現時点のデータから、「外国人労働者、特に特定技能外国人を受け入れているため、日本人の賃金が上がらない」と全国一律に断定することはできません。
日本の賃金停滞は特定技能制度が始まった2019年より前から続いています。 また、2025年末の特定技能外国人約39万人は、日本の就業者全体の約0.6%にすぎません。
一方、外国人が特定の地域・職種に集中し、日本人と直接競合する場合には、賃金上昇を弱める可能性があります。 問題は「外国人がいること」ではなく、低賃金のまま人を補充し続ける受入れ方にあります。
2025年末の特定技能外国人は39万296人。 日本の就業者約6,828万人と比較すると約0.6%です。
特定技能外国人の月額賃金は、2023年の19万8,000円から2025年には22万1,400円へ上昇。 特定技能外国人が増加する中でも、賃金は上昇しています。
国内外の研究でも、外国人労働者が受入国全体の賃金に与える平均的な影響は比較的小さい一方、 外国人が集中する地域や直接競合する労働者には、マイナスの影響が生じる可能性が指摘されています。
「低賃金のまま人を補充し続ける構造」を見ることが重要です。
こんにちは。行政書士の稲福です。
外国人材の受入れについて、「外国人労働者を受け入れるから、日本人の給料が上がらない」「安い外国人労働者がいるから、企業が機械化しない」という意見を聞くことがあります。
労働力の供給が増えれば、賃金の上昇圧力が弱まる可能性はあります。また、企業が安い労働力を確保できれば、省人化や機械化への投資を先送りする可能性もあります。その意味で、この問題提起自体は決して間違っていません。
一方で、介護、建設、農業などでは、賃金を上げただけでは必要な人数を確保できないという現実もあります。地方の人口減少、夜勤、身体的負担、資格や技能の習得に必要な時間、勤務地までの交通手段など、賃金以外にも人材確保を難しくする要因があるからです。
今回は、特定技能外国人の受入れによって本当に日本人の賃金が上がらなくなっているのか、国内外のデータや研究をもとに考えてみたいと思います。
- 特定技能外国人は、日本の就業者全体の何%を占めるのか
- 日本の賃金停滞は、いつから続いているのか
- 特定技能外国人の実際の賃金水準と推移
- 外国人の賃金が低いことと、日本人の賃金への影響は同じなのか
- 外国人労働者が日本人の賃金に与える影響についての国内外の研究
- 介護・建設・農業では、なぜ賃金を上げても人が集まりにくいのか
- 外国人材の受入れが、省人化や技術革新を遅らせる可能性
- 日本人の賃金を上げながら、外国人材を受け入れるために必要な政策

- 特定技能外国人を受け入れると、日本人の賃金は上がらないのか
- 特定技能外国人は日本の就業者全体の約0.6%
- 日本の賃金停滞は特定技能制度が始まる前から続いている
- 特定技能は「日本人と同等以上の報酬」が原則
- 特定技能外国人の賃金は実際に上昇している
- 外国人の平均賃金が低いことと、日本人の賃金への影響は別問題
- 国内外の研究では、賃金への影響は全国一律ではない
- 特定技能外国人がいなくなれば、何が起こるのか
- 介護は賃金を上げても人を集めにくいのか
- 建設業も賃金だけでは解決できない
- 農業では、人手不足が食料価格にも影響する
- 「賃金を上げれば日本人が集まる」だけでは難しい
- 外国人材の受入れは技術革新を遅らせるのか
- 2040年は「人手不足」と「人余り」が同時に起こる
- 外国人材が日本人の働き方を改善する場合もある
- 日本人の賃金を上げながら外国人材を受け入れるために
- 「外国人を受け入れるか」ではなく「どのように受け入れるか」
特定技能外国人を受け入れると、日本人の賃金は上がらないのか
経済学の基本的な考え方では、人手不足の職場に新たな労働力が加われば、企業が人材確保のために賃金を大きく引き上げる必要性が弱まることがあります。そのため、「外国人労働者が増えると、日本人の賃金が上がりにくくなるのではないか」という指摘には、一定の合理性があります。
ただし、現実はそれほど単純ではありません。外国人材が入ることで、人手不足による廃業を防げることもあります。生産量が増えたり、日本人従業員が管理職や専門業務に回れたりする場合もあります。
反対に、人手不足になれば、企業が必ず賃金を上げるとも限りません。機械化、省人化、営業時間の短縮、事業縮小などを選ぶ企業もあります。
つまり、外国人が増えた=日本人の賃金が上がらないとは単純には言えません。重要なのは、外国人材が日本人と直接仕事を奪い合っているのか、それとも人手不足を補い、企業の生産や事業継続を支えているのかという点です。
特定技能外国人は日本の就業者全体の約0.6%
2025年末の特定技能外国人数は、39万296人となっています。一方、2025年の日本の就業者数は平均約6,828万人でした。時点が完全には一致しませんが、単純比較すると、特定技能外国人は日本の就業者全体の約0.6%です。
| 区分 | 人数 | 就業者全体との比較 |
|---|---|---|
| 日本の就業者 | 約6,828万人 | 基準 |
| 外国人労働者全体 | 2,571,037人 | 4%弱 |
| 特定技能外国人 | 約39万人 | 約0.6% |
出典:出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」、総務省「労働力調査」、厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」
外国人労働者全体では、2025年10月末時点で257万1,037人となっています。就業者全体との単純比較では4%弱です。
もちろん、全国で0.6%だから影響がないとは言えません。特定技能外国人は、飲食料品製造、介護、建設、農業、外食など、特定の産業に集中しています。地域や職種によっては、全国平均より大きな影響を持つ可能性があります。それでも、特定技能外国人だけで日本全体の長期的な賃金停滞を説明することには無理があります。
なぜなら、特定技能制度が始まったのは2019年ですが、日本の賃金はそれよりはるか以前から長期間にわたって伸び悩んでいるからです。つまり、特定技能外国人の受入れが一部の産業や地域の賃金に影響する可能性と、日本全体の賃金が長年上がらなかった原因は、分けて考える必要があります。
日本の賃金停滞は特定技能制度が始まる前から続いている
特定技能制度が始まったのは2019年4月です。一方、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、一般労働者の月額賃金は、2001年の30万5,800円に対し、2018年は30万6,200円でした。
| 年 | 一般労働者の月額賃金 | 2001年比 |
|---|---|---|
| 2001年 | 305,800円 | ― |
| 2018年 | 306,200円 | +400円 |
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
つまり、日本の長期的な賃金停滞の原因を、2019年に始まった特定技能制度だけに求めることはできません。
日本の賃金が上がりにくかった背景には、
・生産性の伸び悩み
・価格転嫁の難しさ
・非正規雇用の増加
・企業の内部留保重視
・労働移動の少なさ
・中小企業の収益力
・産業構造の変化の遅れ
など、より長期的な問題があります。
特定技能は「日本人と同等以上の報酬」が原則
特定技能制度では、外国人に支払う報酬について、同じ仕事をする日本人と同等以上であることが求められています。比較する相手は、会社全体の日本人平均ではありません。同程度の技能、経験、職務内容を持つ日本人労働者と比較し、それ以上の報酬を支払う必要があります。
特定技能外国人に支払う報酬は、 日本人が同等の業務に従事する場合の報酬額と 同等以上であることが求められています。
同等の業務を行う日本人の報酬と比較し、 特定技能外国人の報酬が同等以上であることが必要です。
賃金規程がある場合は賃金規程に基づいて判断します。 比較できる日本人がいる場合は、職務内容や責任の程度、 年齢、経験年数などを踏まえて報酬の妥当性を判断します。 比較対象となる日本人がいない場合には、 近隣同業他社の同等業務・同程度の経験を持つ特定技能外国人の 報酬額なども比較材料となります。
比較するのは「会社全体の日本人平均賃金」ではありません。
特定技能外国人と同程度の技能・経験を持ち、 職務内容や責任の程度が同等の日本人労働者との比較が基本です。
建設分野では、安定的な月給制に加えて、技能の習熟に応じた昇給も求められています。制度上は、「日本人より安いから特定技能外国人を雇う」という受入れは認められていません。
建設分野では、特定技能外国人に対して、 同等の技能を有する日本人と同等以上の報酬を安定的に支払い、 技能の習熟に応じて昇給を行うことが求められています。
同等以上
(月給制)
昇給
1号特定技能外国人について、 「同等の技能を有する日本人が従事する場合と同等以上の報酬額を安定的に支払い、 技能習熟に応じて昇給を行う契約」を締結することが条件として明記されています。
入管庁の建設分野ページを見る →国土交通省資料では、建設分野の1号特定技能外国人について、 「日本人と同等以上の報酬」「安定的に支払い(月給制)」 「技能習熟に応じて昇給」の3点が処遇基準として示されています。
該当資料を見る →Q7-11では、会社の業績悪化により日本人の昇給を見送ったケースについても、 特定技能外国人の「技能の習熟に応じた昇給」は 建設特定技能受入計画の認定要件であると説明されています。 認定計画どおりに昇給が行われない場合には、 認定取消しの対象となる可能性があることも示されています。
Q7-11の該当箇所を見る →また、特定技能外国人を雇う場合、企業には賃金以外にも費用が発生します。
・人材紹介や採用にかかる費用
・在留資格申請にかかる費用
・登録支援機関への支援委託費
・住居や生活環境の整備
・日本語や生活ルールの説明
・定期面談や行政機関への届出
こうした費用まで含めると、特定技能外国人の受入れコストが、必ずしも日本人の採用コストより低いとは限りません。ただし、制度上のルールがあることと、実際の職場で完全に守られていることは別問題です。
基本給だけでなく、賞与、手当、昇給、不当な控除、社宅費などを含めて、実質的に日本人と同等以上になっているかを確認する必要があります。
特定技能外国人の賃金は実際に上昇している
2025年の賃金構造基本統計調査では、外国人労働者の月額賃金は次のようになっています。
| 区分 | 月額賃金 | 前年比 |
|---|---|---|
| 一般労働者全体 | 340,600円 | +3.1% |
| 外国人労働者全体 | 254,300円 | +4.8% |
| 特定技能外国人 | 221,400円 | +4.8% |
| 技能実習生 | 190,300円 | ― |
※各区分は年齢、勤続年数、職種、産業構成などが異なるため、単純な賃金格差として比較する際には注意が必要です。
特定技能外国人の月額賃金は、
| 年 | 月額賃金 | 前年からの増加 |
|---|---|---|
| 2023年 | 198,000円 | ― |
| 2024年 | 211,200円 | +13,200円 |
| 2025年 | 221,400円 | +10,200円 |
特定技能外国人が増加している期間にも、特定技能外国人の賃金と一般労働者全体の賃金はともに上昇しています。したがって、「特定技能外国人が増えれば、賃金はまったく上がらなくなる」という説明は、実際の推移とは一致しません。ただし、これは名目賃金です。物価上昇を考慮した実質賃金が上がっているかは、別に考える必要があります。
また、外国人がいなければ、さらに賃金が上がっていた可能性もあります。このデータだけで、「外国人受入れが日本人の賃金にまったく影響していない」と証明することもできません。
外国人の平均賃金が低いことと、日本人の賃金への影響は別問題
特定技能外国人の平均賃金22万1,400円と、一般労働者全体の34万600円を、そのまま比較することは適切ではありません。
特定技能外国人は、平均年齢29.5歳、平均勤続年数2.4年です。一般労働者全体と比べて若く、勤続年数も短い傾向があります。また、介護、外食、飲食料品製造、農業、宿泊など、もともとの賃金水準が相対的に低い産業で多く働いています。
労働政策研究・研修機構の研究では、年齢、学歴、勤続年数、雇用形態、企業規模、産業などの条件を調整すると、専門的・技術的分野の外国人と日本人の賃金差の多くは縮小しました。
一方、技能実習・特定技能の区分では、条件を調整した後も一定の賃金差が残っています。ただし、この研究は2019年のデータを使っており、特定技能制度が始まった直後であるため、技能実習生の影響が大きい点には注意が必要です。<出典:労働政策研究・研修機構「外国人労働者の賃金構造」>
ここで重要なのは、「外国人の平均賃金が日本人より低いこと」と、「外国人を受け入れたことで日本人の賃金が下がったこと」は、同じではないということです。後者を証明するには、外国人を受け入れなかった場合に、日本人の賃金がどうなっていたのかを比較しなければなりません。
国内外の研究では、賃金への影響は全国一律ではない
日本のデータを使った経済モデル研究では、外国人労働者が日本人の賃金に与える影響は、地域、産業、日本人労働者の技能によって異なると推計されています。外国人労働者が多く、日本人と直接競合しやすい一部の地域では、低技能の日本人男性の賃金にわずかなマイナスの影響が生じる可能性が示されています。
一方、外国人労働者が地域の生産や事業継続を支えている地域では、外国人がいなくなることで、地域経済が縮小し、日本人の賃金にもマイナスになる可能性があります。
プラス・マイナス
影響が異なる
日本人と直接競合する職種では賃金を押し下げる可能性がある一方、人手不足を補い、生産や地域経済を維持することで、日本人の雇用や賃金を支える効果も考えられます。 重要なのは「外国人が何人いるか」だけではなく、どの地域・産業・職種で、どのような日本人労働者と働いているかです。
ただし、これは実際に外国人を排除した政策を観察した研究ではなく、経済モデルによる試算です。結果をそのまま特定技能制度だけに当てはめることはできません。
海外64研究、2,146件の推計結果をまとめたメタ分析でも、移民が受入国の労働者の賃金に与える平均的な影響は、ゼロに近い小さな値でした。一方、移民と直接競合する低技能層などでは、マイナスの影響が生じる場合もあります。
つまり、
・全国平均で見れば影響は比較的小さい
・外国人が集中する地域や職種では影響が出る可能性がある
・外国人が日本人の仕事を補完する場合は、プラスになる可能性もある
というのが、研究から見える現実です。
特定技能外国人がいなくなれば、何が起こるのか
ここで一度、逆から考えてみます。現在、日本で働いている特定技能外国人が大幅に減った場合、日本人の賃金は自動的に上がるのでしょうか。
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外国人材の減少によって、一部の日本人の賃金が上がる可能性はあります。しかし同時に、機械化、生産縮小、価格上昇、廃業なども起こります。
「外国人がいなくなれば、その分の仕事を日本人が引き継ぎ、賃金も上がる」とは限りません。
介護は賃金を上げても人を集めにくいのか
介護分野では、賃金引上げが必要です。しかし、賃金を上げるだけで必要な人数を確保することは難しいと考えられます。
2025年3月の介護関係職種の有効求人倍率は3.97倍で、全職種の1.16倍を大きく上回っています。介護職員の必要数は、2022年の約215万人から、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人になると推計されています。
| 指標 | 数値 | 最新実人数との差 |
|---|---|---|
| 介護関係職種 有効求人倍率 | 3.97倍 | ― |
| 全職種 有効求人倍率 | 1.16倍 | ― |
| 2024年10月 介護職員数 | 2,126,227人 | 現状 |
| 2026年度 必要数 | 約240万人 | 約27.4万人 |
| 2040年度 必要数 | 約272万人 | 約59.4万人 |
※2026年度・2040年度との差は、2024年10月1日時点の介護職員数2,126,227人との単純比較による参考値です。
介護で人が集まりにくい理由として、
・夜勤や不規則勤務
・身体的、精神的な負担
・入浴、排せつなどの介助業務
・利用者や家族とのコミュニケーション
・資格取得や教育に必要な時間
・介護報酬によって事業者の収入が決まる構造
賃金を上げれば、応募者は増える可能性があります。しかし、夜勤や身体的負担を理由に介護職を選ばない人もいるため、賃金だけですべて解決するわけではありません。
また、介護事業者が自由に利用料金を引き上げられるわけではありません。介護職員の賃金を上げるには、介護報酬や公費負担も含めて考える必要があります。
外国人材を適正に配置することで、日本人職員の夜勤回数や残業を減らし、休暇を取得しやすくできる場合もあります。外国人材の受入れが、日本人職員の離職防止や労働条件改善につながる可能性もあるのです。
建設業も賃金だけでは解決できない
建設業では、2023年の年間労働時間が2,018時間となっており、全産業より62時間長くなっています。建設技能者の年間賃金は432万円で、全産業の労働者平均508万円を下回っています。
また、2024年時点で建設業就業者の36.7%が55歳以上である一方、29歳以下は11.7%にとどまっています。
| 指標 | 建設業 | 比較 |
|---|---|---|
| 年間労働時間 | 2,018時間 | 全産業より+62時間 |
| 建設技能者の年間賃金 | 432万円 | 全産業508万円 |
| 55歳以上 | 36.7% | 高齢化が進行 |
| 29歳以下 | 11.7% | 若年層が少ない |
※年間労働時間・年間賃金・年齢構成は、それぞれ統計の対象や集計方法が異なるため、単純比較には留意が必要です。
建設業では、
・屋外での作業
・暑さ、寒さ、危険を伴う業務
・現場ごとに勤務地が変わる
・朝が早い
・資格や技能習得に時間がかかる
・民間工事では週休2日が定着していない現場もある
といった問題があります。
賃金引上げだけでなく、週休2日の定着、長時間労働の是正、適正な工事価格、ICT施工、建設ロボット、プレハブ化、若手技能者の育成などを同時に進める必要があります。
建設技能者は、採用した翌日から熟練技能者になるわけではありません。将来の日本人技能者を育成しながら、現在進行中のインフラ整備、住宅建設、災害復旧を支えるために、外国人材を補完的に活用する必要があります。
農業では、人手不足が食料価格にも影響する
2025年度の日本のカロリーベース食料自給率は37%となり、過去最低に並びました。農業の基幹的従事者は100万人を割り込む水準まで減少し、平均年齢も約68歳となっています。
日本経済新聞が、日本の2025年度の食料自給率について報じた記事です。 カロリーベースの食料自給率は37%となり、過去最低の水準となりました。 日本の食料供給力や農業を取り巻く現状を考えるうえで参考となる記事です。
▶ 日本経済新聞「食料自給率、25年度は過去最低の37%」を読む※2026年の基幹的農業従事者98.7万人は農業構造動態調査による推定値です。2025年農林業センサスとは調査方法が異なるため、直接比較には留意が必要です。
農業では、
・農村部そのものの人口が少ない
・早朝勤務がある
・季節による繁閑差が大きい
・屋外で身体的負担がある
・勤務地までの交通手段が必要
・農産物価格に人件費を転嫁しにくい
といった問題があります。
人材を確保できず国内生産が縮小すれば、輸入への依存が高まり、食料の安定供給や価格にも影響する可能性があります。 そのため、外国人材を減らせば日本人の賃金が上がる、という一方向の議論だけではなく、国内の生産能力をどう維持するかという視点も必要です。
農業では、賃金引上げ、農地集約、スマート農業、機械化、適正な価格転嫁と外国人材の受入れを組み合わせて考える必要があります。
「賃金を上げれば日本人が集まる」だけでは難しい
人手不足について、「賃金を上げれば日本人が働く」という意見があります。もちろん、適正な賃金を支払うことは大前提です。賃金を上げずに「人手不足だから外国人を入れてほしい」という考え方は、持続可能ではありません。
しかし、現在の介護、建設、農業などの人手不足は、賃金だけが原因ではありません。
・地方に働ける人そのものが少ない
・若年人口が減少している
・都市部への人口集中が続いている
・夜勤や早朝勤務がある
・身体的負担や危険がある
・資格や技能習得に時間がかかる
・家族や住居の都合で地域間移動が難しい
こうした条件があるため、賃金を上げても、必要な人数を短期間ですべて日本人だけで確保できるとは限りません。
さらに賃金を大幅に引き上げれば、その費用を誰が負担するのかという問題もあります。介護であれば介護報酬や保険料、建設であれば工事価格、農業であれば農産物価格へ反映する必要があります。
つまり、
☑働く人の賃金を上げること
☑企業や事業者の経営を維持すること
☑必要な商品・サービスの供給量を維持すること
☑国民が負担できる価格を維持すること
を同時に考えなければなりません。「外国人を入れればよい」でも、「賃金を上げれば日本人がすべて埋めてくれる」でもありません。
外国人材の受入れは技術革新を遅らせるのか
外国人材の受入れによって、企業の機械化や省人化が遅れるという懸念には、一定の根拠があります。米国の製造業を分析した研究では、低技能移民を多く受け入れた地域の工場ほど、生産量に対する機械設備の導入が少なかったことが報告されています。
出典:Ethan Lewis “Immigration, Skill Mix, and Capital-Skill Complementarity”
The Quarterly Journal of Economics, 2011
外国人を安価な労働力として容易に確保できれば、高額な機械やシステムを導入する必要性が弱くなる可能性があります。
特に、
・日本人より実質的に安い
・転職しにくく、賃金交渉力が弱い
・単純作業だけを長期間担当する
・技能向上や昇給の仕組みがない
・外国人採用を省人化投資の代わりにしている
という受入れ方には注意が必要です。
一方、外国人労働者を制限すれば、日本人の賃金が自動的に上がるとは限りません。米国が季節農業労働者の受入れを停止した事例の研究では、国内労働者の賃金や雇用は期待されたほど増加せず、農家は機械化、作物の変更、生産縮小などで対応しました。
Evidence from the Mexican Bracero Exclusion”
American Economic Review, 2018
外国人がいなくなった場合、企業が必ず賃金を上げて日本人を採用するわけではありません。機械化する、事業を縮小する、価格を上げる、海外へ移転する、廃業するといった選択もあります。
現時点では、日本の特定技能制度によって技術革新がどの程度遅れたのかを直接示す、十分な因果研究はありません。だからこそ、外国人材の受入れと省人化投資を対立させず、両方を進める制度設計が必要です。
2040年は「人手不足」と「人余り」が同時に起こる
経済産業省の2040年の就業構造推計では、事務職などのオフィスワーカーは約437万人余る一方、現場人材は約260万人、専門職は約181万人不足する可能性が示されています。
また、AIやロボットを現場で活用する人材も約339万人不足すると推計されています。
| 職種 | 2040年需要 | 2040年供給 | 需給差 |
|---|---|---|---|
| 事務職 | 1,039万人 | 1,476万人 | +437万人 余剰 |
| 現場人材 | 3,283万人 | 3,023万人 | ▲260万人 不足 |
| 専門職 | 1,867万人 | 1,686万人 | ▲181万人 不足 |
| AI・ロボット等利活用人材 | 782万人 | 443万人 | ▲339万人 不足 |
※将来の一定の経済・産業構造を前提とした推計であり、実際の2040年の人数を確定的に予測したものではありません。
これからの日本では、単純な「人手不足」ではなく、人が余る職種(事務・定型的なオフィス業務)と人が足りない職種(介護・建設・農業・物流・専門職・AI活用人材)という人材ミスマッチが大きな問題になります。
しかし、東京で余る事務職の人が、そのまま地方の介護、建設、農業に移るわけではありません。転居、家族、賃金、資格、技能、勤務時間、身体的負担など、多くの障壁があるからです。必要なのは、国内人材のリスキリングと労働移動を進め、それでも埋まらない地域や職種に外国人材を配置することです。
外国人材の受入れは、日本人の賃金を下げる方向だけに働くわけではありません。転居、家族、賃金、資格、技能、勤務時間、身体的負担など、多くの障壁があるからです。必要なのは、国内人材のリスキリングと労働移動を進め、それでも埋まらない地域や職種に外国人材を配置することです。
外国人材が日本人の働き方を改善する場合もある
外国人材の受入れは、日本人の賃金を下げる方向だけに働くわけではありません。人手不足の職場では、現場の人数が足りないために、
・日本人従業員の残業が増える
・休日を取得できない
・管理職が現場作業に追われる
・教育や営業に時間を使えない
・疲労によって離職者が増える
・さらに人手不足が悪化する
という悪循環が起きます。
外国人材を採用することで、この悪循環を止められる場合があります。例えば、外国人材が現場業務を担うことで、日本人従業員が教育、管理、顧客対応、技術業務など、より高い付加価値を生む仕事へ移ることができます。
事業を拡大できれば、日本人の管理職や専門職のポストが増える可能性もあります。外国人と日本人が同じ仕事を奪い合う「代替関係」になるのか、それぞれの役割を分担する「補完関係」になるのか。
受入れによる賃金への影響は、この違いによって大きく変わります。
日本人の賃金を上げながら外国人材を受け入れるために
外国人材が日本人の賃金や技術革新に悪影響を与えるかどうかは、制度設計と企業の利用方法に左右されます。必要なのは、次のような仕組みです。
悪影響が確認された場合には、受入れ条件や人数を見直す仕組みも必要です。
「外国人を受け入れるか」ではなく「どのように受け入れるか」
現時点のデータから、「特定技能外国人を受け入れているため、日本人の賃金が上がらない」と全国一律に結論づけることはできません。日本の賃金停滞は、特定技能制度が始まる以前から続いています。特定技能外国人は就業者全体の約0.6%であり、特定技能外国人が増加するなかでも、特定技能外国人と一般労働者全体の賃金は上昇しています。
一方で、外国人が特定の地域や職種に集中し、日本人と直接競合する場合には、賃金上昇を弱める可能性があります。また、外国人を日本人より実質的に安く、転職しにくい労働力として利用すれば、賃金上昇や省人化投資を弱める可能性があります。つまり、問題は外国人がいること自体ではありません。
低賃金のまま人を補充できる制度運用を許せば、日本人も外国人も賃金が上がりにくくなります。介護、建設、農業などでは、賃金を上げても必要な人数を確保できない可能性があります。だからこそ、
・日本人と外国人の賃金を引き上げる
・労働条件を改善する
・商品やサービスへの価格転嫁を進める
・AI、ロボット、機械化を進める
・国内人材を育成し、労働移動を支援する
・それでも不足する分野に外国人材を受け入れる
という政策を、同時に進める必要があります。
特定技能制度は、低賃金産業をそのまま延命するための制度ではありません。日本人と外国人が適正な待遇を受けながら、産業の生産性を高め、社会に必要なサービスや生産を維持していく制度として運用されるべきではないでしょうか。
問うべきなのは、「外国人を受け入れるか、受け入れないか」ではありません。日本人の賃金を上げながら、必要な産業を誰が支え、外国人材にも選ばれる国をどのように作っていくのか。外国人材の受入れを、単なる人数論ではなく、日本の賃金、技術革新、産業維持を含めた政策として考える時期に来ているのではないでしょうか。
出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直

















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