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特定技能外国人の早期途中退職で費用の返還請求は可能なのか?

入管法

こんにちは、行政書士の稲福です。今回は、特定技能外国人に対する「途中退職時の費用返還請求の可否」について解説したいと思います。

特定技能外国人を受け入れる現場において、受入企業や登録支援機関から私たちのもとに寄せられる相談は、これまで「制度理解」「申請可否」が中心でしたが、ここ最近は制度そのものではなく、特定技能外国人に対する日々の実務対応が妥当だったのかを問う相談が増えてきております(現場が“グレーゾーンの危険性”を感じ始めているとも言えるので、ある意味特定技能の制度が定着してきた証であると言えます)。

直近の事例でいうと、企業側「費用負担」と「途中退職」をめぐるトラブルです。

たとえば、「航空券代や在留資格申請にかかった費用を、会社が支払ったが、本人が途中で退職したため、「支払った費用は返還すべきだ!」と会社から特定技能外国人に請求でできるかという相談です。受入企業としては、せっかく費用を負担したのに、すぐ辞められてしまったという思いがあるのも決して無理はなく、企業側が「企業を踏み台にされた」「費用だけ負担させられた」と感じるのは、感情論としてごく自然だと思います。

一方で、「その請求はルール上許されるのか」「返還を求めること自体が違法にならないのか」という疑問が残ります。なぜなら、特定技能外国人はこの国で働く労働者として、制度上転職が自由に認められているという前提となっているからです。

では、この請求は果たして適法なのでしょうか。

まず前提として、航空券代と在留資格許可申請費用について、外国人本人が負担すること自体は禁止されていません。もちろん、企業や登録支援機関が負担することも可能です。

問題は、特定技能外国人は途中で辞めた場合に「航空券代や在留資格申請費用を会社が払ったが、途中で辞めるなら返還しろ!」と返還請求することが適法なのか否かという点です。

それでは、以下のようなケースではどうでしょうか。

雇用契約時に、費用負担や返還に関する取り決めはない
☑受入企業が航空券代・申請費用を負担した
約4か月後に特定技能外国人が退職の意思を示した
その時点で受入企業が特定技能外国人へ「途中で辞めるなら費用を返還しろ」と請求した
何か月で辞めたら返還義務が生じるのかも不明確

この点について、特定技能制度の運用要領では、次の点が明確に示されています。

特定技能外国人に対し、保証金の徴収、違約金を定める契約、又はそれに準ずる金銭的拘束を行ってはならない。

ここでポイントになるのは、「それに準ずる金銭的拘束」という考え方です。

まず、結論から申し上げますと、上記のケースにおいて費用の返還請求をすることはNGです。

なぜなら、

●そもそも雇用契約時に費用負担について取り決めがなされていない
●そのうえで企業が費用を負担している
●もちろん返還の基準(何か月・どの時点か)なども決まっていない(後述しますが、仮にこの取り決めがあったとしてもNGです✖)
●退職することにより特定技能外国人に金銭的な不利益が生じる

これらは実質的に、特定技能外国人の「辞める自由をお金で縛っている」状態とみなされ、保証金や違約金に準ずる「金銭的拘束」とみなされる可能性が極めて高いと考えられます。

整理しますと、今回のケースでは…

●事前の契約上の取り決め → なし
●合理的で明確な返還基準 → なし(返還基準を設けたとしてもNGの可能性が高い)
●転職・退職の自由への配慮 → なし

結果として、返還義務を認めることは困難で、後から一方的に「辞めるなら返せ」という請求は、特定技能外国人材を日本人と同様の「労働者」として保護し、自由な転職を前提に、過度な拘束や不利益を排除するという特定技能制度の趣旨に反します。

それでは、あらかじめ本人の同意があっ場合にはどうなるでしょうか。

実はこれもNGなんです。

これは、同意があったとしても、上記運用要領にある保証金・違約金の禁止の「それに準ずる金銭的拘束」該当することになり、適法な行為であると認められません。なぜなら、「同意があるかどうか」ではなく、「その内容が許されるものかどうか」で判断されることになり、これは、特定技能制度と労働法の両面から一貫した考え方です。

労働基準法では、労働法上の原則における強行規程で、

●労働者の退職を制限する
●退職を思いとどまらせる目的で金銭的負担を課す


ことは、本人の同意はあっても無効とされ、「合意しているからOK」や「契約書にサインしているから有効」という理屈は通りません。

そして、特定技能制度では、さらに厳しく見られ、外国人という立場の弱さや情報格差、また在留資格と雇用が結びついている構造を踏まえ、「途中で辞めたらお金を返せ」は 実質的な退職制限と評価される可能性が極めて高いです。

なお、実務で多い特に危険な表現として…

●「○ヶ月以内に辞めたら採用時に企業が支払った費用は返還」
●「更新前に退職した場合は採用時に企業が支払った費用は返還」
●「自己都合退職時は採用時に企業が支払った費用は全額返還」

などで、これらは同意があったとしてもアウトです。

なお、例外的に返還請求認められるケースとしては、私的な理由で立て替えた生活費の返済や明確な貸付金(借用書あり・分割返済・利息なし等)などがありますが、 それでも「退職と結びついていない」ことが絶対条件となります。

これらを踏まえ、登録支援機関および受入企業が注意すべき点をまとめると以下の三点になります。

企業が任意で負担した費用は、原則として返還請求できない
退職を理由とした金銭的不利益は、運用要領上の「金銭的拘束」に該当する可能性が高い
トラブルが発生すると、入管・労基・監督署の調査につながるリスクがある

入管や労基が見るのは、「実質的に、退職を制限する内容や仕組みになっていないか?」で、答えが YES なら本人同意の有無は関係ありません。同意があっても許されないものは、許されません。

最後になりますが、特定技能制度は、外国人が不利益を受けずに働き、転職できることを前提に設計されています。「途中で辞めたら費用を返せ」という対応は、その前提を根底から崩しかねません。

登録支援機関・受入企業ともに、これまでの慣行が本当に適法かを、いま一度見直すことが重要です。

本記事が、特定技能外国人を受け入れる現場に携わる皆様にとって、少しでも実務の参考となり、適正な制度運用の一助となりましたら幸いです。

出入国在留管理局申請取次申請行政書士
稲福 正直

この記事の監修者
アソシエイツ稲福国際行政書士事務所 行政書士
稲福 正直

アソシエイツ稲福国際行政書士事務所
代表行政書士
沖縄県那覇市出身
明治大学法学部法律学科卒業
東京都行政書士会
会員番号第15128号
専門は、建設特定技能ビザ申請・建設業に係る申請等

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