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【前編】なぜアジアの人材は日本ではなく韓国を選び始めているのか

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こんにちは、行政書士の稲福です。

近年、東南アジア出身の外国人材と日常的に接する中で、「日本よりも韓国で働きたい」という声を耳にする機会が確実に増えてきていることを実感しています。

これは、個人的な印象や一時的な流行ではなく、現場で複数の国籍・職種にまたがって共通して聞かれる声です。

背景には、単純な賃金水準の差だけでなく、就労制度の分かりやすさ、キャリアの見通し、家族帯同や将来の定住可能性といった中長期的な人生設計を左右する要素が複雑に絡み合っています。外国人材は、もはや「今どこで働けるか」ではなく、「どの国で人生を築けるか」という視点で国を選び始めています。

一方、日本は長らく「安全」「安定」「真面目に働ける国」として選ばれてきましたが、その優位性が、必ずしも当然のものではなくなりつつあります。制度の分かりにくさ、賃金上昇のスピード感の乏しさなどが、少しずつ、しかし確実に比較の俎上に載せられているのです。

本記事では、なぜ東南アジアの外国人材が韓国を志向するようになっているのか、その背景にある制度・経済・将来設計の視点を整理するとともに、この動きが日本の外国人材政策にどのような示唆を与えるのかについて、実務の立場から考えてみたいと思います。

まず、最も分かりやすく、かつ外国人労働者の判断に直結する要因が賃金水準と手取り額の差です。

日本では近年の円安の影響もあり、外貨ベースで見た場合、名目賃金が相対的に低く映りやすい状況が続いています。加えて、社会保険料、所得税、住民税といった各種控除が多く、実際に月末に手元に残る金額が、事前の想定よりも大きく目減りするという印象を、外国人労働者に強く与えています。

一方、韓国では、同程度の業務内容であっても、日本より高い賃金が提示されるケースが少なくありません。また、残業時間が比較的多く確保されやすく、結果として月収ベースでの金額が大きくなる構造があります。さらに、年金や社会保険などの控除負担が日本より軽いことから、名目賃金以上に「手取り額」の差が広がりやすいという特徴があります。

外国人材にとって重要なのは、必ずしも「時給」や「基本給の額」ではありません。多くの場合、判断基準となるのは、「1か月働いて、実際にいくら手元に残るのか」という極めて現実的な数字です。送金や生活費、将来の貯蓄を考える立場からすれば、この手取り額の差は、就労先を選択するうえで無視できない要素となります。

こうした状況を踏まえると、日本と韓国の賃金・控除構造の違いは、外国人材の進路選択において、想像以上に大きな影響を及ぼしていると言えるでしょう。

製造・現場系職種(フルタイム)での比較

参考までに、製造業や現場系職種でフルタイム就労するケースを想定して日本と韓国を比較してみます。

日本の場合、手当込みの月給が22万円程度とすると、月20時間ほどの残業を行った場合の残業代はおおよそ3万円となり、総支給額は約25万円前後になります。

ここから、健康保険料、厚生年金、雇用保険料といった社会保険料として約4万5千円、さらに所得税や住民税として約1万5千円が控除され、控除額の合計はおよそ6万円に達します。その結果、実際に月末に手元に残る手取り額は、約19万円程度となります。

一方、韓国では、同程度の業務内容であっても、基本給が日本より高く設定される傾向があり、月給は25万円相当となるケースが少なくありません。

加えて、残業時間が月40〜50時間程度確保されることも多く、その場合の残業代は6万〜7万円程度となり、総支給額は約31万〜32万円に達します。

ここから控除される年金や社会保険料は約2万5千円から3万円程度、税金は1万円前後にとどまり、控除額の合計はおおよそ4万円程度です。その結果、月々の手取り額は約27万〜28万円となります。

このように、同じ製造・現場系職種であっても、手取り額で比較すると、日本では約19万円、韓国では約27万円となり、月あたり約8万円、年間にすると約100万円もの差が生じます。外国人材にとって、この「毎月いくら手元に残るのか」という差は極めて現実的であり、就労先を選択する際の大きな判断材料となっているのが実情です。

労働法制と「稼げる環境」の関係を考える際、近年しばしば比較対象として挙げられるのが韓国の労働市場です。

と申しますのも、韓国では、日本と比べて労働法令の運用が比較的柔軟であり、実務上の裁量が現場に残されている側面があります。例えば、残業時間が多く、稼働時間が長くなりやすい点は、労働者保護の観点から見れば課題として指摘されがちです。しかし一方で、働いた分だけ収入に直結しやすい構造であることも事実です。

また、在留資格や雇用形態によっては、外国人であっても副業や複数の収入源を持つことが認められるケースがあり、これも日本との大きな違いの一つと言えるでしょう。

こうした制度環境は、「長時間労働=悪」という価値観とは必ずしも一致しません。むしろ、「短期間で集中的に働き、収入を最大化したい」という明確な目的を持つ層にとっては、非常に合理的に映ります。

もちろん、労働者保護やワークライフバランスの観点から見れば、一概に優れていると評価できるものではありません。日本型の労働法制が持つ安定性や保護の厚みには、それ自体の価値があります。

しかし同時に、「多少ハードでも構わないから稼ぎたい」という現実的なニーズが存在することも否定できません。その点において、韓国の労働制度が一定の層にフィットしているのは、制度設計の違いとして冷静に受け止める必要があるでしょう。

韓国では、日本とは異なり、2004年から「雇用許可制(EPS)」と呼ばれる国主導型の外国人労働者受入れ制度を中核に据えてきました。この制度は、低熟練分野の外国人労働者について、受入れ人数・対象業種・国籍枠・選考プロセスまでを国が一元管理する点に大きな特徴があります。

制度の基本理念は明確で、「まず自国民の雇用を優先し、それでも人手が確保できない分野に限って外国人を受け入れる」という考え方に基づいています。そのため、民間企業の裁量は意図的に抑えられ、送り出しから受入れまでを制度的に統制する設計となっています。

EPSの手続きは厳格です。雇用主は韓国人向けの求人活動を行い、応募がないことを確認したうえで雇用許可を申請します。許可後は、政府管理下の候補者から選考し、本人の同意を得て契約を締結、E-9ビザで入国するという流れです。就労期間は原則3年で、延長する場合には一度帰国したうえで再入国する必要があります。

このような仕組みは、不法就労やブローカー介在を抑制し、透明性の高い受入れを実現するという点では、一定の合理性を持っています。特に、民間仲介に依存することで生じがちな歪みを排除しようとする姿勢は、制度設計として一貫しています。

一方で、この国主導モデルには構造的な限界も存在します。

韓国の雇用許可制(EPS)は、受入れ人数や対象産業が行政主導で事前に枠として決定される制度であり、行政側の人員体制や運用能力、さらには予算制約の影響を強く受けます。そのため、産業現場で急速に人材需要が高まった場合であっても、受入れ人数や条件を市場の動きに合わせて柔軟に調整することが難しいという構造的な制約があります。この結果、現場の実需と制度上の受入れ枠との間に乖離が生じやすい点が、EPSの大きな特徴です。

その象徴的な例が、2022年以降に対象が拡大されたサービス業分野です。

飲食・宿泊・宅配などを対象に、約1万3,000人の採用枠が新設されたものの、実際に採用に至った人数は600人台にとどまりました。これは需要不足ではなく、制度運用上のミスマッチによるものです。

具体的には、

●申請から就労開始までに時間を要する煩雑な手続き
●フルタイム正規雇用が原則とされ、短期・繁忙期対応が困難である点


といったEPS固有の制度設計が、サービス業の実態と合致しなかったことが大きな要因です。

その結果、現場では週20時間まで柔軟に就労可能な外国人留学生アルバイトの方が実務上使いやすいという判断がなされ、EPSは「制度としては整っているが、現場では選ばれにくい制度」という位置づけになっている側面があります。

総じて、韓国の雇用許可制は、不正排除や透明性確保という点では一定の成果を上げている一方で、市場の変化が早い分野や成長産業に対する即応性・柔軟性には課題が残る制度だと言えるでしょう。

そして、意外かもしれませんが、韓国では外国人の不法在留者が非常に多いという現実があります。2024年時点で約40万人。これは外国人滞在者全体の約15%に相当し、日本における不法在留者8万人のおよそ5倍という水準です。

注目すべきなのは、この状況が「取締りが甘いから」生じたものではないという点です。むしろ韓国は、EPS(雇用許可制)という国家主導で厳格に管理された制度を通じて、外国人労働者の受入れを強く統制してきました。それにもかかわらず、不法在留が深刻化している。ここに、この問題の本質があります。

背景にあるのは、合法ルートが過度に厳格かつ使いにくい一方で、現場の人手不足は慢性的に続いているという構造的な乖離です。

EPSでは、受入れ人数・業種・雇用形態が細かく制限され、転職や職種変更といった柔軟な就労も認められにくい設計となっています。その結果、一度制度からこぼれ落ちた外国人が、再び正規ルートに戻ることは極めて困難になります。

一方、農業などの現場では、「人がいなければ作物が収穫できない」という切実な事情があります。EPSの要件を満たすことが難しい中で、不法在留者は「即戦力としてすぐに働ける」「必要がなくなればすぐに手放せる」存在として、違法であると分かっていても選ばれてしまう。

つまり、「働く場所はあるが、合法的に働ける道がない」という状況が生まれ、不法在留・不法就労という形で問題が顕在化していくのです。

ここに、EPSが抱える構造的なジレンマがあります。

制度を厳格にし、不正を排除しようとすればするほど、制度からこぼれ落ちる人と現場が生まれ、結果として不法在留が増えてしまう。これは、「制度があるか、ないか」という単純な対立ではありません。制度の理想と、現場の現実との乖離が生み出した問題だと言えるでしょう。

この逆説は、韓国に限った話ではなく、外国人労働者の受入れを進めるすべての国に共通する課題です。不法在留を減らすために制度を厳しくした結果、かえって不法在留が増えてしまう――この現実を直視することこそが、外国人受入れ政策を考える上で、最も重要な出発点なのではないでしょうか。

それでもなお、外国人材政策の分野において、韓国が日本より一歩先行していると感じる点があります。それが、外国人を「労働力」として受け入れる段階を超え、定住と社会統合を前提とした制度設計に踏み込んでいる点です。

韓国では、「社会統合プログラム」と呼ばれる国家的な枠組みのもと、全国300か所を超える教育・支援拠点が整備され、外国人が韓国語、韓国文化、生活上のルールや制度を自治体の支援により原則無料で学べる環境が用意されています。これは、外国人本人の自助努力に委ねるのではなく、社会の側が受け入れの基盤を整えるという明確な意思表示と言えるでしょう。

さらに注目すべきは、5年間の就労によって永住権申請要件を満たす制度設計や地方経済の担い手となる外国人を想定した「地域特化型ビザ」の存在です。これらは、単なる人手不足対策ではなく、外国人材を地域社会の構成員として迎え入れ、共に地域を支え、育てていくという発想に基づいています。

日本と同様に少子高齢化や人手不足という課題を抱えながらも、韓国は「いかに働かせるか」ではなく、「いかに定着してもらうか」「いかに社会に溶け込んでもらうか」という段階まで制度設計を進めているように感じられます。

この点において、韓国の取り組みは、日本の外国人材政策に対して少なからず示唆を与えるものではないでしょうか。

日本にとって本当の脅威は、「今」ではなく、これから先にあります。

前述のとおり、現時点において韓国の外国人労働者受入れは、雇用許可制(EPS)という国家主導の枠組みによって厳格に管理されています。受入れ人数や対象分野には明確な上限が設けられており、制度の運用は行政の裁量と予算に大きく依存しています。その意味で、現在の日本と韓国の受入れ環境を単純に比較することはできません。

また、韓国のサービス業の現場では、EPSによる正規雇用よりも、週20時間まで就労可能な外国人留学生のアルバイトの方が「使い勝手がよい」と評価される傾向があります。これは、EPSが悪いというよりも、現行制度が短期・柔軟な人材ニーズに十分対応できていないという構造的な問題の表れです。

しかし、この状況は、韓国が外国人材を必要としていないことを意味するものではありません。むしろ逆に、制度が硬直的であるがゆえに、需要が制度の外側に流れていると見るべきでしょう。

ここで重要なのは、将来の制度変更の可能性です。

仮に今後、韓国がEPSを軸としつつも、日本の登録支援機関制度に近い形で外国人材の受入れを民間主体に大きく開放した場合、状況は一変します。その瞬間、韓国は日本にとって、極めて強力な人材獲得競争の相手国となり得ます。

確かに、現時点においては、韓国ではEPSによる就労よりもより自由度の高いアルバイトや非正規的な就労形態の方が、企業側からの需要が高いという実態があります。そのため一見すると、EPSを民間に開放したとしても、日本の登録支援機関制度ほどの脅威にはならないようにも見えます。

しかし重要なのは、制度の「中身」そのものよりも、「運用主体」が変わることの意味です。仮に民間が関与することで、手続きのスピードが上がり、情報提供がより一層多言語化され、企業と外国人を柔軟につなぐ仕組みが整えばEPSは「不自由な制度」から「安定と自由を一定程度両立した制度」へと性格を変える可能性があります。

そうなることにより、企業側としても「安く・短く使う人材」ではなく、「育てて・定着させる人材」へと発想を転換させ、その結果、安定就労を前提とした外国人材の活用へと需要がシフトしていくことは現場から自然に導かれる選択肢だと言えるでしょう

そして何より、韓国はすでに、賃金水準、定住支援、社会統合政策の面で一定の優位性を持っています。外国人労働者を単なる「一時的な労働力」としてではなく、社会の構成員として取り込む設計が、制度全体に組み込まれています。言語教育、生活支援、地域コミュニティとの接続、長期滞在や家族帯同への道筋。これらは、制度が柔軟化した瞬間に、人材の流れを大きく左右する決定的な要素となります。

人材獲得競争は、もはや「どの国が受け入れるか」という段階を超え、「どの国が選ばれるか」という局面に入っています。制度の柔軟性と民間の活力が結びついたとき、日本が現在当然視している優位性が、将来にわたって維持される保証はありません。

だからこそ、日本にとって本当の課題は、いまの制度を守ることではなく、将来の競争環境を見据え、選ばれ続けるための受入れ設計をどう描くかにあるのではないでしょうか。

日本と韓国は、ともに少子高齢化の進行、深刻な人手不足、地方経済の縮小という、構造的かつ避けて通れない課題に直面しています。これらは、もはや一国だけの努力で解決できる問題ではありません。

だからこそ、どちらかが一方的に優位に立つことを目的とした競争ではなく、互いの制度運用や政策設計の成果と課題を冷静に分析し、自国にとって有効な要素を取り入れていく姿勢が今後ますます重要になっていくはずです。

外国人材の就労・在留管理制度は、すでに「国内政策」の枠を超え、各国が限られた人材をいかに引きつけ、いかに定着させるかを競う、国際的な人材獲得競争の最前線にあります。制度の巧拙は、企業活動の活力だけでなく、地域経済の存続、ひいては国家の成長力そのものを左右します。

日本と韓国が、互いを比較対象として意識しながら、失敗からも成功からも学び合い、より実効性のある制度へと進化させていくことは、決してゼロサムの競争ではありません。それは、同じ課題に向き合う国同士だからこそ可能な生産的で建設的な競争関係と言えるでしょう。

本記事が、外国人材政策を「他国との比較」という視点から捉え直し、これからの制度のあり方を考える一つの契機となりましたら幸いです。

出入国在留管理局申請取次行政書士
稲福 正直

この記事の監修者
アソシエイツ稲福国際行政書士事務所 行政書士
稲福 正直

アソシエイツ稲福国際行政書士事務所
代表行政書士
沖縄県那覇市出身
明治大学法学部法律学科卒業
東京都行政書士会
会員番号第15128号
専門は、建設特定技能ビザ申請・建設業に係る申請等

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