こんにちは。行政書士の稲福です。
今回は、特定技能制度の中でも、今後さらに注目されると考えている「木材産業」と「林業」分野について、実務的な視点を交えながら解説したいと思います。
木材価格の変動、国内林業従事者の高齢化、製材工場の人手不足などを背景に、木材産業・林業分野でも外国人材への期待は年々高まっています。しかし実務では、「特定技能ならすぐに外国人材を採用できる」と考えてしまうと、採用計画が大きく遅れる可能性があります。
特に木材産業・林業分野では、海外で技能評価試験を実施している国が非常に限られているためです。現時点では、海外で木材産業・林業分野の特定技能評価試験が実施されている国はインドネシアです。
つまり、海外から人材を採用する場合、インドネシアは最も重要なターゲット国の一つになります。
- 木材産業・林業分野で特定技能人材の確保が難しい理由
- インドネシアが重要な送り出し国となる背景
- インドネシアの雇用事情と若年層の就職状況
- 日本企業が今から準備すべき採用戦略
- COE交付後もすぐに出国・来日できない理由
- 木材産業・林業分野で中長期の採用計画が重要な理由

木材産業・林業分野は人材不足が深刻
日本は国土の約7割を森林が占める世界有数の森林国です。しかし、その豊かな森林資源を維持・管理し、木材を生産・加工する担い手は年々減少しています。林業従事者の高齢化が進む一方で、若年層の就業者は十分に増えておらず、伐採や植林、下刈りといった現場作業だけでなく、製材工場や木材加工工場でも慢性的な人手不足が続いています。
また、近年は住宅建築や木造建築物の需要に加え、国産材の利用促進や森林整備の重要性が高まっているものの、それを支える人材の確保が追いついていません。人材不足は森林の適切な管理にも影響を及ぼし、土砂災害の防止や水源涵養など、森林が持つ公益的機能の維持にも関わる課題となっています。
このような状況から、国内人材だけで必要な労働力を確保することはますます難しくなっており、林業および木材産業分野では、特定技能制度を活用した外国人材の受入れに大きな期待が寄せられています。外国人材は単なる人手不足の解消だけでなく、日本の森林資源を次世代へ引き継ぐための重要な担い手として、その役割が注目されています。
他分野と比べて求人が圧倒的に少ない理由
介護や飲食料品製造業では、多くの登録支援機関や人材紹介会社が積極的に求人開拓を行い、企業と外国人材をマッチングしています。一方、林業・木材産業分野では、そのような動きはまだ限定的です。その背景には、特定技能制度における受入実績の少なさがあります。
林業分野の受入れ見込数は5年間で1,000人、木材産業分野は5,000人と設定されています。しかし、実際の受入人数は見込数を大きく下回っており、現時点で人材需要が十分に満たされているとはいえません。
その背景には、外国人材が集まらないという問題だけでなく、求人そのものが市場に出ていないという構造的な課題があります。林業・木材産業分野では、介護や外食分野と比べて、登録支援機関や人材紹介会社の参入が進んでいません。そのため、企業側も「特定技能外国人を採用できる」という制度情報や具体的な採用方法に触れる機会が少なく、外国人材の受入れを検討する前の段階で止まっているケースが多いのです。
結果として、深刻な人手不足を抱えているにもかかわらず、求人票が作成されず、人材紹介市場にも出てこない状況が続いています。つまり、受入人数が伸びない理由は、単に外国人材が不足しているからではなく、企業と人材をつなぐ支援体制が十分に整っていないことにもあります。
登録支援機関から見ても、林業・木材産業は新しい分野であり、海外の送り出し機関とのネットワークや試験情報が十分に整備されていません。また、海外試験の実施国が限られていることから、人材確保の難易度が比較的高いと考えられ、介護や外食など実績の多い分野へ営業資源を集中させるケースも少なくありません。
さらに、林業や木材加工を営む企業は地方の中小企業が多く、特定技能制度の存在や活用方法が十分に浸透していないことも、求人件数が伸びない要因となっています。
「求人が少ない=人材需要が少ない」のではなく、「人材需要に対して、制度の活用と求人開拓が追いついていない」ことが、この分野の現状といえるでしょう。
現在の中心は技能実習から特定技能への移行
林業・木材産業分野の特定技能外国人は、現状では技能実習を良好に修了した外国人が、そのまま特定技能1号へ移行するケースが中心となっています。
例えば、木材産業分野では技能実習2号「機械製材作業」を良好に修了した場合、特定技能1号へ移行する際に技能評価試験および日本語試験が免除されます。また、林業分野についても、対象となる技能実習職種を良好に修了した場合は、同様に試験免除で特定技能へ移行することが可能です。
受入企業にとっても、このルートには大きなメリットがあります。すでに日本で数年間の就労経験があり、日本の職場環境や安全衛生の考え方、作業手順、日本語による指示・報告・連絡・相談(いわゆる「報・連・相」)にも慣れているため、比較的早期に戦力として活躍できる可能性が高いからです。
一方で、このルートだけでは今後の人材需要を十分に満たせるとは限りません。技能実習修了者の数には限りがあり、受入企業間での採用競争も年々激しくなっています。
そのため、中長期的に安定した人材を確保するためには、技能実習修了者だけに依存するのではなく、海外で特定技能評価試験に合格した人材の採用ルートも並行して構築していくことが重要になると考えています。
海外試験を実施している国はインドネシア
一方で、海外から新たに特定技能人材を受け入れるルートはまだ十分に整備されていません。その理由の一つが、海外で技能評価試験を実施している国が極めて少ないことです。現在、林業・木材産業分野の海外試験は実質的にインドネシアで実施されており、介護や外食のように複数国から幅広く人材を募集できる状況にはありません。
その結果、登録支援機関や人材紹介会社も、この分野では十分な人材プールを確保しにくく、求人開拓に積極的に取り組む事業者はまだ多くありません。
今後、海外試験の実施国が拡大したり、送り出し機関との連携が進んだりすれば、林業・木材産業分野の特定技能人材は大きく増加する可能性があります。その時に備え、早い段階から海外採用ルートを構築しておくことが、将来的な人材確保の大きな強みになるでしょう。
インドネシアは資源大国。しかし若者の仕事は不足している
インドネシアは、石炭、ニッケル、天然ガス、パーム油など、豊富な天然資源を有する世界有数の資源国です。東南アジア最大の経済規模を持ち、人口の多さと旺盛な国内需要も背景に、経済成長を続けています。
なかでもニッケルは、電気自動車用バッテリーなどに使用される重要な鉱物です。インドネシア政府も、ニッケルを単に原料として輸出するのではなく、国内で製錬・加工し、電池や電気自動車産業までつなげる高付加価値化を進めています。
しかし、資源産業を中心とした経済成長が、若者の安定雇用にそのまま結び付いているわけではありません。鉱山開発や製錬、エネルギー関連産業では大規模な投資が行われていますが、設備や資本への依存度が高く、人口規模に見合うだけの雇用を全国で生み出すことには限界があります。また、産業や雇用機会は特定の地域に集中しやすく、地方では希望する仕事を見つけにくい若者も少なくありません。
インドネシア中央統計庁の2025年統計では、失業率は15~19歳で23.34%、20~24歳で14.35%となっており、若年層ほど失業率が高い傾向がみられます。全年齢の失業率と比べても、若者の就職の厳しさが際立っています。大学や専門学校を卒業しても、専攻や希望に合った仕事に就けない人もいます。また、就職できた場合でも、非正規雇用や低賃金の仕事にとどまり、将来のキャリアを描きにくい若者もいます。
こうした背景から、一定の日本語や技能を身に付け、より安定した収入と職業経験を得るために、海外就労を希望する若者は今後も一定数存在すると考えられます。
特に、林業や木材加工の技能を身に付けることが、日本での就労だけでなく、将来インドネシアへ帰国した後の就職やキャリア形成にもつながる仕組みを示すことができれば、特定技能「林業」「木材産業」は有力な選択肢となる可能性があります。
賃金水準にも大きな地域差がある
インドネシアの最低賃金は全国一律ではなく、州や県、市ごとに大きく異なります。2026年の州最低賃金を見ると、首都ジャカルタは月額約573万ルピアで、日本円に換算するとおおむね5万円台です。一方、中部ジャワ州は月額約233万ルピアで、ジャカルタの半分以下となっています。
さらに、実際には州最低賃金とは別に、県や市ごとの最低賃金が設定される地域もあります。都市部や工業地帯では賃金が比較的高い一方、地方では月収が日本円で2万円台にとどまる地域もあり、国内でも大きな賃金格差があります。
もちろん、インドネシアの若者が日本での就労を希望する理由は、給与だけではありません。日本の技術や安全管理、生産管理を学びたいと考える人もいれば、海外での就労経験を将来のキャリアにつなげたいと考える人もいます。また、家族への仕送りや、住宅購入、弟や妹の学費など、家族を経済的に支えることを目的とする人も少なくありません。
それでも、日本とインドネシアの賃金水準には依然として大きな差があります。日本で一定期間働くことにより、インドネシア国内で働く場合よりも多くの収入を得られる可能性があることは、海外就労を選択する大きな理由の一つです。
特定技能制度では、日本人と同等以上の報酬を支払うことが受入れの要件とされています。そのため、適正な給与、住居、生活支援、キャリア形成の道筋を提示できれば、日本での就労はインドネシアの若者にとって魅力的な選択肢となります。
特に林業・木材産業では、単に「日本の方が給与が高い」と伝えるだけでなく、日本で身に付けられる機械操作、安全管理、木材加工などの技能が、帰国後の就職やキャリアにも役立つことを示すことが重要です。
「試験合格者を待つ採用」には限界がある
木材産業・林業分野でも、企業から「技能評価試験の合格者を紹介してほしい」という相談を受けることがあります。すでに技能評価試験と日本語試験に合格している人材であれば、採用後の手続を進めやすく、企業にとって理想的な候補者であることは間違いありません。
しかし、この分野では海外で技能評価試験を実施している国が限られており、合格者の母数そのものが多くありません。介護や外食、飲食料品製造などのように、複数の国に一定数の試験合格者がいる状況とは異なります。
限られた合格者に対して複数の企業から求人が集中すれば、給与、住宅、勤務地、手当などを比較されることになります。特に、都市部から離れた林業会社や製材工場では、単純な給与額だけでなく、住居の確保、通勤手段、買い物環境なども含めて条件を整えなければ、採用競争で不利になる可能性があります。
そのため、私は、木材産業・林業分野において「合格者が現れるまで待ち、合格後に紹介を受ける」という採用方法には限界があると考えています。むしろ重要なのは、まだ試験に合格していない段階から候補者と接点を持つことです。
具体的には、技能評価試験の受験を予定している人、日本語を学習している人、インドネシアなどで林業や製材、家具製造、木材加工の経験を持つ人を早い段階から把握します。そのうえで、日本で担当する仕事内容や給与、生活環境、将来身に付けられる技能を説明し、本人の希望と企業の採用条件をすり合わせながら育成を進めます。
企業が求人票を早めに提示し、候補者が具体的な就職先をイメージできる状態をつくることも重要です。働く場所や仕事が決まっていないまま試験勉強を続けるよりも、「合格すれば、この企業でこの仕事に就ける」という目標がある方が、候補者の学習意欲も高まりやすくなります。
木材産業・林業分野では、採用活動と人材教育を別々に考えるのではなく、募集、選考、日本語教育、技能試験対策、入国後の定着支援までを一体的に設計する必要があります。今後は、完成した人材を探す「紹介型の採用」だけではなく、企業が候補者の育成段階から関わる「育成型の採用」が、安定した人材確保の鍵になるでしょう。
インドネシアには木材産業・林業の経験者が数多く存在する
「インドネシアに林業や木材加工の仕事はあるのか」と疑問に思われる方もいるかもしれません。結論から言えば、インドネシアは世界有数の木材生産国であり、林業・木材産業は重要な基幹産業の一つです。
国土の約5割を森林が占め、天然林や人工林を活用した林業が行われています。また、伐採だけではなく、製材、合板、集成材、家具、木製建具、パルプ・紙製品など、幅広い木材関連産業が発展しています。特に、中部ジャワ州や東ジャワ州では家具製造業が盛んで、世界各国へ木製家具を輸出しています。カリマンタン島やスマトラ島では、林業や木材加工に携わる企業も数多くあります。
そのため、インドネシアにはチェーンソーの取扱い、製材機械の操作、木材加工、家具製造などの経験を持つ人材が一定数存在します。もちろん、日本の林業は安全管理や作業手順、使用する機械などが異なるため、日本で改めて教育を行う必要があります。しかし、木材を扱う基本的な知識や経験を持つ人材であれば、日本での技能習得も比較的スムーズに進められる可能性があります。
今後、海外での技能評価試験や日本語教育がさらに充実すれば、インドネシアは木材産業・林業分野における有力な人材供給国の一つになると考えられます。
COEが交付されても、すぐに出国できるわけではない
海外採用で意外と知られていないのが、COE(在留資格認定証明書)が交付された後も、すぐに日本へ出国できるわけではないという点です。
インドネシアでは、政府が海外就労者を保護する制度を整備しており、正式な出国には複数の行政手続が必要です。
インドネシアから受け入れる場合
COE交付後も必要となる主な手続
COE(在留資格認定証明書)が交付されたからといって、すぐに日本へ入国できるわけではありません。 インドネシア政府が定める手続きを順番に完了したうえで、査証(ビザ)の発給を受ける必要があります。
SISKOP2MIへの登録
BP2MI(インドネシア移民労働者保護庁)が運営する海外就労者管理システムへ登録します。労働契約や受入企業などを政府が確認し、適正な海外就労であることを管理します。
E-ID(電子身分登録)
海外就労者として本人情報を登録します。各種行政手続や出国管理に利用されます。
BPJS(社会保障制度)への加入
海外就労期間中の労災や事故などに備えるため、BPJS(社会保障制度)へ加入します。
出国前オリエンテーション
日本での生活ルール、労働条件、相談窓口、権利義務などについて、政府指定の講習を受講します。
日本査証(ビザ)申請
上記手続が完了した後、日本大使館・総領事館で査証申請を行います。
日本へ出国・入国
査証発給後、航空券を手配し、日本へ入国します。
COEが交付されたからといって、すぐに来日できるわけではありません。
インドネシア政府が定める各種手続を完了した後に査証申請・出国となるため、企業は採用から入社まで1〜2か月程度の余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
採用と在留資格申請は切り離せない
木材産業・林業分野における特定技能外国人の採用は、人材を紹介して終わりではありません。受入企業は、特定技能制度で定められたさまざまな要件を満たしたうえで、採用を進める必要があります。
例えば、受入企業としての適格性の確認、雇用契約書の作成、特定技能協議会への加入、1号特定技能外国人支援計画の作成・実施、在留資格認定証明書(COE)の申請、さらには入国後の各種届出など、多くの手続が必要となります。
また、海外採用の場合は、日本側の準備だけではなく、送り出し国での手続や査証(ビザ)申請も必要となるため、企業・送り出し機関・登録支援機関・行政書士が連携しながらスケジュールを管理することが重要です。
せっかく優秀な候補者が見つかっても、協議会への加入が済んでいない、必要書類の準備が遅れている、在留資格申請に必要な資料が不足しているといった理由で、入国時期が大幅に遅れてしまうケースもあります。
そのため、特定技能制度では「採用」と「在留資格申請」を切り離して考えることはできません。採用活動を始める段階から、制度要件や申請スケジュールを見据えて準備を進めることが、円滑な受入れにつながります。
特に木材産業・林業分野は、まだ制度の活用事例が多いとはいえません。だからこそ、単に人材を紹介するだけではなく、企業の受入体制の整備から在留資格申請、入国後の定着支援までを一体的にサポートできる体制が、今後ますます重要になっていくでしょう。
さいごに
木材産業・林業分野は、今後ますます外国人材への期待が高まる分野です。一方で、海外試験の実施国が限られていることや、インドネシア政府独自の出国手続があることから、「求人票を出せばすぐ採用できる」という分野ではありません。
この分野では試験合格者だけを待つのではなく、試験前の候補者との接点づくり、日本語教育、現地教育機関や送り出し機関との連携を含めた中長期的な採用戦略が重要になると考えています。
当事務所グループでは、特定技能外国人の採用相談から、在留資格申請、受入れ後の支援まで一貫してサポートしております。また、外国人人材のご紹介については、アソシエイツ国際人材サポート合同会社にて承っております。木材産業・林業分野で外国人材の採用をご検討されている企業様は、お気軽にご相談ください。
出入国在留管理局申請取次行政書士
稲福 正直















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