特定技能「農業」による外国人材の受入れは、 単なる農家の人手不足対策ではなく、日本の食料安全保障を支える政策の一つとして考える必要があります。 「外国人を受け入れるかどうか」ではなく、 日本国内の食料を誰が作り、将来にわたって生産を維持していくのかという視点が重要です。
2025年度の日本の食料自給率はカロリーベースで37%と過去最低に並ぶ一方、 基幹的農業従事者は100万人を割り込む水準まで減少し、高齢化も進んでいます。 その一方で、農業分野ではすでに約4万人の特定技能外国人が働いており、 栽培・収穫・選別・出荷などを通じて国内の食料生産を支えています。 人材確保は、農地や農業機械と同じく、日本の食料供給力を維持する重要な要素になっています。
こんにちは。行政書士の稲福です。
2026年8月7日に公表された2025年度(令和7年度)の日本の食料自給率は、カロリーベースで37%となりました。前年度の38%から1ポイント低下し、過去最低に並ぶ水準です。
日本経済新聞が、日本の2025年度の食料自給率について報じた記事です。 カロリーベースの食料自給率は37%となり、過去最低の水準となりました。 日本の食料供給力や農業を取り巻く現状を考えるうえで参考となる記事です。
▶ 日本経済新聞「食料自給率、25年度は過去最低の37%」を読む政府は2030年度に45%まで引き上げる目標を掲げていますが、現状とは大きな開きがあります。世界ではロシア・ウクライナ情勢、中東情勢、気候変動、輸出規制など食料供給を不安定にする要因が増えており、日本の低い食料自給率は、以前にも増して食料安全保障上の重要な問題になっています。
しかし、食料自給率について議論するとき、輸入量や農地面積ばかりが注目され、「そもそも、その農地で誰が食料を作るのか」という問題は、意外と正面から語られていません。
日本の農業を維持するためには、農地だけではなく「人」が必要です。そして現在、その「人」の一部を確実に担っているのが、特定技能をはじめとする外国人材です。
今回は、食料自給率の低下という視点から、特定技能「農業」による外国人材の受入れについて考えてみたいと思います。
- 2025年度の食料自給率が37%まで低下した意味
- 農業従事者の減少と荒廃農地が広がる背景
- 特定技能外国人が日本の農業を支えている現状
- 農業の人手不足が食料価格や国民生活に与える影響
- 地方産業・物価の安定と外国人労働者の人権をどう両立するか
- 特定技能「農業」を食料安全保障の視点から考える必要性

- 2025年度の食料自給率は37%、過去最低に並ぶ
- 農業をする人が、100万人を割り込む時代へ
- 農地があっても、耕す人がいなければ食料は作れない
- すでに約4万人の特定技能外国人が日本の農業を支えている
- 外国人材がいなくなれば、何が起こるのか
- 農業の人手不足は、収穫量そのものを減らし食料価格を押し上げる
- 外国人材は「誰かのため」ではなく社会インフラになりつつある
- ただし「外国人を地方に縛り付ければよい」ではない
- 地方産業・物価・人権をどう両立するのか
- 「賃金を上げれば解決する」だけでも難しい
- 特定技能「農業」は食料安全保障政策として考えるべきではないか
- 特定技能2号によって「長く農業を支える人材」へ
- 外国人材に依存するだけでは、食料自給率は上がらない
- 「外国人を受け入れるか」ではなく「日本の食料を誰が作るのか」
2025年度の食料自給率は37%、過去最低に並ぶ
今回発表された2025年度の食料自給率は、カロリーベースで37%。つまり、日本の食料供給は依然として海外への依存度が非常に高い状態にあります。もちろん「自給率37%だから、輸入が止まれば37%しか食べられない」という単純な意味ではありません。しかし、日本が現在の食生活を維持するために、海外からの輸入に大きく依存していることは間違いありません。
特に大きいのが 小麦、油脂類、そして輸入飼料への依存が大きい畜産物 です。 この3分野だけで、日本の総供給熱量の 約38.5ポイント に相当する海外依存が生じている計算になります。
※各品目の1人1日当たり供給熱量と自給率から海外依存分を概算。
※畜産物については、総合食料自給率の算定方法に合わせて飼料自給率を反映。
※端数処理のため合計が一致しない場合があります。
しかも、食料を海外から安定して買えることが当然とは限らなくなっています。戦争や紛争、異常気象、輸出国による規制、物流網の混乱、円安などが起これば、輸入価格の上昇だけでなく、必要な量そのものを確保できなくなる可能性があります。
日本政府が2030年度の食料自給率45%を目標としているのも、単に「国産品を増やしたい」からではありません。食料を安定的に確保できる国であるためです。しかし、そのためには一つ大きな問題があります。食料を作る人そのものが急速に減っていることです。
農業をする人が、100万人を割り込む時代へ
農林水産省の統計によれば、基幹的農業従事者は2020年には136.3万人いました。2025年には103.6万人まで減少し、2026年2月時点の推計では98.7万人となっています。平均年齢は67.7歳です。農業従事者が100万人を割り込むということは、非常に大きな意味を持っています。
その後も減少は止まらず、 2026年2月時点の推計では 98.7万人となり、 ついに100万人を下回りました。
しかも平均年齢は 67.7歳です。 単なる農業人口の減少ではなく、 今後の国内農業生産を誰が担うのかという問題が より現実的な課題になっています。
※「基幹的農業従事者」とは、自営農業を主な仕事としている世帯員。
※2026年は農業構造動態調査による推定値。2025年までの農林業センサス等とは 調査方法が異なるため、直接比較には留意が必要です。
農地は、人がいなければ農地として維持できません。田植えをする人、野菜を育てる人、家畜を飼育する人、収穫する人、選別する人、箱詰めする人、出荷する人。こうした人がいて初めて、農産物は私たちの食卓まで届きます。
つまり、日本の食料安全保障を考えるのであれば、「農地を何ヘクタール確保するか」と同じくらい、「そこで誰が働くのか」を考えなければならないということです。
農地があっても、耕す人がいなければ食料は作れない
日本には、使われなくなった農地も大量に存在しています。農林水産省によれば、2024年3月末時点の荒廃農地は全国で約25.7万ヘクタール。荒廃農地が発生する主な理由として、農業者の高齢化、病気・死亡と並んで、担い手・労働力不足が挙げられています。
しかも2023年度には、 1.0万haが再生利用された一方で、新たに2.5万haの荒廃農地が発生 しています。
背景には農業者の高齢化だけでなく、 担い手・労働力不足 があります。 農地が存在していても、それを耕作し、維持していく人がいなければ、 国内の農業生産基盤を維持することはできません。
※2021年度から調査体系が見直されているため、本グラフでは2021年度以降を表示しています。
※「新規発生」と「再生利用」は年度内の動きを示すものであり、 期末の荒廃農地面積との差を単純に差し引いて算出するものではありません。
直近では、2022年度の25.3万haから2023年度には25.7万haへ増加しています。2023年度だけでも1.0万haが再生された一方、新たに2.5万haが荒廃農地となっており、荒廃農地の発生そのものが止まったわけではありません。
農地がなくなったから農業ができないのではありません。農地はある。しかし、耕す人がいない。これが日本農業の抱える大きな問題です。
一度耕作をやめ、荒廃してしまった農地を再び農業に利用できる状態へ戻すには、大きな費用と労力が必要になります。だからこそ、「荒廃農地を将来再生する」だけではなく、「今使われている農地を、使われているうちに守る」ことが重要になります。
そのためには、そこで働く人を確保しなければなりません。
すでに約4万人の特定技能外国人が日本の農業を支えている
ここで重要になるのが外国人材です。2025年12月末時点で、農業分野の特定技能外国人は3万9,234人まで増加しました。わずか1年間で9,903人増えています。これは、日本農業における外国人材の存在が、一時的なものではなくなっていることを示しています。
前年末比 約33.8%増
その後急速に増加し、 2025年末には 39,234人 まで拡大しています。
特に直近1年間だけでも 9,903人、約33.8%増加 しています。 農業従事者の減少と高齢化が進む中、 外国人材は一時的な労働力ではなく、 日本の農業生産を支える人材基盤の一つ になりつつあります。
※各年12月末時点。2025年は特定技能1号37,952人、特定技能2号1,282人の合計。
特定技能制度は、一定の技能と日本語能力を持つ外国人を、人手不足が深刻な産業で受け入れる制度です。農業分野でも、耕種農業と畜産農業の現場で多くの外国人材が働いています。
農林水産省の白書でも、特定技能外国人を活用することで労働力を確保し、実際に農産物の生産拡大につなげている農業経営体が紹介されています。つまり外国人材は、単純に「日本人がやりたくない仕事を代わりにやっている人」ではありません。日本国内の農業生産量そのものを支える存在になり始めています。
外国人材がいなくなれば、何が起こるのか
ここで一度、逆から考えてみます。現在農業で働いている外国人材が大幅に減った場合、何が起きるでしょうか。
すぐに同じ人数の日本人が農業現場へ入ってくるのであれば、大きな問題にはなりません。しかし、農業従事者自体が減少し、平均年齢が67歳を超えている現状を考えると、それは現実的ではありません。
人が確保できなければ、まず農家は作付面積を減らします。それでも人が足りなければ、収穫できる量を減らす。最終的には離農や廃業につながります。
外国人材が減った場合
農業の外国人材が減ると、私たちの食卓はどうなるのか
ここで一度、逆から考えてみます。現在農業で働いている外国人材が大幅に減った場合、 すぐに同じ人数の日本人が農業現場へ入ってくるのであれば、大きな問題にはなりません。 しかし、農業従事者そのものが減少し、高齢化が進んでいる現状を考えると、それは現実的とはいえません。
農業現場の人手不足がさらに深刻になる
外国人材が減っても、その人数を日本人労働者ですぐに補えるとは限りません。 収穫、栽培管理、選別、出荷などを担う人材が不足し、現場の負担がさらに大きくなります。
作付面積を縮小せざるを得なくなる
必要な人数を確保できなければ、農家は管理できる範囲まで畑や農地を縮小せざるを得ません。 「作りたいけれど、人がいないから作れない」という状況が増えていきます。
収穫量・国内生産量が減少する
作付面積が縮小するだけでなく、収穫期に十分な人手を確保できなければ、 作物が実っていても収穫できず、廃棄されることがあります。 結果として国内で生産・出荷できる農産物の量そのものが減少します。
農家の離農・廃業が進む
慢性的に人を確保できない状態が続けば、作付けの縮小だけでは対応できなくなり、 最終的には離農や廃業を選択する農家が増える可能性があります。
市場への供給量が減り、輸入依存が高まる
国内生産量が減れば、スーパーや食品加工業者へ供給される国産農産物も減少します。 不足分を補うため、海外からの輸入にこれまで以上に頼らざるを得なくなります。
食料価格の上昇リスクが高まる
国内の供給量が減れば需給が逼迫し、価格は上昇しやすくなります。 さらに輸入依存度が高まれば、円安、海外の不作、物流費、紛争や輸出規制などの影響も受けやすくなります。
外国人材が減ることは、単に農家の「採用が難しくなる」という問題ではありません。
人手不足によって作付面積や収穫量が減れば、国内の食料供給力そのものが低下し、
輸入依存度や食料価格の上昇リスクも高まります。
つまり、農業分野における外国人材の受入れは、
「外国人雇用」の問題だけではなく、日本の食料供給と私たちの食卓をどう守るのかという問題
でもあるのです。
という流れが起こります。これは単なる「外国人雇用」の問題ではありません。最終的に影響を受けるのは、私たちの食卓です。
農業の人手不足は、収穫量そのものを減らし食料価格を押し上げる
「農業の人手不足」と言われても、都市部で生活していると、自分自身の生活との関係が分かりにくいかもしれません。しかし農業の人手不足は、単に「人件費が上がる」という問題ではありません。より大きな問題は、人がいなければ、そもそも作物を収穫できず、市場へ出せる量そのものが減ってしまうことです。
例えば、畑にキャベツが十分実っていても、収穫する人がいなければ商品にはなりません。トマトが実っていても、収穫し、選別し、箱詰めし、出荷する人がいなければスーパーには並びません。
農産物には収穫に適した時期があります。その時期に必要な人数を確保できなければ、畑には作物があるのに収穫できず、そのまま廃棄されることもあります。
さらに慢性的な人手不足が続けば、農家は翌年以降、作付面積を減らす→生産量が減る→市場への供給量が減る→需給が逼迫する→価格が上がりやすくなるという状況に追い込まれます。つまり、人手不足による食料価格への影響は、人件費上昇によるコストプッシュだけではなく、供給量そのものが減少することによる価格上昇という側面が非常に大きいのです。
もちろん、人材を確保するためには賃金を上げる努力も必要です。しかし農業の人手不足は、「給料を上げれば日本人がすぐ集まる」というほど単純ではありません。地方の人口減少、高齢化、農作業の身体的負担、早朝勤務、季節による繁閑差、勤務地までの交通手段など、賃金以外にも人材確保を難しくしている要因があります。
実際、賃金水準を改善しても十分な応募が集まらず、必要な人数を確保できない農業現場はあります。その結果、人を採用できない農家は、人件費を上げる以前に、「今年はこの畑を作らない」「収穫できる範囲まで作付けを減らす」「事業そのものを縮小する」という判断を迫られます。
ここが、一般的な人手不足と農業の人手不足の大きな違いです。そして問題は農業だけでは終わりません。農産物はその後、 食品加工→ 物流→ スーパー・惣菜製造→ 飲食店へと流れていきます。農業の段階で供給量が減れば、食品加工業者が仕入れられる原材料も減ります。仕入価格が上がれば、加工食品や惣菜、外食産業にも価格上昇が波及します。
さらに物流や食品加工の現場でも人手不足が起きれば、人件費や輸送費、加工費まで上乗せされます。以前の記事でも書きましたが、人手不足は一つの産業だけの問題ではなく、サプライチェーン全体を通じて、食料品、惣菜、外食価格へ連鎖していきます。
もちろん、現在の食品価格が外国人材だけによって維持されているわけではありません。農産物価格には、天候、肥料代、飼料代、燃料費、物流費、為替など、多くの要素が影響します。
しかし、外国人材が農産物の栽培、収穫、選別、出荷を担うことで、本来であれば人手不足によって失われていたかもしれない生産量や出荷量を維持しているという側面は無視できません。
外国人材がいることで、作付面積を維持できる→ 収穫量を維持できる→ 市場への供給量を維持できる
→ 極端な需給逼迫を避けられる→ 食料価格のさらなる上昇圧力を抑えるという効果が生まれます。
つまり、外国人材の存在は単に農家の人件費や労働力の問題ではありません。日本国内でどれだけ食料を生産し、市場へ供給できるかという「供給力」そのものに関わっています。外国人労働者の存在は、実は私たちが毎日スーパーで目にする野菜や食品の量、そしてその価格とも、決して無関係ではないのです。
外国人材は「誰かのため」ではなく社会インフラになりつつある
外国人労働者の受入れというと、「外国人のための政策」として議論されることがあります。しかし実態は、それほど単純ではありません。農業で働く外国人がいれば、農作物を生産できます。食品工場で働く外国人がいれば、商品を加工できます。物流で働く人がいれば、それを都市部へ運ぶことができます。飲食店で働く人がいれば、料理として提供できます。
その結果として利益を受けているのは、外国人本人や受入企業だけではありません。消費者である私たち自身です。外国人材の受入れは、誰かを助けるためだけの制度ではなく、日本の生産、物流、物価、そして日常生活を維持する社会インフラの一部として捉え直す必要があるのではないでしょうか。
ただし「外国人を地方に縛り付ければよい」ではない
一方で、ここには非常に難しい問題があります。地方産業の維持、物価の安定、外国人労働者の権利、これらは本来、すべて実現されるべき価値です。
しかし外国人材の受入制度を設計するとき、実際にはそれぞれの利益が緊張関係に置かれることがあります。これは以前の記事でも取り上げた問題です。
例えば、外国人労働者が就労先や居住地をより自由に選択できる制度になれば、一般的には、より賃金の高い企業、より生活が便利な都市部、より労働条件の良い仕事へ移動しようとするインセンティブが強くなります。
これは日本人でも同じです。問題は、農業や漁業などの一次産業が、その人材獲得競争で不利になりやすいことです。都市部の企業と同じ賃金を出したくても出せない、交通が不便、住宅も少ない、仕事も体力を使う、それでも人がいなければ、事業そのものを続けられない。
地方では、こうした経営者が少なくありません。
地方産業・物価・人権をどう両立するのか
だからといって、「食料を作るためなのだから、外国人の転職を制限すればよい」という結論にしてはいけません。外国人であっても労働者である以上、適正な賃金、安全な職場環境、休暇、相談体制、生活環境などが保障される必要があります。
外国人材を安価で移動できない労働力として扱うような制度は、持続可能ではありません。待遇が悪ければ失踪や離職を招きます。
そして現在、外国人材を求めているのは日本だけではありません。韓国、台湾、欧州、中東など、多くの国が同じアジアの若い人材を必要としています。
外国人材から選ばれなければ、日本側が制度を作っても人は来ません。つまり、本当に考えるべきなのは、「外国人の人権を守るか、日本の農業を守るか」という二者択一ではありません。
必要なのは、
・外国人本人の権利をどう守るのか
・適正な転職や移動をどこまで認めるのか
・地方でも働き続けたいと思える待遇をどう作るのか
・農業事業者が賃金を払える収益構造をどう作るのか
・住宅、交通、日本語教育などを誰が支えるのか
・国として食料生産をどこまで支援するのか
という制度全体の設計です。
「賃金を上げれば解決する」だけでも難しい
人手不足について、「給料を上げれば日本人が働く」という意見もあります。もちろん、働く人に適正な賃金を支払うことは必要ですし、農業分野でも待遇改善は欠かせません。しかし、現在の農業の人手不足は、単純に「賃金が低いから人が来ない」という問題だけではありません。
地方では人口そのものが減少し、農業従事者の高齢化も進んでいます。さらに、早朝勤務や季節による繁閑差、身体的負担、勤務地までの交通手段など、賃金以外にも人材確保を難しくする要因があります。そのため、賃金を上げても必要な人数の日本人を確保できるとは限りません。
そして農業で人を確保できない場合、問題は人件費だけでは終わりません。先に説明したとおり、収穫する人がいなければ、畑に作物が実っていても出荷できません。慢性的な人手不足が続けば、農家は管理できる範囲まで作付面積を縮小し、その結果、国内の生産量や市場への供給量そのものが減っていきます。
つまり、人手不足→ 作付面積の縮小→ 国内生産量の減少→ 市場への供給量の減少→ 需給の逼迫→ 食料価格の上昇という問題が起こり得ます。
これに加えて、人材を確保するために賃金を大幅に引き上げれば、その分だけ農家の生産コストも上昇します。農家がそのコストをすべて負担すれば経営が苦しくなり、農産物価格へ転嫁すれば消費者の負担が増えます。
つまり農業では、
☑農家の所得を守ること
☑働く人の賃金を上げること
☑十分な生産量を維持すること
☑消費者が買える価格を維持すること
を同時に考えなければなりません。
これを農業事業者の努力だけですべて実現することは、簡単ではありません。だからこそ、生産性向上、機械化・スマート農業、農地集約、適正な価格転嫁、農業所得への支援、そして特定技能を含む外国人材の活用などを組み合わせて考える必要があります。
「外国人を入れればよい」でも、「賃金を上げれば日本人が来る」でもありません。重要なのは、国内の農業生産を維持するために必要な人材を現実にどう確保し、農家の経営、働く人の待遇、そして消費者の食料価格をどう両立させていくのかという、農業政策全体の設計ではないでしょうか。
特定技能「農業」は食料安全保障政策として考えるべきではないか
特定技能は、制度上は「人手不足分野における外国人材受入制度」です。しかし日本の現状を見ると、農業分野については、それ以上の意味を持ち始めているように思います。
・食料自給率37%。
・基幹的農業従事者は100万人を割り込む水準。
・平均年齢は約68歳。
・25万ヘクタールを超える荒廃農地。
そして、すでに約4万人の特定技能外国人が農業現場で働いている。これらを一つにつなげて考えれば、特定技能「農業」人材は、日本国内の食料生産能力を維持するための制度でもあると見ることができます。
日本の食料安全保障を考えるのであれば、農地、種子、肥料、飼料、農業機械、物流網だけを見るのでは不十分です。そのすべてを動かす、「人」も食料安全保障を構成する重要な要素だからです。
特定技能2号によって「長く農業を支える人材」へ
農業分野では、現在、特定技能2号への移行も可能になっています。特定技能1号は在留期間が原則通算5年間ですが、一定の要件を満たして特定技能2号へ移行すれば、在留期間の更新回数に上限はありません。
つまり、
特定技能「農業」のキャリア形成
特定技能1号から2号へ―農場の中核人材を育てる
特定技能「農業」は、単に数年間だけ人手不足を補うための制度ではありません。 日本語や農業技能を身につけ、経験を積み、後輩を指導できる人材へ育成し、 特定技能2号へつなげることで、長期的に農場を支える中核人材として活躍してもらうことも可能です。
特定技能人材として採用する
まずは特定技能「農業」として採用し、日本の農業現場でのキャリアをスタートします。
日本語を覚える
日々の仕事や生活を通じて日本語力を高め、指示の理解や職場でのコミュニケーション力を身につけます。
農作業を覚える
栽培、収穫、選別、出荷など、それぞれの農場で必要となる基本的な農作業を身につけていきます。
農業機械や栽培管理を覚える
経験を積みながら、農業機械の取扱いや栽培管理、安全管理など、より高度な技能を身につけます。
後輩を指導する
自分で作業するだけでなく、新しく入った外国人材や後輩に仕事を教え、現場を支える役割へ成長していきます。
特定技能2号へ移行する
必要な技能水準や実務経験などの要件を満たし、特定技能2号への移行を目指します。
農場の中核人材になる
長年の経験を活かし、現場のリーダーや後輩の育成、農作業の管理などを担う中核人材として活躍します。
特定技能「農業」は、単に数年間だけ人手不足を補う制度ではありません。
日本語や農業技能を身につけ、経験を積み、後輩を指導できる人材へ育成し、
特定技能2号へつなげることで、外国人材が長期的に日本の農業を支えることも可能になります。
「何人採用するか」だけではなく、
「誰を将来の農場の中核人材として育てるのか」
という視点が、これからの外国人材採用では重要になります。
という長期的なキャリアを作ることも可能です。
農業経営者にとっても、毎年新しい人を採用して一から教え続けるより、経験を積んだ人材に長く働いてもらう方が、生産性の面でもメリットがあります。これからは、「外国人を何人採用するか」ではなく、「誰を10年後の農業を支える人材に育てるのか」という視点も必要になるでしょう。
外国人材に依存するだけでは、食料自給率は上がらない
もちろん、外国人材を増やせば食料自給率が上がるという単純な話でもありません。日本の農業には、
・農家の所得
・農産物価格
・農地集約
・新規就農
・スマート農業
・肥料・飼料の海外依存
・流通構造
など、多くの課題があります。
外国人材は、そのすべてを解決する万能薬ではありません。しかし、「農業をする人がいない」という根本的な問題を無視したまま、食料自給率だけを議論することもできません。
農業を機械化しても、人は必要です。農地を集約しても、人は必要です。スマート農業を導入しても、それを操作し、管理し、収穫する人が必要です。
だからこそ、外国人材についても食料政策の一部として議論する必要があります。
「外国人を受け入れるか」ではなく「日本の食料を誰が作るのか」
食料自給率37%という数字は、私たちに一つの問いを突き付けています。これから、日本の食料を誰が作るのでしょうか。
高齢の農家だけに任せ続けることはできません。若い日本人だけですべてを補える状況でもありません。機械だけですべての農作業ができるわけでもありません。そして、海外からいつでも安く食料を買える保証もありません。
そう考えれば、外国人材の受入れについても、「外国人を増やすべきか、減らすべきか」という単純な賛否で議論する段階から、一歩進む必要があります。
問うべきなのは、日本国内の食料生産をどう維持するのか、そのために必要な人材をどう確保するのか、そして、その人たちが日本で適正な待遇を受けながら、安心して長く働ける仕組みをどう作るのかということです。
・地方産業の維持
・物価の安定
・食料安全保障
・外国人労働者の人権。
これらは、どれか一つを犠牲にして解決する問題ではありません。
すべてを完全に両立させることは簡単ではないからこそ、現場を見ながら、現実に耐えうる制度を作り続ける必要があります。
特定技能「農業」による外国人材の受入れは、もはや一部の農家だけの人手不足問題ではありません。日本がこれからも国内で食料を作り続けられる国でいられるのか。
食料自給率が過去最低の37%に並んだ今、外国人材の受入れを「労働政策」だけではなく、食料安全保障と国民生活を支える政策として考える時期に来ているのではないでしょうか。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直


















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