こんにちは。行政書士の稲福です。
先日、中国・四川省成都市で開催された「中国介護人材育成カンファレンス」に、日本代表団の一員として参加しました。
現地では、中国の大手国有保険グループであり、近年は介護施設の運営など介護産業にも参入している中国太平をはじめ、介護人材の教育機関、送り出し機関、医療・介護分野の関係者の皆様と、今後の日中間における介護人材の育成と活用について意見交換を行いました。
今回の中国視察を通じて感じたのは、中国人介護人材の受入れは、単に日本の人手不足を補うためのものではないということです。中国で基礎教育を受けた人材が、日本の介護現場で技術や実務経験を身につけ、将来的にはその知識や経験を中国の介護産業へ還元していく。
そこには、日本と中国の間で介護人材と介護ノウハウを循環させる、新たな人材育成モデルの可能性があると感じました。
- 中国人介護人材が注目される背景
- 中国の若者が日本で介護を学ぶ理由
- 中国の就職事情と介護市場の将来性
- 特定技能介護と介護福祉士取得までのキャリアモデル
- 日本で学び、中国へ還元する「介護人材循環モデル」の可能性
- 介護施設が中国人介護人材を受け入れる際のポイント

四川省成都で介護人材の育成現場を視察
今回訪問した介護人材の育成・送り出し機関では、大学を卒業したばかりの若者たちが、日本語と介護について集中的に学んでいました。学生たちは、おおむね半年程度の教育期間の中で、日本語能力試験N4相当の日本語力と、特定技能介護に必要となる試験の合格を目指します。
その後、日本の介護施設に特定技能人材として就職し、介護現場で実務経験を積みながら、将来的には介護福祉士の資格取得を目指すという流れです。
特に驚いたのが、日本語の習得スピードでした。学習を始めてからまだ1か月程度の学生でも、簡単な自己紹介や質疑応答ができるほどの日本語力を身につけていました。
もちろん、日常会話ができることと、日本の介護現場で専門的なコミュニケーションができることは別です。介護記録、申し送り、利用者との会話、認知症ケア、事故報告など、現場で必要となる日本語を身につけるには、継続的な学習が必要です。
それでも、学習を始めたばかりの段階から、日本で働くという明確な目標を持ち、積極的に日本語を使おうとする姿勢には、非常に強い印象を受けました。
中国の若者が直面する厳しい就職環境
なぜ、中国の大学を卒業した若者たちが、あらためて介護や日本語を学び、日本で働く道を選ぶのでしょうか。その背景には、中国国内における若者の厳しい就職環境があります。
今回の滞在中、大学を卒業したばかり、また卒業後1~2年程度の生徒たちから就職活動について直接話を聞く機会がありました。彼らの話を聞いて感じたのは、中国にも新卒者を対象とした採用の機会はあるものの、大学を卒業したというだけでは、希望する企業や安定した就職先を得ることが難しくなっているという現実です。
特に、待遇や将来性の良い企業、人気の高い職種には、多くの学生が応募します。そのため、有名大学を卒業していても希望する企業から内定を得られないケースもあります。選考を通過するためには、名門大学の出身であることに加え、大学院へ進学して修士号や博士号を取得していること、さらには在学中から専門知識や実務に近い経験を身につけていることなどが求められる傾向があります。
日本には、新卒者を採用し、入社後に一から教育する「新卒一括採用」の文化があります。一方、中国を含む多くの国では、新卒採用であっても、採用段階から一定の専門性や即戦力に近い能力を求められることがあります。
企業は、未経験者を長期間かけて育成するというよりも、すでに専門知識や業務に生かせるスキルを持つ人材を採用しようとします。そのため、大学を卒業したばかりの若者は、仕事に就かなければ経験を積めない一方で、経験や専門性がなければ希望する仕事に就きにくいという難しい状況に置かれます。
さらに、中国では大学進学者が増え、毎年多くの大卒者が労働市場へ入ってきます。一方で、経済環境の変化や企業の採用抑制、IT化、自動化の進展などにより、若者が希望する仕事が十分に増えているとは限りません。
大学卒業後に大学院へ進学し、修士号や博士号を取得しなければ、希望する企業の選考で優位に立つことが難しいという声も聞きました。学歴の高い人材が増えるなかで、単に大学を卒業するだけでは、他の学生との差別化が難しくなっているのです。
こうした環境のなかで、介護という明確な専門分野を学び、日本語能力を身につけ、日本で実務経験を積むことは、若者たちにとって新たなキャリアを築くための現実的な選択肢の一つになっています。
中国は雇用維持よりも技術革新を優先している
中国の就職難について、日本では「不動産不況によって中国経済が崩壊寸前にあり、若者の仕事がなくなっている」といった説明がされることがあります。しかし、実際に中国を訪れて感じたのは、それだけでは中国の現状を十分に説明できないということです。
確かに、不動産市場の低迷や内需の弱さは、中国経済に大きな影響を与えています。しかし同時に、中国ではAI、IT、ロボット、自動運転、無人店舗、キャッシュレス決済などの技術が、非常に速いスピードで社会に導入されています。飲食店、ホテル、空港、地下鉄、商業施設など、さまざまな場所で省人化や自動化が進められています。サービス業や清掃業など、これまで多くの人が担ってきた仕事についても、機械やロボットへの置き換えが試されています。
中国は、既存の雇用をできる限り維持するというよりも、トライアンドエラーを繰り返しながら技術革新を進め、国家全体の競争力を高めようとしているように見えました。その過程で若者の就職先が減少したとしても、国がすべての雇用を保護するのではなく、個人に対して新たな専門性や進路の選択を求めている面があります。
だからこそ、中国の若者にとって、大学を卒業した後に何を学び、どのような専門性を身につけるかが、これまで以上に重要になっています。
日本で介護を学ぶことは、将来への投資になる
こうした状況の中で、介護を学び、日本で実務経験を積むという進路が生まれています。重要なのは、彼らの多くが、単に日本で収入を得るためだけに介護を選んでいるのではないということです。今回私が接した学生たちは、日本で介護技術や専門知識を身につけ、将来のキャリアにつなげたいという意識を持っていました。
中国でも少子高齢化は急速に進んでいます。今後は、介護施設、在宅介護、認知症ケア、高齢者向け住宅、福祉用具、介護人材教育、施設運営など、介護に関連する市場が拡大していくことが予想されます。
一方、中国の介護業界では、日本ほど介護現場の経験や人材育成の仕組みが蓄積されていない分野もあります。利用者の自立支援、認知症ケア、介護記録、事故防止、感染症対策、家族との連携、職員教育、施設マネジメントなど、日本の介護現場から学べることは少なくありません。
そのため、中国で日本語と介護の基礎を学び、日本の介護現場で実際に働くことは、本人にとって将来のキャリア価値を高めるための投資になります。日本で数年間働いた経験や、介護福祉士の資格、日本式の介護に関する知識が、将来、中国へ帰国した際のキャリアにつながる可能性があるからです。
出稼ぎ型ではなく、キャリア形成型の介護人材
外国人材の受入れについては、しばしば「より高い給料を求めて転職してしまうのではないか」という懸念が聞かれます。もちろん、より良い労働条件を求めることは、労働者に認められた当然の権利です。
また、国籍にかかわらず、賃金や職場環境、上司との関係、教育体制に問題があれば、転職を考えるのは自然なことです。そのため、中国人材であれば必ず定着するということではありません。
ただし、今回視察したような育成ルートの人材は、日本で働く目的が比較的明確です。
☑日本で一定期間働く。
☑介護技術と日本語を身につける。
☑介護福祉士の取得を目指す。
☑その経験を将来のキャリアにつなげる。
このような目標を持つ人材にとって、日本の勤務先は単なる収入を得る場所ではありません。将来のキャリアに必要な実務経験を積むための教育の場でもあります。
短期間で転職を繰り返すよりも、一つの施設で継続的に経験を積み、介護技術や記録、利用者対応、チームケアを学ぶ方が、本人の将来にとっても価値があります。
この意味で、中国の介護人材は、単なる出稼ぎ型ではなく、キャリア形成型の人材として捉える必要があります。
特定技能の5年間を「育成期間」として捉える
介護分野の特定技能1号は、原則として通算5年以内の在留資格です。この5年間を、単に日本の人手不足を補う期間として考えるのか、それとも一人の介護人材を育成する期間として考えるのか。この違いは非常に大きいと思います。
中国で日本語と介護の基礎を学び、特定技能介護として来日する。日本の介護施設で実務経験を積みながら、日本語力と専門性を高め、介護福祉士国家試験への合格を目指す。介護福祉士に合格した後は、在留資格「介護」へ変更し、日本で長期的に活躍する道もあります。
一方で、一定期間の実務経験を積んだ後、中国へ帰国し、中国の介護施設や人材育成機関、介護関連企業で活躍する道もあります。
大切なのは、日本への定住か帰国かという二択だけで人材を見ることではありません。日本で学び、働いた経験を、その後の人生や母国でのキャリアにどのようにつなげるのかという視点です。
特定技能1号の5年間を、一時的な労働力の受入れ期間ではなく、国際的な介護人材の育成期間として捉えることができれば、制度の意味も大きく変わってきます。
日本と中国をつなぐ介護人材の循環モデル
今回の視察を通じて、私が最も可能性を感じたのが「介護人材の循環モデル」です。
アジアの介護人材育成
日本と中国をつなぐ介護人材循環モデル
中国で介護の基礎を学んだ若者が、日本で高度な介護技術と実務経験を身につけ、 将来は日本または中国で活躍することで、介護技術や教育ノウハウが両国の間で循環していくことを目指します。
中国で日本語と介護の基礎を学ぶ
大学を卒業した若者が、中国の教育機関で日本語、介護知識、介護技術、日本の生活習慣などを学び、日本で働くための基礎を身につけます。
日本の介護施設で実務経験を積む
特定技能「介護」として来日し、身体介護、生活支援、認知症ケア、介護記録、チームケアなど、日本の高い介護技術を現場で習得します。
介護福祉士の資格取得を目指す
施設の支援を受けながら実務者研修や国家試験対策に取り組み、日本の国家資格である介護福祉士の取得を目指します。
日本または中国で次のキャリアへ
日本で介護福祉士として長期的に活躍する人もいれば、中国へ帰国して介護施設の管理者、教育担当、介護人材育成、日本式介護の普及を担う中核人材として活躍する人も期待されます。
人材が日本と中国を行き来するだけではありません。
日本で培われた介護技術、専門知識、現場経験、教育ノウハウが中国へ還元され、中国で新たな介護人材を育成する。そして、その人材が再び日本で経験を積み、次の世代へ知識を受け継いでいく。
この「介護人材の循環モデル」は、日本と中国の双方にとって持続可能な介護基盤の構築につながるだけでなく、アジア全体の高齢社会への貢献にもつながる可能性を秘めています。
これが、私の考える介護人材の循環モデルです。
日本の介護人材不足への対応だけではない
外国人介護人材の受入れは、日本国内の人手不足対策として語られることが多くあります。もちろん、日本の介護現場を支える人材を確保することは重要です。しかし、受入れの目的を日本の人手不足だけに限定してしまうと、外国人本人の将来や、送り出し国にとっての意義が見えにくくなります。
外国人材が日本で技術を学び、専門資格を取得し、その経験を母国の産業発展に還元することができれば、人材の受入れは一方的なものではなくなります。
日本は介護人材を受け入れ、一定期間、現場で活躍してもらう。外国人本人は、日本で専門性とキャリアを身につける。将来的には、送り出し国の介護産業にも、日本で蓄積された技術や経験が還元される。
このような関係を構築できれば、日本の介護人材不足への対応にとどまらず、アジア全体の介護基盤の強化にもつながります。
中国人介護人材の強み
中国人介護人材には、いくつかの強みがあると考えています。
一つは、漢字圏の人材であることです。
日本語と中国語では、同じ漢字でも意味や使い方が異なることがありますが、介護、医療、福祉分野の専門用語を学ぶ際、漢字に対する抵抗が比較的少ないことは一定の強みになります。
二つ目は、大学教育を受けた人材が多いことです。
試験勉強や体系的な学習に慣れている人材は、介護福祉士国家試験に向けた学習にも対応しやすい可能性があります。
三つ目は、帰国後のキャリアを描きやすいことです。
中国国内で介護産業が発展していけば、日本での実務経験や介護福祉士資格を持つ人材の価値も高まる可能性があります。介護職員としてだけでなく、教育担当者、管理者、施設運営者、日中間の介護事業をつなぐ人材として活躍する道も考えられます。
ただし、これらは中国人であれば一律に当てはまるということではありません。本人の適性、介護職への理解、学習意欲、日本語力、将来設計を、一人ひとり丁寧に確認する必要があります。
日本の受入施設に求められること
どれほど学習意欲の高い人材を採用しても、日本側の受入体制が整っていなければ、十分に能力を発揮することはできません。
特に重要なのは、次のような支援です。
・来日前に介護現場の仕事を正確に説明する
・排泄介助、入浴介助、夜勤などの業務内容を理解してもらう
・入職後も継続して日本語を学べる環境をつくる
・介護記録や申し送りの日本語を支援する
・介護福祉士国家試験に向けた学習時間を確保する
・実務者研修の受講を支援する
・外国人職員を職場で孤立させない
・定期的に本人のキャリア希望を確認する
・適正な給与と労働環境を整える
特定技能人材を採用すること自体が目的になってはいけません。採用後にどのように育成するのか。介護福祉士取得までどのように支援するのか。日本での経験を本人の将来にどのようにつなげるのか。
そこまで考えることが、今後の外国人介護人材の受入れには求められます。
外から見て分かった日本の価値
今回の中国滞在では、介護人材育成だけでなく、外国から見た日本についても考える機会になりました。
円安や日本国内における外国人受入れをめぐる議論など、外国人から見て、現在の日本にネガティブな印象を抱く要素もあるかもしれません。
それでも、中国で多くの方と話をして感じたのは、日本が今もなお「行きたい国」「働きたい国」「学びたい国」として高く評価されているということです。
その理由は、単に日本の経済規模や給与水準だけではありません。
・安全であること。
・街が清潔であること。
・時間や約束を守ること。
・仕事が丁寧であること。
・製品やサービスの品質が高いこと。
・相手を思いやる接遇の文化があること。
こうした長年の積み重ねが、日本に対する信頼につながっています。
介護の分野においても、日本の介護技術だけでなく、利用者に対する接し方や自立支援の考え方、現場の管理方法、人材教育の仕組みに対して、大きな期待が寄せられていました。
日本国内にいると、日本の課題ばかりに目が向きがちです。しかし、外から日本を見ることで、日本が積み重ねてきた価値や、世界から期待されている役割を改めて認識することができます。
中国介護人材の受入れで注意すべきこと
一方で、中国の介護人材であれば、すべてが順調に進むわけではありません。大卒者の中には、介護を専門職や管理職に近い仕事としてイメージし、実際の身体介護との間にギャップを感じる人もいるかもしれません。
介護の仕事には、排泄介助、入浴介助、移乗介助、夜勤、認知症の利用者への対応など、身体的・精神的な負担を伴う業務があります。そのため、来日前の段階で、介護現場の実態を正確に説明する必要があります。
また、本人が本当に介護を希望しているのか、単に就職先がないために介護を選んでいるのかも確認しなければなりません。さらに、送り出し機関や教育機関についても、教育内容、費用負担、契約条件、本人への説明状況を慎重に確認する必要があります。高額な費用負担や、不十分な説明、本人の意思を無視した進路選択があってはなりません。
循環型の人材育成モデルを持続可能なものにするためには、日本側の受入施設、中国側の教育・送り出し機関、行政書士、登録支援機関、職業紹介事業者などが、それぞれ適正な役割を果たす必要があります。
中国人介護人材は「労働力」ではなく「未来の専門人材」
中国人介護人材の可能性を考える際、単に何人採用できるかという人数だけで判断するべきではありません。重要なのは、どのような教育を受け、どのような目的で日本へ来て、どのような将来を描いているのかです。
日本で介護を学ぶ。
日本の介護現場で実務経験を積む。
介護福祉士を目指す。
日本または中国で、介護の専門人材として活躍する。
さらに、次の世代の介護人材を育成する。
このような流れをつくることができれば、中国人介護人材は、単なる人手不足を補う労働力ではありません。日本の介護現場を支える人材であり、将来の介護福祉士候補であり、中国の介護産業の発展を担う人材でもあります。
さらに将来は、日本と中国の介護業界をつなぐ、教育者や管理者、事業責任者になる可能性もあります。
さいごに
少子高齢化は、日本や中国だけの問題ではありません。韓国、台湾、シンガポール、タイ、ベトナムなど、アジアの多くの国々が、今後、高齢化と介護人材不足という共通の課題に直面していきます。
だからこそ、一つの国が人材を囲い込むのではなく、国境を越えて人材を育成し、知識と経験を循環させる仕組みが必要です。
中国で基礎を学んだ人材が、日本の介護現場で経験を積む。日本で身につけた介護技術やマネジメントの知識を、将来は中国の介護産業へ還元する。そして、その人材が次の世代の介護職員を育てていく。
この循環が実現すれば、日本の介護人材不足への対応だけでなく、中国をはじめとするアジア各国の介護基盤の強化にもつながります。
今回の四川省成都での視察と意見交換は、日本と中国をつなぐ介護人材育成の新たな一歩となる、大変有意義な機会となりました。
日本には、世界から評価されている介護技術、教育力、現場力があります。その強みを日本国内だけにとどめるのではなく、アジア各国と共有し、新しい人材育成と国際協力の形をつくっていく。
今後も実際に海外へ足を運び、現地の声を聞きながら、日本とアジアをつなぐ持続可能な介護人材の育成モデルを形にしていきたいと思います。
当事務所グループでは、外国人介護人材をはじめとする特定技能人材について、採用相談、人材紹介、在留資格申請、登録支援機関による受入れ支援、介護福祉士取得を見据えた人材育成体制の構築まで、必要に応じて一貫してサポートしております。
外国人材の採用や特定技能人材の受入れについては、アソシエイツ国際人材サポート合同会社およびアソシエイツ稲福国際行政書士事務所までご相談ください。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直

















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