こんにちは、行政書士の稲福です。
近年、日本の深刻な人手不足を背景に、ミャンマーやベトナムなど既存の送り出し国に加え、タンザニア、エジプトをはじめとするアフリカ諸国からの特定技能人材受入れについて、ニュースや現場で話題に上る機会が増えてきました。
新たな人材供給国としての期待が語られる一方で、実務の立場から見ると、慎重に整理すべき課題やリスクも少なくありません。本記事では、可能性と同時に、そのリスクについても冷静に整理してみたいと思います。
アフリカ人材受入れが注目される背景
日本では、国内の深刻な人手不足により、従来の送り出し国だけでは需要を賄いきれなくなっている現実があります。一方で、ベトナムやインドネシアなどアジア諸国では、経済成長に伴い人材確保が年々難しくなり、送り出しコストや人材の定着率にも課題が生じています。
また、韓国や台湾も積極的に外国人材の受入れを進めており、アジア各国との間で、人材の獲得競争が年々激化しています。賃金水準や働き方の柔軟性を理由に、日本が選ばれにくくなっている分野も少なくありません。
こうした中、英語を公用語とする国も多く、人口増加と若年層の厚みを持つアフリカ諸国は、今後も労働力供給が見込まれる地域として国際的に注目され始めています。日本国政府としても、人材確保の選択肢を多角化する必要に迫られ、アフリカ人材の可能性に目を向ける動きが出てきているのです。
「ABEイニシアティブ」という取り組み
なお、(人材の確保という観点からは直接的な取組とはやや趣旨を異にしますが)日本政府はこれまで、アフリカの若者を日本に招へいし、日本の大学における修士号取得と日本企業等でのインターンシップ機会の提供を組み合わせた「ABEイニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth)」を実施してきました。このプログラムは、アフリカの産業人材育成および日本企業との人的ネットワーク構築を目的とするもので、アフリカ全54か国を対象に、延べ1,700人以上の若者が日本へ招聘されています。
ABEイニシアティブのような取組は、主目的が「人材確保」ではないとしても、結果として日本側にとって一定の実利をもたらす可能性があります。まず、研修・修学を経た人材のうち、仮に一定数が日本国内に残り就職する場合、企業にとっては 日本語力や日本の商慣行への理解を備えた人材を確保できる という点で、直接的なメリットになります。
一方で、帰国してアフリカで就業する場合であっても、中長期的には、現地の日系企業への就職、日本企業のアフリカ進出時の採用・協業、現地行政・取引先との調整や文化的ギャップの橋渡しといった場面で、「日本を理解する人材」が現地に存在すること自体が、ビジネスの立ち上げや運営を円滑にする基盤になり得ます。
アフリカ人材とアジア人材の比較
アフリカ人材の受入れを考える際、比較対象としてよく挙げられるのが、ベトナム、インドネシア、ミャンマー、フィリピン、ネパールなどのアジア諸国の人材です。
アジア人材については、技能実習や特定技能制度を通じて、すでに長年の受入れ実績があり、送り出し制度の整備、日本語教育のノウハウ、日本企業側の受入れ経験、入管における審査・運用の蓄積といった点で、制度と実務の両面が比較的成熟しています。
そのため、トラブルがゼロとは言えないものの、「どこで問題が起きやすいか」「どう対処すべきか」について、関係者の間で一定の共通認識が形成されているのが現状です。
一方、アフリカ人材については、こうした制度運用の蓄積がまだ十分とは言えません。
送り出し機関の管理体制や、日本語教育・事前研修の標準化、さらには日本企業側の受入れ経験も限定的であるため、一つ一つを手探りで進めざるを得ない状況にあります。この違いは、人材の能力や資質の問題ではなく、制度と実務の接続度合いの違いに起因するものです。
つまり、アジア人材は「制度として回っている段階」にあり、アフリカ人材は「これから制度をどう設計するかを問われている段階」にあると整理するのが適切でしょう。だからこそ、アフリカ人材の受入れにおいては、アジア人材と同じ感覚で進めるのではなく、
- 受入れ人数を抑えた段階的導入
- 送り出し体制の実態確認
- 支援・フォロー体制の強化
- 専門家の継続的関与
といった、より慎重な設計が不可欠になります。以下、解説していきます。
アフリカ人材を受け入れる際の主なリスク
アフリカ人材の受入れには、期待と同時に慎重に検討すべきリスクも存在します。制度運用の実績がまだ少なく、送り出し体制や監督の仕組みが十分に整っていない国も多いため、受入れの進め方を誤ると、現場トラブルや早期離職につながる可能性があります。
また、文化・労務慣行の違いが大きいことから、十分な事前教育や支援が不可欠です。可能性だけに目を向けるのではなく、リスクを正しく理解した上で受入れを設計する視点が求められます。
送り出し制度・管理体制の未成熟
多くのアフリカ諸国においては、日本の特定技能制度に対応する形での公的な送り出し制度や、送り出し機関に対する監督・認証体制が、現時点では十分に整備されていない国も少なくありません。その結果として、政府の関与や統一的な基準が不十分なまま、民間の仲介業者やブローカーが実質的に送り出しを担う構造が生まれやすくなっています。
こうした状況下では、本来想定されていない高額な手数料の徴収や就労条件や在留資格に関する不正確な説明、その他にも、日本での就労実態と異なる過度な期待の喧伝といった問題が生じやすく、日本側の受入企業や支援機関にとっても、人材の選抜過程や来日前の経緯を十分に把握できないというリスクを伴います。
これらの課題は、かつて技能実習制度において顕在化した「送り出し段階での情報の不透明さ」や「仲介業者主導による不適切な運用」と本質的に共通する部分があると言えるでしょう。
結果として、来日前からの金銭トラブルや認識の齟齬が是正されないまま入国・就労が始まり、早期離職や失踪、不法就労へと連鎖するリスクを高めたり、また、受入企業や支援機関が意図せず制度違反や不法就労助長に巻き込まれ、法的・社会的責任を問われる可能性も生じます。
そのため、アフリカ人材の受入れを進めるにあたっては、制度の理念や期待だけで判断するのではなく、送り出し段階から受入れ後までを一体として捉えた慎重かつ段階的な制度設計と実務対応が不可欠であると考えます。
文化・労務慣行のギャップが大きい
日本とアフリカ諸国との間には、職場文化や労務慣行の面で、地域特性に由来する違いが見られます。
多くのアフリカ諸国では、インフォーマルな雇用形態が一般的であること、職務範囲や役割分担が比較的柔軟に運用されてきたこと、家族や地域社会とのつながりを重視する価値観が強いことなどを背景に、日本ほど厳格な時間管理や業務区分の文化が根付いていない場合があります。
また、宗教行事や生活習慣が日常生活と密接に結びついており、就労においても、礼拝時間や宗教的慣習への配慮が重要な意味を持つケースが少なくありません。
これらは決して「働く意欲が低い」という話ではなく、異なる社会・労働環境で培われた価値観の違いによるものです。しかし、日本の職場文化や労務ルールについて十分な説明や共有がなされないまま受け入れを進めると、指示の受け止め方や報告・連絡の方法、時間や業務管理をめぐって双方に戸惑いが生じやすくなります。
そのため、アフリカ人材の受入れにあたっては、語学教育に加え、日本の雇用慣行、労働時間の考え方、職場内での役割意識について具体的かつ丁寧に伝えるプロセスが不可欠です。
不法就労・失踪リスクへの懸念
外国人材の受入れにおいて、不法就労や失踪のリスクは、特定の国籍に限って語れる問題ではありません。むしろ多くの場合、国籍そのものではなく、受入れルートの透明性と支援・管理体制の実効性が、リスクの大小を左右します。
例えば、採用に至る経路が複数の仲介者を経由している場合、
☑誰がどの範囲まで説明責任を負うのか(募集条件・費用負担・契約内容)
☑現地で本人が支払った手数料や借入の有無
☑来日前にどのような教育・説明が行われたのか(生活・就労ルール、転職制限、相談窓口 等)
といった課題が放置されやすくなります。結果として、本人の不満や孤立が深まり、転職の誘惑や非正規な就労ルートへの流入が起きやすくなり、不法就労や失踪という形で表面化するリスクが高まります。
とりわけ、受入れ実績が少ない国・地域からの人材については、送り出し機関や現地の関係者によって、管理体制や事前教育の質にばらつきが出やすい傾向があります。たとえば、生活費の見通し(家賃・携帯・交通費)、日本の労務慣行、相談や救済の手続などが十分に理解されないまま来日すると、就労開始後の不安が積み重なり、職場定着が難しくなるケースも見受けられます。
支援体制が追いつかないまま受入れが進むと、
●生活面(住居・金銭管理・医療・行政手続)の不安
●職場面(業務内容のギャップ、残業・賃金、指導方法、言語面の行き違い)
●相談面(相談先が不明確、通訳がいない、第三者介入が遅い)
といった課題が放置されやすくなります。結果として、本人の不満や孤立が深まり、転職の誘惑や非正規な就労ルートへの流入が起きやすくなり、不法就労や失踪という形で表面化するリスクが高まります。
したがって、受入れ拡大を進めるのであれば、採用人数の議論だけでなく、「ルートの透明化(誰が何を説明し、何を確認するか)」と「支援の標準化(最低限備えるべき支援項目と運用)」を制度設計・運用設計の段階からセットで整えることが重要です。
フランスにおけるアフリカ人材・移民の社会適応の実情
アフリカ人材の受け入れを語る際、代表的な事例としてしばしばフランスが取り上げられます。
フランスは、北・西アフリカ(アルジェリア、モロッコ、セネガル等)を中心に旧植民地との歴史的つながりがあり、言語(フランス語)、教育制度、法制度に一定の共通基盤がありました。このため、移民の流入自体は比較的早く、規模も大きかったのが特徴です。
しかし同時に、フランスは次のような課題を抱えています。
- 移民居住区(バンリュー)の固定化
- 教育・雇用機会の格差
- 失業率の高さ
- 社会的疎外感の蓄積
- 治安問題や暴動の発生
特に、「社会に溶け込めなかった層が世代を超えて固定化」してしまった点は、フランス移民政策の大きな反省点とされています。
ここで重要なのは、問題の原因が「アフリカ人材の資質」にあるわけではないという点です。主な失敗の要因として、
- 受入れ数が支援・教育を上回った
- 就労・教育・居住政策が分断された
- 「受け入れた後の設計」が不十分だった
という制度設計と社会統合政策の不在にあります。フランスの事例が示しているのは、次の点です。
✔ 受け入れる「前」よりも、「後」の設計が重要
✔ 就労だけでなく、生活・教育・地域との接続が不可欠
✔ 数を増やす前に、定着の仕組みを整える必要がある
これは、日本がこれからアフリカ人材を含む多様な外国人材を受け入れる上で、非常に示唆に富む教訓と言えます。
「排除」ではなく「設計」が重要
ここまで、アフリカ人材受入れに伴うリスクや課題、フランスにおけるアフリカ人材受け入れの実例を挙げてきましたが、これらは決して、アフリカ人材そのものを否定する意図ではありません。むしろ問題の本質は、人材の側ではなく、受け入れる側の制度・支援・管理の設計が、現実に追いついていない点にあります。
期待や理想が先行し、送り出し体制や教育、支援の仕組みが十分に整わないまま受入れを進めれば、結果としてトラブルが生じ、最も不利益を被るのは、真面目に働こうとする外国人本人と受入企業です。
一方で、信頼できる送り出し体制の構築、来日前からの日本語・生活ルール・就労意識に関する十分な事前教育、そして受入企業に対する明確な指針と継続的なフォロー体制が整えば、アフリカ人材は日本社会にとって、中長期的に共に成長できる重要なパートナーとなり得ます。
重要なのは、「受け入れるか、受け入れないか」という二択ではなく、どのような設計のもとで受け入れるのかを、冷静かつ現実的に考えることです。外国人材受入れは、数合わせでも、場当たり的な対応でもなく、制度として、事業として、持続可能であることが求められています。
まとめ ― 今、求められている視点
アフリカ人材の受入れは、日本の人手不足を補う「魔法の解決策」ではありません。一方で、適切に設計され、正しく運用されるのであれば、将来的な可能性を持つ選択肢であることも確かです。
重要なのは、国籍で判断しないこと、現場と制度のズレを直視すること、「良かれ」で走らず、仕組みとして成立させること、であると感じています。
外国人材の受入れは、数の問題ではなく、制度設計の問題です。制度と現実をつなぐ立場として、今後も現場目線で、冷静な情報発信を続けていきたいと思います。
本稿が、新たな外国人材受入れを検討する企業や関係者の皆さまにとって、一つの判断材料となれば幸いです。
出入国在留管理局申請取次行政書士
稲福 正直








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