こんにちは、行政書士の稲福です。
アジアの外国人労働者市場で、いま大きな変化が起きています。それは、バングラデシュ人がベトナムへ働きに行くケースが増えていることです。
「ベトナムといえば、日本や韓国や台湾などへ人材を送り出す国ではないのか」そう思う方も多いでしょう。実際、その認識は間違っていません。
しかし今、ベトナムは大きな転換点を迎えています。自国の若者を海外へ送り出す一方で、国内の製造業や建設業では人手不足が進み、今度は周辺国から外国人労働者を受け入れる側にも回り始めているのです。
つまり、ベトナムはもはや単なる「送り出し国」ではありません。経済成長を背景に、外国人材を必要とする「受け入れ国」へと変わりつつあります。
バングラデシュからベトナムへ。この新しい人の流れは、アジアの経済格差、産業構造、そして外国人労働者をめぐる地図が確実に変わり始めていることを示しています。
- バングラデシュ人がベトナムへ出稼ぎに向かう背景
- ベトナムが「送り出し国」から「受け入れ国」へ変化している理由
- ベトナムの人手不足と外国人労働者受け入れの実態
- 外国人材の獲得競争は給与だけではない理由
- 日本が直面するアジアの人材獲得競争の未来
- 外国人材から選ばれる国になるために必要な視点

ベトナムは今でも世界有数の送り出し国
ベトナムでは、現在も毎年多くの人材が海外へ働きに出ています。主な就労先は、日本、台湾、韓国、シンガポールなどです。より高い収入や新しい技術、将来のキャリアを求め、母国を離れて海外で働くことは、ベトナムの若者にとって珍しい選択ではありません。
日本でも、技能実習や特定技能の制度を通じて、多くのベトナム人が製造業、建設業、介護、外食、農業などの現場を支えています。長年、日本における外国人労働者の中心的な存在だったのが、ベトナム人材です。そのベトナムが今、自国の労働者を海外へ送り出しながら、国内ではバングラデシュなどから外国人労働者を受け入れ始めています。
かつて「人材を送り出す側」だった国が、経済成長と人手不足を背景に「人材を受け入れる側」にも回る。この変化こそ、現在のアジアの労働市場を象徴する動きといえるでしょう。
一方で、外国人労働者を受け入れる国にも
しかし近年、ベトナムを取り巻く状況は大きく変わってきました。経済成長に伴って海外企業の進出が相次ぎ、製造業や建設業を中心に、国内でも深刻な人手不足が生じています。その結果、バングラデシュ、ネパール、インド、一部のアフリカ諸国などから、外国人労働者を受け入れるケースが見られるようになりました。
つまり、これまで日本や韓国などへ多くの人材を送り出してきたベトナムが、今度は自国の産業を支えるために、より所得水準の低い国から労働者を受け入れ始めているのです。
「送り出し国」であったベトナムが、「受け入れ国」へも変わりつつある。
これは単なる一時的な人手不足ではありません。ベトナムの経済発展と産業構造の変化、そしてアジアにおける労働者の流れが新しい段階に入ったことを象徴する動きといえるでしょう。
なぜバングラデシュ人がベトナムへ行くのか
理由は比較的シンプルです。バングラデシュでは若年層の就職難が続いており、より高い収入を求めて海外で働きたいと考える人が数多くいます。
一方、経済成長が続くベトナムでは、製造業や建設業を中心に人手不足が進み、外国人にも雇用機会が生まれています。例えば、ベトナム最大級の企業グループであるVingroup(ビングループ)の建設現場では、月額1,000ドル以上の給与が提示されるケースもあるとされています。
職種や技能、経験によって金額には大きな幅がありますが、バングラデシュ国内で得られる収入と比較すれば、十分に魅力的な水準です。もちろん、日本や韓国ほど給与水準が高いわけではありません。それでも、渡航や就労のハードル、仕事の見つけやすさ、母国との距離などを考えれば、ベトナムは現実的な海外就労先の一つになります。自国より高い収入を得られ、成長する産業の中で働く機会があるからこそ、バングラデシュ人がベトナムを選び始めているのです。
もう一つ見逃せないのが、バングラデシュの送り出し機関側の事情です。
日本の受け入れ企業は、すでに採用実績が豊富なベトナム、インドネシア、ミャンマーなどから人材を確保しているケースが多く、特定技能人材の送り出し国としては比較的新しいバングラデシュまで、積極的に採用ルートを広げようとしない企業も少なくありません。
特に介護や農業などの分野では、既存の送り出し国との採用ルートがすでに構築されているため、バングラデシュの送り出し機関が日本向けの求人票を思うように集められていないという事情があります。
また、比較的賃金水準の高い韓国も、雇用許可制によって受け入れ国や業種、人数などが管理されているため、希望すれば誰でも働けるわけではなく、就労への間口は決して広くありません。
一方、バングラデシュ国内では経済状況や雇用環境が厳しく、とにかく国外で働く機会を得たいと考える若者も数多くいます。そのため、日本や韓国での就労機会を待ち続けるのではなく、少しでも働ける可能性があるベトナムへ、藁にもすがる思いで向かうケースもあると考えられます。
つまり、バングラデシュ人がベトナムを選ぶ背景には、ベトナムの経済成長や人手不足だけでなく、日本向け求人の不足、韓国への就労の狭き門、そして一刻も早く国外で働きたいという切実な事情も存在しているのです。
人材獲得競争は「給与」だけでは決まらない
外国人材の獲得競争というと、多くの人は給与水準を思い浮かべます。しかし、実際にはそれだけではありません。外国人本人や送り出し機関、受け入れ企業が重視するのは、「いつ働き始められるのか」というスピードです。
例えば、日本では在留資格認定証明書(COE)の取得や在留資格変更など、多くの書類の準備が必要となり、審査にも一定の時間を要します。もちろん、慎重な審査によって適正な受け入れを確保することは重要です。しかし、企業にとっては人手不足が深刻であるほど、「数か月待たなければ人材が来ない」という状況は大きな負担になります。
一方、ベトナムなど新たな受け入れ国では、賃金水準は日本より低いとしても、採用手続や就労開始までの期間が短ければ、それ自体が競争力になる可能性があります。外国人材の獲得競争は、「どれだけ高い給料を払えるか」だけではなく、「どれだけ早く、安心して働き始められるか」という制度設計も重要な要素です。
日本が今後も外国人材から選ばれる国であり続けるためには、適正な審査を維持しながらも、手続のデジタル化や審査期間の短縮など、制度全体の利便性を高めていくことも求められるでしょう。
この変化は、日本の未来を映す鏡かもしれない
この変化は、日本にとっても非常に興味深いものです。これまで日本では、ベトナムを主に「外国人材の送り出し国」として見てきました。実際、多くのベトナム人が技能実習や特定技能で来日し、日本の産業を支えています。
しかし、そのベトナムが今、バングラデシュなどから外国人労働者を受け入れ始めています。つまり、アジアの人材の流れは、単純な「ベトナムから日本へ」という一方向だけではなくなりつつあります。経済成長と人手不足が進めば、かつて労働者を海外へ送り出していた国も、やがて自国より所得水準の低い国から人材を受け入れるようになります。
日本がかつて歩んだ道を、今、ベトナムも歩み始めているのです。これは単なる外国人労働者の移動ではありません。経済が発展した国は、やがて自国より所得水準の低い国から労働者を受け入れるようになります。そして、その国もさらに発展すれば、同じように外国人材を必要とする側へと変わっていきます。
ベトナムは、まさにその転換点に立っています。かつて日本が経験してきた道を、今度はベトナムが歩み始めているのです。そして、この流れは将来、日本が外国人材政策を考えるうえでも重要な示唆を与えてくれます。
外国人材の獲得競争は、もはや日本だけが相手ではありません。アジア全体で人材を奪い合う時代が、すでに始まっています。
人材獲得競争の主役は、すでに日本だけではない
10年ほど前まで、アジアの外国人労働者市場では、「まず台湾、韓国、次に日本」というケースを耳にすることも少なくありませんでした。しかし近年は、状況が変わりつつあります。
台湾は賃金水準や受け入れ実績を背景に、依然としてアジアの有力な就労先です。そのため、送り出し機関によっては、まず台湾への就労を希望し、その後に日本を検討する人もいます。
韓国も、製造業や農畜産業などを中心に外国人労働者の受け入れを進めており、比較的高い賃金水準から、日本と並ぶ有力な就労先の一つとなっています。
外国人材は、もはや「日本に行ければよい」と考えているわけではありません。給与水準、就労開始までのスピード、家族帯同、キャリア形成などを比較しながら、台湾、日本、韓国、そして今後はベトナムも含めて、自分に最も適した国を選ぶ時代になっています。
日本は「選ぶ側」であると同時に、「選ばれる側」でもあります。ベトナムが外国人労働者を受け入れ始めたことは、アジア全体で人材獲得競争がさらに激しくなっていくことを示す、一つのサインなのかもしれません。
10年後、日本はベトナムと外国人材を奪い合う時代になるのか
今回の事例は、単に「バングラデシュ人がベトナムで働き始めた」というニュースではありません。アジアの労働市場そのものが、大きな転換期を迎えていることを示しています。
これまでベトナムは、日本や韓国などへ多くの人材を送り出す「送り出し国」でした。しかし経済成長が進んだ結果、自国でも人手不足が発生し、今度はバングラデシュなどから外国人労働者を受け入れる側へと変わり始めています。
これは、日本がこれまで歩んできた道とよく似ています。そして、この流れが続けば、10年後には日本とベトナムが同じ国々から外国人材を採用する場面が増えていく可能性があります。
もちろん、現時点で日本とベトナムが本格的に人材を奪い合っているわけではありません。しかし、ベトナムの経済がさらに発展し、賃金や労働環境が向上すれば、外国人材にとってベトナムは今以上に魅力的な就労先になるでしょう。
外国人材は、より条件の良い国を選びます。給与だけではありません。キャリア形成、生活環境、社会保障、家族帯同のしやすさ、永住制度など、さまざまな条件を比較して働く国を決める時代です。日本も「外国人材は来てくれるもの」という発想から、「世界の中で選ばれる国になるには何が必要か」という視点へ転換する必要があります。
バングラデシュからベトナムへの人の流れは、その未来を考える上で、私たちに重要なヒントを与えてくれているのではないでしょうか。
まとめ
ベトナムは現在も、日本や台湾、韓国などへ多くの人材を送り出す国です。その一方で、経済成長や外資系企業の進出を背景に、製造業や建設業では人手不足が進み、バングラデシュなどから外国人労働者を受け入れる側にも変わり始めています。
バングラデシュ人にとって、ベトナムは日本や韓国ほど高賃金ではなくても、国内より高い収入を得られる現実的な就労先です。この動きは、アジアの外国人労働者の流れが固定されたものではないことを示しています。
日本も、「外国人材は来てくれるもの」と考えるのではなく、待遇、キャリア、生活環境、受け入れ体制を整え、選ばれる国であり続ける必要があります。
バングラデシュからベトナムへの出稼ぎは、アジアの労働市場が新しい段階に入ったことを象徴する動きといえるでしょう。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直


















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