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外国人労働者が増えると日本人の賃金は上がらない?データと実証研究で徹底検証

特定技能
外国人労働者と日本人労働者の賃金
結論

現時点のデータから、「外国人労働者、特に特定技能外国人を受け入れているため、日本人の賃金が上がらない」と全国一律に断定することはできません。

日本の賃金停滞は特定技能制度が始まった2019年より前から続いています。 また、2025年末の特定技能外国人約39万人は、日本の就業者全体の約0.6%にすぎません。

一方、外国人が特定の地域・職種に集中し、日本人と直接競合する場合には、賃金上昇を弱める可能性があります。 問題は「外国人がいること」ではなく、低賃金のまま人を補充し続ける受入れ方にあります。

根拠

2025年末の特定技能外国人は39万296人。 日本の就業者約6,828万人と比較すると約0.6%です。

特定技能外国人の月額賃金は、2023年の19万8,000円から2025年には22万1,400円へ上昇。 特定技能外国人が増加する中でも、賃金は上昇しています。

国内外の研究でも、外国人労働者が受入国全体の賃金に与える平均的な影響は比較的小さい一方、 外国人が集中する地域や直接競合する労働者には、マイナスの影響が生じる可能性が指摘されています。

外国人の受入れそのものではなく
「低賃金のまま人を補充し続ける構造」を見ることが重要です。

こんにちは。行政書士の稲福です。

外国人材の受入れについて、「外国人労働者を受け入れるから、日本人の給料が上がらない」「安い外国人労働者がいるから、企業が機械化しない」という意見を聞くことがあります。

労働力の供給が増えれば、賃金の上昇圧力が弱まる可能性はあります。また、企業が安い労働力を確保できれば、省人化や機械化への投資を先送りする可能性もあります。その意味で、この問題提起自体は決して間違っていません。

一方で、介護、建設、農業などでは、賃金を上げただけでは必要な人数を確保できないという現実もあります。地方の人口減少、夜勤、身体的負担、資格や技能の習得に必要な時間、勤務地までの交通手段など、賃金以外にも人材確保を難しくする要因があるからです。

今回は、特定技能外国人の受入れによって本当に日本人の賃金が上がらなくなっているのか、国内外のデータや研究をもとに考えてみたいと思います。

✅ この記事でわかること
  • 特定技能外国人は、日本の就業者全体の何%を占めるのか
  • 日本の賃金停滞は、いつから続いているのか
  • 特定技能外国人の実際の賃金水準と推移
  • 外国人の賃金が低いことと、日本人の賃金への影響は同じなのか
  • 外国人労働者が日本人の賃金に与える影響についての国内外の研究
  • 介護・建設・農業では、なぜ賃金を上げても人が集まりにくいのか
  • 外国人材の受入れが、省人化や技術革新を遅らせる可能性
  • 日本人の賃金を上げながら、外国人材を受け入れるために必要な政策

経済学の基本的な考え方では、人手不足の職場に新たな労働力が加われば、企業が人材確保のために賃金を大きく引き上げる必要性が弱まることがあります。そのため、「外国人労働者が増えると、日本人の賃金が上がりにくくなるのではないか」という指摘には、一定の合理性があります。

ただし、現実はそれほど単純ではありません。外国人材が入ることで、人手不足による廃業を防げることもあります。生産量が増えたり、日本人従業員が管理職や専門業務に回れたりする場合もあります。

反対に、人手不足になれば、企業が必ず賃金を上げるとも限りません。機械化、省人化、営業時間の短縮、事業縮小などを選ぶ企業もあります。

つまり、外国人が増えた=日本人の賃金が上がらないとは単純には言えません。重要なのは、外国人材が日本人と直接仕事を奪い合っているのか、それとも人手不足を補い、企業の生産や事業継続を支えているのかという点です。

2025年末の特定技能外国人数は、39万296人となっています。一方、2025年の日本の就業者数は平均約6,828万人でした。時点が完全には一致しませんが、単純比較すると、特定技能外国人は日本の就業者全体の約0.6%です。

日本の就業者と特定技能外国人
2025年|日本の労働市場全体から規模を比較
日本の就業者数
約6,828万人
特定技能外国人数
約39万人
就業者全体に占める参考割合
約0.6%
日本の就業者全体との比較
特定技能外国人
約0.6%
就業者全体との比較
約39万人
外国人労働者全体
4%弱
就業者全体との単純比較
2,571,037人
2025年10月末
区分 人数 就業者全体との比較
日本の就業者 約6,828万人 基準
外国人労働者全体 2,571,037人 4%弱
特定技能外国人 約39万人 約0.6%
日本の就業者全体から見ると、特定技能外国人は約0.6%にすぎません。 外国人労働者全体を含めても4%弱であり、日本の労働市場全体ではまだ限定的な規模であることが分かります。
※割合は異なる統計の人数を単純比較した参考値です。
出典:出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」、総務省「労働力調査」、厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」

外国人労働者全体では、2025年10月末時点で257万1,037人となっています。就業者全体との単純比較では4%弱です。

もちろん、全国で0.6%だから影響がないとは言えません。特定技能外国人は、飲食料品製造、介護、建設、農業、外食など、特定の産業に集中しています。地域や職種によっては、全国平均より大きな影響を持つ可能性があります。それでも、特定技能外国人だけで日本全体の長期的な賃金停滞を説明することには無理があります。

なぜなら、特定技能制度が始まったのは2019年ですが、日本の賃金はそれよりはるか以前から長期間にわたって伸び悩んでいるからです。つまり、特定技能外国人の受入れが一部の産業や地域の賃金に影響する可能性と、日本全体の賃金が長年上がらなかった原因は、分けて考える必要があります。

特定技能制度が始まったのは2019年4月です。一方、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、一般労働者の月額賃金は、2001年の30万5,800円に対し、2018年は30万6,200円でした。

日本の一般労働者の月額賃金は17年間ほぼ横ばい
特定技能制度が始まる前の2001年と2018年を比較
2001年
305,800円
2018年
306,200円
17年間の増加額
+400円
約0.13%の増加
月額賃金の比較
2001年 305,800円
2018年 306,200円
2001年 → 2018年
17年間でわずか +400円
一般労働者の月額賃金 2001年比
2001年 305,800円
2018年 306,200円 +400円
名目値で見ても、2001年から2018年までの17年間で一般労働者の月額賃金はわずか400円しか増えていません。 つまり、日本の賃金停滞は、2019年に始まった特定技能制度よりもはるか以前から続いていたことが分かります。
※金額は名目賃金による比較です。
出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

つまり、日本の長期的な賃金停滞の原因を、2019年に始まった特定技能制度だけに求めることはできません。

日本の賃金が上がりにくかった背景には、

・生産性の伸び悩み
・価格転嫁の難しさ
・非正規雇用の増加
・企業の内部留保重視
・労働移動の少なさ
・中小企業の収益力
・産業構造の変化の遅れ

など、より長期的な問題があります。

特定技能制度では、外国人に支払う報酬について、同じ仕事をする日本人と同等以上であることが求められています。比較する相手は、会社全体の日本人平均ではありません。同程度の技能、経験、職務内容を持つ日本人労働者と比較し、それ以上の報酬を支払う必要があります。

特定技能外国人の報酬|日本人と同等以上が必要

特定技能外国人に支払う報酬は、 日本人が同等の業務に従事する場合の報酬額と 同等以上であることが求められています。

Q26 特定技能外国人に支払うべき給与水準

同等の業務を行う日本人の報酬と比較し、 特定技能外国人の報酬が同等以上であることが必要です。

Q30 同じ業務をする日本人がいない場合

賃金規程がある場合は賃金規程に基づいて判断します。 比較できる日本人がいる場合は、職務内容や責任の程度、 年齢、経験年数などを踏まえて報酬の妥当性を判断します。 比較対象となる日本人がいない場合には、 近隣同業他社の同等業務・同程度の経験を持つ特定技能外国人の 報酬額なども比較材料となります。

ポイント:
比較するのは「会社全体の日本人平均賃金」ではありません。
特定技能外国人と同程度の技能・経験を持ち、 職務内容や責任の程度が同等の日本人労働者との比較が基本です。
出典:出入国在留管理庁「特定技能制度に関するQ&A」Q26・Q30、 「特定技能外国人受入れに関する運用要領」

建設分野では、安定的な月給制に加えて、技能の習熟に応じた昇給も求められています。制度上は、「日本人より安いから特定技能外国人を雇う」という受入れは認められていません。

建設分野|特定技能外国人の賃金・昇給ルール

建設分野では、特定技能外国人に対して、 同等の技能を有する日本人と同等以上の報酬を安定的に支払い、 技能の習熟に応じて昇給を行うことが求められています。

報酬
日本人と
同等以上
支払方法
安定的な支払い
(月給制)
昇給
技能習熟に応じて
昇給
出入国在留管理庁|建設分野
受入れ機関に課される条件

1号特定技能外国人について、 「同等の技能を有する日本人が従事する場合と同等以上の報酬額を安定的に支払い、 技能習熟に応じて昇給を行う契約」を締結することが条件として明記されています。

入管庁の建設分野ページを見る →
国土交通省|処遇に関する基準
日本人と同等以上・月給制・技能習熟に応じた昇給

国土交通省資料では、建設分野の1号特定技能外国人について、 「日本人と同等以上の報酬」「安定的に支払い(月給制)」 「技能習熟に応じて昇給」の3点が処遇基準として示されています。

該当資料を見る →
国土交通省|建設分野 特定技能Q&A
Q7-11|日本人の昇給を見送った場合でも?

Q7-11では、会社の業績悪化により日本人の昇給を見送ったケースについても、 特定技能外国人の「技能の習熟に応じた昇給」は 建設特定技能受入計画の認定要件であると説明されています。 認定計画どおりに昇給が行われない場合には、 認定取消しの対象となる可能性があることも示されています。

Q7-11の該当箇所を見る →
つまり、建設分野の特定技能制度は、 「日本人より賃金が安い外国人を採用するための制度」ではありません。 同等の技能を持つ日本人と同等以上の報酬を支払い、 さらに安定的な月給制と技能習熟に応じた昇給まで求められる制度設計となっています。

また、特定技能外国人を雇う場合、企業には賃金以外にも費用が発生します。

・人材紹介や採用にかかる費用
・在留資格申請にかかる費用
・登録支援機関への支援委託費
・住居や生活環境の整備
・日本語や生活ルールの説明
・定期面談や行政機関への届出

こうした費用まで含めると、特定技能外国人の受入れコストが、必ずしも日本人の採用コストより低いとは限りません。ただし、制度上のルールがあることと、実際の職場で完全に守られていることは別問題です。

基本給だけでなく、賞与、手当、昇給、不当な控除、社宅費などを含めて、実質的に日本人と同等以上になっているかを確認する必要があります。

2025年の賃金構造基本統計調査では、外国人労働者の月額賃金は次のようになっています。

2025年の月額賃金|一般労働者・外国人・特定技能を比較
所定内給与による比較
月額賃金の比較
一般労働者全体 340,600円
前年比 +3.1%
外国人労働者全体 254,300円
前年比 +4.8%
特定技能外国人 221,400円
前年比 +4.8%
技能実習生 190,300円
区分 月額賃金 前年比
一般労働者全体 340,600円 +3.1%
外国人労働者全体 254,300円 +4.8%
特定技能外国人 221,400円 +4.8%
技能実習生 190,300円
2025年の月額賃金は、一般労働者全体が34万600円に対し、外国人労働者全体は25万4,300円、特定技能外国人は22万1,400円でした。 一方、前年比では外国人労働者全体・特定技能外国人ともに+4.8%となり、一般労働者全体の+3.1%を上回っています。
※賃金は原則として、時間外手当や賞与を除く所定内給与です。
※各区分は年齢、勤続年数、職種、産業構成などが異なるため、単純な賃金格差として比較する際には注意が必要です。

特定技能外国人の月額賃金は、

特定技能外国人の月額賃金は上昇している
2023年~2025年の月額賃金の推移
2023年
198,000円
2024年
211,200円
2025年
221,400円
特定技能外国人の月額賃金推移
225,000 215,000 205,000 195,000 198,000円 2023年 211,200円 2024年 221,400円 2025年 単位:円/月
月額賃金 前年からの増加
2023年 198,000円
2024年 211,200円 +13,200円
2025年 221,400円 +10,200円
特定技能外国人の月額賃金は、2023年の19万8,000円から、2024年は21万1,200円、2025年は22万1,400円へと上昇しています。 2023年から2025年までの2年間では2万3,400円、約11.8%上昇しています。
出典:厚生労働省「外国人労働者の賃金」

特定技能外国人が増加している期間にも、特定技能外国人の賃金と一般労働者全体の賃金はともに上昇しています。したがって、「特定技能外国人が増えれば、賃金はまったく上がらなくなる」という説明は、実際の推移とは一致しません。ただし、これは名目賃金です。物価上昇を考慮した実質賃金が上がっているかは、別に考える必要があります。

また、外国人がいなければ、さらに賃金が上がっていた可能性もあります。このデータだけで、「外国人受入れが日本人の賃金にまったく影響していない」と証明することもできません

特定技能外国人の平均賃金22万1,400円と、一般労働者全体の34万600円を、そのまま比較することは適切ではありません。

特定技能外国人は、平均年齢29.5歳、平均勤続年数2.4年です。一般労働者全体と比べて若く、勤続年数も短い傾向があります。また、介護、外食、飲食料品製造、農業、宿泊など、もともとの賃金水準が相対的に低い産業で多く働いています。

外国人の賃金が低く見える理由
外国人労働者の平均賃金が日本人より低く見える背景には、国籍そのものではなく、年齢・勤続年数・産業・企業規模などの違いがあります。
01
平均年齢が若い
賃金は一般に年齢や経験とともに上昇するため、若い労働者が多い集団では平均賃金も低くなりやすくなります。
02
勤続年数が短い
来日してからの期間が短い人も多く、勤続年数による昇給が十分に積み上がっていないケースがあります。
03
比較的賃金の低い産業に集中している
外食、介護、宿泊、製造、農業など、もともと平均賃金が比較的低い産業で働く外国人が多いことも、全体の平均賃金に影響します。
04
中小企業で働く割合が高い
外国人材は人手不足の中小企業でも多く受け入れられており、企業規模による賃金水準の違いも平均値に反映されます。
05
管理職や長期勤続者がまだ少ない
日本人労働者には長期間勤務して昇給した人や管理職も多く含まれます。一方、外国人労働者では、こうした高賃金層がまだ少ないことも平均賃金を押し下げる要因になります。
平均賃金だけでは「同じ仕事で安く雇われている」とは判断できない
「外国人の平均賃金が低い=同じ仕事をする日本人より安く雇われている」と単純に判断することはできません。年齢、勤続年数、職種、産業、企業規模などの条件をそろえて比較する必要があります。

労働政策研究・研修機構の研究では、年齢、学歴、勤続年数、雇用形態、企業規模、産業などの条件を調整すると、専門的・技術的分野の外国人と日本人の賃金差の多くは縮小しました。

一方、技能実習・特定技能の区分では、条件を調整した後も一定の賃金差が残っています。ただし、この研究は2019年のデータを使っており、特定技能制度が始まった直後であるため、技能実習生の影響が大きい点には注意が必要です。<出典:労働政策研究・研修機構「外国人労働者の賃金構造」>

ここで重要なのは、「外国人の平均賃金が日本人より低いこと」と、「外国人を受け入れたことで日本人の賃金が下がったこと」は、同じではないということです。後者を証明するには、外国人を受け入れなかった場合に、日本人の賃金がどうなっていたのかを比較しなければなりません。

日本のデータを使った経済モデル研究では、外国人労働者が日本人の賃金に与える影響は、地域、産業、日本人労働者の技能によって異なると推計されています。外国人労働者が多く、日本人と直接競合しやすい一部の地域では、低技能の日本人男性の賃金にわずかなマイナスの影響が生じる可能性が示されています。

一方、外国人労働者が地域の生産や事業継続を支えている地域では、外国人がいなくなることで、地域経済が縮小し、日本人の賃金にもマイナスになる可能性があります。

外国人労働者は日本人の賃金を下げるのか
日本のデータを使った経済モデル研究では、外国人労働者の影響は一律ではなく、地域・産業・職種・日本人労働者の技能によって異なると推計されています。
賃金を押し下げる可能性
日本人と直接競合する職種に外国人が集中
外国人労働者が、日本人労働者も多く働いている同じ職種に集中して流入した場合には、賃金に下押し圧力が生じる可能性が示されています。 特に低学歴・低技能層など、労働市場で競合しやすい層への影響は地域によって異なります。
地域経済を支える可能性
人手不足を補い、生産・事業継続を支える
外国人労働者が地域の生産や企業活動を支えている場合には、外国人がいなくなることで地域経済が縮小し、一部地域では日本人の実質賃金まで低下する可能性が示されています。
外国人労働者を完全に除く反実仮想
GDP 約1%減
日本人の実質賃金
地域によって
プラス・マイナス
重要なポイント
職種・地域・産業で
影響が異なる
つまり、「外国人労働者が増えれば日本人の賃金が下がる」と一括りにはできません。
日本人と直接競合する職種では賃金を押し下げる可能性がある一方、人手不足を補い、生産や地域経済を維持することで、日本人の雇用や賃金を支える効果も考えられます。 重要なのは「外国人が何人いるか」だけではなく、どの地域・産業・職種で、どのような日本人労働者と働いているかです。
参考研究
Doi & Suzuki
“Gains from Foreign Employment in Japan: Regional and Sectoral Implications”
※本研究は、日本の地域・職種・産業を組み込んだ定量的空間一般均衡モデルによる推計・反実仮想分析です。個々の企業や地域について同じ効果が必ず生じることを示すものではありません。

ただし、これは実際に外国人を排除した政策を観察した研究ではなく、経済モデルによる試算です。結果をそのまま特定技能制度だけに当てはめることはできません。

海外64研究、2,146件の推計結果をまとめたメタ分析でも、移民が受入国の労働者の賃金に与える平均的な影響は、ゼロに近い小さな値でした。一方、移民と直接競合する低技能層などでは、マイナスの影響が生じる場合もあります。

海外64研究をまとめても、賃金への平均的な影響は「ほぼゼロ」
移民が受入国の労働者の賃金に与える影響について、1972年から2019年までの研究をまとめた大規模なメタ分析があります。
対象研究
64研究
集めた推計結果
2,146件
平均的な賃金への影響
ゼロに近い
わずかにマイナス
平均で見ると
賃金への影響は非常に小さい
64研究・2,146件の推計結果をまとめると、 移民が受入国の労働者の賃金に与える平均的な影響は、 マイナスではあるものの、ゼロに近い小さな値でした。
ただし
影響はすべての労働者で同じではない
研究ごとの推計には大きなばらつきがあります。 移民と直接競合しやすい職種や技能層などでは、 賃金にマイナスの影響が生じるケースもあるため、 「誰に対する影響なのか」を分けて見る必要があります。
「移民が増えれば、国内労働者の賃金が下がる」とは一概に言えない
海外の多数の研究をまとめても、平均的な賃金への影響は非常に小さいという結果です。 一方で、地域・職種・技能などによって影響は異なるため、平均値だけで個別の労働者への影響まで判断することもできません。
参考研究
Aubry, Héricourt, Marchal & Nedoncelle
“Does Immigration Affect Wages? A Meta-Analysis”
論文PDFを見る →
※1972年から2019年までに公表された64研究、2,146件の推計結果を用いたメタ分析です。平均的な効果はマイナスですが、ゼロに近い値とされています。また、推計結果には研究対象国や分析手法などによる大きな異質性があります。

つまり、

・全国平均で見れば影響は比較的小さい
・外国人が集中する地域や職種では影響が出る可能性がある
・外国人が日本人の仕事を補完する場合は、プラスになる可能性もある

というのが、研究から見える現実です。

ここで一度、逆から考えてみます。現在、日本で働いている特定技能外国人が大幅に減った場合、日本人の賃金は自動的に上がるのでしょうか。

特定技能外国人が減った場合、日本人の賃上げにつながるのか
外国人材が減れば、すべての企業が単純に日本人の賃金を上げるわけではありません。 人手不足、賃上げ、省人化、事業縮小、価格転嫁など、複数の反応が考えられます。
STEP
01
現場の人手不足がさらに深刻になる
特定技能外国人が減っても、同じ人数の日本人がすぐに介護、建設、農業、外食、食品製造などへ移るとは限りません。 まずは残された日本人従業員の残業や業務負担が増える可能性があります。
STEP
02
一部の企業は賃金や待遇を改善する
人材を確保するため、賃金を引き上げる、休日を増やす、勤務時間を見直すなどの対応を取る企業も出てくるでしょう。 外国人と日本人が直接競合する職種では、日本人の賃金が上昇する可能性があります。
STEP
03
一部の企業は機械化・省人化を進める
人を確保できなければ、機械、AI、ロボット、セルフレジ、プレハブ化などへの投資が進む可能性があります。 単純作業は減る一方、機械を操作・管理する人材は引き続き必要になります。
STEP
04
生産やサービスを縮小する企業も出てくる
すべての企業が賃上げや設備投資を行えるわけではありません。 収益力の低い企業では、営業時間の短縮、受注削減、作付面積の縮小、事業所の閉鎖などにつながる可能性があります。
STEP
05
商品やサービスの価格が上がる
人件費や設備投資費が増えれば、その一部は商品やサービス価格へ転嫁されます。 建設費、家賃、農産物、加工食品、外食価格などを通じて、国民生活にも影響する可能性があります。
STEP
06
日本人の仕事も失われる可能性がある
外国人が現場作業を担うことで、日本人の管理職、営業職、技術職、事務職などの雇用が維持されている場合もあります。 外国人が減り、事業所そのものが縮小・廃業すれば、日本人の雇用まで失われる可能性があります。
外国人材が減ったときに起こり得ること
人手不足 賃上げ 省人化 縮小 価格・雇用にも波及
外国人材が減れば、日本人の賃金が必ず上がるわけではない
一部の職種では賃上げにつながる可能性があります。 しかし実際には、省人化、事業縮小、価格上昇、廃業など別の調整も起こります。 そのため、「特定技能外国人を減らせば、その分だけ日本人の賃金が上がる」と単純には考えられません。

外国人材の減少によって、一部の日本人の賃金が上がる可能性はあります。しかし同時に、機械化、生産縮小、価格上昇、廃業なども起こります。

「外国人がいなくなれば、その分の仕事を日本人が引き継ぎ、賃金も上がる」とは限りません。

介護分野では、賃金引上げが必要です。しかし、賃金を上げるだけで必要な人数を確保することは難しいと考えられます。

2025年3月の介護関係職種の有効求人倍率は3.97倍で、全職種の1.16倍を大きく上回っています。介護職員の必要数は、2022年の約215万人から、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人になると推計されています。

介護は、すでに深刻な人手不足が続いている
介護分野では求人倍率が高いだけでなく、今後必要となる介護職員数に対して、人材確保そのものが大きな課題となっています。
2025年3月 有効求人倍率
介護関係職種 3.97倍
全職種 1.16倍
介護関係職種の求人倍率は
全職種の約3.4倍
では、介護職員はどれだけ足りないのか
最新の実人数と、国が推計する今後の必要数を単純比較
2024年10月 実人数
約212.6万人
2,126,227人
2026年度必要数まで
約27.4万人
さらに必要
2040年度必要数まで
約59.4万人
さらに必要
※2024年10月1日時点の介護職員2,126,227人と、2026年度約240万人・2040年度約272万人の必要数を単純比較した参考値です。
介護職員の必要数
2022年度
約215万人
実績
2026年度
約240万人
2022年度比 +約25万人
2040年度
約272万人
2022年度比 +約57万人
2022年度 約215万人
2026年度 約240万人
2040年度 約272万人
指標 数値 最新実人数との差
介護関係職種 有効求人倍率 3.97倍
全職種 有効求人倍率 1.16倍
2024年10月 介護職員数 2,126,227人 現状
2026年度 必要数 約240万人 約27.4万人
2040年度 必要数 約272万人 約59.4万人
問題は「求人が多い」だけではなく、必要な人数そのものが確保できていないこと
最新の介護職員数は約212.6万人です。 2026年度に必要とされる約240万人には約27.4万人、 2040年度の約272万人には約59.4万人の上積みが必要になります。 特定技能外国人を減らした人数が、そのまま日本人の採用で埋まるとは限らないのが介護分野の現状です。
出典:厚生労働省「介護職員数の推移の更新(令和6年分)」「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
※2026年度・2040年度との差は、2024年10月1日時点の介護職員数2,126,227人との単純比較による参考値です。

介護で人が集まりにくい理由として、

・夜勤や不規則勤務
・身体的、精神的な負担
・入浴、排せつなどの介助業務
・利用者や家族とのコミュニケーション
・資格取得や教育に必要な時間
・介護報酬によって事業者の収入が決まる構造

賃金を上げれば、応募者は増える可能性があります。しかし、夜勤や身体的負担を理由に介護職を選ばない人もいるため、賃金だけですべて解決するわけではありません。

また、介護事業者が自由に利用料金を引き上げられるわけではありません。介護職員の賃金を上げるには、介護報酬や公費負担も含めて考える必要があります。

外国人材を適正に配置することで、日本人職員の夜勤回数や残業を減らし、休暇を取得しやすくできる場合もあります。外国人材の受入れが、日本人職員の離職防止や労働条件改善につながる可能性もあるのです。

建設業では、2023年の年間労働時間が2,018時間となっており、全産業より62時間長くなっています。建設技能者の年間賃金は432万円で、全産業の労働者平均508万円を下回っています。

また、2024年時点で建設業就業者の36.7%が55歳以上である一方、29歳以下は11.7%にとどまっています。

建設業は「長時間労働・低賃金・高齢化」という課題を抱えている
建設分野では人手不足だけでなく、労働時間、賃金、若年層の少なさという構造的な課題があります。
2023年 年間労働時間
2,018時間
全産業より+62時間
建設技能者の年間賃金
432万円
全産業平均より▲76万円
55歳以上の割合
36.7%
29歳以下は11.7%
年間労働時間
建設業 2,018時間
全産業 1,956時間
建設業は全産業より年間62時間長い
年間賃金
全産業の労働者平均 508万円
建設技能者 432万円
全産業平均より年間約76万円低い
建設業就業者の年齢構成|2024年
55歳以上
36.7%
約3人に1人以上
29歳以下
11.7%
約9人に1人
55歳以上 36.7%
11.7%
指標 建設業 比較
年間労働時間 2,018時間 全産業より+62時間
建設技能者の年間賃金 432万円 全産業508万円
55歳以上 36.7% 高齢化が進行
29歳以下 11.7% 若年層が少ない
建設業の人手不足は、特定技能外国人がいるから起きているわけではない
建設業では、特定技能制度が拡大する以前から、長時間労働、賃金水準、若年層不足、高齢化といった構造的な課題が続いています。 外国人材を減らせば、その人数分だけ日本人の若者が建設業に入るとは限りません。 賃金・休日・働き方の改善と、省人化・生産性向上、人材確保を同時に進める必要があります。
出典:国土交通省「令和7年版 国土交通白書」
※年間労働時間・年間賃金・年齢構成は、それぞれ統計の対象や集計方法が異なるため、単純比較には留意が必要です。

建設業では、

・屋外での作業
・暑さ、寒さ、危険を伴う業務
・現場ごとに勤務地が変わる
・朝が早い
・資格や技能習得に時間がかかる
・民間工事では週休2日が定着していない現場もある

といった問題があります。

賃金引上げだけでなく、週休2日の定着、長時間労働の是正、適正な工事価格、ICT施工、建設ロボット、プレハブ化、若手技能者の育成などを同時に進める必要があります。

建設技能者は、採用した翌日から熟練技能者になるわけではありません。将来の日本人技能者を育成しながら、現在進行中のインフラ整備、住宅建設、災害復旧を支えるために、外国人材を補完的に活用する必要があります。

2025年度の日本のカロリーベース食料自給率は37%となり、過去最低に並びました。農業の基幹的従事者は100万人を割り込む水準まで減少し、平均年齢も約68歳となっています。

食料自給率、25年度は過去最低の37% 国産米の消費減響く

日本経済新聞が、日本の2025年度の食料自給率について報じた記事です。 カロリーベースの食料自給率は37%となり、過去最低の水準となりました。 日本の食料供給力や農業を取り巻く現状を考えるうえで参考となる記事です。

▶ 日本経済新聞「食料自給率、25年度は過去最低の37%」を読む
出典:日本経済新聞
食料自給率37%、農業の担い手は100万人割れ
日本の農業は、食料自給率の低さに加えて、農業を支える人材そのものの減少と高齢化が進んでいます。
2025年度 カロリーベース
37%
過去最低水準
2026年 基幹的農業従事者
98.7万人
100万人を割り込む
平均年齢
67.7歳
約68歳
カロリーベース食料自給率の推移
2016年度~2025年度
39% 38% 37% 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 37%
基幹的農業従事者の減少
農業を主な仕事とする個人経営体の農業者
2000年 約240万人
2010年 約205万人
2020年 約136.3万人
2025年 約103.6万人
2026年(推計) 約98.7万人
2000年 → 2026年
約240万人 → 約98.7万人
約6割減少
基幹的農業従事者の平均年齢
67.7歳
65歳以上
約69.3万人
2026年推計
農業の人手不足は、食料安全保障の問題でもある
日本のカロリーベース食料自給率は37%と低い水準にあり、その国内生産を支える基幹的農業従事者も100万人を割り込む水準まで減少しています。 さらに平均年齢は約68歳です。 人材を確保できず国内生産が縮小すれば、輸入への依存がさらに高まり、為替や海外の需給、国際情勢の影響を受けやすくなる可能性があります。
出典:農林水産省「令和7年度食料自給率」「農業労働力に関する統計」
※2026年の基幹的農業従事者98.7万人は農業構造動態調査による推定値です。2025年農林業センサスとは調査方法が異なるため、直接比較には留意が必要です。

農業では、

・農村部そのものの人口が少ない
・早朝勤務がある
・季節による繁閑差が大きい
・屋外で身体的負担がある
・勤務地までの交通手段が必要
・農産物価格に人件費を転嫁しにくい

といった問題があります。

農業で人を確保できなければ、何が起こるのか
農業では、人手不足が単に「働く人が足りない」という問題だけで終わるとは限りません。 生産量や食料供給、最終的には私たちが支払う食料価格にまで影響が波及する可能性があります。
01
人手不足
02
作付面積の縮小
03
国内生産量の減少
04
国内市場への供給量の減少
05
輸入依存度の上昇
06
食料価格への上昇圧力
輸入価格や為替の影響も受けやすくなる
農業の人手不足は、賃金だけの問題ではありません。
人材を確保できず国内生産が縮小すれば、輸入への依存が高まり、食料の安定供給や価格にも影響する可能性があります。 そのため、外国人材を減らせば日本人の賃金が上がる、という一方向の議論だけではなく、国内の生産能力をどう維持するかという視点も必要です。

農業では、賃金引上げ、農地集約、スマート農業、機械化、適正な価格転嫁と外国人材の受入れを組み合わせて考える必要があります。

人手不足について、「賃金を上げれば日本人が働く」という意見があります。もちろん、適正な賃金を支払うことは大前提です。賃金を上げずに「人手不足だから外国人を入れてほしい」という考え方は、持続可能ではありません。

しかし、現在の介護、建設、農業などの人手不足は、賃金だけが原因ではありません。

・地方に働ける人そのものが少ない
・若年人口が減少している
・都市部への人口集中が続いている
・夜勤や早朝勤務がある
・身体的負担や危険がある
・資格や技能習得に時間がかかる
・家族や住居の都合で地域間移動が難しい

こうした条件があるため、賃金を上げても、必要な人数を短期間ですべて日本人だけで確保できるとは限りません。

さらに賃金を大幅に引き上げれば、その費用を誰が負担するのかという問題もあります。介護であれば介護報酬や保険料、建設であれば工事価格、農業であれば農産物価格へ反映する必要があります。

つまり、

☑働く人の賃金を上げること
☑企業や事業者の経営を維持すること
☑必要な商品・サービスの供給量を維持すること
☑国民が負担できる価格を維持すること

を同時に考えなければなりません。「外国人を入れればよい」でも、「賃金を上げれば日本人がすべて埋めてくれる」でもありません。

外国人材の受入れによって、企業の機械化や省人化が遅れるという懸念には、一定の根拠があります。米国の製造業を分析した研究では、低技能移民を多く受け入れた地域の工場ほど、生産量に対する機械設備の導入が少なかったことが報告されています。

出典:Ethan Lewis “Immigration, Skill Mix, and Capital-Skill Complementarity”⁠

外国人材の受入れは、機械化・省人化を遅らせるのか
「低技能の労働力を確保できることで、企業が機械化や自動化を急がなくなるのではないか」という懸念には、海外研究から一定の根拠があります。
米国製造業の研究
低技能労働者が多く流入した地域ほど、機械設備の導入が少なかった
Ethan Lewisの研究では、1980年代から1990年代の米国製造業を分析。 移民流入によって低技能労働者の相対的な供給が増えた地域では、 同程度の工場を比較しても、生産量当たりの機械設備の導入が有意に少なかったことが示されています。
研究から考えられるメカニズム
低技能労働者の供給が増える
人を使った生産を続けやすくなる
機械設備への投資インセンティブが弱まる可能性
自動化・省人化の導入が遅くなる可能性
研究が示していること
労働力の供給状況によって、企業が「人を使うか、機械を使うか」という生産方法を変える可能性があることです。
研究が示していないこと
「日本で特定技能外国人を受け入れたため、企業の省人化が遅れた」と直接証明した研究ではありません。
「外国人材の受入れ」と「省人化」は二者択一ではない
低技能労働力を容易に確保できる環境では、企業の機械化・自動化が遅れる可能性はあります。 一方、日本の介護、建設、農業、外食などでは、すべての作業を機械に置き換えられるわけではありません。 外国人材を受け入れながら、AI・ロボット・省人化設備への投資を同時に進め、生産性を高めていく視点が重要です。
参考研究
Ethan Lewis
“Immigration, Skill Mix, and Capital-Skill Complementarity”
The Quarterly Journal of Economics, 2011
※本研究は米国の製造業を対象とした分析であり、日本の特定技能制度そのものを分析した研究ではありません。日本への適用については、産業構造や人手不足の状況、機械化可能性などの違いを考慮する必要があります。

外国人を安価な労働力として容易に確保できれば、高額な機械やシステムを導入する必要性が弱くなる可能性があります。

特に、

・日本人より実質的に安い
・転職しにくく、賃金交渉力が弱い
・単純作業だけを長期間担当する
・技能向上や昇給の仕組みがない
・外国人採用を省人化投資の代わりにしている

という受入れ方には注意が必要です。

一方、外国人労働者を制限すれば、日本人の賃金が自動的に上がるとは限りません。米国が季節農業労働者の受入れを停止した事例の研究では、国内労働者の賃金や雇用は期待されたほど増加せず、農家は機械化、作物の変更、生産縮小などで対応しました。

外国人労働者を減らせば、日本人の賃金は上がるのか
米国では、国内労働者の賃金と雇用を改善する目的で、メキシコ人の季節農業労働者「ブラセロ」の受入れを終了した事例があります。
対象となった外国人労働者
約50万人
メキシコ人季節農業労働者
国内農業労働者の賃金
明確な上昇なし
国内農業労働者の雇用
明確な増加なし
実際に起きた企業側の調整
外国人季節労働者の受入れを終了
農業現場の労働力が減少
機械化
省力化技術を導入
作物の変更
労働集約的な作物から転換
生産の調整
生産方法・生産構成を変更
日本人の賃金・雇用は期待されたほど増えなかった
労働力不足への対応は「日本人を高賃金で大量採用」だけではなかった
政策側の期待
外国人労働者を減らせば、労働力の供給が減り、農家が国内労働者の賃金を上げて採用することで、日本人の賃金と雇用が増えると期待されていました。
実際の企業行動
企業は賃金だけで調整するのではなく、機械化、省力化、作物構成の変更などを進めました。その結果、国内農業労働者の賃金や雇用への効果は小さいものでした。
外国人労働者を減らせば、日本人の賃金が自動的に上がるわけではない
労働力が減ったとき、企業には「日本人の賃金を上げて採用する」以外にも、機械化、省人化、生産方法の変更、事業規模の調整など複数の選択肢があります。 そのため、外国人労働者の受入れを制限した人数分だけ、日本人の雇用や賃金が増えるとは限りません。
参考研究
Michael A. Clemens, Ethan G. Lewis & Hannah M. Postel
“Immigration Restrictions as Active Labor Market Policy:
Evidence from the Mexican Bracero Exclusion”
American Economic Review, 2018
※研究は、1964年末に終了した米国のブラセロ制度を自然実験として分析したものです。約50万人規模のメキシコ人季節農業労働者の排除後も、米国人農業労働者の賃金・雇用への明確なプラス効果は確認されず、省力化技術の導入や作物構成の変更が重要な調整メカニズムだったとされています。

外国人がいなくなった場合、企業が必ず賃金を上げて日本人を採用するわけではありません。機械化する、事業を縮小する、価格を上げる、海外へ移転する、廃業するといった選択もあります。

現時点では、日本の特定技能制度によって技術革新がどの程度遅れたのかを直接示す、十分な因果研究はありません。だからこそ、外国人材の受入れと省人化投資を対立させず、両方を進める制度設計が必要です。

経済産業省の2040年の就業構造推計では、事務職などのオフィスワーカーは約437万人余る一方、現場人材は約260万人、専門職は約181万人不足する可能性が示されています。

また、AIやロボットを現場で活用する人材も約339万人不足すると推計されています。

2040年、日本では「人余り」と「人手不足」が同時に起こる
経済産業省の就業構造推計では、事務職では大幅な人材余剰が生じる一方、 現場人材や専門職、AI・ロボット等を活用する人材は不足する可能性が示されています。
事務職
437万人
余剰
現場人材
260万人
不足
専門職
181万人
不足
AI・ロボット等利活用人材
339万人
不足
2040年の就業需給ミスマッチ
人数の絶対値を比較
事務職 +437万人 余剰
AI・ロボット等利活用人材 ▲339万人 不足
現場人材 ▲260万人 不足
専門職 ▲181万人 不足
職種 2040年需要 2040年供給 需給差
事務職 1,039万人 1,476万人 +437万人 余剰
現場人材 3,283万人 3,023万人 ▲260万人 不足
専門職 1,867万人 1,686万人 ▲181万人 不足
AI・ロボット等利活用人材 782万人 443万人 ▲339万人 不足
問題は「人が余るか、足りないか」ではなく、職種間のミスマッチ
2040年には、事務職などのオフィスワーカーが余る一方、 建設、製造、介護、サービスなどを支える現場人材や専門職は不足する可能性があります。 さらに、AIやロボットを導入するだけではなく、それを現場で使いこなす人材も不足すると推計されています。
注意: 各区分には重複があります。 特にAI・ロボット等利活用人材は、他の職種区分と重なるため、 「260万人+181万人+339万人」というように不足人数を単純合計することはできません。
参考|経済産業省「2040年の就業構造推計」
経済産業省の資料を見る →
出典:経済産業省「2040年の就業構造推計」
※将来の一定の経済・産業構造を前提とした推計であり、実際の2040年の人数を確定的に予測したものではありません。

これからの日本では、単純な「人手不足」ではなく、人が余る職種(事務・定型的なオフィス業務)と人が足りない職種(介護・建設・農業・物流・専門職・AI活用人材)という人材ミスマッチが大きな問題になります。

しかし、東京で余る事務職の人が、そのまま地方の介護、建設、農業に移るわけではありません。転居、家族、賃金、資格、技能、勤務時間、身体的負担など、多くの障壁があるからです。必要なのは、国内人材のリスキリングと労働移動を進め、それでも埋まらない地域や職種に外国人材を配置することです。

外国人材の受入れは、日本人の賃金を下げる方向だけに働くわけではありません。転居、家族、賃金、資格、技能、勤務時間、身体的負担など、多くの障壁があるからです。必要なのは、国内人材のリスキリングと労働移動を進め、それでも埋まらない地域や職種に外国人材を配置することです。

外国人材の受入れは、日本人の賃金を下げる方向だけに働くわけではありません。人手不足の職場では、現場の人数が足りないために、

・日本人従業員の残業が増える
・休日を取得できない
・管理職が現場作業に追われる
・教育や営業に時間を使えない
・疲労によって離職者が増える
・さらに人手不足が悪化する

という悪循環が起きます。

外国人材を採用することで、この悪循環を止められる場合があります。例えば、外国人材が現場業務を担うことで、日本人従業員が教育、管理、顧客対応、技術業務など、より高い付加価値を生む仕事へ移ることができます。

事業を拡大できれば、日本人の管理職や専門職のポストが増える可能性もあります。外国人と日本人が同じ仕事を奪い合う「代替関係」になるのか、それぞれの役割を分担する「補完関係」になるのか。

受入れによる賃金への影響は、この違いによって大きく変わります。

外国人材が日本人の賃金や技術革新に悪影響を与えるかどうかは、制度設計と企業の利用方法に左右されます。必要なのは、次のような仕組みです。

外国人材の受入れと日本人の賃金を両立させるために
外国人材を受け入れるのであれば、「安い労働力」として固定するのではなく、 適正な賃金形成、技能向上、生産性向上につながる制度運用が重要です。
01
日本人と同等以上の報酬を実質的に確認する
基本給だけでなく、賞与、手当、昇給、控除、社宅費なども含め、 日本人との間に不合理な待遇差がないかを実質的に確認する必要があります。
02
職種・地域別の賃金相場を公開する
同じ職種、地域、経験年数の日本人が実際にどの程度の賃金を受け取っているのかを可視化し、 比較できる環境を整えることも重要です。
03
適正な転職を可能にする
制度上は転職できても、日本語、住居、情報不足などによって実際には動けない場合があります。 不当な待遇から離れられる環境を整えることが、適正な賃金形成にもつながります。
04
技能向上と昇給を結び付ける
外国人を単純作業の補充要員として固定せず、資格取得、日本語能力向上、 リーダー育成、特定技能2号への移行などを昇給につなげる仕組みが必要です。
05
外国人採用と生産性向上をセットにする
外国人材の採用だけに依存せず、AI、ロボット、省人化設備、業務改善、 人材教育への投資を同時に進める仕組みを考える必要があります。
06
地域・産業別に影響を検証する
外国人材が集中する地域や職種では、日本人の賃金、求人倍率、離職率、 設備投資、生産性などを継続的に確認し、影響を検証する必要があります。
「外国人を入れるか、入れないか」だけではなく、受け入れ方が重要
外国人材の受入れが日本人の賃金や企業の生産性にどのような影響を与えるかは、 制度設計や企業行動によって変わります。 適正な賃金を確保し、転職可能性を高め、技能向上と昇給を結び付け、 同時に省人化・生産性向上を進めることが重要です。

悪影響が確認された場合には、受入れ条件や人数を見直す仕組みも必要です。

現時点のデータから、「特定技能外国人を受け入れているため、日本人の賃金が上がらない」と全国一律に結論づけることはできません。日本の賃金停滞は、特定技能制度が始まる以前から続いています。特定技能外国人は就業者全体の約0.6%であり、特定技能外国人が増加するなかでも、特定技能外国人と一般労働者全体の賃金は上昇しています。

一方で、外国人が特定の地域や職種に集中し、日本人と直接競合する場合には、賃金上昇を弱める可能性があります。また、外国人を日本人より実質的に安く、転職しにくい労働力として利用すれば、賃金上昇や省人化投資を弱める可能性があります。つまり、問題は外国人がいること自体ではありません。

低賃金のまま人を補充できる制度運用を許せば、日本人も外国人も賃金が上がりにくくなります。介護、建設、農業などでは、賃金を上げても必要な人数を確保できない可能性があります。だからこそ、

・日本人と外国人の賃金を引き上げる
・労働条件を改善する
・商品やサービスへの価格転嫁を進める
・AI、ロボット、機械化を進める
・国内人材を育成し、労働移動を支援する
・それでも不足する分野に外国人材を受け入れる

という政策を、同時に進める必要があります。

特定技能制度は、低賃金産業をそのまま延命するための制度ではありません。日本人と外国人が適正な待遇を受けながら、産業の生産性を高め、社会に必要なサービスや生産を維持していく制度として運用されるべきではないでしょうか。

問うべきなのは、「外国人を受け入れるか、受け入れないか」ではありません。日本人の賃金を上げながら、必要な産業を誰が支え、外国人材にも選ばれる国をどのように作っていくのか。外国人材の受入れを、単なる人数論ではなく、日本の賃金、技術革新、産業維持を含めた政策として考える時期に来ているのではないでしょうか。

出入国在留管理庁申請取次行政書士
稲福 正直

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この記事の監修者
アソシエイツ稲福国際行政書士事務所 行政書士
稲福 正直

アソシエイツ稲福国際行政書士事務所 代表
東京都行政書士会 会員番号第15128号
登録支援機関 登録番号26登録ー013601
専門は、専門:外国人雇用・在留資格申請、特定技能、技術・人文知識・国際業務、高度専門職、経営・管理、登録支援機関・受入企業の実務支援等

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