こんにちは、行政書士の稲福です。
この記事では特定技能における『脱退一時金』について徹底解説をしたいと思います。
この『脱退一時金』は、日本で働いていた特定技能外国人が帰国する場合、条件を満たせば公的年金(国民年金・厚生年金)の保険料の一部が返金される制度です。
おそらく、特定技能外国人を雇用している企業の人事総務の担当者は、常日頃から、この『脱退一時金』の受け取りについて質問を受けることがことが多いと思いますが、実は、この『脱退一時金』という制度をよく理解していないと、後々面倒なことになったりします。
そこで、『脱退一時金』の制度について、その仕組みや申請方法、そして申請に伴う退職や出入国の注意点について解説していきたいと思います。
特に、建設分野においては、他の分野よりも一時帰国前後の手続において注意しなければならない点が多々ありますので、しっかりと理解する必要があります。
もちろん、建設分野固有の手続きについてもしっかり解説しておりますのでご安心ください。
『脱退一時金制度』について

『脱退一時金』とは、日本で働いた外国人労働者が老齢年金の受給資格期間である10年を満たさず退職し、公的年金の被保険者資格を喪失して母国に帰国する際に、日本に住所がなくなってから2年以内であれば、納めた年金保険料の5年分を上限として払い戻してもらえる制度です。
例えば、特定技能外国人が日本で4年間働いて保険料を納め、その後帰国する場合、4年分収めた保険料の一部を脱退一時金として受け取ることができます。
公的年金に加入している会社で働いている従業員は、国籍を問わず健康保険・厚生年金保険に加入して保険料を納めなくてはなりませんが、それは特定技能外国人も例外ではありません。
しかし、特定技能の在留期間が満了後(または満了前)に母国に帰る予定の外国人は、公的年金をもらえないとなると支払っていた保険料が掛け捨てになってしまいます。
そこで、『脱退一時金』制度では、老齢年金の受給資格を満たさなかった外国人の保険料が無駄にならないようにするため、特定技能外国人に日本で支払った公的年金の保険料の一部を払い戻しすることで、掛け捨てになることを防いでいます。
脱退一時金を受け取るための条件

特定技能外国人が脱退一時金を受け取るためには、あらかじめ定められた支給条件を満たす必要があります。
支給対象者と支給条件について
以下の条件(支給対象者おいび支給条件)をすべて満たしている場合のみ脱退一時金の支給対象となります。
この制度を利用するために必要な条件を明確にすることで、特定技能外国人が滞りなく申請をすることができるようになりますので、よく理解しておきましょう。
支給対象者
ますは支給対象者の条件からみていきましょう。
☑日本国籍を有していない
☑公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でない
☑障害年金等の年金を受ける権利を有したことがない
☑日本国内に住所を有していない(住民票の転出手続きが完了している状態)
脱退一時金の申請手続きは、まず勤務している会社を退職後に住民票登録を抹消し、日本国内の住所を有しない状態で出国する必要があります。
その後、日本年金機構に請求書と必要書類を提出し審査が行われますが、申請から支給までは通常3~4ヶ月ほどかかります。
支給条件
次に、支給されるための条件です。
☑国民年金または厚生年金保険(共済組合等を含む)に6月以上加入していた
☑老齢年金の受給資格期間(国民年金保険料納付済期間、厚生年金保険加入期間及び合算対象期間を合わせて10年間)を満たしていない
☑最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない
支給条件で特に注意したいのが、年金制度の被保険者資格を喪失してから2年以内に請求しなければならないという点で、もし2年の期限を過ぎてしまうと、脱退一時金は請求できなくなってしまうため注意しましょう。
また、年金加入期間が6ヶ月以上の特定技能外国人に限られているという点も注意が必要です。
なお、特定技能外国人が日本で10年以上年金に加入してから帰国する場合、老齢年金を受け取る資格を得ることができますが、この場合、脱退一時金ではなく、公的年金の受給を選択することが一般的です。
日本の年金制度では、公的年金を受給するためには、10年以上の年金保険料納付期間が必要ですが、特定技能外国人が10年以上日本で働き、年金保険料を納めた場合、帰国後も公的年金を受給することが可能ですので、脱退一時金を選択する必要はありません。
公的年金を受け取るための手続きは、退職後に日本年金機構に申請を行い、必要な書類を提出することで進められますが、この手続きを行うことにより、特定技能外国人は帰国後も日本での年金保険料納付が無駄にることもなく、老後の生活を支える資金となります。
支給対象外となる事例
支給の対象外となる典型的な事例もここであげておきます。
☑公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者となっているとき
☑日本国内に住所を有するとき
☑障害基礎年金、障害厚生年金などの年金を受けたことがあるとき
☑最後に社会保険の資格を喪失した日から2年以上経過しているとき
つまり、制度上、障害厚生年金を受給する資格のない特定技能外国人が、6ヵ月以上10年未満の間年金保険料を支払い、その後公的年金を脱退して住民登録の抹消(転出届)を出した場合、その日から2年以内に脱退一時金の申請ができるということです。
この条件を満たしていれば、一時帰国の場合でも申請・受け取りが可能かどうかという点については後ほど解説したいと思います。
脱退一時金を受け取る際の注意点

脱退一時金を受け取ることで、確かに短期的に金銭的な利益を享受することができますが、将来的な計画や再度日本で働くことを考慮した上で、申請に慎重な判断をすることが重要となってきます。
脱退一時金申請書類提出のタイミングについて
日本年金機構へ申請書類を提出するタイミングにも注意が必要で、脱退一時金の申請書類が日本年金機構に到着する日が、住民票の「転出日」以降であることが必要です。
というのも、脱退一時金は日本を完全に離れたことが前提になりますので、住民票がまだ日本にある(=転出手続き前)の状態では、日本に居住しているとみなされ、支給対象外となる可能性があります。
したがって、住民票の転出日を過ぎてから申請書類が到着するように郵送手配する必要があります。
一時帰国での脱退一時金の申請について
脱退一時金は、原則、日本の年金制度から離れた人だけが対象ですので、雇用契約が終了して本国へ帰国する場合に支給されると一般的には解釈されております。
そうすると、家族の用事などで短期間帰国するケースや、将来的にまた日本へ戻って働く予定での一時帰国(出国)の場合は、本来脱退一時金の申請資格がないことになりますが、そのような一時帰国した特定技能外国人にも脱退一時金は支給されているというのが実状です。
一例をあげますと、まず、特定技能1号の在留資格はそのままで、雇用契約を一旦終了後に住民票登録を抹消し、みなし再入国の許可を得て出国します。
そして、帰国後に脱退一時金を受給してから日本に再入国し、また働いていた企業に再雇用してもらい帰国前と同じように勤務をするというケースです。
実際のところ、脱退一時金は日本年金機構で認められた制度であるから、出入国在留管理庁としては制度自体を活用することを禁止はしていませんが、脱退一時金を受け取るために一時帰国をすることを積極的に推奨しているものではありません。
よって、一時帰国による制度活用によって生じるリスク(建設分野の件、再入国の件など)は自己責任で対応してほしいといのが本音なようです。
ここでよく問題になるのが、一時帰国のあとの再入国時の空港でのトラブルです。
受入れ企業は、特定技能外国人が脱退一時金を受け取るために一時帰国する際、出入国在留管理庁に雇用契約の終了を届出をしているため、みなし再入国の許可を得ていても、契約が終了しているのに何のために再入国するのかと空港で入国審査官に質問されることがよくあります。
ここで、「脱退一時金受取りのために一時帰国したが、元の職場で再雇用してもらうことになっている、あるいは転職する」ということを、特定技能外国人本人がきちんと入管職員に説明できればいいのですが、もしそれができないとスムーズに入国できないことがあります。
年金加入期間のリセットについて
脱退一時金を一度受け取ると、その請求以前の加入期間は将来の年金加入期間としてカウントされなくなり、その期間は、将来の年金受給資格に使えなります。
つまり、その支給対象となった期間の厚生年金加入記録は精算(リセット)された扱いになります。
たとえば、2020〜2023年に厚生年金に3年間加入し、2023年に脱退一時金を請求し受け取ったとします。
そして、2025年に再び日本に来て厚生年金に加入して5年間経った場合、将来日本の年金を受け取るために必要な加入期間である10年を計算する際、2020〜2023年の3年間はカウントされず、2025年からの5年分だけが有効な期間となります。
なお、リセットされても、また6ヵ月以上年金保険料を収めれば、あらたに保険料を納めた期間は脱退一時金を請求することができますが、特定技能外国人でも日本人同様に10年以上年金保険料を納めると、日本国外にいても老齢年金を受取ることができるという点は留意すべきでしょう。
つまり、脱退一時金を受取るかどうかは、これから先、日本でどれくらい働くのかを考えたうえで受給の有無を検討した方が賢明で、もし長期の日本滞在を希望しているのに脱退一時金を受け取ってしまうと、将来加入期間不足で年金を受け取れないなど、日本で公的年金を受け取る可能性がある場合に不利になる可能性があります。
たとえば、特定技能2号の在留資格を目指している場合など、将来、日本で長く働く予定があるなら、脱退一時金を受け取らないという選択もあるでしょう。
社会保障協定を結んでいる国について
社会保障協定とは、日本と特定の国との間で、年金の二重納付を防ぎ、年金加入期間を通算するための制度ですが、社会保障協定を結んでいる国の特定技能外国人から、脱退一時金の申請があった場合は、特に注意が必要です。
実は、社会保障協定を結んでいる国の外国人が脱退一時金を受け取ると、その加入期間が通算対象外になってしまうため、将来の本国での年金受給資格に不利になります。
よって、協定国の外国人が脱退一時金を請求する場合は慎重に判断が必要です。
2024年時点で、日本は以下の23カ国と社会保障協定を結んでいます。これらの国の特定技能外国人から脱退一時金の申請があった場合、慎重な対応が求められます。
日本が社会保障協定を結んでいる国は以下の通りです。
ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア
建設特定技能外国人の再入国時の再認定申請について
こちらは、建設業分野で特定技能外国人を雇用している企業にとって、大変重要な手続きとなりますので(他分野で特定技能外国人を雇用している受入れ企業は不要)しっかりとした理解が必要です。
まず、特定技能外国人との雇用契約の終了ついて出入国在留管理庁に届出(随時届出)をするのは、特定技能のどの分野でも共通の決まり事です。
しかし、建設分野の場合はそれだけでは終わりではなく、建設業で特定技能を受入れ時に出入国在留管理庁への届出の他に、国土交通省に対して『建設特定技能受入計画』をオンライン申請して認定を受ける必要があります。
そして、この申請は、一度認定を受けて終わりではなく、一時的にでも退職した場合は、再度雇い入れる際にあらためて申請をして認定を受ける必要があります。
つまり、脱退一時金を受け取るために一度日本を出国し、その後再入国して再度同じ職場で働く場合には、国土交通省への報告や再認定計画の申請が必要となります。
再入国時の再認定許可は、特定技能外国人が一時帰国後に日本で再び働くために非常に重要な手続きで、適切に手続きを行わないと、再入国後に就労が許可されない可能性があります。
もし再認定許可を得ずに再入国し就労を開始した場合、雇用主と労働者の双方に罰則が課される可能性があり、同様に、退職報告を行わなかった場合も、報告義務の不履行にあたり、認定計画取り消しの対象となる場合もありますので注意が必要です。
以上、特定技能外国人が、一時的に退職して再び入社する場合に必要な建設分野特有の手続きでした。
特定技能外国人が円滑に再入国し、安心して再び日本で働くことができるよう、適切に手続きを行うようにしましょう。
☑特定技能外国人が一時帰国する際、国土交通省の外国人就労管理システムに『退職報告』を行う必要がある。
☑再入国後に再雇用する場合には、新たに『建設特定技能受入計画』の認定申請を行い、再認定を受ける必要がある。
☑この手続きが完了しないと、再入国後に就労が認められない可能性がある。
申請手続きを誰が行うか
脱退一時金の申請は、本来、本人または代理人による手続きが必要であり、企業側が申請手続き行う義務はありませんので、特定技能外国人に対して、脱退一時金の手続きを自身で行うよう明確に伝える必要があります。
しかし、特定技能外国人に関する手続きは受け入れ企業側で行うケースも多いため、脱退一時金の申請に関しても企業が代行してくれると誤解している可能性があります。
もし、企業側が特定技能人から依頼を受けて申請手続きを行う場合、脱退一時金請求書や委任状をはじめとした書類を適切にそろえ、スムーズに手続きを進められるよう準備を整えることが大切です。
脱退一時金の支給額について

脱退一時金の計算方法は、特定技能外国人が日本で就労していた期間の平均標準報酬額と支給率を基に算出されます。
具体的な計算方法は以下の通りです。
脱退一時金 = 平均標準報酬額(被保険者であった期間) × 支給率
標準報酬額の決め方については、下記のリンクを参照してください。
平均標準報酬額とは、公的年金に加入していた期間の標準報酬月額と賞与額を合算した額を、その期間の月数で割ったひと月の平均額のことです。
なお、支給率に関しては以下のとおりです。
| 納付済期間 | 支給率計算に用いる数 | 支給率 |
| 6カ月以上12カ月未満 | 6 | 0.5 |
| 12カ月以上18カ月未満 | 12 | 1.1 |
| 18カ月以上24カ月未満 | 18 | 1.6 |
| 24カ月以上30カ月未満 | 24 | 2.2 |
| 30カ月以上36カ月未満 | 30 | 2.7 |
| 36カ月以上42カ月未満 | 36 | 3.3 |
| 42カ月以上48カ月未満 | 42 | 3.8 |
| 48カ月以上54カ月未満 | 48 | 4.4 |
| 54カ月以上60カ月未満 | 54 | 4.9 |
| 60カ月以上 | 60 | 5.5 |
3年間保険料を納付した特定技能外国人が受け取れる脱退一時金の額をシュミレーションしてみます。
●平均標準報酬額:250,000円
●納付済期間:2020年7月~2025年6月(36カ月)
●支給率:3.3
上記に計算式を適用します。
250,000 × 3.3 = 825,000
この場合、脱退一時金の支給額は825,000円になります。
脱退一時金の受給手続きについて

脱退一時金の手続きには、必要書類を準備し、決められた期間内に提出します。
以下、その手順や必要書類の内容、その他提出先、提出時期について紹介します。
まず、脱退一時金請求書を日本年金機構ホームページ内から外国人が理解できる言語の様式をダウンロードして、必要事項を記入します。
電話で請求すれば郵送してもらうことも可能です。
なお、請求書には外国語と日本語が併記されており、次の言語に対応しています。
英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、インドネシア語、フィリピノ(タガログ)語、タイ語、ベトナム語、ミャンマー語、カンボジア語、ロシア語、ネパール語、モンゴル語
次に、請求書と同時に提出する添付書類ですが、以下のものが必要になります。
①パスポート(旅券)のコピー
②日本国内に住所がないことを確認できる書類(住民票の除票・転出証明書)
➂受取先の金融機関名・支店名と所在地・口座番号・口座名義が請求者本人であることを確認できる書類
④基礎年金番号通知書または年金手帳など、基礎年金番号を確認できる書類
⑤委任状(代理人が手続きを行う場合)
②については、銀行が発行した銀行口座証明書(口座情報と口座名義人が英語またはカタカナで記載されたもの)や通帳のコピー(氏名・口座番号・銀行名・支店名が印字されているページ<※名義がローマ字で本人と一致していること>、またこれらの情報が記載されている銀行発行の残高証明書(英文)などで確認可能です。
なお、日本国内の金融機関で受け取る場合、口座名義がカタカナで登録されていることが必要です(ゆうちょ銀行および一部インターネット専業銀行では脱退一時金を受け取ることができません)。
そして、必要な添付書類が揃ったら、日本年金機構本部または各共済組合などに提出します(e-Govを利用したオンライン申請も可能です)。
こちら特定技能外国人本人のほか代理人による申請も可能ですが、その場合は委任状とともに、代理人の本人確認書類も必要になります。
そして、脱退一時金請求書および添付書類は、日本年金機構本部あてに提出して手続き完了となります(郵送または電子申請でも可能)。
<日本年金機構本部の所在地・連絡先>
所在地:〒168-8505 東京都杉並区高井戸西3-5-24
連絡先:03-5344-1100(代表)
URL:https://www.nenkin.go.jp/info/kihonjoho/adress.html
提出時期は「外国人の住所が日本になくなってから、出国後2年以内」定められており、「住所が日本になくなった」とは、住んでいる市区町村から国外へ転出届を出し、受理された日付を指します。
実際に脱退一時金を受け取るまでに要する期間ですが、申請書類に不備や問題がなければ、通常は請求後約3~4か月程度で指定した金融機関の口座に脱退一時金が振り込まれますが、書類に不備等がある場合は、追加書類の提出や日本年金機構からの確認がありますので、4か月以上かかることもあります。
また、不備等がない場合でも、請求数が多い時期など状況次第で4か月以上かかることもあります。
まとめ
最後までご覧頂きありがとうございました。
この記事では、特定技能外国人に係る脱退一時金の制度について解説しました。
特定技能の在留資格で働く外国人の方にとって、脱退一時金は納めた年金保険料の一部を取り戻す大切な制度で、手続きを忘れてしまうと、せっかくの権利を失ってしまうため、帰国後は早めに申請の準備を始めましょう。
同時に、一時帰国による脱退一時金の受け取りなど、制度活用によって生じるリスク(特に建設分野)もありますので、受入れ企業や登録支援機関によるアドバイスが重要になってきます。
もちろん、将来的に日本で長く働く予定があるなら、脱退一時金を受け取らないという選択もあるでしょう。
不安な方は、日本年金機構の公式サイトや、専門の行政書士などに相談するのもおすすめです。
さいごに
アソシエイツ稲福国際行政書士事務所では、建設業者様が特定技能外国人を雇用するために必要な申請業務をサポートしております。
また、建設業許可申請もオンライン(JCIP)にて全国対応しております(大阪・兵庫・福岡を除く)。
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