こんにちは。行政書士の稲福です。
日本では、深刻な人手不足を背景に、特定技能制度をはじめとする外国人人材の受入れが拡大しています。介護、外食、宿泊、建設、ビルクリーニング、飲食料品製造、農業、運送など、多くの分野で外国人材はすでに欠かせない存在となっています。
一方、外国人の受入れが拡大するにつれて、在留資格を失った人、不法滞在状態になった人、制度の狭間に置かれた人をどのように扱うのかという問題も避けて通れません。
こうした現実的な問題に対して、スペインが設けている特徴的な仕組みが、アライゴ制度(Arraigo)です。アライゴとは、スペイン語で「根を張ること」「社会に根付いていること」を意味します。
一定期間スペインで生活し、就労、家族、社会関係、職業訓練などを通じてスペイン社会とのつながりを形成している外国人に対し、例外的に在留資格を認める制度です。
これは単なる不法滞在者への恩赦ではありません。むしろ、すでに社会の中で生活実態を持つ外国人を、地下経済や無権利状態に放置するのではなく、一定の条件を満たした場合に正規の制度へ戻すための仕組みといえます。
- スペインの「アライゴ制度」とはどのような制度なのか
- アライゴ制度が不法滞在者の一斉合法化ではない理由
- 2025年の制度改正によって何が変わったのか
- 社会的定着、就労定着、教育・職業訓練による定着の違い
- スペインが不法滞在者を正規の制度へ戻そうとする背景
- 不法滞在状態を放置することで生じる社会的な問題
- 日本の在留資格制度とアライゴ制度の違い
- 特定技能外国人が在留資格を失う主なリスク
- 日本に必要な「制度へ戻る道」という考え方
- 秩序ある外国人受入れと社会統合を両立させるための視点

セウタへの不法移民流入とスペインの対応
アフリカ大陸にあるスペインの飛び地「セウタ」では、モロッコから国境の塀を越えたり、海を泳いだりして侵入する不法移民が急増しています。
セウタは実質的にEUへの入口でもあるため、ヨーロッパ各国は、移民がスペインを経由して域内へ移動することを警戒し、国境審査や警備を強化する動きを見せています。この問題からも分かるように、スペインは不法入国を無条件に受け入れている国ではありません。
一方で、すでに国内で長期間生活し、仕事や家族、地域社会とのつながりを築いている外国人については、一定の条件を満たせば正規の在留制度へ戻る道も設けています。
その仕組みが、これから解説する「アライゴ制度」です。
アライゴ制度とは何か
アライゴとは、スペインに一定期間滞在し、就労、家族、社会関係、教育、職業訓練などを通じて、スペイン社会に根付いている外国人に対して認められる例外的な在留許可制度です。
通常、外国人が他国で生活するためには、入国前または在留資格を失う前に、法律上の要件を満たして在留許可を取得する必要があります。しかし現実には、さまざまな事情によって正規の在留資格を失う人がいます。
例えば、
☑雇用契約が終了した
☑在留資格を更新できなかった
☑難民申請が認められなかった
☑家族関係や生活状況が変化した
☑幼少期から暮らしていたが在留資格が安定していない
☑正規の手続を十分に理解できなかった
☑悪質な雇用主や仲介業者に依存していた
といったケースです。
こうした人が、何年もスペインで生活し、仕事をし、家族や地域とのつながりを持っている場合でも、在留資格を失えば直ちに社会との関係が消えるわけではありません。
そこでスペインでは、単に過去の不法滞在という事実だけを見るのではなく、現在までに形成された生活実態や社会とのつながりも考慮し、一定の条件を満たす人を正規の在留制度に戻す仕組みを設けています。
これがアライゴ制度です。
スペインでは2024年11月に新しい外国人規則が公布され、2025年5月20日から施行されました。この改正では、アライゴの要件が見直され、原則として必要とされる継続滞在期間が従来の3年から2年へ短縮されました。制度は、就労、教育・訓練、家族という3つの柱を通じて外国人の社会統合を促す方向に再編されています。
「不法滞在者の合法化」と何が違うのか
アライゴ制度については、「不法滞在者を合法化する制度ではないか」と受け取られることがあります。確かに、結果として、それまで正規の在留資格を持たなかった外国人に在留許可が与えられることがあります。
しかし、無条件で在留資格を与える制度ではありません。
一定期間の継続滞在、犯罪歴がないこと、就労契約、家族関係、生活手段、社会統合に関する報告、職業訓練への参加など、それぞれの類型に応じた要件を満たす必要があります。
つまり、アライゴは、不法滞在していれば、いずれ自動的に在留資格を取得できる制度ではありません。より正確にいえば、一定期間その国で生活し、社会との具体的なつながりを築いた人について、個別審査を行い、正規の制度に戻すための例外的な手続です。
また、政府が一定の時期に多数の対象者を一括して正規化する「特別正規化」と、恒常的な個別制度であるアライゴは区別する必要があります。
特別正規化は、一定の基準日や申請期間を設けて、多数の人を対象に行われる臨時措置です。これに対してアライゴは、法律上設けられた通常の制度として、個々の申請者がそれぞれの要件を満たしているかを審査する仕組みです。
スペインでアライゴ制度が生まれた背景
スペインはヨーロッパの南西端に位置し、アフリカにも近いことから、移民の入口となりやすい国です。また、農業、観光、宿泊、飲食、建設、家事労働、介護など、外国人労働者に依存する産業も少なくありません。
近年はEU平均を上回る経済成長が続く一方、農業などの不人気職種では慢性的な人手不足が生じています。若年層が重労働を避ける傾向もあり、外国人労働者はスペインの産業を支える重要な存在となっています。
その一方で、正規の在留資格を持たない外国人が、すでに国内で生活し、実際には働いているという現実があります。このような人々を在留資格のない状態に置き続ければ、正規の雇用契約を結ぶことが難しくなり、現金手渡しによる無申告労働、最低賃金を下回る就労、長時間労働、社会保険への未加入、労働災害の未報告、雇用主による搾取などが生じやすくなります。
これは外国人本人だけの問題ではありません。低賃金で無権利な労働者が地下経済に組み込まれれば、適正な賃金や社会保険料を負担している事業者との間で不公平な競争が生じます。また、税や社会保険料が適正に納付されず、行政も実態を把握できません。
そこで、すでにスペイン社会で生活している外国人については、一定の要件を満たした場合に正規の在留・就労資格を与え、正規雇用、納税、社会保険加入につなげた方が、社会全体にとって利益になるという考え方が生まれました。
また、対象となる人の多くは、コロンビアやペルーなどスペイン語圏の中南米出身者です。言語や文化の共通点があり、社会への適応が比較的しやすいことも、制度が受け入れられやすい背景の一つです。歴史的・地理的に外国人の流入に慣れてきたスペインと、日本とでは、移民政策を取り巻く前提条件も大きく異なります。
アライゴ制度は、単なる人道的な救済策ではありません。深刻な人手不足に対応しながら、地下経済に置かれている労働者を正規の労働市場へ組み込み、在留管理、雇用、納税、社会保障を現実に合わせて整えるための政策でもあるのです。
2025年に大きく改正されたアライゴ制度
スペインでは、2024年11月19日に新しい外国人規則が閣議決定され、2025年5月20日に施行されました。この改正では、アライゴ制度が整理され、次の5つの類型が設けられました。
①第二の機会によるアライゴ
②社会労働的アライゴ
③社会的アライゴ
④社会教育・職業訓練的アライゴ
⑤家族的アライゴ
スペイン政府は、新制度について、外国人の統合を「仕事・教育訓練・家族」という3つの柱を通じて進めるものと説明しています。
また、原則的な継続滞在要件が3年から2年へ短縮され、以前よりも制度を利用しやすくする方向に見直されました。初回のアライゴによる許可は、原則として1年間の一時的な在留許可となります。
ここで重要なのは、スペインが在留資格を持たない外国人の存在を単に黙認しているわけではないという点です。社会に一定期間根付き、条件を満たした人については正規の制度へ移行させる一方、要件を満たさない人には退去や帰国の問題が残ります。
つまり、在留管理を放棄するのではなく、現実に存在する人を制度の中に戻すためのルートを整えているのです。
アライゴの5つの類型
ここでは、現在のアライゴ制度を構成する5つの類型について、それぞれの特徴を見ていきます。
2025年改正
アライゴ制度の5つの類型
2025年の制度改正により、アライゴ制度は外国人の置かれた状況に応じて5つの類型に整理されました。それぞれ対象や要件は異なりますが、社会とのつながりを踏まえて正規の在留制度へ戻すという考え方は共通しています。
第二の機会によるアライゴ
Arraigo de segunda oportunidad
過去に正規の在留許可を持っていたものの、更新できずに在留資格を失った人に再出発の機会を与える制度です。
社会労働的アライゴ
Arraigo sociolaboral
雇用契約や労働条件を確認した上で、違法就労状態から正規の雇用関係へ移行させる制度です。
社会的アライゴ
Arraigo social
家族関係や生活基盤、地域社会とのつながりなどを総合的に評価して在留を認める制度です。
社会教育・職業訓練的アライゴ
Arraigo socioformativo
教育や職業訓練を通じて必要な技能を身につけ、将来の正規就労と社会統合につなげる制度です。
家族的アライゴ
Arraigo familiar
家族関係や子どもの利益を考慮し、一定の要件のもとで例外的な在留を認める制度です。
アライゴは不法滞在者を一律に合法化する制度ではありません。就労、家族、教育、生活実態などを個別に審査し、一定の要件を満たした人を正規の制度へ戻す仕組みです。
アライゴ制度が重視する「社会とのつながり」
アライゴ制度の中心にあるのは、外国人がどれだけ長く滞在したかという時間だけではありません。重要なのは、その期間にどのような生活実態を形成したかです。
例えば、
☑継続して国内で生活している
☑正規雇用につながる仕事がある
☑家族が国内にいる
☑地域社会との関係がある
☑スペイン語を学んでいる
☑職業訓練を受けている
☑犯罪歴がない
☑将来的に自立して生活できる見通しがある
といった事情が考慮されます。
つまり、アライゴ制度は、在留資格を形式的な許可証だけで捉えていません。その人が社会の中で実際に生活しているか、社会の一員として自立できるかという実態を重視しています。
これは、外国人政策において重要な視点です。外国人は、在留資格を持っている間だけ存在し、期限が切れた瞬間に生活実態が消えるわけではありません。職場、家族、住居、友人、学校、地域との関係は、その後も続きます。
制度と現実の間にずれが生じたとき、その人を社会の外側に追いやり続けるのか、一定の要件を満たせば正規の制度へ戻すのか。スペインは後者の道を制度化しています。
不法滞在状態を放置することの問題
不法滞在を認めないことと、不法滞在状態にある人を放置することは、同じではありません。在留資格を失った人を長期間そのままにすれば、その人は正規の労働市場から排除されやすくなります。
しかし、生活するためには収入が必要です。その結果、非正規・無申告の労働市場に流れ込み、弱い立場につけ込む雇用主や仲介業者に依存する可能性が高まります。
不法滞在者は、雇用主から賃金を支払ってもらえなくても、通報や退去を恐れて声を上げにくい立場にあります。労働災害に遭っても、病院や行政機関へ相談することをためらうことがあります。犯罪被害を受けても、警察へ行けば在留資格がないことが発覚すると考え、被害を届け出ない場合もあります。
この状態は治安の改善にはつながりません。むしろ、社会の中に、行政が把握できず、権利も義務も十分に機能しない層を形成することになります。
また、違法に低賃金で働かせる事業者が存在すれば、法令を守る企業が競争上不利になります。不法滞在者を正規の制度へ戻すことには、
☑適正な雇用契約を結ばせる
☑最低賃金を適用する
☑税や社会保険料を負担させる
☑行政が居住実態を把握する
☑犯罪や搾取の被害を相談できるようにする
☑悪質な雇用主を取り締まる
という意味があります。そのため、アライゴ制度は、単なる温情政策ではなく、秩序ある在留管理の一つの方法でもあります。
アライゴ制度には批判や課題もある
もちろん、アライゴ制度に問題がないわけではありません。まず指摘されるのが、不法滞在を続ければ最終的に在留資格を取得できるという期待を生み、新たな不法入国や不法滞在を誘発するのではないかという問題です。
正規の手続を踏んで入国する人との公平性も問われます。入国前にビザを取得し、必要な書類を準備し、費用と時間をかけて正規に入国した人から見れば、不法滞在後に在留資格を取得できる制度は不公平に映る可能性があります。
また、一定期間の滞在を証明するため、住民登録、医療記録、送金記録、公共機関の書類などを積み重ねる必要があります。書類を十分に保管していない人や、住民登録ができない住環境にいた人は、実際に滞在していても立証が困難になることがあります。
雇用契約を要件とする場合には、在留資格のない外国人が、許可前に信頼できる雇用主を見つけなければならないという矛盾もあります。形式だけの雇用契約を作る悪質な仲介業者が現れるおそれもあります。
さらに、アライゴによる初回許可は原則として一時的なものです。許可を得た後も、更新要件を満たさなければ、再び不安定な状態になる可能性があります。したがって、アライゴ制度は「申請すれば誰でも許可される制度」でも、「一度許可されれば永久に住める制度」でもありません。
制度を適正に運用するためには、
☑本人確認
☑継続滞在の立証
☑犯罪歴の確認
☑雇用契約の実態確認
☑雇用主の支払能力の確認
☑家族関係の確認
☑社会統合状況の確認
☑悪質な仲介業者の排除
が必要です。
スペイン国内でも賛否が分かれるアライゴ制度
アライゴ制度や今回の合法化政策は、スペイン国内で誰もが支持しているわけではありません。
経済界や農業団体、カトリック教会などは、深刻な人手不足の解消や地下経済の縮小につながるとして制度を支持しています。特に農業分野では、外国人労働者が不可欠な存在となっており、「不法就労ではなく、正規の労働者として働いてもらうべきだ」という意見が多く聞かれます。
一方で、中道右派の国民党や反移民を掲げる極右政党「VOX」は、「合法化がさらなる不法移民を呼び込む可能性がある」として強く反発しています。移民政策はスペイン国内でも重要な政治課題となっており、今後の選挙でも争点の一つになるとみられています。
また、スペインはシェンゲン協定加盟国であるため、スペインで在留資格を得た外国人がEU域内を自由に移動できることを懸念する声もあります。近年はイタリアやフランスなどで反移民を掲げる政党が支持を拡大しており、スペインのような積極的な合法化政策は、ヨーロッパ全体で見ても必ずしも主流とはいえません。
このように、アライゴ制度は人手不足や地下経済への対応策として評価される一方で、新たな移民流入を誘発するとの懸念もあり、その是非をめぐる議論は現在も続いています。
日本の在留資格制度との違い
日本の在留資格制度は、原則として、入国前または在留資格を失う前に要件を満たすことを重視しています。在留期限を超過した場合や、在留資格に応じた活動を行わなくなった場合には、在留資格取消しや退去強制の対象となる可能性があります。
もちろん、日本にも個別事情を考慮する制度はあります。例えば、退去強制手続における在留特別許可では、日本人や永住者との家族関係、在日期間、子どもの養育状況、素行、生活状況などが考慮されることがあります。
しかし、在留特別許可は、本人が要件を満たせば当然に取得できる一般的な在留資格ではありません。法務大臣の裁量による例外的な措置であり、予測可能性は必ずしも高くありません。
これに対してスペインのアライゴ制度は、一定期間の滞在、雇用、家族、教育、社会とのつながりなどを明文化し、通常の申請制度として在留資格へ戻る道を設けています。
ここに大きな違いがあります。
日本とスペインでは、地理、歴史、移民の流入経路、労働市場、EU法との関係が異なります。そのため、スペインの制度をそのまま日本に導入すべきだという単純な話ではありません。
しかし、在留資格を失った人を社会の外側に放置し続けることが、果たして秩序ある在留管理といえるのかという問題提起は、日本にも当てはまります。
特定技能制度でも在留資格を失うことはある
特定技能外国人は、適法な在留資格を持って日本で働いています。しかし、さまざまな事情によって在留資格が不安定になることがあります。
例えば、受入れ企業が倒産した、会社都合で解雇された、雇用条件が事前説明と異なり退職した、転職先が見つからない、必要な届出を行わなかった、在留期間更新の準備が遅れた、登録支援機関や企業から適切な説明を受けられなかった、在留期間の上限に近づいた、次の在留資格への変更要件を満たせなかった、病気や家庭事情によって就労を継続できなかった、といったケースです。
特定技能外国人が退職したからといって、直ちに不法滞在になるわけではありません。一定期間、転職活動や在留資格変更の手続を行うことは可能です。しかし、転職先が決まらず、在留期限を迎えれば、日本に滞在し続けることはできません。
特に、本人に責任のない倒産や解雇であっても、在留資格は雇用や活動内容と密接に結びついています。会社を失うことが、在留基盤を失うことにつながりやすいのです。
また、日本で何年も生活し、日本語を学び、地域社会との関係を築いていても、それだけを理由として新しい在留資格が与えられる一般的な制度はありません。
ここに、スペインのアライゴ制度との大きな違いがあります。
日本にも「制度へ戻る道」が必要か?
不法滞在を防止することは当然に必要です。虚偽申請、偽装結婚、偽装就労、資格外活動、悪質な仲介、失踪を助長する仕組みについては、厳格に取り締まらなければなりません。
しかし、すべての在留資格喪失者を同じように扱うべきかは別の問題です。
例えば、
☑幼少期から日本で育った
☑日本の学校を卒業している
☑日本語で生活している
☑日本に配偶者や子どもがいる
☑長期間、適法に就労して納税していた
☑会社の倒産によって在留基盤を失った
☑悪質な雇用主の被害を受けた、
☑本人の責任が小さい手続上の問題で資格を失った
☑人手不足分野で必要な技能を持っている
☑犯罪歴がなく、地域社会とのつながりがある
という人まで、形式的に在留資格を失ったことだけを理由として一律に排除することが、社会にとって最善とは限りません。重要なのは、無条件の正規化ではありません。日本でも、一定の厳格な条件を満たす人について、再就職、職業訓練、日本語学習、家族関係、在日期間、納税・社会保険加入歴、犯罪歴の有無、地域社会とのつながり、将来的な自立可能性などを総合的に審査し、正規の制度へ戻る機会を検討してもよいのではないでしょうか。
これは、不法滞在を容認することではありません。むしろ、無権利な状態を解消し、在留管理、雇用管理、納税、社会保険加入を再び機能させるための制度です。
アライゴ制度から日本が学ぶべきこと
スペインのアライゴ制度を、そのまま日本に導入することはできません。しかし、在留資格を失った人にも、一定の条件で制度へ戻る道を設ける考え方は参考になります。
LESSONS FROM THE ARRAIGO SYSTEM
アライゴ制度から日本が学ぶべき7つの視点
スペインの制度をそのまま日本へ導入することはできません。しかし、在留資格を失った人をどのように扱い、社会とのつながりをどのように評価するかという考え方には、日本が参考にできる点があります。
在留資格を失った理由を区別する
在留資格を失った人の中には、意図的に法律を無視した人もいれば、倒産、解雇、病気、家庭事情、悪質な仲介業者の被害など、本人だけに責任を負わせることが難しい人もいます。すべてを同じ「不法滞在者」という言葉でまとめるのではなく、資格を失った経緯を確認する必要があります。
生活実態を評価する
在日期間、家族関係、日本語能力、就労歴、納税歴、社会保険加入歴、地域とのつながりなどは、その人が日本社会にどの程度根付いているかを判断する材料になります。在留資格という形式だけでなく、実際の生活実態を見る視点が必要です。
職業訓練を在留制度と結びつける
スペインの社会教育・職業訓練的アライゴは、人材不足分野に必要な技能を学ぶことを在留許可につなげています。日本でも、一定期間の職業訓練や日本語教育を受けるための安定した在留資格を設けるという考え方は参考になります。
技能や日本語を身につければ就労できる人に対し、学ぶための在留期間をどのように確保するかという課題があります。
一度の失敗で制度から完全に排除しない
第二の機会によるアライゴは、以前に正規の在留資格を持っていた人に、再び制度へ戻る機会を与えます。日本でも、長年適法に暮らしてきた人が、失業や手続上の問題によって資格を失った場合に、一定の条件で再出発できる制度を検討する余地があります。
企業だけに責任を負わせない
特定技能外国人の支援は、受入れ企業や登録支援機関に大きく依存しています。しかし、企業の倒産、事業縮小、支援機関の変更、転職などが起きれば、支援関係は不安定になります。
外国人の生活基盤を一企業だけに結びつけるのではなく、国、自治体、職業紹介機関、教育機関、地域社会が連携して支える仕組みが必要です。
悪質な雇用主を利益から切り離す
不法滞在者を低賃金で働かせて利益を得る雇用主が存在する限り、不法就労はなくなりません。外国人本人だけを取り締まるのではなく、違法な労働力を利用する企業、悪質な仲介業者、偽装契約を作成する事業者への監督を強化する必要があります。
正規化後の支援まで設計する
在留資格を与えるだけでは社会統合は完成しません。日本語教育、生活相談、雇用支援、住居、医療、子どもの教育、地域との接点、キャリア形成まで含めた継続的な支援が必要です。
重要なのは、不法滞在を無条件に認めることではありません。資格を失った経緯、生活実態、就労可能性、家族関係、社会とのつながりを個別に確認し、制度へ戻すべき人と退去を求めるべき人を適切に区別することです。
排除か無条件の受入れかという二択ではない
外国人政策の議論では、不法滞在者は全員帰国させるべきだ、また、長く住んでいれば全員に在留資格を与えるべきだという両極端な主張になりがちです。
しかし、現実の制度設計は、この二択ではありません。厳格な入国管理や不法滞在対策を行いながら、一定の条件を満たす人には正規の制度へ戻る道を設けることは可能です。スペインのアライゴ制度は、その一つの例です。
アライゴ制度が示しているのは、不法滞在を放置することと、不法滞在者を正規化することのどちらが、より秩序ある社会につながるのかを現実的に考える姿勢です。
無権利状態のまま地下経済で働かせ続けるよりも、
☑身元を把握する
☑雇用契約を結ぶ
☑最低賃金を適用する
☑税を納める
☑社会保険に加入する
☑法律上の権利と義務を負わせる
方が、社会全体にとって合理的な場合があります。
一方で、在留期間だけを基準に無条件で許可を与えれば、制度への信頼を損なう可能性があります。だからこそ、継続滞在、家族関係、就労、教育、犯罪歴、生活基盤、社会とのつながりを個別に審査する必要があります。
まとめー在留資格制度に求められる「第二の機会」という視点
外国人を受け入れる以上、考えるべきなのは入国や在留資格の許可だけではありません。制度の中で生活し、働く人が、やむを得ない事情で在留資格を失ったとき、どのように対応するかという視点も重要です。
もちろん、在留資格制度のルールを守ることは大前提です。一方で、本人に重大な責任がない事情により資格を失った人や、日本社会とのつながりを築き、自立して生活できる見込みがある人まで、一律に制度の外へ置くことが最善とは限りません。
スペインのアライゴ制度をそのまま日本へ導入すべきだということではありません。しかし、「在留資格を失った人を、どのような条件で正規の制度へ戻すのか」という議論は、今後の日本でも避けて通れないテーマになるでしょう。
外国人の受入れが拡大するほど、転職、失業、家族、教育、地域とのつながりなど、制度だけでは割り切れない問題は増えていきます。制度を持続可能なものにするためには、「受け入れる制度」だけでなく、「定着を支える制度」、そして必要に応じて「再出発を支える制度」という視点も求められます。
秩序ある在留管理と社会統合は、対立する概念ではありません。一定の条件の下で制度への復帰を認める仕組みを整えることも、ルールに基づく在留資格制度を維持するための一つの選択肢ではないでしょうか。
※本記事は、スペインの移民・外国人在留制度を日本の外国人政策との比較という観点から解説したものです。個別の申請要件や運用は、申請時点の法令および行政機関の案内をご確認ください。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直















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