こんにちは、行政書士の稲福です。
今回は、外国人材スタートアップの日本進出や経営・管理ビザ申請において、なぜ「ゼロからの起業」ではなく、「M&A」という手法が極めて合理的な選択肢となり得るのかについて、実務と経済の両面から整理してみたいと思います。
近年、経営・管理ビザを巡る審査は確実に厳格化しており、資本金や事業計画といった形式的な要件を満たすだけでは、事業の実体や継続性が十分に評価されにくい局面が増えています。とりわけ、経営経験の乏しいスタートアップや、日本での事業実績を持たない外国人起業家にとって、
「創業直後の不確実性」はそのままビザリスクに直結します。
一方で、既に日本国内で事業実体・取引関係・雇用・納税実績を有する企業を承継するM&Aは、事業の継続性や経済活動の実態を、最初から客観的に示すことができる手法でもあります。これは単なるビザ対策にとどまらず、事業の立ち上がり速度、信用力、資金効率といった観点からも、合理性の高い経営判断と言えるでしょう。
本稿では、なぜ今、外国人材スタートアップと経営・管理ビザの文脈においてM&Aが「例外的手法」ではなく「現実的戦略」になりつつあるのかについて、現場での具体的な事例や制度運用を踏まえながら考えていきたいと思います。
経営・管理ビザの実務から見た合理性
経営・管理ビザの審査において、近年ますます重視されているのは、単なる形式要件の充足ではなく、事業の実体、継続性、社会的信用、そして過去からの経済活動の蓄積です。
とりわけ近年の審査では、「これから何をやるのか」という将来計画以上に、これまでどのような事業活動が行われてきたのかという“履歴”が丁寧に確認される傾向が強まっています。この点において、既存企業をM&Aによって取得するスキームは、経営・管理ビザの制度趣旨と非常に高い親和性を有していると言えます。
M&Aを通じて事業を承継する場合、単に法人格を取得するのではなく、過去の売上や取引実績、納税実績、雇用関係、各種事業許認可、さらには取引先やブランドといった信用力を含めた、企業としての「実績(トラックレコード)」を引き継ぐことが可能です。これらは、入管が重視する「事業が現実に行われているか」「継続性が担保されているか」「社会的に信頼できる事業主体か」という判断要素と極めて整合的です。
設立直後で実績がなく、事業計画の合理性のみで評価を受けるスタートアップと比較すれば、既に実績を有する企業を承継するM&Aスキームは、入管審査上、明確なアドバンテージを持つと言えるでしょう。
すなわち、M&Aは単なる近道や例外的手法ではなく、経営・管理ビザの本来の評価軸に正面から応える、極めて合理的な選択肢の一つなのです。
海外市場との接点という観点からの合理性
海外市場との接点という観点から見た場合、外国人経営者が関与するM&Aの本質的な価値は、単なる「会社取得」や「事業承継の手段」にとどまりません。
むしろ重要なのは、外国人経営者が持つ海外市場との接点を、日本企業の事業基盤に組み込める点にあります。
具体的には、母国市場との人的・商流ネットワーク、海外における人材供給チャネル、輸出入や越境ビジネスの実務経験、さらには多言語・多文化環境での事業運営能力といった要素が、既存の日本企業に直接接続されることになります。これまで国内市場に閉じた形で事業を展開してきた中小企業にとって、こうした要素は、自社単独では容易に獲得できない貴重な経営資源です。
また、外国人経営者の参画によって、インバウンド需要や在留外国人市場への参入が現実的な選択肢となり、海外販路の開拓や国際取引の立ち上げが加速する可能性も生まれます。結果として、単なる事業承継や延命策ではなく、企業の成長戦略そのものとしてのM&Aへと位置付けが変わっていきます。
この点において、外国人経営者が関与するM&Aは、日本企業に新たな市場と成長機会をもたらす、極めて実体的な価値を内包していると言えるでしょう。
中小企業・事業承継の視点から見たM&Aの意義
中小企業・事業承継の観点から見たとき、M&Aが持つ意義は、単なる企業売買にとどまりません。日本の中小企業が直面している最大の課題の一つが、後継者不在という構造的な問題です。親族承継は年々難しくなり、そもそも後継を希望する子世代が存在しない、あるいは事業を引き継ぐ意欲を持たないケースも珍しくありません。
一方、社内昇格による承継も、人材確保の難しさや経営能力の問題から、必ずしも現実的な選択肢とは言えない状況が続いています。こうした中で、本来であれば存続可能な事業が、後継者不在を理由に廃業へと追い込まれている現実があります。これは個々の企業にとっての問題にとどまらず、地域経済や雇用、ひいては日本全体の産業基盤にとっても大きな損失です。
外国人経営者によるM&Aは、この行き詰まりに対する一つの現実的かつ実務的な解決策になり得ます。既存事業を引き継ぎ、雇用を維持し、日本市場での事業展開に意欲を持つ外国人材が経営を担うことで、事業承継問題と人材不足という二つの課題を同時に解消する可能性があるからです。
譲渡する側(売り手)にとってのメリット
ここで強調しておきたいのは、M&Aは決して「買い手のためだけの制度」ではないという点です。むしろ、譲渡する側――すなわち中小企業の経営者にとってこそ、大きな意味を持つ選択肢であると言えます。
多くの中小企業では、事業そのものは安定しており、顧客や取引先も確保され、従業員も真面目に働いている。それにもかかわらず、後継者がいないという一点だけで廃業や縮小を余儀なくされるケースが後を絶ちません。
M&Aによる事業承継は、こうした企業に対して、従業員の雇用を守り、取引先との信頼関係を維持し、長年築いてきた事業ブランドを次世代につなぐ現実的な解決策を提供します。
さらに、創業者にとっても、自らが築き上げてきた会社を評価してもらい、適正な対価として創業者利益を確保できる数少ない機会となります。
とりわけ、「会社は元気だが、後を継ぐ人がいない」という企業にとって、明確な成長意欲とビジョンを持つ外国人経営者への承継は事業を未来へつなぐための、極めて現実的で前向きな選択肢と言えるでしょう。
士業の視点から見たM&A×ビザの親和性
公認会計士・税理士・弁護士といった専門家の視点から見ても、M&Aを活用した経営・管理ビザの取得・維持スキームは、極めて理にかなった構造を持っています。なぜなら、このスキームは「在留資格ありき」ではなく、企業経営そのものを土台に在留資格を位置づける設計だからです。
まず、M&Aの過程では、財務諸表・税務申告・契約関係が精査されるため、財務・税務の透明性が担保されやすいという大きな利点があります。これは、ビザ審査においても「事業の実体」や「継続性」を説明する上で、極めて強い裏付けとなります。
また、デューデリジェンスを通じて、簿外債務や法的リスク、事業上の課題が事前に可視化されることで、後から問題が発覚するリスクを大幅に低減できます。この点は、更新審査や将来の調査対応を見据えると、非常に重要です。
さらに、M&Aでは契約書によって責任範囲・経営関与の内容・権限関係を明確に定めることができるため、名ばかり経営」や実質経営不在といったリスクを構造的に排除できます。
そして何より、ビザ・会社法・税務・ガバナンスを一体として設計できる点こそが、専門家から見た最大の合理性と言えるでしょう。
結果として、在留資格だけが独立して存在するのではなく、健全な企業経営の延長線上にビザが位置づけられる。このような構造が生まれることで、企業・外国人・行政のいずれにとっても、持続可能で説明可能なスキームが成立します。
経済活性化というマクロ視点
経済活性化というマクロの視点に立てば、このようなM&Aの活用が広がることは、単に個別の外国人起業家やスタートアップのビザ課題を解決するにとどまりません。
まず、日本企業の新陳代謝という点において、後継者不足や成長停滞に直面している中小企業に、新たな経営主体と資本、そして外部の視点を呼び込む契機となります。これは、廃業を防ぎ、既存事業を次のステージへ引き上げる現実的な手段です。
また、地方経済の活性化という観点から見ても、外国人起業家が地域企業を引き継ぎ、事業を継続・発展させることは、地域における雇用の維持だけでなく、新たな雇用機会の創出にもつながります。
さらに、外国人経営者が持つ海外ネットワークや市場感覚は、これまで国内に閉じていた事業に国際的なビジネス接点をもたらし、輸出、インバウンド、越境取引といった新たな可能性を開きます。
こうした動きが積み重なれば、M&Aは単なる企業再編の手法ではなく、人材・資本・事業を循環させる経済装置として機能し、結果として日本経済全体の持続的な成長に寄与するものと言えるでしょう。
おわりに
経営・管理ビザは、単なる「在留資格」の一類型ではありません。それは、日本で事業を営み、雇用を生み、税を納め、社会の一部として責任を果たしていくことを前提とした制度です。誰が、どの事業を、どのような形で引き継ぎ、どこまで発展させていくのか。経営・管理ビザの審査とは、本来その問いに向き合う行為であるはずです。
その文脈において、M&Aという選択肢は、決して「抜け道」や「便法」ではありません。既存の事業基盤、顧客、雇用、取引関係を引き継ぎながら、新たな視点とエネルギーを注ぎ込む、極めて合理的な手法です。外国人材スタートアップにとっては、ゼロから立ち上げるよりも、実体ある事業を引き継ぎ、日本社会に根を下ろすための現実的な入口となり得ます。
一方、日本企業にとっても、後継者不足や事業承継という課題に対し、国境を越えた形で解決の糸口を見いだす機会となります。
外国人材スタートアップと日本企業。この両者を、意味のある形で結びつけること。それこそが、M&Aを経営・管理ビザの文脈で捉える意義だと考えます。
今求められているのは、制度の趣旨を踏まえた冷静な設計と、現場を理解した実務支援です。経経・管理ビザとM&Aを日本の未来につながる「選択肢」として機能させるために。その役割を、私たちはこれからも現場で担っていきたいと考えています。
出入国在留管理局申請取次行政書士
稲福 正直









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