日本の介護事業者が中国の養老市場へ進出することは、現在も可能です。 ただし、中国に自ら老人ホームを建設することだけが進出ではありません。 中国側の資本・施設・行政ネットワークと、日本側の介護技術・人材育成・施設運営ノウハウを組み合わせることで、 中小・地域の介護事業者にも中国市場へ参入できる可能性があります。
中国では養老サービスそのものは一般的な外資禁止業種とされておらず、 日本企業100%出資の現地法人、現地企業との合弁、運営受託・コンサルティング、 公設民営、介護専門人材の紹介など、複数の参入方法を検討できます。 また、中国では急速な高齢化が進んでおり、 施設の整備だけでなく、認知症ケア、自立支援、職員教育、品質管理など 「介護の質」を高めるノウハウへのニーズも今後重要になると考えられます。
こんにちは。行政書士の稲福です。
中国の高齢化が急速に進むなか、日本の介護事業者にとって、中国の介護・養老市場は以前から注目されてきました。特にコロナ前の2010年代には、大手介護会社だけでなく、地域に基盤を持つ介護事業者まで中国へ進出する動きが見られました。
では現在、日本の介護事業者が中国で介護施設を運営することは可能なのでしょうか。結論からいえば、中国では現在も介護・養老サービス分野への外資参入は可能です。ただし、日本の介護施設をそのまま中国へ持っていけばよいわけではありません。
中国では、
●外商投資規制
●養老機構に関する規制
●地方政府への届出
●建築・消防・食品衛生
●医療サービスを行う場合の医療規制
●地域ごとの長期介護保険や補助制度
などを組み合わせて事業を設計する必要があります。
今回は、コロナ前の日系介護事業者の中国進出を振り返りながら、現在の中国法制と現実的な進出スキームについて整理してみたいと思います。
- 日本の介護事業者は現在も中国に進出できるのか
- コロナ前に日本の介護事業者が中国進出を進めた背景
- 中国の介護・養老サービスに関する外資規制の考え方
- 日本企業100%出資・合弁・運営受託などの進出スキーム
- 中国で介護施設を開設する際の基本的な手続き
- 「公設民営」など地方政府と連携した事業モデル
- 介護施設に医療機能を付ける場合の注意点
- 日本式介護のどの部分が中国市場で強みになるのか
- 中国人介護人材の受入れと中国進出を循環させる可能性

- 中国では高齢者人口が3億人を超えた
- 実はコロナ前、日本の介護会社はかなり中国へ進出していた
- なぜ2010年代に中国進出が増えたのか
- 「公設民営」という中国独特のチャンスもあった
- 現在も日本企業は中国で介護事業をできるのか
- 中国市場への関心は高いが、日本の介護事業者の海外進出はまだ限定的
- 中国進出の基本的な4つのスキーム
- 中国で老人ホームを開設する場合の基本的な法的流れ
- 介護施設に医療機能を付ける場合は話が変わる
- 日本式介護をそのまま中国に持ち込むのは難しい?
- 中国・成都を訪問―中国太平の有料老人ホームを視察
- 日本式介護の強みは、施設よりも運営ノウハウにある
- 日本の介護事業者にとって中国市場は選択肢となるのか
- 中国進出と日本への介護人材受入れを循環させる
- まとめ
中国では高齢者人口が3億人を超えた
まず、中国の高齢化の規模を見てみましょう。中国国家統計局によると、2025年末の中国の60歳以上人口は3億2,338万人となり、総人口の23.0%を占めています。65歳以上でも2億2,365万人、15.9%に達しています。さらに60歳以上人口は前年から約1,307万人増加しており、高齢化は非常に速いペースで進んでいます。
中国国家統計局も、60~64歳の比較的若い高齢者層が大きな割合を占めていると指摘しています。(国家統計局)中国の2025年末の総人口は約14億489万人ですから、すでに国民のほぼ4人に1人が60歳以上という社会になりつつあります。(国家統計局)
また、60歳以上3億2,338万人のうち、65歳以上は2億2,365万人です。 差し引くと、60~64歳だけでも約9,973万人にのぼります。 今後、この比較的若い高齢者層が65歳以上へ移行していくことから、 中国の介護・養老サービス需要はさらに拡大していく可能性があります。
※60~64歳人口は「60歳以上人口-65歳以上人口」により算出。
JETROは、中国政府が2035年までに高齢者サービス体系の整備・定着を目指し、 在宅介護、社区(コミュニティ)サービス、高齢者施設の連携強化を進めていると紹介しています。 民間による高齢者施設の新設・拡充や公設民営方式に加え、 外資系企業による高齢者産業への投資も奨励されています。
▶ JETRO「中国、2035年までに高齢者サービスの整備・定着を目標に改革を推進」を読むJETROは、中国の2025年の出生数が792万人となり、 前年から減少したことを紹介しています。 中国政府は出生数の減少や人口構造の変化を受け、 出産・子育て支援など多角的な政策を進めています。 中国の少子高齢化と今後の高齢者・介護市場を考えるうえで参考になる資料です。
▶ JETRO「中国、2025年の出生数は792万人」を読む重要なのは、単に「高齢者が多い」ということだけではありません。60代前半の比較的元気な高齢者から、介護や医療を必要とする高齢者まで、巨大な人口層が段階的に存在しています。そのため、中国の高齢者市場は、介護施設だけではなく、健康管理、リハビリ、予防介護、在宅サービス、認知症ケア、高齢者住宅、福祉用具、介護人材育成など、非常に幅広い分野に広がっていくと考えられます。日本の総人口を大きく上回る規模の高齢者人口が存在する中国では、今後、単に介護サービスの「量」を増やすだけでなく、サービスの質や人材育成、施設運営のノウハウをどう高めていくかも重要になってきます。
中国では高齢化が急速に進む一方、 要介護状態に近い「失能高齢者」を支える専門介護人材が大幅に不足 しています。 特に今後は、高齢者数そのものよりも、 介護を必要とする高齢者の増加が大きな課題になります。
① 中国の高齢者人口はすでに3億人を突破
② 要介護状態に近い「失能高齢者」はさらに増加
③ 最大の問題は「介護する人」が足りないこと
全国政協の2026年資料では、 2025年末の有資格養老介護員は約50万人。 「介護職1人で4人を支える」という基準でみると、 必要な介護人材は約1,000万人規模となり、 現状の有資格者による充足率は単純計算で約5% にとどまります。
④ 将来、必要な介護人材はさらに増える
政府推計の失能高齢者数に、 「介護職1人:高齢者4人」という基準を 機械的に当てはめたものです。 中国政府が公表した将来の介護職員数そのものではありません。
⑤ 介護人材が増えなければ、充足率はさらに低下
中国の60歳以上人口はすでに3億人を超えています。
より重要なのは、 介護を必要とする失能高齢者が 約3,500万人から2035年4,600万人、 2050年5,800万人へ増加する ことです。
一方、有資格の養老介護員は約50万人にとどまり、 現時点でも大きな人材不足があります。
今後の中国介護市場では、 介護施設を建設するだけではなく、 介護人材の育成、認知症ケア、 失能高齢者への専門介護、 在宅・地域介護、介護人材のマネジメント が重要になります。
・中国国家統計局「2025年全国人口統計」
・中国全国人民代表大会 「養老サービス体系建設・失能高齢者照護に関する国務院報告」
・中国全国政治協商会議 「失能・認知症高齢者の介護体系に関する調査」
※「失能高齢者」は日本の要介護認定者と制度上同一ではありません。 日常生活能力の低下等によって介助・照護を必要とする高齢者を示す 中国側の概念です。
※介護人材の「約5%」は、有資格養老介護員約50万人と、 資料で示された必要規模約1,000万人から算出した参考値です。
※2035年・2050年の必要介護人材数および充足率は、 公表された失能高齢者数を使った参考試算であり、 中国政府による介護人材数の公式予測ではありません。
そこで注目されるのが、日本の介護事業者が長年培ってきた経験です。認知症ケア、自立支援、リハビリ、介護人材の教育、施設運営など、日本の介護現場には長年の制度運用と実務の中で蓄積されてきたノウハウがあります。こうしたノウハウは、日本国内だけで使われるものではありません。中国側のニーズと結びつけば、人材教育や運営支援、技術指導、施設運営への参画など、さまざまな形で事業化できる可能性があります。
実はコロナ前、日本の介護会社はかなり中国へ進出していた
日本ではあまり知られていませんが、コロナ前には多くの日系介護事業者が中国市場へ進出していました。ジェトロが2019年に整理した事例を見ると、
●ニチイ学館
●リエイ
●メディカル・ケア・サービス
●ロングライフ
●AYA医療福祉グループ
●エフビー介護サービス
●サンガホールディングス
●アースサポート
●アコード
などが、中国で老人ホーム、デイサービス、認知症施設などを運営していました。
リエイは2013年に上海、メディカル・ケア・サービスは2014年に南通、エフビー介護サービスは2017年に大連、2018年には南京にも施設を開設しています。
つまり当時の中国進出は、一部の巨大企業だけのものではありませんでした。日本の地域介護事業者が、それまで国内で蓄積してきた介護ノウハウを中国に輸出する動きが実際に起きていたのです。
JETROでは、中国で急速に進む高齢化や介護サービス市場の動向、 日本企業が中国市場へ展開する際の課題や事業戦略について紹介しています。 中国の介護・養老市場を理解するうえで参考になる公的資料です。
▶ JETROの記事を読むなぜ2010年代に中国進出が増えたのか
大きな転換点の一つが、中国政府による介護・養老サービス市場の民間開放です。中国政府は2010年代に入り、急速な高齢化に対応するため、政府だけではなく民間資本や外国資本も活用して養老サービスを整備する方向へ政策を転換していきました。
2014年には中国商務部と民政部が、外国投資家について、中国国内で独資、合弁または合作により営利性養老機構を設立することを奨励するとの方針を明確に打ち出しました。これは日系介護企業にとって非常に大きな政策転換でした。
さらに2016年以降、中国政府は在宅・社区(地域)高齢者サービスのモデル都市を全国に指定し、地方政府による民間事業者の活用を進めました。2020年までに203のモデル都市・区が選定されています。この時期が、日系介護事業者の中国進出の一つのピークだったと考えることができます。
「公設民営」という中国独特のチャンスもあった
興味深いのが、地方政府との連携です。中国では地域によって、公設民営というスキームがあります。政府側が建物や施設を整備し、民間企業がその運営を担う方式です。
ほかにも、民設公助という、民間企業が施設を設置・運営し、政府が補助する方式も活用されてきました。例えば大連市では2018年、市内に50カ所の小規模多機能型施設を整備し、その全てについて民間企業に運営を委託しました。そこには中国企業だけではなく、AYA医療福祉グループ、元気村グループ、ロングライフという日系3社も参入しています。
公設民営の場合、政府が建物を提供することで事業者の家賃負担を抑えられるケースもありました。日本の地方介護事業者にとって、中国進出は必ずしも「自社で土地を買い、巨大施設を建設する」という話だけではなかったのです。
現在も日本企業は中国で介護事業をできるのか
では、現在はどうでしょうか。基本的には、可能です。中国では「外商投資法」により、参入前内国民待遇+ネガティブリスト方式が採用されています。つまり、外国企業による投資が禁止・制限されている分野をネガティブリストに掲載し、それ以外については原則として中国企業と同様に扱う仕組みです。
現在適用されている全国版の「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)2024年版」でも、ネガティブリスト以外の分野については内外資一致の原則で管理するとされています。養老サービスそのものは、一般的な外資禁止業種には位置付けられていません。むしろ中国政府は2025年の「穏外資行動方案」においても、養老サービス分野への外資導入を奨励する方針を示しています。
したがって、日本企業が100%出資する中国法人を設立して介護事業へ参入することも、制度上検討できます。
中国市場への関心は高いが、日本の介護事業者の海外進出はまだ限定的
日本の介護事業者のうち、どの程度が海外、あるいは中国へ進出しているのかを示す全国統一の公的統計はありません。一方、経済産業省やJETROはこれまで、中国を介護・高齢者関連サービスの重要な海外市場の一つとして取り上げ、日本企業の市場開拓や現地企業との連携を支援してきました。実際に、中国で介護施設やデイサービス、訪問介護などを展開してきた日本企業もあります。
ただし、日本国内には多数の介護事業者が存在するのに対し、実際に海外で介護事業を展開している企業はまだ一部にとどまっています。つまり、日本には介護現場で蓄積されたノウハウが数多く存在する一方、その多くはまだ国内にとどまっているということです。
これに対して、中国では高齢化が急速に進み、日本式介護や高齢者サービスへの関心も続いています。2025年10月から2026年3月にJETROが実施した日中オンライン商談会では、日本の介護・福祉・健康関連企業162社が対象となり、39社が中国企業との商談を実施しました。110件の商談のうち、25件は介護サービス関連でした。
ここに一つの大きなギャップがあります。「中国側では日本の介護サービスやノウハウへのニーズがある。しかし、日本側では実際に海外展開している介護事業者はまだ限定的である」という構造です。
中国進出の基本的な4つのスキーム
日本の介護事業者が中国へ進出する場合、実務上は大きく4つの方法が考えられます。
① 日本企業100%出資による中国法人
最も分かりやすいのが、日本法人が100%出資して中国現地法人を設立し養老施設を運営という形です。いわゆる外商独資企業です。介護サービスについて外資比率そのものが規制されていない地域・事業であれば、この方式を検討できます。ブランド、介護方法、人材教育などを自社でコントロールしやすいことがメリットです。
一方で、物件確保、採用、行政対応、集客、地方政府との関係、中国国内の経理・税務などを自社側で構築しなければならず、最も経営負担の大きい方式でもあります。
② 中国企業との合弁会社
日本の介護会社と中国企業が共同出資して法人を設立する方式です。例えば、
日本の介護会社→介護ノウハウ・教育・ブランド
中国企業→不動産・資金・行政対応・集客
という役割分担が考えられます。
中国では行政、不動産、医療機関、地域ネットワークとの連携が事業運営に大きく影響するため、優良な中国側パートナーを確保できるのであれば、有力な選択肢になります。
一方で、経営方針や利益配分、ブランド管理などをめぐって意見が分かれる可能性もあるため、中国側パートナーの選定は非常に重要な経営課題になります。
③ 運営受託・コンサルティング型
現在の日本の中小・地方介護事業者にとって、個人的に非常に可能性があると考えているのがこのモデルです。必ずしも日本企業自身が数億円を投資して老人ホームを建設する必要はありません。
中国側が施設や資金を用意し、日本側は、施設設計監修、介護オペレーション、認知症ケア、自立支援、職員研修、管理者教育、品質管理、日本式介護マニュアルなどを提供します。
つまり、「施設を輸出する」のではなく「介護ノウハウを輸出する」という考え方です。
日本の地域介護事業者が中国へ進出するのであれば、最初から大きな設備投資を行うよりも、こうしたアセットライト型の方が現実的なケースも多いでしょう。
④ 地方政府・中国企業との公設民営型
もう一つが、地方政府などが整備した高齢者施設の運営を受託する方式です。中国では、公設民営や政府によるサービス購入などを通じて、民間事業者を活用する取り組みも進められてきました。
地方政府が、「建物はあるが、質の高い介護運営ノウハウがない」という場合、日本企業が運営や教育、品質管理の面で参入する余地があります。例えば、日本側が施設全体の運営を受託するほか、管理者教育や職員研修だけを担当するといった形も考えられます。
ただし、こうした案件は地域政策や公募条件によって大きく異なるため、全国共通の制度として考えるのではなく、都市や地域ごとに制度や条件を確認する必要があります。
⑤ 日本の介護専門人材の紹介型
さらに考えられるのが、日本の介護福祉士や介護施設の管理者など、専門人材を中国の養老施設へ紹介するモデルです。
中国側が立派な施設を整備しても、日本式介護を導入しようとすると、
☑介護現場の立ち上げ
☑職員教育
☑認知症ケア
☑自立支援
☑ケアプランや介護記録
☑現場リーダーの育成
☑サービス品質の管理
といった部分を実際に指導できる人材が必要になります。
そこで、日本の介護現場で経験を積んだ介護福祉士、施設管理者、介護教育担当者などを中国側の施設へ紹介し、現地スタッフの育成や運営支援を担ってもらうという形です。
例えば、中国企業・養老施設→人材ニーズ→日本の介護福祉士・管理者を紹介→中国で現場指導・人材育成・運営支援というモデルが考えられます。これは単純に、日本人介護職員を大量に中国へ送り込むという話ではありません。むしろ、少人数の日本人専門家が現地に入り、中国人スタッフを教育し、日本式介護の考え方や現場運営を現地に定着させる役割を担うことに価値があります。
特に③の運営受託・コンサルティング型と組み合わせれば、「介護ノウハウ+日本の介護専門人材」をセットで提供することもできます。つまり、中国介護市場への進出は、必ずしも「中国に老人ホームを建てる」という一択ではありません。
現地法人、合弁、運営受託、公設民営、人材紹介など、複数の参入方法があり、日本の介護事業者の規模や強みに応じて参入方法を選択することができます。
特に中小の介護事業者であれば、最初から大規模な投資をするのではなく、介護ノウハウや介護福祉士など、日本がすでに持っている「知識」と「人材」を活用して中国市場へ入っていくという考え方も十分に現実的ではないでしょうか。
中国介護市場
中国介護市場への5つの参入モデル
中国介護市場への参入方法は、現地法人の設立だけではありません。 投資規模や自社の強みに応じて、合弁、運営受託、公設民営、人材紹介など、複数の方法を検討することができます。
| 参入モデル | 主な特徴 | メリット | 主な課題・留意点 |
|---|---|---|---|
|
01
日本企業100%出資
による中国法人 |
日本法人が100%出資して中国現地法人を設立し、養老施設を運営する方式。 | ブランド、介護方法、人材教育などを自社でコントロールしやすい。 | 物件確保、採用、行政対応、集客、地方政府との関係、経理・税務などを自社で構築する必要があり、経営負担が大きい。 |
|
02
中国企業との
合弁会社 |
日本側が介護ノウハウ・教育・ブランド、中国側が不動産・資金・行政対応・集客などを担う。 | 中国側の行政、不動産、医療機関、地域ネットワークを活用しながら事業を展開しやすい。 | 経営方針、利益配分、ブランド管理などの調整が必要。中国側パートナーの選定が重要。 |
|
03
運営受託・
コンサルティング型 |
中国側が施設や資金を用意し、日本側が施設設計監修、介護オペレーション、認知症ケア、職員研修、管理者教育、品質管理などを提供。 | 大規模な設備投資を抑えながら、「介護ノウハウを輸出する」ことができる。 | 契約設計、品質基準、責任範囲、ノウハウ管理などの明確化が必要。中小・地方介護事業者にも比較的取り組みやすい。 |
|
04
地方政府・中国企業との
公設民営型 |
地方政府などが整備した高齢者施設について、日本企業が運営、管理者教育、職員研修、品質管理などを受託する方式。 | 既存施設を活用でき、日本側の設備投資を抑えながら運営・教育ノウハウを提供できる。 | 地域政策や公募条件によって内容が大きく異なるため、都市・地域ごとの制度や条件の確認が必要。 |
|
05
日本の介護専門人材
の紹介型 |
日本の介護福祉士、施設管理者、介護教育担当者などを中国の養老施設へ紹介し、現場指導や人材育成を担ってもらう。 | 少人数の専門人材によって現地スタッフを育成し、日本式介護を現地に定着させることができる。③との組み合わせも可能。 | 中国側の就労許可、人材紹介に関する規制、契約・報酬設計などについて事前確認が必要。 |
中国で老人ホームを開設する場合の基本的な法的流れ
現在、中国で営利性の養老施設を設置する場合、おおまかには次の流れになります。
日本企業が中国現地法人の設立・登記→施設・物件の確保→建築・消防・食品衛生等への対応→養老サービス開始→民政部門への養老機構の届出(備案)という構造です。
ここで非常に重要なのが、昔の中国制度との違いです。2014年の外資養老機構に関する規定を見ると、「養老機構設立許可証」を取得する仕組みになっていました。しかし2018年末に制度が変更され、養老機構の設立許可制度は廃止され、現在は届出制へ移行しています。
現在の「養老機構管理弁法」では、養老機構とは原則として、10床以上を有し、高齢者に24時間の宿泊・生活支援・介護サービスを提供する施設とされています。営利性養老機構は市場監督管理部門で法人登記を行い、その後、民政部門への届出を行う仕組みです。
例えば北京では、新設された養老機構について、原則として高齢者の受入開始後10営業日以内に届出を行う仕組みが示されています。ただし、具体的な届出書類や施設基準については各地方政府のルールを確認する必要があります。
介護施設に医療機能を付ける場合は話が変わる
ここは非常に重要です。中国で、老人ホームを運営することと、病院・診療所などの医療サービスを提供することは別の法制度です。2014年の外資養老機構に関する規定でも、養老施設の業務範囲に医療衛生サービスを含める場合には、別途医療関係の手続が必要であることが明記されていました。
現在、中国は医療分野についても外資開放を進めており、北京、天津、上海、南京、蘇州、福州、広州、深圳、海南島では外商独資病院を認める試行制度が進められています。しかし、これは養老サービスとは別制度です。
したがって、介護施設+診療所・介護施設+リハビリ病院・介護施設+医療機関という「医養結合」モデルを考える場合には、医療機関側の外資規制・許認可を別途確認する必要があります。
日本式介護をそのまま中国に持ち込むのは難しい?
中国の高齢者市場が大きいからといって、日本で行われている介護サービスをそのまま中国へ持ち込めば成功するとは限りません。
日本の介護は、介護保険制度や人員配置基準、介護報酬など、日本独自の制度を前提として発展してきました。中国では制度や費用負担の仕組みが異なるため、日本と同じ人員配置やサービス内容では、事業として成り立たない可能性があります。また、介護に対する家族の関わり方や生活習慣も異なります。食事、入浴、家族との過ごし方、高齢者本人が施設に求めるサービスなど、日本で評価されている介護が、そのまま中国でも求められるとは限りません。
さらに重要なのが介護人材です。認知症ケア、自立支援、身体介護、事故防止、記録、家族への説明など、日本式介護の多くは、建物や設備ではなく、現場で働く職員の知識と経験によって支えられています。加えて、中国は地域による差も大きく、上海や北京、成都などの大都市と地方都市では、所得水準や介護ニーズ、人材確保の状況も異なります。
つまり、日本式介護を中国で展開する場合に重要なのは、日本の仕組みをそのまま再現することではなく、日本が培ってきた強みを中国の制度、文化、家族観、所得水準に合わせて現地化することです。その意味では、日本式介護の価値は「日本と同じ施設を造ること」そのものではありません。むしろ、介護技術、人材教育、認知症ケア、自立支援、施設運営、品質管理といったノウハウにこそ、中国市場で活用できる可能性があります
中国・成都を訪問―中国太平の有料老人ホームを視察
今回、中国・四川省成都市を訪問し、中国における介護人材育成をテーマとした国際カンファレンスに参加してきました。カンファレンスでは、中国の大手国有保険グループである中国太平の介護事業担当者による講演もあり、同社が保険事業に加えて、高齢者施設の運営など介護・養老分野へ事業を広げていることが紹介されました。
中国太平では、中国国内で高齢者向けの「医療・健康・養老」を組み合わせた 康養サービスを展開しています。 自社運営の康養コミュニティに加え、中国各地の提携施設をネットワーク化しており、 中国における大手企業の介護・高齢者ビジネスの展開事例として参考になります。
▶ 中国太平「医療・健康・養老サービス」を見るその後、実際に中国太平が運営する有料老人ホームを視察し、施設運営やサービスについて現地の関係者から話を聞く機会がありました。講演と現場視察の両方を通じて見えてきたのが、日本とは少し異なる中国ならではの高齢者ビジネスの形です。なかでも興味深かったのが、保険事業と高齢者施設を組み合わせたビジネスモデルでした。
日本では、介護会社が有料老人ホームやデイサービスなどを運営するケースが一般的ですが、中国では大手保険会社が高齢者住宅や介護施設へ参入する動きがあります。保険会社はもともと、現役世代から老後まで長期間にわたって顧客との関係を持っています。その延長線上で、健康管理や高齢者住宅、介護サービスまで提供していくという考え方です。つまり、保険・資産形成 → 高齢者住宅 → 健康管理 → 介護という形で、高齢期の生活全体を一つの事業として捉えているわけです。
これは、中国の介護市場を考えるうえで非常に重要なポイントだと感じました。中国では日本のような全国一律の介護保険制度を前提に事業を組み立てることが難しく、「誰がサービス料金を負担するのか」「どの事業と組み合わせて収益を確保するのか」という視点がより重要になります。実際、中国で介護事業を考える場合には、本人や家族だけでなく、地方政府、長期介護保険、中国企業、不動産会社など、さまざまな支払主体を想定して事業モデルを設計する必要があります。
一方で、施設を実際に見て感じたのは、中国側が資本力や施設整備力を持っているからこそ、日本側には別の役割があるのではないかということです。日本の介護事業者が長年蓄積してきた認知症ケア、自立支援、ADL改善、介護記録、事故防止、職員教育、現場マネジメントといった運営ノウハウは、中国市場でも十分に活用できる可能性があります。
中国太平のような企業が施設や資本、顧客基盤を持ち、日本側が介護技術や人材教育、施設運営のノウハウを提供する。今回の成都訪問を通じて、日本企業が自ら資金を投じて老人ホームを建設するだけではない、中国介護市場への関わり方も十分に考えられると感じました。
日本式介護の強みは、施設よりも運営ノウハウにある
私は、中国介護市場を見るうえで非常に重要なのがこの点だと考えています。日本の強みは、豪華な老人ホームを建設することではありません。
むしろ、認知症ケア、自立支援、ADL改善、入浴介助、食事介助、排泄介助、リハビリ、ケアプラン、事故防止、人材育成、現場マネジメントといった、長年日本の介護現場で蓄積されてきたオペレーションそのものにあります。
中国では施設建設から人材採用、設備導入、営業まで事業者自身が構築しなければならないケースが多く、日本のような介護産業の分業型バリューチェーンが十分に形成されていないという指摘もあります。だからこそ、日本企業がすべてを抱え込む必要はありません。
中国側の資本、不動産、行政ネットワークと、日本側の介護技術・教育・運営ノウハウを組み合わせる。この形の方が、日本の地域介護事業者にとっては現実的ではないでしょうか。
日本の介護事業者にとって中国市場は選択肢となるのか
コロナ前には、日本の介護事業者が中国へ進出する動きが相次いでいました。しかし、新型コロナによる渡航制限や中国経済、不動産市場の変化などによって、その動きはいったん落ち着きました。
一方で、中国の高齢化はその後も進み、2025年末には60歳以上人口が3億2,000万人を超えています。介護施設の整備だけでなく、施設運営、人材育成、認知症ケア、自立支援など、介護サービスの質を高めるニーズも今後さらに大きくなると考えられます。
そのため、中国進出も、単に「日本企業が現地に老人ホームを建てる」という形だけではありません。日本式介護の運営ノウハウを中国企業へ提供する、人材教育を行う、中国企業や地方政府と共同で施設を運営するなど、より柔軟な関わり方が考えられます。
コロナ前と同じ形に戻るのではなく、現在の中国市場に合った新しい介護ビジネスの形を考える余地は十分にあるのではないでしょうか。
JETROは、日本の介護・福祉・健康関連企業の中国市場開拓を支援するため、 日中オンライン商談会を実施しています。 介護サービス分野では、介護サービスの標準化、人材育成、認知症ケア、 訪問入浴などについて、中国企業から日本企業との連携ニーズが寄せられました。 日本の介護ノウハウに対する中国側の具体的な需要を示す事例として参考になります。
▶ JETRO「介護・福祉・健康分野で日中オンライン商談会」を読む中国進出と日本への介護人材受入れを循環させる
ここまで、中国市場への参入方法として、現地法人、合弁、運営受託、公設民営、人材紹介などの形を見てきました。ただ、実際に中国で日本式介護を展開しようとすると、施設や資金、介護マニュアルだけでは十分ではありません。日本式介護を理解し、現場で実践できる人材をどう育てるかも重要な課題になります。
そこで、もう一つ考えたいのが、中国人介護人材の日本での受入れと、将来の中国市場への展開を一つの流れとして考えることです。中国で介護を学ぶ若者を特定技能「介護」として日本で受け入れ、日本の介護現場で実務経験を積んでもらう。その中で介護福祉士などへキャリアアップし、日本式介護の技術だけでなく、職員教育や施設運営についても学んでもらいます。
そして将来、日本の介護事業者が中国へ展開する際には、そうした人材が現地施設の管理者や教育担当者として活躍することも考えられます。つまり、「中国から日本へ人材を受け入れること」と「日本の介護事業者が中国へ進出すること」を別々に考えるのではなく、人材育成を通じて両者をつなげるという発想です。
これを日本の介護事業者の立場から見ると、さらに別の可能性が見えてきます。
CHINA × JAPAN
中国展開を見据えた介護人材育成モデル
つまり、中国人材の採用を単なる人手不足対策で終わらせるのではなく、将来の中国事業も見据えた人材育成として捉えることもできます。
日本で自社の介護理念や運営方法を理解した中国人材が育っていれば、将来中国で事業を展開する際にも、現地の管理者や教育担当者、日中双方を理解する人材として力を発揮する可能性があります。
「日本で人材を受け入れること」と「中国市場へ展開すること」をつなげて考える。これも、日本の介護事業者が中国市場と関わる一つの方法ではないでしょうか。
まとめ
日本の介護事業者による中国進出は、決して新しい話ではありません。コロナ前の2010年代には、大手企業だけでなく地域に基盤を持つ介護事業者も中国へ進出し、老人ホーム、デイサービス、認知症ケア、公設民営施設などさまざまな事業に挑戦していました。
現在も中国では、養老サービスそのものへの外国資本の参入は可能です。ただし重要なのは、「中国に老人ホームを建てるかどうか」ではありません。中国側の資本、施設、行政ネットワークと、日本側の介護技術、人材育成、認知症ケア、運営ノウハウをどのように組み合わせるか。ここに今後の中国介護ビジネスの可能性があるのではないでしょうか。
特に、日本で中国人介護人材を育成し、その人材が将来中国の介護産業でも活躍する循環をつくることができれば、人材受入れと海外進出を一つの事業モデルとして考えることも可能になります。中国の高齢化を単なる「巨大市場」として見るのではなく、日本が長年蓄積してきた介護の経験をどのような形で海外へ展開できるのか。
日本の介護産業にとって、改めて検討する価値のあるテーマだと思います。
※中国の外商投資、養老機構、医療、消防、建築、長期介護保険等の具体的な規制・運用は地域や事業内容によって異なります。実際の進出に際しては、進出予定地の最新法令・地方政府の運用を個別に確認する必要があります。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直
















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