これからの外国人材政策では、「外国人をどう受け入れるか」だけでなく、 外国人材から「日本を選んでもらえるか」という視点が重要になります。 日本企業も、単に採用できる会社ではなく、 賃金、生活環境、キャリア形成、長期就労まで含めて 「ここで働きたい」と思われる環境をつくる必要があります。
外国人材は、日本だけでなく台湾、韓国、シンガポールなど複数の国・地域を比較して就労先を選んでいます。 台湾には、長年の外国人労働者受入れ実績や、就労開始までの予測可能性、 残業を含めた実収入などの強みがあります。 一方、日本には安全性や生活インフラ、技能形成、特定技能2号などによる長期的なキャリア形成という強みがあります。 今後は額面給与だけでなく、手取り、生活費、送金可能額、手続のスピード、 家族帯同や将来の定住まで含めた総合的な競争力が問われます。
こんにちは、行政書士の稲福です。
日本では人手不足を背景に、特定技能制度を活用した外国人材の受入れが年々拡大しています。
一方で、外国人材の立場から見ると、働く国の選択肢は日本だけではありません。給与水準や就労までのスピード、生活環境、将来のキャリアなどを比較しながら、自分にとって条件の良い国を選ぶ時代になっています。
その中で、日本と比較されることの多い就労先の一つが台湾です。
台湾では長年、製造業、建設、介護、漁業など、人手不足が深刻な分野を中心に多くの外国人労働者を受け入れてきました。日本の特定技能と同じように、国内だけでは確保が難しい労働力を外国人材によって補っているという点では、非常に参考になる国です。
そして、台湾が外国人材から選ばれる理由を考えるうえで、特に重要なのが賃金です。
外国人材にとって重要なのは、単に「日本で働きたい」「台湾で働きたい」という国のイメージだけではありません。実際に毎月いくら稼げるのか、生活費を差し引いてどれだけ貯蓄できるのか、そして母国の家族へいくら送金できるのかという現実的な条件が、就労先を決める大きな判断材料になります。
また、賃金だけでなく、在留・就労に必要な手続きがどれだけ分かりやすいか、採用が決まってから実際に働き始めるまでどの程度の時間がかかるのか、働き始めた後の生活や定着をどのように支援しているのか、さらに単純労働分野から長期在留や永住へ進む道があるのかも重要です。
今回は、台湾では外国人労働者がどのような制度やビザで働いているのか、申請から許可、就労開始までにどの程度の期間がかかるのか、なぜ台湾が外国人材から選ばれているのか、そして日本と台湾の賃金や定住支援、長期在留への道にはどのような違いがあるのかについて、日本の特定技能制度と比較しながら解説していきます。
- 台湾の外国人労働者受入れ制度の仕組み
- 台湾で外国人材が働ける主な職種・分野
- 台湾と日本の賃金水準や就労条件の違い
- 台湾の就労ビザと日本の「特定技能」の違い
- 申請から就労開始までのスピードと受入れの仕組み
- 台湾と日本における長期就労・永住への道の違い
- 外国人材から見た台湾と日本、それぞれの強み

台湾は日本より早く外国人労働者を受け入れてきた
台湾は1990年代から、本格的に外国人労働者の受入れを進めてきました。背景にあるのは、日本と同様の少子高齢化と人手不足です。
特に製造業、建設業、農業・漁業、介護・家庭内ケアなどでは、台湾人だけでは必要な労働力を確保することが難しくなっています。そのため、インドネシア、ベトナム、フィリピン、タイなどから多数の外国人労働者を受け入れています。
日本では「技能実習」から「特定技能」へと制度が発展してきましたが、台湾では外国人労働者を人手不足を補う労働力として比較的明確に位置付けてきた点が特徴です。
特に製造業では約48万人、 介護・看護では約22万人が働いています。
さらに約30年前と比較すると、 1997年にはタイ・フィリピンが中心だった人材供給構造が、 現在では インドネシア・ベトナムを中心とする構造へ大きく変化 しています。
台湾は単に外国人を受け入れているのではなく、 業種ごとに異なる国から長期的に人材供給ルートを構築してきた ことが分かります。
※外国人労働者766,212人は台湾労働部の 「產業及社福外籍勞工人數-按國籍及行業分」 2025年(民国114年)データを使用。
※「約3.29%」は外国人労働者数を戸籍人口で単純に割った参考値であり、 台湾の正式な外国人人口比率を示すものではありません。
※1997年・2001年と2025年では産業分類・制度・統計方法が異なるため、 長期比較は外国人労働市場の構造変化を見るための参考です。
※台湾の原資料にある「印尼」は「印度尼西亞」の略称で、 本グラフではすべて「インドネシア」と表記しています。
台湾版「特定技能」ともいえる外国人労働者制度
台湾には、日本の「特定技能」という名称の在留資格はありません。しかし、実態として日本の特定技能1号に近い役割を担っているのが、台湾の外国人労働者受入れ制度です。代表的な受入れ分野として、製造業、建設業、農林水産関係、漁業、介護・家庭内ケアなどがあります。
つまり、高度な専門職だけではなく、台湾国内で人材確保が難しい現場労働分野に外国人材を導入しています。この点では、日本の特定技能制度と非常によく似ています。
一方、日本では「技能実習」「特定技能」「技術・人文知識・国際業務」など、外国人が就労するための在留資格や制度が複数設けられており、対象となる業務や本人の学歴・技能、受入れ企業に求められる要件、申請手続なども制度ごとに異なります。そのため、外国人材の採用を初めて検討する企業にとっては、「どの制度を利用すればよいのか」が分かりにくい場合もあります。
これに対して台湾は、製造業や建設、農業、介護など、人手不足が生じている産業への外国人労働者の受入れを、長年にわたり労働力政策の一環として運用してきました。もちろん台湾にも職種ごとの要件や受入れ人数、雇用主に対する規制などがありますが、企業側から見ると、「人手不足分野に外国人労働者を受け入れる」という制度上の位置付けが比較的明確である点は、日本との違いの一つといえます。
台湾では「雇用許可制」が制度の中心
台湾で外国人労働者を受け入れる際の基本となる法律が、台湾の「就業服務法(Employment Service Act)」です。この法律に基づき、台湾の企業が外国人労働者を雇用する場合、原則として雇用主が台湾の労働部(Ministry of Labor)に申請し、外国人を雇用するための「就業許可(Work Permit)」を取得する必要があります。
つまり、外国人本人が就労ビザを取得すれば自由に働けるという仕組みではなく、まず「この企業が、この仕事について、この外国人を雇用してよい」という許可を雇用主側が取得することが制度の中心になっています。
特に製造業、建設業、農林水産業、漁業、介護などの外国人労働者については、台湾国内の人手不足を補うための労働力政策として受入れが行われています。ただし、企業が必要な人数を自由に採用できるわけではありません。業種や職種、事業所の条件などによって外国人を受け入れられる人数や比率が定められており、雇用主はそれぞれの要件を満たしたうえで就業許可を申請します。
就業許可が認められた後、外国人本人が査証(ビザ)や入境に必要な手続を行い、台湾への入境後には「外僑居留証(ARC:Alien Resident Certificate)」などの居留手続を行います。そのため台湾の制度は、大きく見ると、雇用主による就業許可 → 外国人本人の査証・入境 → 外僑居留証(ARC)の取得 → 就労という流れになっています。
日本の特定技能制度では、外国人本人の在留資格を中心として、技能試験、日本語試験、雇用契約、支援計画、在留資格認定証明書(COE)など複数の要件を確認します。
これに対して台湾では、雇用主に対する「外国人を雇用する許可」を中心に制度が組み立てられている点が、日本との大きな違いの一つです。
という形になります。
日本の場合、海外から特定技能外国人を採用すると、
という流れになるため、手続が長期化することがあります。
台湾は「採用してから働き始めるまで」が比較的早い
外国人材から就労先として選ばれるうえで、賃金と並んで重要なのが「実際に働き始めるまでのスピード」です。特に東南アジアから海外就労を希望する人材にとっては、家族への送金など明確な経済的目的があるケースも多く、「いくら稼げるか」だけでなく、「いつから給料を受け取れるか」も重要な判断材料になります。
日本の特定技能の場合、海外から新たに人材を受け入れるには、原則として技能試験・日本語試験への合格、企業とのマッチング、雇用契約、1号特定技能外国人支援計画の作成、分野ごとに必要となる手続、在留資格認定証明書(COE)の申請、査証申請など、複数の手続を進める必要があります。
このうちCOEだけでも、出入国在留管理庁が示す標準処理期間は1~3か月です。その後、在外公館で査証申請を行い、問題がなければ査証の標準処理期間は5業務日とされています。そのため、採用を決めてから実際に来日して働き始めるまでには、事前準備も含めて数か月を要するケースがあります。
一方、台湾も当然、採用すればすぐに入国・就労できるわけではありません。雇用主側の手続、就業許可、査証、入境、健康診断、居留手続などが必要です。ただし、台湾は1990年代から外国人労働者の受入れを続けており、制度運用の実績があります。台湾労働部が公表した資料では、国外から受け入れた外国人労働者に関する雇用許可申請について、手続の電子化・簡素化により、平均処理日数が7.31日から5.55日まで短縮された実績も示されています。
もちろん、この5.55日は外国人材の募集から台湾入境までの全期間を意味するものではないため、日本のCOEの1~3か月と単純比較することはできません。それでも、台湾では長年の外国人労働者受入れによって、政府、企業、仲介事業者、送り出し国の間に受入れの仕組みが構築されています。
外国人材にとって重要なのは、単に「審査が何日で終わるか」ではなく、採用が決まってから実際に渡航し、働き始める時期をどの程度見通せるかです。この就労開始までの予測可能性も、台湾が外国人材の就労先として選ばれる要因の一つと考えられます。
台湾は「実際に稼げる国」として選ばれている
外国人材が日本と台湾を比較するうえで、非常に重要なのが「実際にいくら稼げるのか」です。
台湾労働部の調査によると、製造業、建設業、農林漁業などで働く外国人労働者の平均的な経常給与は月約35,000台湾ドル、日本円で約17万円となっています。平均残業時間も月28.3時間あり、特に製造業では残業を含めて収入を増やせることが、海外就労を希望する人材にとって大きな魅力になっています。
ここで重要なのは、日本との「額面給与」だけを比較しないことです。
日本で特定技能外国人が会社員として働く場合、日本人と同じように健康保険、厚生年金、雇用保険、所得税などが給与から控除されます。たとえば額面給与が月20万円の場合、厚生年金だけで本人負担は約18,300円です。これに健康保険料が月1万円前後、雇用保険料、所得税などが加わり、翌年度以降は住民税が発生する場合もあります。
そのため、額面が月20万円でも、社会保険料や税金を差し引いた手取りは17万円前後になるケースがあります。さらに、そこから寮費や家賃、食費、光熱費などを支払うため、実際に貯蓄や母国への送金に回せる金額はさらに少なくなります。
一方、台湾でも健康保険や税金などの負担はありますが、日本とは社会保障制度の構造が異なります。たとえば月額29,500台湾ドルの給与水準では、全民健康保険の本人負担は月458台湾ドル、日本円で約2,300円です。また、一般的な外国人労働者について、日本の厚生年金のように給与の約9%を本人が年金保険料として負担する仕組みがそのまま存在するわけではありません。
台湾の平均給与が日本より高いわけではありません。
2025年の台湾では、本国籍フルタイム労働者の 月平均経常給与は50,643台湾ドルです。 一方、製造業・建設業・農林漁牧業などで働く 外国人移工の経常給与は約30,000台湾ドルで、 残業代約5,100台湾ドルを加えて 約35,000台湾ドルとなっています。
つまり、「台湾の平均給与が3万台湾ドル」ということではなく、 3万台湾ドルは主に外国人移工の現場職の給与水準です。
台湾の給与水準を整理
| 対象 | 給与 | 日本円換算の目安 | ポイント |
|---|---|---|---|
|
台湾本国籍 フルタイム |
月平均経常給与 50,643台湾ドル |
約24.6万円 | 台湾人フルタイム労働者の平均 |
|
台湾本国籍 フルタイム |
経常給与中央値 39,890台湾ドル |
約19.4万円 | 平均値より中央値は低い |
|
台湾本国籍 フルタイム |
年間総給与 806,448台湾ドル |
月平均換算 約32.7万円 |
賞与・残業代などを含む年間総額 |
|
台湾の全受雇者 本国籍・外国籍、フルタイム・パートを含む |
月平均経常給与 47,884台湾ドル |
約23.3万円 | 台湾全体を見る際の一つの指標 |
| 台湾の全受雇者 |
年間総給与 760,632台湾ドル |
月平均換算 約30.8万円 |
賞与・残業代などを含む |
|
外国人移工 製造・建設・農林漁牧業 |
経常給与 約30,000台湾ドル |
約14.6万円 | 台湾全体の平均給与とは別の統計 |
| 外国人移工 |
平均残業代 約5,100台湾ドル |
約2.5万円 | 平均残業時間は月28.3時間 |
| 外国人移工 |
経常給与+残業代 約35,000台湾ドル |
約17.0万円 | 残業を含めた実際の月収水準 |
日本の給与水準
| 対象 | 給与 | 給与の定義 |
|---|---|---|
| 日本・就業形態計 |
現金給与総額 355,941円 |
賞与などを含む年平均の月額 |
| 日本・就業形態計 |
所定内給与 267,532円 |
残業代を除く |
| 日本・一般労働者 |
現金給与総額 465,923円 |
賞与等を含めた年平均の月額 |
| 日本・一般労働者 |
所定内給与 340,634円 |
残業代を除く |
| 特定技能外国人 | 221,400円 | 残業代を除く所定内給与 |
外国人労働者で比較すると
残業28.3時間を含む
この2つは、実は完全な同条件比較ではありません。
日本の特定技能の221,400円は残業代を含まないのに対して、 台湾の35,000台湾ドルは平均5,100台湾ドルの残業代を含んでいます。
台湾側も残業代を除いて比較すると約30,000台湾ドル、 日本円換算で約14.6万円となるため、 額面給与では日本の特定技能の方が明確に高い と考えることができます。
では、法定控除後の手取りはどうなるのか
一方で、外国人が就労先を選ぶ際には、額面給与だけでなく、 社会保険料や税金を差し引いた後に 「実際にいくら残るのか」も重要になります。
| 項目 | 日本・特定技能 | 台湾・外国人移工 |
|---|---|---|
| 比較上の総支給額 |
221,400円 残業代を含まない |
35,000台湾ドル 約170,100円・残業代を含む |
| 健康保険 | 約10,900円 |
約543台湾ドル 約2,640円 |
| 年金・労工保険 |
厚生年金 約20,300円 |
労工保険 約805台湾ドル 約3,910円 |
| 雇用保険 | 約1,107円 | ― |
| 子ども・子育て支援金 | 約255円 | ― |
| 所得税 | 約3,910円 |
年間最終税額 0台湾ドル想定 |
| 法定控除後の概算 |
約184,900円
住民税を除く
|
約33,652台湾ドル
約163,500円
|
日本では、厚生年金の保険料率18.3%を労使折半するため、 本人負担は基本的に9.15%です。 これに健康保険、雇用保険、所得税などが加わります。
台湾では、労工保険の普通保険料率は11.5%ですが、 一般的な被用者の場合、本人負担はその20%です。 全民健康保険についても、被用者本人の負担割合は30%となっています。
なお、台湾の労工保険には老年給付も含まれているため、 「台湾には年金制度がない」という意味ではありません。 日本の厚生年金のように、給与の約9%を本人が別途負担する構造とは異なる、 という点がポイントです。
台湾の平均給与そのものが、日本より高いわけではありません。
また、外国人労働者同士で比較しても、 日本の特定技能の平均賃金22万1,400円に対し、 台湾の外国人移工は残業込みでも約17万円であり、 額面給与では日本の方が高いことが分かります。
ただし、日本は社会保険料、とりわけ厚生年金の本人負担が大きいため、 「額面給与の差」ほど「手取りの差」は大きくならない という点には注意が必要です。
外国人材から見た日本の競争力を考える場合には、 単純な月給ではなく、 残業を含む実収入 → 法定控除 → 住居費・生活費 → 最終的に貯蓄・送金できる金額 まで比較する必要があります。
・台湾ドルの円換算は比較を分かりやすくするため、 1台湾ドル=4.86円として便宜的に計算しています。
・台湾の外国人移工統計は、製造業、營建工程業、 農林漁牧業で働く移工を対象とした台湾労働部の2025年6月調査です。
・日本の特定技能22万1,400円は、 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の所定内給与額であり、 時間外勤務手当・休日出勤手当などは含まれていません。
・手取り額は制度の違いを示すための概算です。 日本は2026年度・東京都・40歳未満・扶養親族なし・一般事業を想定し、 住民税は含めていません。
・台湾の所得税0台湾ドルは、 年間35,000台湾ドル×12か月の給与収入のみで、 税務上の居住者として2025年の免税額・標準控除・ 給与所得特別控除を適用した場合の年間最終税額の概算です。 実際の毎月の源泉徴収額とは一致しない場合があります。
・寮費、家賃、食費、光熱費、仲介・サービス費などは 法定控除ではないため、この比較には含めていません。
台湾・行政院主計総処「2025年 工業・サービス業給与統計」
台湾政府統計を見る
台湾労働部「114年移工管理及運用調査統計結果」
台湾労働部の統計を見る
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査・在留資格区分別」
厚生労働省資料を見る
厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025年分結果確報」
厚生労働省資料を見る
ここに、もう一つ大きく影響するのが「為替」です。
外国人材にとって、日本で20万円稼げるか、台湾で17万円相当を稼げるかという日本円での比較だけでは意味がありません。重要なのは、その給与をベトナムドン、インドネシアルピア、フィリピンペソなど母国の通貨へ換算したときに、最終的にいくらになるかです。
近年の円安によって、日本円で受け取る給与は、外国人材の母国通貨に換算した際の価値が以前より低下しています。そのため、日本国内では同じ月給20万円を維持していても、外国人材から見れば「母国へ送金したときに受け取れる金額が以前より少ない」ということが起こります。
つまり、日本の額面給与が台湾より数万円高かったとしても、社会保険料や年金、税金による控除、住居費などの生活コスト、さらに為替まで考慮すると、外国人材から見た実質的な収入の差はかなり縮まる可能性があります。
外国人材が比較しているのは「日本は月給20万円、台湾は17万円」という数字ではありません。実際にいくら手取りとして残り、生活費を差し引いたあと、そのお金を母国通貨に換算して毎月いくら家族へ送れるのか。
台湾が「給料が高い」「稼げる」と外国人材から評価される背景を見るためには、この手取り額と送金可能額、そして為替まで含めて考える必要があります。そのため、日本のほうが額面給与では高くても、社会保険料や税金、寮費・家賃、食費などを差し引いた「手取り」で比較すると、その差は小さくなる場合があります。
さらに外国人材にとって重要なのは、その手取りから生活費を差し引き、最終的に母国へいくら送金できるかです。現在の円安も、日本で得た給与を母国通貨へ換算したときの価値に影響します。送り出し国の現場で「台湾は給料が高い」「台湾のほうが稼げる」と言われる背景には、単純な基本給だけではなく、残業を含む実収入、社会保険料などの控除、生活コスト、そして最終的な送金可能額まで含めた比較があります。
外国人材にとっての「給料が高い」とは、額面給与が高いことではなく、働いた結果として実際にいくらお金を残せるかということなのです。
台湾は「残業で稼ぎやすい」?実際の残業規制と外国人労働者の収入
台湾で働く外国人労働者について、「台湾は残業時間の制限が緩いため稼ぎやすい」と言われることがあります。しかし、台湾にも日本と同様に労働時間や残業時間の規制があります。
台湾の労働基準法では、通常の労働時間は原則として1日8時間・週40時間です。残業を含めた労働時間も原則として1日12時間以内とされ、時間外労働は原則月46時間までとなっています。一定の労使手続きを行った場合でも、時間外労働は月54時間、3か月で138時間までという上限があります。
したがって、「台湾では外国人労働者が無制限に残業できる」というわけではありません。それでも、外国人材から見た台湾の特徴として注目したいのが、実際に残業によって収入を増やしている移工が多いことです。
台湾労働部が公表した「114年移工管理及運用調査」によると、2025年6月に製造業・建設業・農林漁牧業で働く外国人移工の経常給与は平均約30,000台湾ドルでした。これに対して平均残業時間は月28.3時間、平均残業代は約5,100台湾ドルとなっており、経常給与と残業代を合わせた月収は約35,000台湾ドルとなっています。
つまり、平均的な外国人移工でも、残業代によって月収が約17%上乗せされている計算になります。海外就労を希望する外国人材にとって重要なのは、基本給だけではありません。「毎月どの程度残業することができ、最終的にいくら稼げるのか」は、母国への送金額を左右する重要な条件です。その意味では、台湾の強みは「残業規制がないこと」ではなく、製造業などを中心に一定の残業機会があり、残業代を含めた実収入を確保しやすいことにあると考えた方が正確でしょう。
一方で、外国人移工が収入を増やすために、休日などに別の会社でアルバイトをすることは原則として認められていません。台湾の外国人移工は、雇用許可を取得した雇用主・仕事を前提として就労しており、許可を受けた雇用主以外の会社などで働くと、就業許可が取り消される可能性があります。
台湾労働部も、残業が少ないからといって休日に別の仕事をする、いわゆる「副業・兼業」をしないよう外国人移工に注意喚起しています。したがって台湾で働く外国人移工にとって、収入を増やす主な手段は自由な副業ではなく、許可された勤務先で適法に残業し、残業代を得ることになります。
この点も、台湾の外国人労働市場を理解するうえで重要なポイントです。
「日本ブランド」だけでは選ばれない時代へ
かつて日本は、東南アジアの若者にとって非常に魅力的な海外就労先でした。高い給与、安全な社会、優れたインフラ、日本語や日本文化への関心など、日本には現在でも多くの強みがあります。
しかし現在は、台湾、韓国、シンガポールなど、外国人労働者を必要とする国・地域との競争になっています。
外国人材自身もスマートフォンを使って各国の情報を比較します。「日本はいくら稼げるのか」「台湾はいくら稼げるのか」「残業はあるのか」「寮費はいくらなのか」「渡航費はいくらかかるのか」「何年間働けるのか」「家族を呼べるのか」「将来的に永住できるのか」といった条件を比較したうえで就労先を選びます。
外国人材が「日本に行かせてもらう」のではなく、外国人材から日本が選ばれる必要がある時代になっています。
台湾では外国人労働者はどのくらい滞在できるのか
台湾の外国人労働者制度は、基本的には期間限定の就労制度として設計されています。外国人労働者として台湾で働き始めたからといって、そのまま自動的に永住へつながるわけではありません。この点は、日本の特定技能1号とよく似ています。
台湾では、製造業、建設業、農林水産業、介護などで働く一般的な外国人労働者について、一定の在留・就労期間の上限があります。たとえば多くの外国人労働者は、更新を重ねながら台湾で働くことができますが、原則として就労期間には上限があり、単純に同じ区分のまま無期限に働き続ける制度ではありません。
一方で、台湾では近年、一定期間働いた外国人材を「中階技術人力」として長期就労へ移行させる制度が整備されています。一定の就労年数、技能、給与水準などの要件を満たした外国人については、一般的な外国人労働者の区分から中階技術人力へ移行し、より長期間台湾で働くことが可能になります。
つまり台湾でも、外国人労働者として就労→台湾で経験を積む→一定の技能・給与水準を満たす→中階技術人力へ移行→ 長期就労→ さらに一定の要件を満たせば永住を目指すというキャリアパスが形成されつつあります。
日本の場合、特定技能1号は原則として通算5年間で、家族帯同も原則認められていません。しかし、特定技能2号へ移行できれば在留期間の更新回数に上限がなくなり、配偶者や子の帯同も一定の条件のもとで可能になります。
さらに、日本で長期間適法に在留し、安定した収入があり、税金や年金、健康保険などの公的義務を適切に履行し、素行などの要件も満たせば、永住許可を申請できる可能性があります。
そのため、日本では、特定技能1号→ 特定技能2号→ 長期就労・家族帯同→ 永住という道が徐々に明確になってきています。
台湾も同じように、外国人を「一定期間働いて帰国する人材」として扱うだけではなく、技能や経験を積んだ人材については長期的に定着してもらう方向へ制度を転換しています。
日本と台湾の違いはありますが、両国とも今後は「何年間働けるか」だけでなく、「その先にどのようなキャリアや定住の道があるか」が、外国人材から選ばれるうえで重要になっていくと考えられます。
台湾も「単純労働から定着」へ制度を変え始めている
このように、台湾でも近年、重要な政策転換が進んでいます。長期間台湾で働き、一定の技能や給与水準などの条件を満たした外国人材について、より長期的に台湾で働ける仕組みが整備されています。
背景にあるのは、深刻な人手不足です。せっかく台湾語・中国語や仕事を覚え、職場にも慣れた外国人材を、一定期間が経過したからという理由だけで帰国させることは、企業側にとっても大きな損失です。
そこで台湾も、「外国人労働者を一定期間使って帰国させる制度」から、「優秀な人材には長く働いてもらう制度」へ徐々に方向転換しています。
この考え方は、日本が技能実習中心の政策から特定技能、さらに特定技能2号へと移行している流れと非常によく似ています。
台湾で単純労働から永住することはできるのか
ここは重要なポイントです。台湾でも、外国人労働者として働いているだけで自動的に永住権を取得できるわけではありません。しかし、一定の技能や給与水準などの条件を満たし、より高度な区分へ移行することによって、長期滞在につながる可能性があります。
つまり、外国人労働者→台湾で経験を積む→一定の技能・給与水準を満たす→中堅技能人材など長期就労につながる区分へ移行→さらに一定の要件を満たす→永住・長期定住の可能性というキャリアパスが形成されつつあります。
台湾でも「単純労働者は永遠に単純労働者」という制度から、技能を身につけた外国人材を国内に定着させる制度へと変化しているのです。
台湾と日本の違いを整理すると
日本と台湾は、どちらも少子高齢化と人手不足という共通の問題を抱えています。そして、どちらも外国人労働者の受入れを拡大しています。
一方で、外国人材から見た魅力には違いがあります。台湾の強みは、外国人労働者受入れの長い実績、送り出しルートの確立、就労開始までの予測可能性、製造業などにおける残業を含めた実収入などです。
一方、日本の強みは、安全性、社会インフラ、職場環境、日本語・日本文化への関心、技能形成、そして特定技能2号や在留資格「介護」などを通じた長期的なキャリア形成にあります。
つまり、日本が台湾と競争するうえで重要なのは、単純に初任給だけを比較することではありません。日本が本当に考えるべきなのは「5年後、10年後」外国人材を採用する企業にとっても、これから重要になるのは「何人採用できるか」だけではありません。
その外国人が、1年後にどのくらい日本語を話せるのか、3年後にどのような仕事を任せられるのか、5年後に特定技能2号や介護福祉士など次のステージへ進めるのか、10年後に管理者や教育担当者として活躍できるのか。ここまで考えて採用する必要があります。
台湾が外国人労働者の長期定着へ政策を転換していることは、日本にとっても重要な示唆があります。
外国人材は「日本か台湾か」を比較している
日本の外国人政策を考えるとき、どうしても「日本に何人受け入れるか」という国内目線になりがちです。しかし、外国人材の視点から見ると景色はまったく異なります。彼らは、日本、台湾、韓国、シンガポールなどを比較して、自分にとって最も条件の良い国を選んでいます。
特に重要なのは、「給料はいくらか」「手取りはいくら残るのか」「いつから働けるのか」「渡航費はいくらかかるのか」「何年間働けるのか」「家族と暮らせるのか」「将来永住できるのか」という極めて現実的な条件です。
日本が今後も外国人材から選ばれる国であり続けるためには、単に受入れ人数を増やすだけでは不十分です。賃金、手続のスピード、生活支援、キャリア形成、家族帯同、そして長期定住まで含めた「外国人から見た日本の魅力」を高めていく必要があります。
まとめー外国人材の獲得競争は、すでに始まっています。
外国人材の採用を考えるうえで、これから日本企業が意識しなければならないのは、競争相手が国内の企業だけではないということです。同じ外国人材を求めているのは、台湾や韓国をはじめとするアジア各国です。さらに今後、少子高齢化や人手不足が進む国が増えれば、外国人材の獲得競争は一層激しくなっていくと考えられます。
外国人材の側も、単に「海外で働ければよい」と考えているわけではありません。どの国で働けばより高い収入を得られるのか、就労までどの程度の時間がかかるのか、安心して生活できる環境があるのか、そして数年後にどのようなキャリアを描けるのか。こうした条件を比較しながら、働く国を選ぶようになっています。
台湾の外国人労働者受入れ制度を見ると、日本とは制度設計や考え方に違いがある一方、賃金や手続きのスピード、受入れ分野の広さなど、外国人材から見た「働きやすさ」を考えるうえで参考になる点も少なくありません。
日本には、安全な生活環境、社会保障、充実した交通インフラ、高いサービス水準、そして特定技能からさらに長期的なキャリアを形成できる制度など、多くの強みがあります。
しかし、それらの強みがあるだけで、外国人材が自然に日本を選んでくれる時代ではなくなりつつあります。賃金、手続きのスピード、住居や生活支援、日本語教育、キャリア形成、家族との生活など、外国人材が実際に重視する条件を一つひとつ改善していくことが必要です。
これまでの日本の外国人雇用政策は、どちらかといえば「外国人材をどのように受け入れるか」という受入れ側の視点を中心に制度が設計されてきました。しかし、これから必要になるのは、外国人材を「受け入れる」という発想から、外国人材に日本を「選んでもらう」という発想への転換です。
企業にとっても同様です。「外国人を採用できる会社」であるだけではなく、外国人材から見て「この会社で働きたい」「長く働きたい」と思ってもらえる会社になれるかどうか。
台湾をはじめとするアジア各国との外国人材獲得競争が本格化するなか、日本の外国人雇用政策も、そして外国人を雇用する企業の姿勢も、いま大きな転換点に来ているのではないでしょうか。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直














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