ここを怠ると、所属機関としての適正性に疑義が生じます。
受入れ困難時の届出
特定技能外国人の受入れ継続が困難になった場合、所属機関には届出義務があります。
たとえば、
・事業縮小により雇用継続が難しい
・店舗閉鎖により配置先がなくなった
・会社都合で退職となる
・雇用契約を終了する
・支援の継続が困難になる
といった場合には、必要な届出を行う必要があります。この届出を怠ると、単なる事務ミスでは済まされない可能性があります。
特定技能制度では、受入れ後の届出義務が非常に重要です。入管は、許可時だけでなく、許可後の運用状況も確認しています。届出漏れがあると、今後の申請や更新に影響するだけでなく、悪質な場合には罰則の対象となる可能性もあります。
ペナルティの考え方
非自発的離職そのものが直ちに罰則になるというよりも、問題は次のような行為です。
特定技能制度では、届出義務違反について罰則が設けられています。届出を怠った場合や虚偽の届出を行った場合には、罰金の対象となる可能性があります。
また、罰則だけでなく、実務上は「今後の受入れが難しくなる」というリスクの方が大きい場合もあります。入管から見て、適正な受入れ機関ではないと評価されると、新規申請、更新申請、追加受入れ、転職受入れなどに影響する可能性があります。
特定技能では、一度信用を失うと、その後の申請で説明負担が重くなります。
登録支援機関のリスク
非自発的離職が発生した場合、登録支援機関にもリスクが及ぶことがあります。
登録支援機関は雇用主ではありません。そのため、非自発的離職そのものの一次的な責任は、原則として所属機関にあります。
しかし、登録支援機関が支援業務を受託している場合には、本人からの相談対応、定期面談、生活支援、転職支援、関係機関への案内など、制度上求められる支援を適切に行う必要があります。
たとえば、次のような場合は登録支援機関にも問題が生じます。
・本人から退職相談を受けていたのに放置した
・会社都合退職の可能性を把握していたのに対応しなかった
・支援記録を作成していなかった
・定期面談で問題を把握できていなかった
・所属機関に必要な届出を案内しなかった
・本人の転職支援を行わなかった
・自己都合退職として処理するよう誘導した
・事実と異なる説明に協力した
登録支援機関は、単に通訳や生活案内をするだけの立場ではありません。特定技能外国人が適正に就労・生活できるよう支援する責任があります。そのため、非自発的離職が発生した場面で、登録支援機関が何を把握し、どのように対応したかは非常に重要です。
登録支援機関の登録取消しリスク
登録支援機関が適切な支援を行っていない場合、登録取消しや業務停止につながる可能性があります。
特に、
・支援を実施していない
・支援記録がない
・虚偽の報告をした
・本人の相談に対応していない
・所属機関と一体となって不適切な処理をした
といった場合には、登録支援機関としての適格性が問題になります。非自発的離職が発生した場合、登録支援機関として重要なのは、事実を隠すことではありません。
むしろ、
・本人の意思確認
・退職理由の確認
・所属機関への助言
・必要な届出の案内
・転職支援の実施
・支援記録の作成
・入管への説明に耐えられる記録化
を行うことが重要です。
よくある危険な対応
実務上、特に危険なのは次のような対応です。
「自己都合退職ということにしておこう」
「退職届を書いてもらえば大丈夫」
「本人が辞めたいと言った形にすればよい」
「届出しなければ分からない」
「支援記録は後から作ればよい」
「登録支援機関には詳しく伝えなくてよい」
「入管に聞かれたら説明すればよい」
これらは非常に危険です。
特定技能制度では、本人、所属機関、登録支援機関の三者の動きが記録として残ります。雇用契約、給与、社会保険、退職日、支援記録、届出日、本人の説明が矛盾していると、後から問題になります。
特に、本人が後日「本当は辞めたくなかった」「会社から辞めるように言われた」「退職届を書かされた」と説明した場合、所属機関や登録支援機関の対応が厳しく見られる可能性があります。
実務上の整理
非自発的離職が疑われる場合には、まず次の点を整理する必要があります。
ここを曖昧にしたまま申請や退職処理を進めると、後で説明ができなくなります。
特に、特定技能外国人本人が退職する場合には、本人の意思確認を慎重に行い、通訳を介して内容を理解しているか確認することが重要です。
所属機関が取るべき対応
非自発的離職が発生した、または発生する可能性がある場合、所属機関は次の対応を検討すべきです。
特に、すでに新規の特定技能申請を進めている場合や、これから申請予定の人材がいる場合には、非自発的離職の影響を事前に確認する必要があります。
「申請してから指摘されたら対応する」のではなく、申請前にリスクを整理しておくことが重要です。
登録支援機関が取るべき対応
登録支援機関は、所属機関から非自発的離職に関する相談を受けた場合、単に「会社の判断です」と済ませるべきではありません。
少なくとも、次の点を確認すべきです。
・本人が状況を理解しているか
・退職が本人の自由意思によるものか
・会社都合の要素がないか
・受入れ困難届出が必要か
・転職支援が必要か
・支援記録に残すべき事項は何か
・今後の定期届出や随時届出に影響しないか
登録支援機関は、所属機関の代理人ではありません。支援対象である特定技能外国人本人の適正な就労・生活を支援する立場でもあります。
そのため、会社側の説明だけでなく、本人からも事情を確認することが重要です。
まとめ
特定技能における非自発的離職は、単なる退職処理の問題ではありません。所属機関の適格性、今後の受入れ可否、既存外国人の雇用継続、届出義務、登録支援機関の支援責任に関わる重要な論点です。
特に、形式上は自己都合退職であっても、実態として会社側の事情や退職勧奨がある場合には、非自発的離職と評価される可能性があります。
非自発的離職が発生した場合には、事実を隠すのではなく、退職理由、本人の意思、会社側の事情、支援内容、届出義務を正確に整理することが重要です。
所属機関としては、今後の受入れや更新申請に影響する可能性を踏まえ、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。登録支援機関としても、本人からの相談対応、転職支援、記録作成、所属機関への助言を適切に行う必要があります。
特定技能制度では、許可を取ることだけでなく、受入れ後に適正な運用を続けることが重要です。非自発的離職が生じた場合こそ、制度に沿った慎重な対応が求められます。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直














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